積み木ご用心
「あー。久しぶりの外は気疲れの方が強かったかも……」
「遥様、お加減はいかがですか?」
「うん、大丈夫ダイジョーブ」
心配そうな顔の望さんから湯呑みを受け取って元気な様子を返してみる。きちんと笑えてるといいなあ。
傍らに浮かぶ創樹から小さな氷嚢を出してもらい、額に当てる。熱があるわけではないんだけど、気分の問題。
梅園祭の翌日になりますが、なんとあたし倒れました。
ぐったりして力が抜けて動けない。といいますか、疲労困憊といいますか。
あたしの状態に気付いたしゅーちゃんがまずは大泣き。間髪入れずしーちゃんも大泣き。
唸る旋風、轟く雷鳴。吹き飛ぶ家具と恐れおののく柚木果狩の一族。
スフちゃんが以前張っておいてくれた結界(?)のおかげで、離れが丸々吹き飛ぶことはなかったけど。室内のレイアウトは大幅に変更されました。一番大変だったのは力の抜けた状態で二人を泣き止ませることですか。……思い出したくもないわ。
どうやらこの体。神子になったばかりであらゆるものに耐性がついてないらしいです。
異変を感じて急遽すっ飛んで来たルシフェルさんの診断の結果。梅園祭に渦巻いていた悪意に触れたのが原因だと言われました。
ちなみに赤ん坊二人が平気なのは、神子歴の年期だとか。
年期の問題なのっ!?
あとあっちの異世界では、神子に向かう悪意などは全くないそうです。そりゃあ世界を支える柱にちょっかいかけようなんて間抜けはいないでしょうよ。
『ハルカ殿、しばらく安静にしているように。我々にもこのような事例は経験がないもので、どのように対処すればいいのか分からないんですよ』とはルシフェルさんの談であるわけで。
そりゃここにいる赤ん坊が始族・終族の祖なら、いつが始まりなのか知りませんけどそんな記録つけてる人はいなかったでしょう。そこまで古い記録をどうやって保存してるのかは謎ですけどねー。
更にそれから10日ほど経過しましたが、未だに疲労感が残っています。
時々、しーちゃんがあたしにはっしとしがみつき、ぐむむむーっと神力なるパワァを注いでくれるおかげでちょっと疲れる状態が続く程度で済んでいる。コールドスリープ前の生活に戻ったような感があるあたしとしては、やや憂鬱。
さーちゃんがこの状況で顔面蒼白になってしまったので、あたしとしては大人しくしているしかないし。布団からせいぜい上半身を起こすくらいかな。
遊ぶ合間にあたしの所へハイハイでやってきたしゅーちゃんが『大丈夫?』と伺って来たり。もちろん下から見上げてくる可愛い赤ん坊に感極まって毎回ハグしてギュッてしてますね。
「ああ、可愛いわしゅーちゃん!」
「ぷうぷ」
夜は一緒に寝れるし、あたしは満足ですよ。このらぶりーな寝顔があれば、この世に何もいりませんね!
いや妹であるさーちゃんや、幼馴染である蓉子ちゃんや潤ちゃんも必要不可欠ですけど。
それはそれとしてあたしは部屋の真ん中でかちこちかちこちと音をさせている二人の遊びに目を向ける。
「こんな遊び方をするものじゃないと思うんだけど、こればっかりは何と言っていいものか……」
「ですよねー」
ちょっと溜息を吐きたくなるあたしに、お茶菓子を持ってきた渕華さんもそれを見上げて苦笑いをこぼす。
栄蔵兄さんがつい先日二人にと持ってきたものは積み木。
そのほとんどは傷がついてるものや、大きさに統一性がないものばかりだったから不思議に思ったんだけども。話を聞くに小さい子供がいない分家を回って、使っていない積み木をかき集めてきたんだそうな。それだけでも円筒形や四角形、三角形のパーツが100個を超えていました。多すぎじゃないかな。
最初は二人ともどういうものなのか不思議そうに積み木の山を眺めていましたが。あたしがお手本にとばかり縦に2つ置き、その上に鴨居に見立てて横に置き、三角おいて簡易お家を見せたら理解してくれたようです。
積み上げて~積み上げて~。100個を全部使って天井まで届く超大作を作り上げること数回。離れの内側が完全に分断されること2回。天井近くまで飛び上がったしーちゃんが頭をぶつけて泣き、雪崩れた積み木でスフちゃんが埋まること1回。
ただ単に積み上げることに飽きたらしい二人が次に思いついた遊びはというと。
美術のモデル人形のように組みあがった積み木が2体。天井と壁と床をぐるぐると回りつつ疾走しています。
「見ている分には逆ハムスターのようですね」
「ああ、あのくるくる回すやつですか。そんな感じがしますね」
二人で手を振り回し『ぷうぷう』とか『あーうー!』と言っている姿は見ていて心がほんわかしてきますね。やっていることは理解に苦しみますけれど。
あたしもちょっと創樹を経由すれば似たようなことができないかと試してみました。でもいろいろ思考錯誤(誤字にあらず)して、動いたのは2つくらいでした。
カンカンッ! 「火のよう~じん!」
これが精一杯ですねー。
短いですが二日連載頑張りました。
毎日連載してる人とかどうやって書いているのでしょう。尊敬いたしますね。
最初(三か月前)は番外編書く予定だったのを、予約投稿してから思い出したという……。