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泣きました

 はい、おはようございます。遥です。

 会談から一夜明けました。沙霧、さーちゃんからは本家の端にある離れを今後あたしの部屋として使っていいそうです。うおー、マジか。ここ冷凍睡眠に入る前は御婆様の部屋だったんだよねー。超広いんだよここ、畳二十畳分もあるのよ。あたしとしーちゃんとしゅーちゃんと三人で使ってもまだまだ余白がいっぱいだ。


 会談の終わる頃に名前を尋ねたら無いって言われたもんだから、「じゃあ、似合う名前をつけてもいいですか?」って聞いたんだ。でもそれはダメなんだって。


「ハルカ、それは出来れば遠慮して下さい」

「はあ、え?」

「坊ンたちはな、幼生の時は名前に影響を受けたりするんだよ」

「迂闊に何か深い意味を持つ名前をつけたりすると、根本的な性質から変異してしまい恐怖の大魔王になってしまう可能性があります。気軽な呼び名程度でしたら問題ありませんが……」

「……きょうふのだいまおうって……」

「過去に一度だけ二柱いっぺんに恐怖の大魔王になってしまった時があり、私達の世界は崩壊してしまいました。今のコチラ側の世界は何もかも一新しているのです。人の世まで同じにしたくは無いでしょう?」


 ルシフェルさんのこの説明のときだけはサタンさんも真摯な瞳であたしを見ていた。それが紛れもない真実だと分かったので、適当につけようか。あだ名みたいなものでいいよね?


「じゃあ、始族の子が『しーちゃん』でー、終族の子が『しゅーちゃん』!」

「……まんまですね。まあ、妥当なところでしょう」

「『しゅーちゃん』!? 神にも等しいってのになんちゅー気さくな。ぶわはははははっ! 流石嬢ちゃん、一味違うなあ。うわははははははっ!」


 キリッとした顔で淡々とした返事を返してくれるルシフェルさん。ここが学校であったら黄色い声が大音声であがり、卒倒者が何人も出そうなイケメンっぷりである。サタンさんは畳をバンバン叩いてまたもや大爆笑だ。……どこに笑う要素があったのかまったく持って不明です。まあ、名前? あだ名? に許可が出たのでよしとしよう。


「御二方とも色々人族とは違う面もありますので、後日補佐が出来る者を派遣致しましょう」

「ああ、そーだな。ウチからも滅多に居ないが嬢ちゃんの補佐になりそうな者を探して送るぜ」


 それでその日の会談は終了したんだけど。探しておくって事は、終族ってみんなサタンさんみたいに大雑把な人しか居ないんでしょうか?





 先ずはこの部屋に移る? と言うか住む際に前のあたしの部屋(ずっと当時のまま残しておいてくれたそうで、感謝だよさーちゃん!)からタンスやら鏡台やらを移しました。でも洋服などは五十年の歳月に耐えられなかったので、後日色々揃えてくれるそうです。後は生活用品が色々と。使用人さんも専属の人が二人付きました。柚木果狩(ウチ)の本家使用人は外部から雇うんではなくて、分家の末息子や末娘が起用されます。分家のほうは自分達で済ませたり外から信用できる者を雇ったりするらしいんですが。来たのはあたしより外見が年上の女性の人が二人。

 片方は長い黒髪を肩の辺りでまとめて、物静かそうな美人の鞍町(くらまち) のぞむさん。昔あたしがよく面倒を見ていた鞍町(うるめ)ちゃんのお孫さんらしい。もう一人が少し脱色した茶髪ぼさぼさショートカットで、元気有り余っていそうなカッコいい美人の薬師寺(やくしじ) 渕華(えんか)さん。この人も昔面倒を見たことのある薬師寺蓉子(ようこ)ちゃんのお孫さんだ。二人とも祖母から厳命されてあたしに付いてくれる様になったのだとか、あとで潤ちゃんと蓉子ちゃんにはお礼を言っておかないと。いや、もう実年齢は兎も角、外見的に目上だから「ちゃん」付けはマズいかな? 


