異世界へ⑤
「こここ、コーデル、ディア、です」
「初めまして、柚木果狩遥です。どうぞよろしくお願い致します」
「こ、ここちらここそそ」
……あれから。
目覚めては気絶、目覚めては卒倒、を繰り返すこと十数回。
ようやっと挨拶を交わすことが出来ました。
ただし創樹の聴覚補助により、コーデルディアくんは千五百メートルほど離れた木立の影から半分身を隠してだけど。
声しか届かなくて、あたしの目には林しか見えないけど。
「むーう!」
しーちゃんがスッゴい不満げだ。「なんだこいつなんだこいつ」とご立腹であります。
しゅーちゃんは柔らかな草原をお布団に熟睡しちゃってるけど。
「コーデルディア。ゆえあってハルカ様にィは、しばらくここに逗留してェもらうことになったですえ。多少騒がしィくなると思うんでェな」
「わわ、わかりりました。こんなとところころでよろ、ろしけれればぞんぶぶんにに」
震えすぎでしょう。散々しーちゃんがその態度を叱った結果なんだけれども。
「どうしてあんなに臆病になってるのかなあ。あたしってそんな怖いのかなあ?」
ちょっと落ち込んだのがまずかったです。
すぐ近くでLED電球も暗いと思えるような光の柱が立ちのぼりました。
「え、あれ、しーちゃん!?」
ついさっきまでしーちゃんが居た場所に光の柱。
うわー、きっとこれ何処からでも目立つよ、うん。サタンさんが騒ぎを聞きつけたら、爆笑するに違いない。
……じゃなくてー。
近くて遠いところで「ひぃ」という声と草地に何か倒れる音。
また気絶したよコーデルディアくん。
「しーちゃん。ちょっとここに座りなさい」
あたしはきちんと草地に正座し、言い聞かせるように前方の地面を叩く。
すぐに光の柱は消え、翼を広げたしーちゃんが戸惑った表情で現れた。
「う、うぅ?」
「なんで? じゃないの。ここに座りなさい」
地面を見、あたしの顔を伺い、シュピッと音がするような素早さで目の前に座るしーちゃん。
「しーちゃん、どうして怒るの?」
「うーう!」
「あたしに態度が悪いから? でもコーデルディアくんはきちんと挨拶はしてくれたし。あたしはそれで充分。むしろあたしたちの事情でこの島(?)の一部を貸して貰うんだから、そこまで求めることはないでしょう」
「う、……むい」
「ごめんなさいはあたしに言うことじゃないでしょう。誰に言うの?」
なんか暗い影を背負ったまま、しぶしぶとコーデルディアくんのいた林の方へ飛んでいくしーちゃん。
それを見送ってから気付いたんだけど、さっきまで寝ていたしゅーちゃんとスフちゃんとシュネメスティラントロウさんも緊迫した感じで固まってた。
「なんで固まってるの、三人とも?」
「ぷー」
「怒る? しゅーちゃんは悪いことしてないでしょう。そちらのお二人も」
ぺしゃっと草地に倒れるスフちゃん。
シュネメスティラントロゥさんの方はタレ目になって翼が萎れていた。
さほど間をおかずにしょぼくれたしーちゃんがふよふよと戻ってきた。
その後ろにはなんとコーデルディアくんがおどおどと付いてくるではありませんか。何があったんだろう?
それでも百メートルくらい間が開いてるけど、いい進歩かな。
「コーデルディアも昔は粗野で乱暴者だったんですけれどねえ」
「は?」
胸に泣きながら飛び込んで来たしーちゃんを抱き締めたら、シュネメスティラントロゥさんが妙なことを言いました。
ドライフーズにハマりました。
三種のチーズリゾットはジャスティス。