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猫+炬燵=ひきこもり

  



 炬燵、それは冬場の魔性である。

 一度入ったらそうやすやすと抜け出せるものではない。籠に囚われた小鳥の如く気付かぬうちに一生飼いならされるような錯覚のまま、ただ時が過ぎていくだけ。

 いったいどうしたらこの麻薬にも似た倦怠感から抜け出せるのだろうか……。


「う~にゃ~」

「…………はぁ……」






 年が明けて、一族で迎える行事にもひと段落着きました。

 寒さもいっそう厳しくなったようなのですが、あたしはあまり寒暖の差を感じません。それでもこの五十年の間に進化した技術は、障子に囲まれただけの室内を暖かくしてくれているそうです。


 触れば分かる床暖房のようなぬくもりを持つ畳。それ自体がストーブみたいな効果を周囲へ振りまく木目の柱。触ってもけして火傷にならないらしい。


「……なにこの仕様……」

「私たちにとっては子供の頃からそうですからね。遥様の驚きようが逆に新鮮ですよ」


 あたしやしーちゃんたちに害を及ぼすものなど、まずないのだけれど。目の当たりにすると魔法の館って感じだよねー。望さんや渕華さんは、あたしが畳や柱を色々な方向から妙な目で眺めるのを見て苦笑してる。


 ちなみに外には雪が降っています。しんしんと降っています。

 しーちゃんとしゅーちゃんは縁側に座って「きゃあきゃあ」楽しそうにそれを眺めています。冷たそうな板張りの床(一応床暖房状態だそうですが)に、並んで座るオムツだけの赤ん坊。背中に白と黒のでかい翼が生えていますけど、客観的に見ると凍えそうな光景ですよ。


 朝から低い灰色雲が上空を覆っていたと思ったら、朝食が終わる頃には降り始めましたからね。まだ庭がうっすらと白くなる程度だけれど、これはずいぶんと積もりそう。


「そういえば昔、(うるめ)ちゃんが犬のようにはしゃいだ挙句、雪の積もった階段を二門から下まで滑り落ちていったなあ」

「「ブフッ!?」」


 昔を思い出してぼそっと呟いたら、籠に入れたミカンを持ってきた渕華さんと、箪笥の整理をしていた望さんが揃って噴き出した。想像したのか肩を震わせて、声に出さないように笑う二人。


 あれはたしか……。


 『遥様、遥様、雪合戦しましょう!』

 『ちょっと潤。下まで降りないとそれだけのスペースはないわよ?』

 『大丈夫大丈夫、こうやって階段の上と下で投げあいしま……っ!?』

 『『『あ』』』

 『もきゃあああああああああああぁぁぁぁぁ~!』

 『ちょっ、潤!?』

 『もきゃあって悲鳴はどうかと思うんだけど』

 『佳奈……、論点はそこじゃないでしょう』

 『蓉子ちゃんも佳奈ちゃんも潤ちゃんの安否とかは?』

 『ジャングルの王女ですから大丈夫かと思いますよ。遥様のお心を悲しませるようなことは無いかと』

 『腰を打ってスカート辺りから下がびしょびしょ程度じゃないですか?』


「……まあ、そのくらいでピンピンしてたんだけど。今思うと良く笑い話で済んだなあ、アレ」

「……お、御婆様……ぷっ、くくくっ……」

「うちの御婆様も、ぷっ……その対応はどうかと、ぷぷっ」


「むーい?」

「ぷう?」


 二人して一生懸命に笑いこらえなくてもいいんじゃないかな?

 「なにが楽しいの~?」って室内に戻ってきたしーちゃんとしゅーちゃんを膝に乗せて「昔話でね~」と、もう一度同じ内容を聞かせる。


「もきゃあ~」

「もきゃ~」


 どうやら「もきゃあ」が気に入ったらしい。それに釣られた望さんと渕華さんは笑いが決壊してしまったようです。声に出して大爆笑。こうして親の痴態は子供に広まっていくんだね~。このまま数馬家のお店に連れて行ったら、潤ちゃんの恥メーターが壊れそうだなあ。怒りの矛先が望さんに行きそうだから、しばらくは止めておこう。


「にゃ~あ~」

「…………」


 で、部屋の中央に鎮座しているのがコタツ。これは昨日、渕華さんが用意してくれたのですよ。実際には母屋から男性の使用人が運んで来てくれたのですけれど。不用意にと言いますか「これは何でぇすか?」とか近付いたスフちゃんが捕まりました。潜り込んだら幸せそうに緩みきった表情のまま出てこない。


 しーちゃんはこれを寝台か何かと誤解しているし。昨日からお昼寝する時は、タオルケットを上に敷いてそこで寝ています。ずるずるとタオルケットを持って飛び、敷いてからぽてんと倒れる。そして寝る。起きると顔にはタオルケットのシワ跡が。かーわいいなあもう!


 しゅーちゃんは炬燵があんまり好きではないみたい。何故か代わりに足突っ込んで座った状態で、二体のクマぬいぐるみが常に二面を占めている。一面からは炬燵亀と化したスフちゃんの頭部だけが、残った一面があたしの入る指定席みたい。しゅーちゃんが好きなのは、あたしが炬燵に入った状態で胸の所に居座ること。蜜柑を剥いて貰って「あーん」と食べることだ。どっちにしろしーちゃんも来て、二人に「あーん」するから何時もと変わらないんだけどねー。


 しかし「猫は炬燵に~♪」の如く、始族であろうと猫であることには変わりないんだなあ。夜になって布団敷くために炬燵を部屋の隅に避けても、スフちゃんはそこに張り付いたまま一緒に運ばれていく。望さんたちもどうしたものかと困惑してたから、「好きにさせとけば?」と言ってある。

 ただし、「移動する時は自分で動きなさいね」と言ったら、炬燵の左右から翼を広げてパタパタと飛ぶとかどうなのよ……。しゅーちゃんが真似しそうで怖いわあ。おちゃらけたゲームのモンスターみたいだね、ソレ。


「もきゃ~」

「むきゅ~」

「もう原型ですらないわ」

 


 毎回、こんな短いが大丈夫か……。


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