雪、合戦
さて、午後まで待ったところ積雪は十センチくらいまでになりました。
これなら小さい雪達磨くらいは作れるだろうと思い、庭に出てみることに。多少なりとも渕華さんと望さんに反対されたのは内緒だ。いや、風邪ひくとかいうイベントとは無縁ですってば。
ちょっと邪道だけど、着物に運動靴。足袋が濡れるのもちょっとアレなので、防水というのを使用。しーちゃんは定位置に頭の上、しゅーちゃんは肩に捕まってパタパタと飛んでいるというか、滞空?
「じゃ、二人とも良く見ててねー。こうやって雪を集めて~」
勿論作るのは雪達磨だ。手乗りサイズで下半身は直径十五センチくらい、上半身は十センチくらいのものです。目と口になるものは蜜柑の皮をちぎってきたのでソレで代用。手の部分はよくお弁当なんかでから揚げに刺さっているプラスチック製の楊枝を使います。摘む方に星が付いているモノを使うと、手袋みたいになるでしょ?
「ぷ~ぷ」
「あーむ~」
「え、もっと? 二人分作るの?」
リクエストされたのでもう一体作る。縁側の床暖房を切ってもらったので、その上に置く。暖かさが残っているので余波で直ぐ溶けちゃいそうだけど、また作ればいいかな。しかしクマぬいぐるみの例もあったというのに、素であたしは忘れていました。ちょっと傾いたミニ雪達磨がぴょこんと姿勢を正すと動き始めたのです。
「むー!」
「ぷー!」
「あー、これも動かすのね」
手をかざした二人の動きに合わせて、縁側から跳んだ雪達磨が雪の上に降り立つ。
何するのかと様子を見ていたら、雪達磨の足元を中心として雪が動き始めた。なんというか雪達磨に吸収されるといった感じで、離れの庭にある雪がずりずりと動き出す。ソレと同時に二体のミニ雪達磨は、ムクムクと成長し始める。綿とか詰め物を用意すれば、クマぬいぐるみもこのように育つのかなあ、などとあたしは考えた。
「蜜柑の皮も一緒にでかくなるとか、シュールだなあ……」
ちぎった元々の皮部分より遥かにでかいんですけど。あれよあれよという間に二体の雪達磨は、高さ三メートルの彫像物へレベルアップされました。庭というか植木が被っていた雪すら無いんですけど。上空から降ってくる雪が、漏斗に注ぎ込まれているかのように雪達磨の頭上にしか行っていないんですけど……。まだでかくなるんですか、アレ。まるで北国雪祭りのようですよ。
「は、遥様?」
「あれもぬいぐるみのようになるんでしょうか?」
「はい? ぬいぐるみ?」
室内から覗き見ていた望さんと渕華さんが、青い顔をして聞いてきた。ええと、しーちゃんたちにぬいぐるみを与えて一番先にやったことと言え……、ば……。こら、ちょっと待ちなさい……。
あたしが何かを口にするより早くぴょこんと跳ねた二体の巨大雪達磨が向き合う。表現的にはぴょこんだったけど、モノはなにかずしん的な揺れが足元から伝わってきた。
「こ、こら、しーちゃんもしゅーちゃんもストーップ! ストーップ!」
「ぷ~ぅ!」
「むぅ~い!」
しかし「ス」のところで二体の雪達磨は向き合ったまま突撃を敢行した。うわちゃー、ちょっと遅かったわ。
正面からべしょおおおおっ、とぶつかった巨大雪達磨は勢いが付きすぎたのか、それなりの反発に見舞われたのか、双方とも背中から地面に倒れこんだ。倒れこんだ途端に座っていた縁側から一瞬浮いてしまうくらいの縦揺れが伝わってきた。この揺れ、下の分家にまで行ったんじゃないかな?
巨大雪達磨の役目はそれ一発で済んだのか、地面に倒れたっきり動かなくなる。崩れなくて未だに球体維持してるのが凄いわ……。降っている雪も元に戻って、普通にしんしんと降り始めた。ついでに本家側から「なにごとですか!?」と使用人長がすっ飛んできた。これは監督不行き届きであたしの責任ですね、はい……ごめんなさい。
「しーちゃんもしゅーちゃんも、遊ぶのは良いけれど他の人に迷惑をかけるようなことはダメ!」
「ぷ~……」
「あぅ~……」
さーちゃんまで出張ってくる事態になっちゃったので、あたしが本家や分家の皆に頭を下げて回りました。「遥様がそんなことをしなくても!?」と言われまくりましたが、非があるのはこちら。これもしーちゃんたちの力量を掴みきれていないあたしの責任です。
何時もと違い、すこし強めに二人を叱ります。二人とも涙溜めて「「ごめんなさい」」したので、今後コレを教訓にしなくてはなりませんね。
何かと新しいモノを手に入れたらとりあえず戦わせてみる。などという考えは改めさせよう。アレ以上育っていたら植木にも被害行ってたかも知れないしね。実際、しーちゃんやしゅーちゃんがその力を以前どのように使っていたのか? その辺りを聞いておいたほうがいいかもしれないね、スフちゃんに尋ねてからサタンさんやルシフェルさんに確認を取らせてもらおう。
いつのまにやらこっちも連載一周年になろうとしています。