表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/73

初めての外出④

 さてさて別邸から外に、梅園が広がる今日の主役フィールドへ出て来た訳なんだけれども……。


「動物園のパンダの気持ちがよ~くわか~るうっと」


 見られてる見られてる!

 ものすごい数の視線を独り占めですよ。あちこちでひそひそと内緒話もされちゃってますよ~。


「う?」

「あぁ、しゅーちゃんはパンダが気になるの? パンダと言うのはねー。白黒のクマさんよ」

「うぅ?」

「そうねー。しーちゃんとしゅーちゃんをクマさんに貼り付けたらパンダに見えなくもないかもね~」


 え? 余裕そうに見えるって?

 いやいやいやいや。もう背中にはへんな汗が出まくりなんだけど。人生で感じた思いのない超々極度の緊張感に包まれてますわ。

 うわーん。あたしはどういった対応でこの場を乗り切ればいいの。誰か助けてー!?


 しゅーちゃんはあたしの内心を知らないからか、嬉しそうに翼をぶわっさぶわっさと羽ばたいてる。

 とりあえずはどこかに座って落ち着こう。みんな遠巻きにして寄って来ないだろうから、こっちから指名してみよう。


「ああ、そこのあなた」

「はい? ……っ!」


 紺に白い水玉模様の着物姿に、エプロンを掛けたショートボブの女生徒を呼び止めてみました。なんか格好がおばさんくさいんだけど、女生徒であってるよね?

 その子は逆方向を見ながらあたしの前を通り過ぎようとしていて、こっちに振り向いた顔が一瞬で強張った。


 あー、わかるわかる。ちょっと面倒な人に呼び止められると、周りを見渡して助けを求めるよねー。まぁ、皆さん視線を合わせないよう一斉に目を反らすんだけど。


 持っていたお盆を胸元に抱え、心細そうな顔でこちらを伺ってくる女生徒さん。いや、食べられる訳じゃないからね。


「普通なら席に座ってから、ここの生徒さんが来るのを待つものだけど。あたしの連れがこの子たちだからね。誰も近寄って来ないのを見越して、こちらから指名させて貰ったわ」


 その近寄って来ない理由の何%かは、あたしの背後に控えている強面のグラサン装備SPのせいでもあると思うけれど。

 静流ちゃんが近くにいればわざわざ誰かを呼び止めなくても済んだんでしょう。


「あああ、す、済みません! き、気が回りませんでした!」


 その女生徒さんは慌てて近くの長椅子をあたしに勧め、ペコペコと頭をさげるとお茶とお菓子を取りに走って行ってしまう。こらこら、走るの禁止でしょうここの礼儀として。


「ぷ?」

「うん、ちょっと待とうね、しゅーちゃん」


 時折ひらひらとそよ風に乗って舞うピンクの花びらを視界におさめながら言うと、あたしの頭上でしゅーちゃんがコクリと頷いた。肩に乗っていたスフちゃんは長椅子の上に飛び降りて、あたしの左隣にちょこんと座る。


「異世界にはこういう花はないのかな、スフちゃん?」

「花は色々咲き乱れてぇますよ。はたしてそのどれぇがハルカ様のお眼鏡に適うかはわかりませんってに」

「ほほう。それはちょっと見てみたいかも」


 創樹からしてこちらの世界の常識をひっくり返すようなものだし。こんなのが何本もないようだけど、こんな樹が生成される世界? 土壌? は、ちょっと想像しにくいしね。


「あ、見つけました遥様っ!」

「あら、静流ちゃん」

「ぷ~」


 滑るようにすすーっと近づいてきた静流ちゃんが、あたしと胸の中のしーちゃん、頭上のしゅーちゃんを見て安堵の息を吐く。なんか薙刀の摺り足っぽい歩法だけど。熟練者だねー、静流ちゃんってば。


「もう、会合が終わったのでしたらメールか何かで呼んで下されば良かったですのに」

「あー、その手もあったね。風流の中に携帯とかって無粋かなあ、とか勝手に思ってたからねー」


 辺りを視線だけでチラ見した静流ちゃんが「そんなことはないですよ」と主張する。

 たしかにあちこちでスーツ着た人たちが手に手に持った端末に話しかけたり、何か打ち込んでたりするもんね。まあ、あたしは元々それらをあまり使わないってだけだけど。


「では、お茶を持ってきま……」

「ああ、大丈夫大丈夫。適当に捕まえた子に頼んだから」

「はい?」


 首を傾げた静流ちゃんにこれこれこういうわけで、と先程の子を捕まえた理由を話す。眉間にしわを寄せた静流ちゃんは周囲で様子を伺っていた人たちに向かって鋭い眼光を飛ばした。睨み付けるとも言う。

 

「ほら、ね。落ち着こう静流ちゃん。なんか青い顔して震えてる人がいるから」

「でもおもてなしする側として恥ずかしい行為です! 心構えがなっていません!」

「うぅ~あ~」

「ほら、しゅーちゃんも静流ちゃんの剣幕に驚いてるよ。あたしは気にしないから、ね?」


 しゅーちゃんが黒い翼を広げ、自分の体を静流ちゃんの視線から隠すような仕草をとったのを見て、静流ちゃんはしぶしぶ頷いてくれた。でもこのあときっとクラス反省会が荒れる気がする……。


「すみません、お待たせしました」


 と、そこへさっきお茶を取りに行った女生徒さんが戻ってきた。その子を見た静流ちゃんが途端に冷ややかな空気をまとうのがなんとなくあたしにも分かった。


「あら、会長。貴女でしたか」

「ゆ、柚木果狩さん!?」


 ありゃ、ひょっとして犬猿の仲ってやつですか、これ?



 この世界では端末=スマートフォン=携帯、と名称は色々ですが全部ひっくるめて同じもののことを指します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