閑話③ 外交
温度差のヒドイ部分です。
ちょいと雑かも……。
柚木果狩家を運営する一族会議で、先代当主沙霧とその娘の現当主湖桃は頭を抱えていた。それは事情を聞いた各分家の代表にも当てはまる。平然としているのは薬師寺家と数馬家、鞍町家ぐらいだろう。
原因は勿論、不可思議な経緯により冷凍冬眠から目覚めた途端に異世界の神子と認められ、ついでに同じような赤ん坊神子の乳母を受け持つこととなった柚木果狩遥である。しかもその“神子”という立場は異世界では神と同等の意味を持ち、危害を加えようものなら異世界住在の超常者たちが丸ごと敵に回るのが確定している。時折遥に怒られて泣いている赤ん坊を見るたびに、家人たちは寿命の縮む思いをしていた。
今回はそれに遥ですら制御出来ていない神力を源に、生み出せないものがないと思われる不思議な製造樹が加わった。そろそろ遥も落ち着いてきたので、政府高官に合わせようとしていた矢先の出来事である。これをどういう風に政府側へ説明するのが頭の痛いところだ。ただでさえ柚木果狩家の一画に星を滅ぼしてもお釣りが来るほどの戦力が常駐しているのである。
政府側の対応も一歩間違えると身の破滅を呼び込むだろう。似たような理由で、政府側も対面時の人員の選定に頭を悩ませていた。
「どうしましょう先代様。“伯母上を外に出す”というだけで嫌な予感しかしないんですが……」
「何も知らない第三者が余計な口を出した途端にこの世が滅ぶような布陣ですしねえ」
そもそも遥が株式に手を出すだけで10分後には世界規模の大混乱が巻き起こってしまう異能持ちだ。赤ん坊とあわせて厄介事が三倍に膨れ上がるのは明白である。
問題は数あるが、もし外でテロリスト等に襲撃された場合、危険なのはむしろ相手の方だろう。それどころか先日柚木果狩家の敷地内に現れたシロナガスクジラ始族が兵士であろうものなら、周辺に与える損害は莫迦にならないと推測される。ただでさえ遥を泣かせるなどしてしまえば、神子二人直属の執行部隊というものがすっ飛んでくるのだから。スフインクスの言によればこの執行部隊、1国を滅ぼしてもお釣りがくるという。
「とりあえず危険を承知で伯母上を外に出して、一度警備体制を確認致しませんと……」
「『たら』『れば』ばかりを口にしていても埒が明かないですからね。姉さんの安全だけは確認できるとしても、周囲はどうなることやら予測がつきませんし」
湖桃は手元の書類をぺらぺらとめくり、一枚を引っ張り出す。
「これなどどうでしょう?」
「『梅園祭のお知らせ』……? 紫苑学院の学園行事ではありませんか。持ってきたのは静流ですね」
「この学校の行事はご存知の通り、生徒の親が政府高官や大企業の者が多いせいで警備に関しては他に引けを取りません。カモフラージュになるかどうかは分かりませんが、この辺りで面通しが出来るのではないでしょうか?」
苦虫を噛み潰した顔の沙霧は各分家の代表にも意見を促す。紫苑学院には一族のほとんどが通う所である。何かあったときのフォローを任せたかったが、分家の子にそれを要求するのは難しいだろう。各家代表の表情からそれを読み取った沙霧と湖桃は小さく溜め息を付いた。
「当主、とりあえず遥様は問題ないとしまして、それ以外の生徒と父兄を守りませんと。自分のせいで他の者が危害を加えられたと遥様に知られた場合が大変なことになると存じます」
視線をそらす各代表の中で落ち着き払っていた三家のひとり、薬師寺蓉子が鞍町潤と数馬佳奈を代表し進言する。言われるまでもないことなので、内心むっとしながらも沙霧は湖桃と各家の代表に仕事を割り振っていく。今回は警備会社を外に持つ鞍町家が中心となって事に当たる事になるだろう。
「あとはこれを姉さんに知らせるだけですね」
「神子様方が服を着ないことを気にしてましたけど、どうするのでしょう?」
「そこはもう姉さんに任せる、としか言えませんね。私たちの言葉はあの子供たちに届いているとは思えませんし。こちらは政府との交渉を優先しましょう」
鞍町家に学園までの送迎計画を出すように指示し、湖桃は本日の当主会議を終了させる。先代の手を煩わせない会議になるのは何時のことやらと頭を悩ませながら。