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初めての外出①


 体感的には一年も経ってないんだけど、実質的には五十年ぶりの来訪になる紫苑学園に到着しました。


 うわあ……。細部は変わってるみたいだけど、見た目はそのままだよ。さーちゃんによると今までに数回の改築を繰り返しているらしい。それは別庭も変わりなく、表門は古い格子戸のお茶の先生宅といった雰囲気で。そう見えにくい部分としては、さっきからひっきりなしに止まっては人を降ろしていく車の存在かな。ほとんどが黒い高級車という代わり映えしないのばっかりだけど。降りてくるのもご多分に漏れずそれなりの格好をした上流階級の人たちだけどね。


 それでもってさーちゃんが来客の人たちに「久方ぶりです」と頭を下げられてばっかりなので、入るに入れない状況です。顔が広いのは家柄上仕方がないとして、寸前で足止めになるのはどうかなあ。


「む~」

「ん? しーちゃんは退屈?」

「あーう!」

「あらら、しゅーちゃんも?」


 二人がしびれを切らして自分から動くようになったら、くるんで来た意味ないからねー。先に入場だけは済ませておこうか。


 あたしが動こうとするのを察してか、背後に控えていたSPさん――リーダーを務める潤ちゃんの息子さん――が小声で部下に指示を出して背後に付く。さーちゃんの方には三人残してあたしに付くところをみると、潤ちゃん直々に何か言われたわね。


 門を通ると受付があり、ここの生徒から渡された招待状を照合して来場者は名前を記帳することになっている。まあ、同年代くらいで、翼の生えた赤ん坊を二人も抱えるあたしは奇妙に見えるんだろう。受付をしている子がやや躊躇する感じもある。


 背後のSPさんが代わりに小さな封筒の招待状を受付の子に渡し、中身を確認した子が小さく息を飲む。記帳は両手が塞がっているので、受付の子に代筆をしてもらう。『柚木果狩』ってだけで、もんの凄い緊張させてしまったみたいでご免よキミ。




 受付を抜けた先で少し待っているとやや不機嫌になったさーちゃんが追い付いて来た。


「姉さん、先に行くなんて酷いじゃないですか!」

「一緒に行きたいのはやまやまなんだけどね。人通りが多い所で見せ物みたいになるのもねー」

「あっ、申し訳ありません……」


 周囲からの視線に気付いたさーちゃんが口を濁す。くるみ着から黒と白の翼がはみ出ている赤ん坊二人。黒白の翼を持つ青い子猫。着物姿の学生と同年代の女子、白黒羽のカチューシャをつけてれば、今話題の始族終族と何の関係があるのかとか勘ぐる人もいるでしょーよ。


 って言うか、改めて自分の格好を見直すと変だよねえ。カチューシャに合わせて洋服の方が良かったかしら?



 さーちゃんと肩を並べて庭園を歩いてると、あちこちに赤いカバーの掛かった長椅子が置いてある。これは好きな所に座れて、そこへ生徒たちがお茶とお菓子を持ってくるという仕様になってるんだよね。

 庭園の端々には着物を纏った生徒が待機して、来客の動向に目を光らせてる。そんなんだからあたしを見た生徒は目を丸くした後に隣の子に(ささや)き、それがあちこちに伝播(でんぱ)していく。


 あー、まあ、当然の反応だろうケドね。ちょっとうんざりしたような溜め息を吐いたあたしに、さーちゃんが眉をひそめてるし。


「姉さんが不快に思うのでしたら止めさせましょうか?」

「いやいやいやいや、たかが噂話ひとつにどんな反応よ!? そんなの実行したら『柚木果狩』の悪評が益々広がるだけでしょーよ」


 精神図太くないとやってられないのよねー、この業界。昔も学校内で派閥に分かれてるわ、家柄で固まってるわ、妬みや(ひが)みの怨念が更なる抗争を生むわで大変だったもの。『柚木果狩の病弱お嬢様』とかよく言われたわ。当時の派閥とか家柄とか関係ない友人は今頃どーしているのやら。さーちゃんに言ったら「総力を挙げて調べさせましょう」という答えが返ってくるに決まってるので言わないけど。


「ぷ~ぷぃ」

「ん、この香り? お庭でも嗅いだことがあるよね、梅の香りね」

「う~」

「あらら、しーちゃんはつまらない? お庭にある梅の方がいいの?」


 手を伸ばして近い枝の花を掴もうとするしゅーちゃんに、ぷいとそっぽを向くしーちゃん。気分屋だなあ。まあ、周囲の人の目を全く気にしないところはありがたいけれど。


「大丈夫なのですか、そのお二方は?」

「そうだねえ、よほど退屈したりしなければ自分から飛び出したりしないと思うけど」


 くるみ着やあたしの腕を突き抜けて飛び出している翼も視線を集めてるみたいだけど、足元で周囲を警戒してくれているスフちゃんのほうが注目を浴びている。普通に存在しない青い毛並みな上に白黒の翼を持っているものねー。



「お待ちしておりました遥様、沙霧御婆様」


 例の会談場所、この別庭唯一の建物に近付いたところで静流ちゃんが出迎えてくれた。薄緑の着物に身を包んでいるけど、どこぞの時代劇の活発なお嬢様といった印象を受ける。静流ちゃんを中心にした一族の学生が主流となって会談の場を整えてくれたらしい。 


「ごめんね静流ちゃん。折角の学校行事中に」

「いえ、整えるだけならさほど手間もかかりませんでしたので。終わったら行事のほうも楽しんでください」

「先方は?」

「既にお待ちになっています」

「わかりました。ご苦労さま」


 あたしの時はニッコリと、さーちゃんの問いにはビシッと答える静流ちゃん。カッコイイねえ。


「ぷー?」

「ちょっと話しあいしてね、それからお菓子たべようね」

「うー!」

「はいはい、早く終わればいいけどねー」


 先ずは会談から。さてこの子たちの我慢が何処まで持つのやら……。

仕事の都合で生活サイクルが大幅に変わり、時間の使い方が分からなくなりました。慣れるまで時間がかかりそうです。


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