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病÷行動=薬②


 あたしと創樹の共同作業は、直ぐにさーちゃんの知るところとなりました。


 静流ちゃんと別れて離れに戻り、10分もしないうちに草の束を抱えたさーちゃんがやって来たのです。静流ちゃん報告早いねえ。


「さあ姉さん。お願いします」


 畳に敷いた油紙の上に10本の種類の草を広げ、あたしを促すさーちゃん。これってあれか。あたしがまだ受け継いだ知識を忘れていないか、確認のための抜き打ちテストですか……。


 わずかに違う特徴から、あたしの知識に眠る薬のレシピを掘り起こす。

 じゃあ『楽なレシピの右端からやってみますかー』と手を伸ばしたところ、対面に座るさーちゃんから威圧感がほとばしった。反射的に手を引っ込めましたわよ、もう。


 心を落ち着かせて、今度は左端からレシピを確認していくと……。


(あっぶなーい! ナニコレ、途中から2種混ぜにしないと出来ない並びじゃないの!)


 ワザと右端から引っ掛け問題みたいに並べたわね、さーちゃん。そのスパルタっぷりに背中に冷たいものが流れるわ。


 再度気を取り直して、左端から手をつけていく。


 1番目は根を煎じたのが胃薬で、茎と葉はおひたしに。2番目は根が毒性だけど、3番目の葉と合わせて毒消しに。茎は使わず葉だけは下剤と。4番目は5番目と葉を混ぜて切り傷用の痛み止めっと。


 慎重に見極めながら、粉薬、おひたし、丸薬、粉薬、塗り薬、液体、―――と仕上げていく。思っただけで小瓶などの入れ物もセットになって出て来るので、手がベタベタになったり撒き散らしたりする心配もないから楽だわ~。


「お疲れさまでした姉さん。最初右側から手を出そうとした時は、どのような罰がお好みかと思いましたけれど。柚木果狩の血に恥じぬ手際、お見事です」

「――良かったぁ覚えてて……」


 作り終わったらさーちゃんが手放しでほめてくれた。ふぃー、首の皮一枚で繋がった気がするわー。あーくわばらくわばら。


 幻の汗を拭っていると背中にしゅーちゃんがへばりついていた。うわ、こっちに集中してたんで気がつかなかったわ。周囲を見渡してみると、コタツからのぞく足とオムツと白い翼の先っぽ。スフちゃんはあたしに背を向けて毛を逆立ててるし。


 どうやらコタツに突撃してきたしーちゃんにびっくりして、這い出したみたい。


「遥様が最初に手を伸ばそうとしたあたりからくっついていましたよ」

「でもすごーい遥様、さすがー。私なんかじゃとてもとっ……っと」


 あたしの見てないところを説明してくれた望さん。危うく自分の不甲斐なさを先代前で暴露しそうになり、慌てて口を押さえる渕華さん。


「あらあらどうしたのしゅーちゃん?」

「う~~」

「あれ?」


 抱き上げてみるとあたしの胸に潜り込むようにしがみつく。しかもなぜか涙目のオプションつき。


 しゅーちゃんを抱いたままコタツに近付き、掛け布団をぺらりとめくる。


「しーちゃんも大丈夫?」

「う~む~ぃ」


 のそのそ出てきたと思ったら、あたしの腰にしがみつき。大きく広げた翼でもって自分を覆い隠してしまった。意訳して言うならば2人とも「こ~わ~い~」である。


 望さんの発言とタイミング的に見てこの「怖い」の原因は明白である。


「さーちゃんや」

「はい?」

「しーちゃんとしゅーちゃんが泣きそうになっているのは、さっきのさーちゃんの威圧感だ!」

「ええええっ!?」


 信じられないと呟いたさーちゃんは、あたしの傍によってきてしゅーちゃんの頭を撫でようとするも、ぺいっと振るわれた黒い翼によってその手を叩き落とされてしまう。


 しーちゃんに至ってはその姿さえも消えている。あたしの腰にいる感覚はまだあるので、ただ単に透明になっているだけかもしれない。


 なんとなく嫌な予感を感じ、そこへ首を向けると空間がほころんでいた。鍵裂きになったその向こうからはとびっきりの怒気がもれている。……こ、これは以前にも感じたことのある親衛隊の出現しそうな感じ……。


 親衛隊を呼ぼうとするくらいさーちゃんが怖かったんだねー。なんか今のでちょくちょく構っていたさーちゃんの株が大きく下落したような。


「ごめん、さーちゃん。この部屋からちょっと退出してくれる?」

「そ、……そんなに嫌われているんですか?」


 「早くしないとまた親衛隊が呼ばれそうな感じがあるから」と伝えると目に見えて落ち込んでしまった。本当の孫のように猫かわいがりしてたからなあ。その気持ちはわからんでもない。つか、夫婦そろって息子の孫はいいんかい。


 ふらふらとさーちゃんが退出すると、鍵裂きの空間が何事もなかったように閉じていった。


「ええと、遥様。これどうしましょう?」


 望さんが困惑した顔で聞いてきたのは、さっきあたしが作った薬の数々である。ショックすぎて持って行くのを忘れたみたい。


「まあ、なんかの役に立つかもだから離れ(コッチ)に置いておけば?」

「はあ……。ではまとめて保管しておきますね」


 薬瓶を纏めて渕華さんが持ってきたケースに詰め。戸棚の目立つところに置く望さん。


 あたしはしーちゃんとしゅーちゃんを抱き上げると、頬を合わせて『さーちゃんが怖くないこと』、『2人のことをとても好きなこと』、をゆっくり分かるように。誤解を解いてくれればいいなあと思いながら、諭すことをはじめたのでした。


今話に合わせて前回のサブタイトルをちょっとだけ変更しました。

またサブタイトルを考えるのがきつくなってきたわ。

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