健康診断②
やれやれ、またあの大名行列みたいな車列で護衛されなきゃならないのかぁ。あの息苦しさは体験した者じゃないとわからないしね。着替えながらちょこっとため息がもれるわ。
たしかに始族終族にとっては、あたしも両族の未来を左右する重要人物なんだろうけど。長く続く家系に生まれた者の運命からは結局逃れられないということで。
着替えを手伝ってくれた渕華さんと望さんにも微笑まれてしまったし……。病院での着替えのために、二人も同行するそうだけど。同じ車には乗れないらしい。
「スフちゃんは一緒に来る?」
「ええ。当然のことながら。……と、言イたいのぅですがね。今回は見送るぅことになりそうでぇすわ」
「え?」
残念そうな歯切れの悪いスフちゃんによると、今回の外出には始族終族から『どーーしても新しい神子様にお目道り願いたい!』という声が多数あがっているんだって。
顔合わせも兼ねた派遣護衛として、始族終族からそれぞれ一名ずつ同行するとか。今日派遣されてくる二人はともに武闘派なので、スフちゃんが言うには自分の出番はない、って。
「でもそれはスフちゃんが一緒にいてはダメな訳じゃないよね?」
「はいいィ? いえハルカ様、自分の話は聞ィてくれまっしたでしょうに」
なにやらわたわた慌てだすスフちゃん。
そんなにお留守番が好きなのかな? コタツにハマり込んでるスキなんか与えないよ~。
「ぷー」
ひとっ飛びでスフちゃんのもとに移動したしゅーちゃんが体全体を使うように抱きしめた。
「しゅーちゃんの言う通りよスフちゃん。あたしが一緒にいようと希望したんだからスフちゃんがその人たちに遠慮する必要はないのよー」
スフちゃんを抱えたしゅーちゃんごとぎゅーっと抱きしめる。
「ぷー、ぷ!」
「そうね、しゅーちゃん。スフちゃんはあたしの護衛だもんねー」
二人を胸に抱き込んでもふもふふわふわ~とご満悦してたら、しーちゃんがぷにぷにとあたしの頬をつついてきた。あれ、しーちゃんも仲間に入れて欲しいの?
「うー!」
「え、腕の中をよく見ろって? あ」
「ハ、ハルガざま……。ぐ、ぐるぢぃ……」
スフちゃんが締め付けられすぎて息もたえだえになっていた。ご、ごごごめんね――!
のったらのったら階段を下りているあたし。
しゅーちゃんは定位置の頭の上。しーちゃんはあたしに抱かれて熟睡モード。スフちゃんはあたしの数歩先をふわふわ飛んでいる。創樹は周囲に浮いているはずですがいつも通りに見えていません。
あたしの背後には大きめのバッグを携えた望さんと渕華さんが続いている。
スフちゃんはしゅーちゃんに抱きつかれるのにトラウマ気味になっちゃったみたい。さっき抱えた時はあたしにそんな腕力は無く、しゅーちゃんがあたしに抱え易くするようにスフちゃんを圧迫してしまったらしい。
しゅーちゃんものほほんとしてないで少しは申し訳なさそうな顔をしなさい。スフちゃんがちらちらこっちを見る目に怯えが混じってるじゃないか。
「ん、あれは潤ちゃんたちかな?」
階段の途中、第二門手前の菓子屋数馬家辺りに数人のおばさま方が集まってるのが見えた。
後ろ姿でもなんとなく判別できる潤ちゃんと佳奈ちゃんが混じってる。
ついつい「潤ちゃ~ん!」と大きい声で呼び掛けてしまう。あー、なんか制服姿で似たようなことをやった既視感があるなあ。
あたしに気付いた二人がパアッと笑顔を浮かべ、潤ちゃんたちの周囲に固まっていた他のおばさま方は口元をひきつらせた。
分かっていたけど失礼な反応だよね。そのままあたしに場を譲るように道の端へ下がる。
「……すみません遥さま」
「何を謝ることがあるの? あたしは別に何の不利益も受けたりしてないよ」
ちょっと落胆したのが顔に出てたみたい。潤ちゃんに気を使わせてしまった。反省反省。
「ところでこんな所で井戸端会議?」
疑問に思ったことを聞いてみると、二人が困ってるような悩んでるような、なんとも言えない表情になり、顔を見合わせた。視線会話の結果、佳奈ちゃんが口を開く。
「ええまあ、孫が『門の前に変なのがいる!』と騒いだのが原因なのですが……。遥さまも見て下されば分かりますわ」
この場合の『門の前』は一番麓にある第一門のことね。あたしたちが出掛けることで、予め一門と二門は開け放たれているけど。そこから下のあたしが乗る車列を見て『変なの』と言ったのかなあ。
「遥さまはこれからお出掛けなのでしょう? 是非ともアレについて詳細を聞いてきて下さい」
あたしの背後にいた望さんとアイコンタクトを交わし、興味深々と尋ねてくる潤ちゃん。
さっぱり要領を得ないので二門から下を覗いて見ると、あたしたちの乗るであろう車の左右に見慣れないものがあった。
『なにあれ……?」
間を空け過ぎたせいで話の展開を少し変更しました。実はこのまま健康診断というお題は何だったのか? という形で進みそうです(オイ