異世界へ⑧
スフちゃんの毛並みを綺麗にしたあと、しーちゃんがうつらうつらと舟をこぎ始めた。
「2人ともお昼寝する?」
「うー」
「あふ」
しゅーちゃんも大きな欠伸で答え、草原にコテンと倒れかかったので慌てて支えた。
「しまった。タオルケットはあるけど、敷き布団はどうしよう?」
柔らかな草の匂いに包まれて寝るのも良さそうだけどね。
旅行カバンの中からあたし用と赤ん坊たち用のタオルケットを引っ張り出しておこう。
後々大変になるので、中身の順番はなるべく崩さないようにしないと……。
草原にあたし用のタオルケットを敷いて、そこにしーちゃんとしゅーちゃんを寝かせる。
2人とも寝相が悪いからなあ。
気が付くとしゅーちゃんがしーちゃんの上に乗っていたり、しーちゃんがあたしの頭の上にいたりすることも珍しくない。
「なんで気づかないんだ?」と疑問に思うでしょうが、いつの間にかいるんだもん。頭上に。
そもそも年期が違いすぎるよ。
片や、神子歴数百年というしーちゃんたち。
片や、神子になって2~3ヵ月のあたし。
神気を放出する器官がカチューシャに付いた羽根でしかなく、使い方もままならないあたしに、しーちゃんたちの無意識の行動を阻むすべはないね。
改めて自覚すると凹むわー。
「……どうかなさいましたか、神子様?」
「あ、うん。なんでもない。ちょっと神子を極めるのも、先は長そうだなあ、と」
シュネメスティラントロゥさんに感情の機微を気付かれました。
危ない危ない。
大袈裟にされるとしゅーちゃんたちが大ごとにしちゃうから。その辺は注意しよう。
起きたらこの子たちはおやつを欲しがるだろうから、今のうちに何か用意しておかないとね。
今回こっちに来るにあたり持ってきた食料は、昼食のお弁当を除けば赤ん坊用のおやつばかりなのです。
今のうちに、神子の体がどれだけ食べなくても生きていられるかを実証しておかなくては、という目的があります。
幸い柚木果狩には『飢饉時に山中で食料を探す』という名目のサバイバル訓練が普通にありますから、空腹には慣れています。
一族の老若男女関係無く、各自年1回は必ず実施する掟なんだよね。
破った者には座敷牢で禁固1ヶ月という厳罰が待っています。
昔は1人で山野に7日間だったのが、さーちゃんの代に色々緩和されたらしい。
静流ちゃん情報だと、今は2~4人で4日間ほど。キャンプ感覚でいいのだとか。
ただし食料持ち込み不可なのは変わらず、現地で採るか狩るかなのは昔のままだそうです。
ここから帰ったら行こうかな。
メンバーはあたしとしゅーちゃんとしーちゃん。あとスフちゃんで決まりね。
たまに妙な風習の残る古い家ってありますよねー。
知人のところみたいに『長女が生まれたら、必ず○○という名を付けなければいけない』とか。