遊具
「あらまあ……」
“ずっしり”、この形容詞がぴったり当てはまるまでに肥大化(外見に変化なし)したコレ。隠さなくても見れば丸分かりな、クマのぬいぐるみ。びしょ濡れですね、分かります。
しかし、今回の雪。なんでも人工降雪らしい……。希望すればその地域に雪を降らせてくれるサービスだと言うのが判明しました。静流ちゃん情報ですが、今もこの頭上にドデカイ降雪機械が浮遊しているそうなのです。道理でテレビの天気予報とぜんぜん違うと思ったわ。
お手洗いでちょーっと目を離したらこれですよ。しーちゃんとしゅーちゃんの不思議力で自在に動くクマさんは、一緒になって遊んでおりました。……雪の中で。ぬいぐるみの水抜きってどうしたものでしょうかねー。持ち上げたら元々の重さの倍ぐらいですよ。ちょっと目を離しただけでもうこの惨状。雫がポタポタ垂れまくりだし、装飾品のリボンもしおれて表面に貼り付いてますわ。
まあ、これが室内で遊ぶ、もしくは鑑賞する物だということを言っておかなかったあたしも悪いんだろうなあ。こういった扱いになることも想定するべきでした。
「ぷぅぷ?」
「はいはい、これは雪の中で遊ぶものじゃないのよ」
まあ、これは“人の常識”であって、始族や終族に当てはまるものじゃないけどね。さーちゃんなら『いいではありませんか、ぬいぐるみのひとつやふたつ』とか言うんだろう。あたしの押し付けになっちゃうんだけど、今回はそれで。
「むー」
「ぶー」
「はいはい、楽しく遊んでるところゴメンネ」
二人の「つまんないな」と言う抗議に断りを入れ、もう一つを回収して望さんに渡す。
「お願いします」
「はい、お任せ下さい」
望さんは潤ちゃんにぬいぐるみなどのクリーニングを教わっているらしい。それってもしかして、潤ちゃんもやった事があって、後始末が自分に回ってきた経験なんじゃないかな? あのわんぱく王女ならやっていそうだ……。
「「うー!」」
「あそぼう? じゃあお散歩に行こう、お散歩。埋め合わせになるか分からないけど」
こう言ったら二人とも定位置まで飛んできた。しーちゃんはあたしの頭の上、しゅーちゃんは腕の中。基本的にあたしの周辺から遠出してみようと言う冒険心はないらしい。ついでにコタツ亀となっているスフちゃんも引っこ抜く。
「ほわ? どうしたんでっしゃろか、ハルカ様?」
「毎日毎日コタツに浸かってないで、たまには外に出なさいな。始族とか地球関係なく、猫には遺伝子レベルでコタツにハマるという習性があるのかな?」
あたしが腕に抱えようとしたら慌てて抜け出すスフちゃん。翼を広げて空中に停止すると、恥ずかしそうに前足で頬をかいた。
「いやぁ、お恥ずかしィながら、つい。ふらふらと」
「うーあー!」
「ああっ、坊ン様申し訳ないですっ」
しゅーちゃんに「ダメ始族」とか怒られて縮こまるスフちゃん。コタツにハマってたスフちゃんの姿といったらもう……。あれがもし身内だとしたら、皆に会わせる顔がないかもしれない。家庭教師に来た静流ちゃんが、構えなくて寂しそうだったー、くらいの実害しかないけどね。
しかし、うちではスフちゃんの扱いが愛玩猫クラスでしかないんですけど。見た目がアレだからだんだんと皆が愛着をもってきてるのは分かるんだ。でも一応、一個人の人物なんだけどね。本人から自分の扱いについて文句がないから、皆が甘えちゃってるんでしょーが。
「ホラ、スフちゃんも少しは言いたい事あるでしょ? 『ペット扱いに断固抗議スルー!』とかさ」
「いえいえ、衣食住お世話にィなっとるちゅうに、そこまでのわがままはないでっしゃろ」
食住はともかく、衣? ブラッシングも含むのかな?
「外交官みたいなんだから、もっとふんぞり返ってればいいのに」
「むー」
頭の上でふんぞり返るしーちゃん。もぞもぞして「えらい」とか言ってるからだけどね。見えないけど。先日、簪を抜いて振り回してたので、髪は結ってません。危ないしね、しーちゃんじゃなくて第三者が。
スフちゃんは自分から偉ぶるような態度が嫌いだとか。しゅーちゃんから途切れ途切れで聞いた話によると、半分サタンさんの力を授かっているので力量的に上位らしいんだ。あたしも似たような立場なので、これ以上突っ込むのは止めておく。やぶ蛇って怖いし。
そうそう、この前の巨大化雪ダルマはしゅーちゃんとしーちゃんが責任もって壊しました。壊したっていうか、消した? 二人で息を揃え、「えいやっ」と手を振り下ろしたら、パッと消えました。スフちゃんの話によると、消滅させただけらしい。
……ビビるわっ!? 「片付けなさい」って言っただけなのに消滅とか、崩すくらいでよかったのに。今度からきちんと方法も示そうと思います。他の人に見られたら絶対化け物扱いされるよ。赤ん坊の頃から陰口叩かれるとか、悲しいもんね。あとちょっと怖いと感じてしまった自分がサイテー。世界にたった三人しかいない神子同士だもん。乳母として子供怖いとかないわー。反省!
気を取り直して出かけようかという時に、母屋の方で“どどーん”と、なにか物凄い音が鳴りました。
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ごめんなさい。