おさそい②
「うーん、そう言えばあたしには外出禁止令が出てたはずなんだけど?」
「実はこれお母様にはもう見せてありまして、沙霧御婆様から遥様に渡しなさいと言われました」
「はい?」
ええとそれは条件付きで外に出ても良いということなのかな?
行き先はこの梅園祭でSPは必須、お目付役にさーちゃんか栄蔵兄さんってところかー。じゃああたしはこっち側の人選をしてくれと、でいいのかな?
「うむうむ、なるほどー」
「あ、あの、遥様?」
「ああうん。だいたい分かった」
「はいっ?」
「ス・フ・ちゃーん」
きょとんとした静流ちゃんにちょっと待ってもらって、コタツにはまっているスフちゃんを呼ぶ。すぱーんとコタツを抜け出したスフちゃんがあたしの前にズザーっと到着した。
「何かご用っでっしゃろか? ハルカ様」
「始族か終族から護衛って出せるかなあ?」
「護衛? 紛争地域にぃでも足を運ぶ用事でも?」
「ないない、ないから。形だけでも整えるってことくらいかな。実際の出番があるかどうかは謎だけど」
護衛って言葉に小首を傾げたスフちゃんだけど、そういうことならウチが、と言ってくれた。
半分サタンさんの力が入っているせいで、戦闘能力もそれなりであるらしい。
それなりを目にする機会は無いほうが望ましいんだけどね。あとでさーちゃんにいつものメンバーで行くよ、と言っておこう。
「あとはー、しーちゃんとしゅーちゃんの格好かあ……」
「はぁ、そうですね」
静流ちゃんと一緒に肩を落とす。
オムツだけの赤ん坊を連れて行くのは抵抗があるけれど、本人たちが着たくないと言うのだから仕方がない。もう少し大きくなって話を聞いてくれればいいけど。
相撲を見終わった二人は、タオルケットにくるまってころころと転がっている。
服は着てくれないけれど、あーゆーのは大丈夫なんだよね。
だったら……。
「お宮参りみたいに祝い着でくるむしかないね。しーちゃん、しゅーちゃん、おいでー」
「ぷう」
「むぅう?」
呼んでみると、しーちゃんは急いでタオルケットから脱出して、しゅーちゃんはタオルケットにくるまったままごろごろと転がってきた。……おいおい。
正座してたあたしの膝に二人とも乗っかってきて、嬉しそうな顔でこっちを見上げている。
「さて二人とも。近いうちにお出掛けがあるので、服を着ましょう」
「「ぶー」」
一応、試しに、念の為、聞いてみると「ヤダー」って首を振る二人。
ですよねー。どうも神力の層が全身を包むように覆っているらしく、服などなくとも防御力は充分だと言う。
……防御力の問題じゃないやい。
スフちゃんによると、恐ろしいことに始族終族の半裸率は少なくないらしい。
二人が言う似たような理由で。どんだけオープンな種族なのかねぇ。
「うぷぅ~」
「ん? いつものお散歩じゃなくて、もっと遠いところに行くのよ」
「うぁむ~?」
「そうそう、最初にルシフェルさんたちに会ったときみたいに車でぶ~って行くのよ」
「「あう~!」」
車に乗ると聞いた途端、翼をぶわっと広げて喜ぶ二人。
流れていく風景が好きみたいなんだよね。最初に乗った時も窓にかじりついて外ばっかり見てたから。
「では私は沙霧御婆様に伝えてまいりますね」
「ああ、ちょっとまって一緒に行くよ。どっちにしろあたしもさーちゃんに詳しい話を聞きに行かなきゃいけないし」
一礼して退室しようとする静流ちゃんを呼び止めてから一緒に行こうと告げる。
静流ちゃんがさーちゃんに言って、またあたしのところに伝言を持ってくるのもめんどくさいしね。それならあたしが直に行って詳しく聞いてきたほうが早い。
「どーせ、さーちゃんのことだから素直に学校に連れて行ってくれるってわけでもないんでしょーけど。はい、しーちゃんとしゅーちゃんもおいで~。さーちゃんのところに行くよ」
「あ~う~」
「うぷう?」
しーちゃんは腕の中、しゅーちゃんは頭の上。あたしのそばをゆらゆらと漂う創樹と、先行するスフちゃんを伴って母屋まで突撃だ~。
「遥様、……笑顔が怖いです」
「大丈夫、あたしが怖くなるのはさーちゃんにだけだから」