節分
寒風吹きすさぶ冬の真っ只中。2月の3日は節分です。
「歳の数だけ豆を食べる……。67個かぁ」ポリポリ
そうだよね。生きている記憶が17年しかなくても、生まれてから67年も経ってるのよね。激しく納得いかないのは気のせいじゃないよね。しかし、節分をきちんと真面目にこなすところなんてもう無いんじゃないかなぁ。ウチなんて一族総出だし。前も夜になったらあちこちから聞こえて来るんだよ、恒例の掛け声が。
「ぷう?」
「うー」
「うーん、しーちゃんとしゅーちゃんが食べるにはちょっと固いかなぁ。望さん、甘納豆か何かあります?」
「ああ、そうですね。すみません気が付かなくて。少しお待ちを、下へ行ってき……」
「たっだいまー! 遥様。お婆様からこれを持って行きなさいって預かって来ましたー」
しーちゃんとしゅーちゃんが升に盛られた豆を見て、食べ物なのかおもちゃなのかと首を傾げてる。固いから柔らかいものがいいかなと思ったんだけど、そこまでの備蓄はなかったようね。数馬家まで出掛けようとしていた望さんを遮る形で、渕華さんが小袋を掲げて飛び込んでくる。渡された小袋の中には綺麗に包装された甘納豆が入っていた。
「ありゃまあ、よく気付いたわね。さすが容子ちゃん」
「へへーん」
「渕華が威張ることじゃないでしょう。あともう少し静かに入って来なさい」
胸を張る渕華さんをたしなめる望さん。そこまで格式張らなくてもいいって何時も言ってるのになあ。てきぱきとお茶の用意を済ませて、望さんに愚痴られながら退出していく渕華さん。
「うー?」
「こっちは食べても大丈夫だよ、二人とも。飲み込んじゃだめだからね、ちゃんと噛むこと」
「「あうー!」」
お皿に盛られた甘納豆をひと粒摘み、口に入れてもふもふと食べるしゅーちゃん。そのしゅーちゃんの反応を見てから食べるしーちゃん。毒見かい。
ちなみに二人とも歳うんぬんは突っ込まない方向で。生きてる年月なら惑星並みだそうですよ。神子恐るべし……。
「ううーん?」
「どうしたのスフちゃん? 豆は固いからこっちの甘納豆を食べるといいよ」
「いえー、この行事は何の意味ぃがあるんですぇ?」
「ええとなんだったかな……。体の中から悪いものを出して福を呼び込むとかなんとか?」
「なんで疑問形なんですぇ?」
そりゃもう漠然としたことだけしか知らなくて、詳しく調べたことなんてないからですよ。『こういうものだ』というので済んじゃってるからかなあ。教育係としてこれはいけないかもしれない。後で調べておこう。
「あとこの『鬼』言うのはどういった人物なのですかぇ?」
「ええと、おとぎ話によく出てくる悪役でね。赤かったり青かったり、角が生えてて虎縞のパンツに棍棒持った……妖怪?」
桃太郎とか、一寸法師とか。スフちゃんはそれだけではどういう者なのか想像出来ないらしく首を捻っている。
「ぷー!」
そこへしゅーちゃんが、升に入れてあった豆を掴んでスフちゃんへ投げた。あらぬ方向へ飛んでったけど。
「こ、こら、しゅーちゃん! 人に向かってものを投げたらいけません」
「ぶーぷい」
「スフちゃんは青いから、ってのは理由にはならないでしょう。本人が鬼役を了承した訳でもないんだから止めなさい!」
「あー、あのーハルカ様? ウチは別に投げられても……」
「ダ・メ・で・す。神子だからといって何でも許される理由にはなりません! しゅーちゃん、ごめんなさいは?」
「うー」
「むゅ」
座った状態でペコリとスフちゃんに頭を下げるしゅーちゃん。何故か隣にいたしーちゃんまで同じように頭を下げる。キミもやろうと思ってたの!?
二人に謝られたスフちゃんはビシリと硬直したあと、へにゃへにゃと畳に突っ伏した。
「さ、さしゅがハルカ様。ウチらには到底不可能なことをいとも簡単に……」
「あたしは今までの教育がどんなだったのか知りたいけどね」
この後、「鬼は外、福は内」と言いながら豆を投げる練習をしました。くじ引きで一族の男性陣から一人、鬼役が夜に回ってくる習慣になってるからです。まあ、昼間のうちにあっさり投げ方をマスターしたしゅーちゃんとしーちゃんにより、マシンガンのような豆を撃たれて本気で泣きが入ったようでしたが……。
「どこからあんなに豆が出て来たんだろう?」
「遥様、こちらの『創樹』より大量の豆が山になっていますけれど」
「なるほど」
そう言えばしーちゃんたちにも使えるんだっけ……。
寒くなってきたので例の暖房器具の出番です。