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健康診断⑤

一応、念の為。お食事中の方にはちょっとだけ不快になるかもしれないものがあります

 ざーっと受けた健康診断は問題だらけで終わりました。


 まず身長や体重とかの外部測定までは良かったんだけど、レントゲンや採血などの精密検査が特に……。


 採血であたしに針を向けたお医者さんが怒ったしーちゃんにぶっ飛ばされました。

 スフちゃんによってやんわりと受け止められたので怪我はなかったんですが。しーちゃんに何回説明しても体に傷をつける行為を容認してくれないので、採血は実行不可能となりました。


 レントゲンは何にも写ってないという結果に。

 えーなにこれ……。

 人の輪郭だけ真っ黒に写るとかホラーっぽくない?


 尿検査は問題あり。

 測定された成分は真水だそうです。不純物とかアンモニアとかドコイッタ?


 心電図だけは以前に測定されたのと同じような感じだそうですが、波が一定過ぎて不規則な部分がまったくないと。

 ある意味異常なんですね、そうですか。


 血圧が上下差1しかないってナニソレ……。


 こうも人間じゃない事実を突き付けられるとちょっとへこみますね……。異世界神子の実態ってどんなのなんだろう。


 この結果を見た甥っ子の隆文医院長は目を丸くしながら舐め回すようにカルテを凝視していました。うん、そうね。医者からすると問題だらけな患者だよね。


 結局あたしの『具合が悪い』という訴えに医師としては『原因不明』と返すしかない。と、言われました。

 事実を突き付けられたさーちゃんも隆文くんを責めたりせず『しかたありません』と肩を落とすだけに留まりました。


 この微妙にだるい状態はどーしたものかしら……。


 さーちゃんは隆文くんと話すことがあるというので、先に外に出て車まで戻りました。


 もちろん渕華さんや望さんも一緒。

 二人は病院内で着替えやら荷物持ちやらであたしたちの後に着いてまわってたんですけど、今はSPさんたちと一歩後ろで静かに控えています。


 あたしはちょっとバスカヴィールさんやシュネメスさんと話してみたかったので、駐車場で待機していた二人のもとへ。


 しーちゃんはあたしの腕の中。

 さっきの採血が衝撃的だったのか、診察の最中ずっと医者や看護婦を睨み付けまくりでした。子供用カボチャビスケットを口にくわえたままぶーたれています。


 しゅーちゃんはあたしのはるか頭上。

 ここからだとゴマ粒のように見えるねぇ。ビスケットを砕こうとしたらひとつを丸ごと取ってちゃって、手の届かないところへ逃げちゃいました。一応スフちゃんが見ていてくれると、一緒に昇って行ったので大丈夫だと思うけど。のどに詰まらせたりしないか心配だ。


「神子様、先程はまことに申し訳なく」


 バスカヴィールさんが最初に会った時の覇気もなく、うなだれて謝罪をしてきた。元気の無さそうな(何となく萎れているらしいと分かる)翼のある丸い物体ことシュネメスさんもだ。


「いいですよ。知らなかったんですし、仕方ないです。でも次は事を起こす前にヒトコト相談してくださいね」

「「ハ、留意致します!」」


 敬意を向けられるのは不本意だけど慣れてるから横へ置いといて。神子(あたし)の不用意なヒトコトで両種族全体が白い目で見られることがないように、注意しなくちゃね。他に“ほうれんそう”とか浸透させるべきかも。ルシフェルさんやサタンさんにも色々聞かなくちゃ。


 ――――これ前にも決心したことがあるような……?


「それでこの真っ白な建物の中でこちらの者たちは何をやっているのですか?」


 あー。そこから説明しなきゃならないんだ。


「ここは病院と言って、怪我や病気、体の不調を治してくれるところなの」

「なるほど。繭がいっぱい収められているのですねぇ」

「え、まゆ?」


 どうしよう。シュネメスさんの発言がまったくわからない。あたしが首を傾げる様子に合点がいったのか、バスカヴィールさんが納得したように頷いた。


「スフインクスは神子様に繭のこととか説明しておりませんでしたか?」

「生まれ変わりに使うというくらいですねえ」


 そこから戦士位二人の簡単な説明によると。生まれ変わりに使う繭は、人間でいう治療にも流用可能だそうで。四肢欠損とかの怪我(そこまでなるとか恐ろしい世界ねー)にも使うんだとか。


 その際は自分の力を中に満たしたり、外から誰かに力を譲渡してもらったりするらしい。それで『繭』ってことなのか。病院内に人間大の蚕の繭みたいなのがびっしりあったらめちゃくちゃホラーじゃないの。想像したら背筋が寒くなったわ。


「あうー!」

「むー!」


 突然上から戻ってきたしゅーちゃんと腕の中のしーちゃんが翼を大きく広げてあたしを包み込んだ。ほんのりと周囲の気温が暖かくなる。あたしが寒くて身震いしたと思ったのかな。


 二人の頭を撫でているとSPさんたちがじりじりと後ずさっているのが目に入った。

 渕華さんや望さんも何やら慌てた様子で離れた場所で手を振っている。おかしいなと思って辺りを見回してみたら、駐車場の舗装から湯気が立ち上っているのが分かった。


 ええともしかして寒暖の温度差が体感しにくくなっているあたしには『ほんのりと暖かい』であって、実際はものすごい高温が発生しているんじゃないのかな? 


「はい、しーちゃんしゅーちゃんあったかくしなくていいから」

「ぷむー」

「大丈夫。あたしは寒くないよ。ありがとうね」

「うー」


 翼を小さくおさめた二人をギュッと抱きしめる。視界の外で胸をなでおろす渕華さんたちが見えた。

 温度の上昇はなくなったらしい。


「ふむぅ」


 翼四枚を器用に顔の前で組んだシュネメスさんが頷いて(?)いた。

 ちらりとバスカヴィールさんと視線を交わし、二人揃って跪いた。って何っ!?


「僭越ながら進言をお許しください」

「いやいやいやいや、自由に発言していいですから! 畏まる必要は……ないとも言い切れないけど、もうちょっと普通にしてくれると嬉しいです」


 一族組織の上の方に居る身としては分かるほどに分かる理由だけど、あんまり大仰にされるのもやだなあ。

 パタパタと手を振って遠慮を示したいが、しーちゃんとしゅーちゃんを抱いているので無理だった。

 そして予想もしなかった言葉がシュネメスさんから飛び出した。


「静養に我らの世界に御出でになってはいかがですか?」

「ふへ?」


 西の空に燦然と輝く亀裂の向こう、エメラルドグリーンの世界への誘いだったわ。


次回ちょっと間を挟んでやっと異世界へ突入予定です。

長かった……。当初の予定より7話ほど伸びたのは秘みちゅ。


『ほうれんそう』とは報告・連絡・相談のことです。社会人用語ですかね。私は勤めに出てから知りました。

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