健康診断③
第一門の前。
すなわち正門前には黒くて長い車があって、その前後を固めるように数台の車列ができているし。
潤ちゃんや佳奈ちゃんの言う“変なもの”は車道の中央にいた。数はふたつ、いや二人と言って問題ないと思う。
……たぶん。
理由はそれぞれ白と黒の翼を持っているからだ。
まあ持っているのは良いとして、持っている側の形状かな“変な”のは。
潤ちゃんや佳奈ちゃんと「行ってきます」、「お気をつけて」と定番の挨拶を交わし、階段をぽてぽて下っていく。
しーちゃんはあたしの胸元で熟睡モード。だけど、しゅーちゃんは頭上から飛び立ってあたしの右斜め前で浮かぶ。なんかちょっと怒ってるというか、機嫌悪いというか。妙な感じ?
階段を下って行けば変なのの形状がよく見えてきたね。
始族さんの方は人型だけど頭が赤い鳥さんです。
鋭いクチバシと睨むような目つきの赤い鷲さんですね。でも翼は白いのが二対四枚。全身を灰色の甲冑で固めていて、左腰には剣らしきものをさげています。左腕には円形の盾をつけていて、まるで映画から飛び出してきた剣闘士のよう。
終族さんの方が理解に苦しむと言いますか、あれで武闘派なのかと首を傾げちゃいますねー。
形状はまるい……マルい? 丸いおまんじゅう形と言えばいいのかな。それがあたしが乗る車の長さよりでっかい直径だし。事前にクジラの始族さんを見ていなければ、目の前の現実を疑ったかもしれないけど。
色は薄い紫かな? ピンクが混じってる気がしないでもないけれど、表現が難しい色だなあ。
黒い翼は始族さんと一緒の二対四枚。スフちゃんによると武闘派? 戦士? の人たちは四枚翼を持つというけれど、全員ではないとか。何でも翼は自分で好きな数に調整が利くんだそうな。位とかは関係ないんだ……不思議。
さらに変なのが顔なんだけど、目があって鼻と口がない。翼が生えているところとは反対側に、あたしの身長ですっぽり納まりそうな楕円形の瞳がある。瞳はひと昔前の少女マンガ風な星が入っているね……。
あたしたちが近付くと始族の赤い鷲さんは片膝を折ってひざまずき、終族の薄紫まんじゅうさんは四枚ある翼の一枚を左目の前に添えて目を閉じた。……一応頭を下げているってこと?
「え、えーと?」
(ハルカ様や神子様方にィ対しては、ごぉくごく普通の対応ですぇ)
肩に飛び乗ってきたスフちゃんがそっと耳打ちしてくれる。
「バカものおおおぉっ!! 貴様っスフインクスッッ! なんという不敬なぶばらっっッ!?!」
その途端くわっっと目を見開いた赤い鷲さんが大音声でスフちゃんを怒鳴りつけ、しーちゃんの大きくなった翼に張り飛ばされた。
あらら……。
張り飛ばした当人は頬を膨らませながらあたしの胸元より顔を上げて、「うー!」と赤い鷲さんに怒鳴りつけた。まあ「うるさああぁぁい!」って言ってるんだけど。
「ぷーぷー!」
「え? ちょっとしゅーちゃん待ちなさいっ!」
「自分もやる~」と言って翼を広げ、羽ばたこうとしていたしゅーちゃんを間一髪で抱き止める。辺り一面の木々も一緒に吹き散らされ、ハゲ山になりそうで怖いわ。
あたしが二人に「メッ」と、叱ってる最中に、赤い鷲さんが飛び込んだ山林に分け入るスフちゃん。間を置かずに葉っぱにデコレーションされた赤い鷲さんを連れ出してきた。
赤い鷲さんはあたしの前まで来ると片膝を折ってしゃがみ、右胸に手を当てて一礼する。
「新しい神子様には大変なご無礼を致しまして……。我は始族のバスカヴィールと申します。以後よしなに」
「はあ……」
バリトンの渋い声でそう告げた赤い鷲さんことバスカヴィールさんはそのまま停止する。
え? これあたしが何か声掛けなきゃいけないの? 思わずしーちゃんに目線で助けてと訴えてみる。
「うーあうー」
「はっ! お騒がせして申し訳ございません」
鎧をがしゃりと鳴らして立ち上がると頭を下げてきた。
ゆ、融通のきかなそうな印象だなあ。
もう片方の薄紫まんじゅうの終族さんに目を向けると、あたしの視線にまばたきを一つ。
「終族のシュネメスティラントロに御座います。今後、外出時にはぜひワタクシをお呼び下さいまし」
「……はい?」
しゅ、しゅね……、なんだって?
シュネメスティラントロは某落ちものゲームのそれを家大に大きくしたものです。
バスカヴィールは某野球チームとは関係ありません。
通算250万PVとユニーク50万、ありがとうございます!