 細かい部分はさておいて、問題なのは子供服なんですが……。翌朝、渕華さんがひと揃え二組分、持ってきてくれました。早っ!? それでもってあたしの左側の布団に二人で寝ていた片方、しーちゃんに肌掛けをポンと着せてみたのです。あ、翼ですか? この子たちの翼って色々と触れられたり触れられなかったりするようで、服の類はすり抜けます。


 抱き上げたらふにゅふにゅ言っていたしーちゃんはと言うと。ぱっちり目を見開いた途端、ぎにゃ───っ!!!!?!! と、泣き出しました。


 いや、どっちかと言うとあたしのほうが「ぎにゃああああああっ!?」って感じでした。だっていきなり泣き出したしーちゃんを中心として室内を大嵐が吹き荒れたんですよ。勿論あたしも吹っ飛ばされましたし、渕華さんも飛ばされました。離れの部屋を囲む障子も飛ばされて、タンスも鏡台も宙を舞いました。パニックになったあたしは同じく爆風の中、目を回していた渕華さんをひっ掴み、丁度けらけら笑いながら大嵐の風の渦を楽しむしゅーちゃんを捕まえて、その子にお願いしました。「これなんとかしてええええっ!」って。お願いッつーか命令っつーか悲鳴? それを言った瞬間、爆風が不意に止み、宙を木の葉のように舞っていたあたしたちは重力に従い床に落下しました。まあ、しゅーちゃんが広げてくれた黒い翼にふわりと受け止められて、かすり傷も無かったんですけどねー。


 しーちゃんに着せた肌掛けは、見るも無残なボロボロの布切れとなれ果てて部屋に散っていました。唯一飛ばされていなかったこの子たちの布団の上で「ふぇ……」と、ぐずっていたしーちゃんを慌てて抱き上げてあやします。しゅーちゃんも覗き込むようにして、しーちゃんをなだめてくれます。


「ご、ごめんねー、しーちゃん。服、嫌いだったのー?」

「ぶー、あぶー」

「ぇぅうう」


 相変わらずなんて話してるか分からないけど、慣れるしかないかー。一日二日じゃどうしようもないなー、意思疎通に関しては。その後服を見せるだけでそっぽを向くしーちゃんはダメだと思い知り、しゅーちゃんに拝み倒すようにしてなんとかオムツだけを穿かせる事に成功した。ここまでの所要時間五時間……。そしたら胸を張ってオムツを穿いた自分を見せびらかすような態度を取っていたしゅーちゃんに触発されたのか、しーちゃんもしぶしぶオムツを穿いてくれた。やったねあたし! 苦労が報われたよ! そしてご協力ありがとう、渕華さん、望さん。


「は、はぁ……よ、かったぁ……」

「ど、どういたしましてぇ……」


 その後専属の業者が呼ばれて、部屋が片付いたら夜になってました。






 でも夕飯の時間になって、「赤ん坊のご飯はどうしますか?」と聞かれ、そう言えばその辺は聞かなかったなあと気が付いた。同時に疑問に思ったんだけど、あたしって目覚めてからろくに食事とってないよね? 夕飯の時間になるまで忘れてたよ。朝と昼の時間はそれどころじゃなかったし。

 分からない時は専門家に聞いてみよう。サタンさんは適当な答えしか返ってきそうにないし、ルシフェルさんかな。でも連絡先を知らないや、しーちゃんはどうかな?


「しーちゃん、しーちゃん。ルシフェルさんに連絡って取れないかな?」

「あぶー」

「えうー」


 二人で布団の上に座り、対面になって掌を合わせるだけという意味不明な遊びできゃっきゃっと笑っていたしーちゃんとしゅーちゃんが、あたしの方を不思議そうな顔で見上げて来る。


「ルシフェルさんに相談したい事があるんだけど、連絡の取り方って知らないかな?」

「ぶー!」


 ビシッと右斜め上、たしか西の方。つまりはあちらの世界と空が割れて繋がっている方角、を指差したしーちゃんの指先がビカッと光った。そこからズバーっとペットボトル並みの太さの光線が離れの天井を突き破り、西の空へ伸びていく。突然の出来事にひっくり返って驚く渕華さんと望さん。おいおい、今度は天井に穴かぁ。さーちゃんに怒られそうですね……。


「ちょっとしーちゃん!? ルシフェルさんの連絡先を聞いただけなのにいきなりレーザーをぶっ放さない! しゅーちゃんも便乗しようとするんじゃありません!」


 同じく指先を空に向けたしゅーちゃんを押し留め、しーちゃんの行為を止めさせました。

 早く相談役が来ないかなあ……。



 思っていたよりレギュラーが多い……。

 携帯では文字ごと消えているというので、「のぞむ」の漢字を変更致しました。

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