閑話⑥ 裏情勢
「なんつーかまあ……」
「人類というのは無謀が好きなのですね」
柚木果狩家のコネを使い、関係各所から上がってきた報告を纏めた書類を見て、サタンとルシフェルの2人は呆れた表情で呟く。
コネと言っても元々は一部の政治家に顔が利く程度。現在政府と繋がっている回線は、遥が神子となったからである。
市中のたった1家に、異世界との全面戦争になるかもしれない原因が3人も揃っているのだ。何かあった時のためにホットラインを繋げておくのは当然であろう。
現状、柚木果狩家には遥を外に出したことにより、各国の防諜がフルに稼働した結果が次々に送られて来ていた。
具体的な処罰までは記載されてないが、後々まで糸を引かないように動きを見せた組織には厳しい罰が行使されたようだ。
テレビのニュースは、大国の市民団体等に当局のメスが入ったとされる事件を連日報道してたり。新聞や週刊誌でも自国の団体や政治家の逮捕者が少なくない様子を伝えていた。特に宗教団体の関係者が異世界の存在に異を唱えてるのが多く、暴動を起こして軍隊との衝突の様子などが世間を騒がせている。
予めこうなることを見越して遥たちを人目に触れさせたのだが、沙霧とサタンたちの予測より一桁上の騒ぎが全世界を席巻している状況に、彼らも困惑気味だったりする。
「姉さんにひとすじほどの傷でもつければどうなるのか分かっていらっしゃるのでしょうか」
「坊ンが激怒して執行部隊を呼ぶだろうな、やっぱ……」
「一度、その威力を見せてあげたほうがよろしいのでは?」
溜め息混じりの沙霧に同調するはサタン。いっそのこと見せしめにと、物騒なことを進言するのはルシフェル。それにはサタンが待ったを掛けた。
「気持ちは分かるがお前が取り乱してどーするよ。島国がひとつ吹き飛ぶじゃ済まねえだろーが」
「っ!?」
さもそれが当たり前であるような会話に沙霧が絶句する。
そもそもあちらの世界で直属の執行部隊の役目は、神子が直接手を汚さないための代行に過ぎない。
始族や終族の神子が直接力を振るったなら島国どころか星などひとたまりもないからだ。その2人の神子が凶行に走らないのは、遥の教育と存在が抑止力となっているとは、この世界の人々は知る由もない。
それに執行部隊の威力を見せるからには、そこに神子を連れて行かねばならず。
その結果その場にテロでも起こされた日には人類滅亡の危機となるのは必然。
「いまのところ姉さんの部屋の回線は番組が限定されています。『ニュースが見たい』と言われてしまったら、流さない訳にはいかないでしょうね……」
遥が神子2人に対して、幼児用教育番組や相撲中継くらいしか必要性を感じていないから言えることである。
冷凍冬眠以前の生活サイクルでは、テレビと言えばニュースしか見るのを許されなかった。今の彼女にとっては幼児用番組でも新鮮なのだ。
もちろん沙霧が長の代からは視聴する番組に制限をかけてはいないし、遥はそれを知っている。
世界中の騒動から姉を離したい沙霧としては、彼女を安易に情報が得られるテレビから一定期間、切り離しておきたい。
そんな時にサタンやルシフェルから飛び込んで来た誘いは、渡りに舟であった。
「戦士位の者から報告が上がってきたのですが、なんでもハルカ様のご容態がすぐれないのだとか?」
「こりゃ一度静養も兼ねてこっちに来させちゃあどうだ? 皆も新しい神子には興味津々のようだしな」
「……分かりました。姉さんのこと、よろしくお願い致します」
提案に乗る形ではあるが、姉の異世界行きを沙霧はひとつ返事で承諾した。
思ったより時間が取れず、ずいぶんと簡素になってしまいました。