異世界へ⑨
見渡す限りの草原を見ていたら、つい、むくむくと頭をもたげてきたものがあります。
職業病というか血筋病と言っていいのか……。
それはつまり、そう、採取です!
柚木果狩家で採取というのは、物心つけばやらされる最初の行事だったし。「1日10種類採ってくること」が1日ごとに20、30と増えていったんだよねえ。
最後には山中で真っ暗な中、懐中電灯片手に泣きながら探し回っていたものですよ。
今思えば、充分幼児虐待だよね、あれ……。
よく考えたら異世界に生えている植物イコール新種の植物ということですよね!
でも採取するにあたって土地の所有者に了解を取らなきゃね。
コーデルディアくんに直接というのは難しそうだなあ。
「スフちゃん、ちょっといい?」
「はい。なんでっしゃろ?」
あたしたちの周囲を警らのため、ぐるぐる回っていたスフちゃんを呼び止める。
「コーデルディアくんに聞いてきて欲しいことがあるんだけど」
これこれこういうことでと、伝言を頼んでみる。
こくこく頷いたスフちゃんは白黒の翼を大きく広げ、さっきコーデルディアくんが消えた森の方へ飛んで行った。
5分もしないうちに戻ってきて「問題ないだそうですえ」とのことだ。良かった。
「でも、最大でぇ樹木100本くらァいまでで勘弁して欲ぉしいそうで」
「そんなに持って帰れないからっ! 草花4~5本と葉っぱ数枚の予定だからっ!」
なんかスケールの考え方が違った!?
樹木1本ですら持ち帰ることなんか出来ないから。
自力で飛ぶことも出来ない神子を過大評価しないで!
「なんでしたらオルトロスでも呼びましょうか? あ奴であれば樹木の10本や20本問題なく運べるでしょう」
「運ばないって言ってるでしょっ!」
提案するように片翼を上げたシュネメスティラントロゥさんに突っ込んでおく。フリじゃないってばっ!
ちょっと声を荒げてしまったので、しーちゃんたちが起きてないのを確認する。2人ともくぅくぅと可愛らしい寝顔でぐっすりだ。危ない危ない。
採取のことまでは想定してなかったので、手元に機材は一切ない。
しかしあたしにはこんな時に頼れる万能器があるじゃないの。
あたしの周囲にふわふわ浮いていた創樹に目を向ける。手をかざすまでもなく、あたしの思惑に反応してキラキラとした輝きを伴いながら、望むものを作り出してくれた。
それはコルク栓の付いた試験管です。
割れると困るので“ガラス製じゃない透明なやつ”というあたしの曖昧要求も汲んでくれた。
試しに2つを軽く打ち鳴らしてみるけれど、コンコンという硬質的な音が鳴る。作ったあたしが言うのもなんだけど、何製だろうこれ?
足元の地面から隙間もなく生えている草を1本引き抜く。
なるべく長持ちさせるため、多少の土も入れておかなきゃね。
引き抜いた草は、稲の苗にも似てるけど、葉の質感はふわっふわだなあ。羽毛に触れているような感じかな。
「ハルカ様。それに樹木は入らないのでは?」
あたしの行動を興味深そうに見ていたシュネメスティラントロゥさんが首(?)を傾げていた。
「だから葉っぱ1枚か2枚で充分だってば」
「成る程。それでしたら自分にも手伝えそうですね。少しお待ち下さい」
「え?」
あたしの返事も待たず、シュネメスティラントロゥさんは先ほどの森に飛んでいってしまった。
あー、そんな急がなくていいのに……。