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おさそい③

 さて、ゆるやかに時は過ぎて梅園祭開催当日になりました。

 先日さーちゃんに色々尋ねた結果、どうも本来の目的はあたしと赤ん坊二人を政府高官と面会させることだったようです。


 いやあ意思疎通させるのが大変だと思うんだけど。こっちの政府はしーちゃんたちを『異世界で神と崇められる者』だと思ってるんでしょう、たぶん。その『神と崇められる』部分に過剰な期待とか抱いていないかと、そこが心配ですね。例えば、神として君臨してるからそれ相応の精神と人格を併せ持つ、とか。


 実際には『異世界の常識で行動する赤ん坊』だと思うし。あたしが自分のと言うか、こっちの常識を色々教え込んじゃったからどこまで話を理解できるかな?


「しかし、(せわ)しないなあ」

「はい? 何か(おっしゃ)いましたか遥様?」

「あー、何でもないなんでもない。続けて」

「はい」


 えー、早朝から屋敷の母屋に連れて行かれて衣装合わせです、ええ。純ちゃん(潤ちゃん妹・使用人長)主導の元、色々と飾られています。桔梗と椿と雲の柄が入った青紺グラデーションの着物。薄紫の帯をぎゅっとやられる時が一番つらーい。このあたりは昔散々お小言を言われたので文句言わずに耐えるだけ。お化粧は顔色を整える程度で、これは赤ん坊二人がその手のものを嫌がるからですね。「まあ、このようなものですか」という純ちゃんの終了の合図があり、あたしは近くで大人しく宙に浮かびながら見ていた赤ん坊二人を呼びます。


「はい、二人ともおいで~。ありがとうね、純ちゃん」

「いえ、いつものことですから。しかしあれからこんなにも時が経って、また遥様を飾り立てる日が来ようとは……。人生分からないものですね」


 頬に手を当てて感慨深く溜め息を吐く純ちゃん。見慣れない人ばかりだったので、満面の笑みであたしに抱きついているしーちゃんとしゅーちゃんを見て頬を弛ませる。昔はさーちゃんと一緒になってあたしを飾り付けるのを生き甲斐にして、『将来はファッションデザイナーになる』と宣言してたなあ。その辺、家を継ぐ側だった潤ちゃんは好きにさせておいたみたいだけど……。今度どうなってたのか潤ちゃんに聞いてみよう。


 赤ん坊二人をくるむための衣を渡してもらい、今までいた部屋から出る。事前に二人をくるむ予行練習をしてみたんだけど、本来行事等で赤ん坊をくるむ袖付きの袴だと二人が嫌がるんだよね。なので裏地にタオルケットを縫い付けた着物生地、というのを新たに作りました。これなら問題なくくるまれてくれるので大丈夫でしょう。ただしこの生地自体とんでもない高級品なんだけど……。


 創樹なんだけどあたしの左肩の上の方にぷかぷか浮いているはず。最初に反応した時のように「大きさが変わるなら、その姿形もどうにかなるかな?」と思って試しに言ってみました。その結果、周囲の風景に溶け込むようなに保護色で姿を隠す形になっています。手を伸ばせば触れるし、目を凝らせばそこらへん不自然なんだけど、とりあえず応急処置ということで。これは問題が出て来るまでの一時しのぎにしかなりませんけどね。



 とりあえずくるむのは目的地に着いてからでもいーか、と考えて後ろに控える純ちゃんを引き連れたまま外へ。玄関前には六人の黒服SPさんを引き連れたさーちゃんと、白黒の翼を広げたスフちゃん。


 さーちゃんは薄水色の着物姿でちょっと上品な上流階級の小母様と言った感じ。そのものだけどね! スフちゃんはあたしたちの警護も兼ねているので同行することに。戦闘能力で言ったら以前の執行部隊に比べると弱いんだそうだけど、人間から見れば脅威になるらしい。鞍町家の運営する一族専門の警護責任者の人が、猫に負けるなんてとんでもないと主張して、スフちゃんに手合わせを申し込みに来たんだよね……。翼の一振りで十人程がぽーんと吹っ飛ばされたのにはあたしも目を丸くしたけど。


 ちなみにその警備責任者の人、望さんのお父さんで潤ちゃんの息子さんだそうな。その後、道場に乗り込んできた怖い笑顔の潤ちゃんに耳掴まれて連行されてしまいました。鞍町家は家柄で合気道とか柔道とかの武道の段持ちが多いからなあ。親子の対話が実力行使なのは昔も今も変わらないんだね……。


 柚木果狩家の所有する敷地をでたところにあったのは、少々胴体の長い黒塗りの車。……これ病院からの帰り道で乗ったのよりずいぶん長くない? 前後にごっつい車が二台ずつ付く必要あるの? 肩を落としてさーちゃんを見ると、当然ですって顔をしてた。


「世界と世界に関わる重要人物を乗せるのですよ? 本来の計画ではもう少し多かったのですが、必要以上に目立ちすぎるのもどうかと思い、減らしました」

「すっごい目立つよコレ……。重要人物を乗せているのが丸分かりだよ」


 あたしの精神的な疲れをものともせず「さあ行きましょう」と言ったさーちゃんの声で周囲にいたSPさんがドアを開ける。めっちゃ赤ビロード室内なんですけど、もっとこう落ち着いた感じの造りは無いのかなあと思いつつ、「きゃっきゃっ」とはしゃぐしーちゃんとしゅーちゃん。楽しそうですねキミたちは。


 今年の春は暑いですね。

 ……とか言ってたら急激に冷えてきた。

 

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