健康診断④
ぽよよん
ぽよよん
擬音をつけるとしたらそんな感じでしょうね。
現在車に乗って病院まで移動中。スフちゃんはあたしの隣でおとなしくお座りしていますが、尻尾がピーンとなっていて警戒中のようです。
しーちゃんはあたしの胸の中、うつらうつらと半分寝ています。しゅーちゃんはあたしの座っている逆側の席で窓に顔を付けて流れる外の景色を「きゃっきゃっ」と楽しそうに眺めている。
車内には畳十畳くらいに広く、あたしたちの他にはさーちゃんがいるだけ。渕華さんや望さんはあたしたちとは別の車だ。さーちゃんははしゃぐしゅーちゃんに微笑んでいる。あれは触って抱っこしたいんだけど、神気にやられて倒れるから残念に思ってるんだろうな。
で、護衛の始族終族ですが、車の左右を固めています。
バスカヴィールさんは車の左斜め前を飛んでいます。どこぞのヒーローみたいな手足を真っ直ぐ伸ばしたフォームで。翼は左右に広げられてはいるが、全然羽ばたいていないんだけどどうやって飛んでいるんだろう?
しゅめ、……なんとかさんは車の右後ろを、……えーとどう言えばいいのかなあ。飛び跳ねている? 謎です。
だいたい高さ3mくらいのところを跳ねています。ええとその高さに透明な板があるような感じでぽよんと跳ねて着地すると、やわらかくて丸いクッションを窓に押し付けたみたいにぺったりへこむ具合に。あれ飛んでるっていうのかな?
窓の外を眺めつつしーちゃんの様子やしゅーちゃんが何か変な行動に移らないよう目を光らせます。いきなり外へ出ちゃうことをしちゃったら大変だもんね。戦士位にあたる人たちはあくまで守るのが役目であるけれど、もし神子であるあたしたちから何か命令があった場合それを優先しちゃうんだとか。
しゅーちゃんが変なわがまま言わないように、気を付けないと。
「にしても、目に見える風景はあんまり変わらないなあ」
「50年で180度も変わるわけはないでしょう、姉さん」
時々窓の外の街並びを見て出た感想にさーちゃんが苦笑しながら答えてくれる。
なんでもある程度の科学発展はあったそうだけど、それは人々の生活に準ずるものばかりで、例えば建造物の見た目を未来予想図みたいにガラリと変えるものはそんなにないそうだ。それでここに来てファンタジー世界との交流である。新聞やニュースによると科学的なものを前面に押し出しての交流は避けているとかいないとか。
「個人で持てるリニアカーとか?」
「まず道路から敷き直さないといけませんから、まともに走れるところなんてほとんどありませんよ」
「ってことはあるんだ……」
「実験都市にわずかってぐらいですけれど」
うん、まだタイヤは手放せないみたいですね。
「それとさあ……」
「はい。なんですか、姉さん」
「時々窓の外の風景に丸く光るフラッシュみたいなのが見えるけどアレなに?」
おもいっきりさっきからきになっていたんだアレ。
柚木果狩家のある山間部ならまだしも、都市部に入ってから頻繁に目撃してるんだけど。遠くに見えるビルや沿道に時たま丸く光るものが出現してるんだよね。一瞬だけ丸く光る神鳴りと言った方が分かりやすいのかな。多い場合には十数個が固まって光るときもある。
「申し訳ありません姉さん。私もあれが何なのかさっぱり見当が付きません」
「え、さーちゃんも知らないの? 都市部でよく見られる現象なのかと思った」
二人で首を傾げていると外を見ていたしゅーちゃんがこっちを振りむいて、「ぷぅぷー」と言った。え、なんだって?
「バスカヴィールさんとシュネメスさんがやっている? 何を?」
「やっているって、何をでしょう?」
さーちゃんの眉間にしわが寄る。なんか嫌な予感がするなあ。
ほどなくして着いた病院でバスカヴィールさんとシュネメスさんからとんでもない発言が飛び出した。
「は、たしかにそれは我らが起こしていた現象でした」
「これも神子様方の安全を守るため必要措置なのよぅ」
いや守ってくれるのはありがたいけど、なにをやらかしたの?
「こちらに武器を向けている輩がおりましたので無力化しておりましたのです」
至極当然のように胸を張って言うバスカヴィールさん。
「武器? ねえさーちゃん、いつからこの国は一般人が武装出来るようになったの?」
「いいえ。昔も今も一般人が銃などで武装することは禁じられていますが」
ちょっと気になったので二人が武器だと思ったものを提示してもらう。場合によっては創樹を貸そうと思ったけれど、戦士位のひとでは使えないとのこと。こっちが悩む間もなく、シュネメスさんが空中に立体映像として拡大したものを幾つか表示してくれた。
えー、超薄くてー四角くてー、片面がディスプレイになっていてどこかしらにレンズがついているものー……。
携帯端末だよこれ────っ!?
もしかしてしなくても珍しい形状の始族終族を見た一般市民の皆様が向けていた携帯端末のカメラを武器と誤認していたってことおおおおおおぉおおぉぉっ!?
どどどどどーしようううううぅぅ! たた大量殺人がががふぁっ
「うーうー」
「ぷー!」
「あ、え? 人間世界での殺生はほぼ禁じられているの? あーはーはははは、びびびっくりした──」
一瞬パニックになりかけたけど顔面に突っ込んで来たしゅーちゃんと、しーちゃんの説明により深呼吸ののち落ち着きを取り戻した。できればもうちょっと衝突という落ち着かせ方は避けてくれないかなあ、しゅーちゃんは。
「でも攻撃された人ってどうなってたの?」
「ただ武装解除しただけなので、生身の体には一切害はありませんぞ」
「あ、そうなの?」
「いえ、ちょっと待ってください。なぜそこで“生身”という表現になりましたか?」
ほぅと納得したあたしだったけど、さーちゃんが疑問を感じて横から口を挟んだ。
言われた意味が分からないのか顔を見合わせるシュネメスさんとバスカヴィールさん。片方の翼を高く上げたスフちゃんが気まずそうに解答をくれた。
「いえ、ハルカ様。二人の使ィました術式は生身以外ォ剥ぐ、武装解除と言ゥ意味だと思いますえ」
「生身以外……?」
「もしかしてその人が身に着けていた服やら持ち物やらが生身以外というのではないのですか?」
「「「「「………………」」」」」
あたしたちとその場にいたSPさんたちの額に一筋の汗がつつーと流れる。
もしかしてアレが光った場所にいた人は素っ裸ってこと?
その予想に至った後、間髪入れずにさーちゃんが政府と連絡を取り、二日もしないうちに世界中に四枚羽の始族終族を写真に収めることが禁止されたのでした。
これ異世界に損害賠償がいかないでしょうね?
トラブル回。やはり写真を撮るときには本人の許可を取りましょうという教訓です。常識が違う世界ではこうなるという例(違