出る杭は撃たれる
「そんなに驚くことでしょうかね?」
「せめて分かり易い前兆とか、直前から目に見えるくらいにゆっくり来るとかして下さい。突然そこに現れるなんて心臓に悪いです」
「むぃっ!」
そーだそーだと、両手を上げてしーちゃんも抗議する。それを見てにっこり笑うルシフェルさん。(注:眩しいくらいのイケメン、婦女子がバタバタ倒れること確実)
立ち話もなんなので部屋の中へ。座布団を勧めるといつぞやのように正座するルシフェルさん。律儀だなあ。
「改めて、お久しぶりですね、ハルカ殿」
「どうも、ご無沙汰致しております」
「ぷい」
「あぷぅ」
会釈に深々と頭を下げて返すと、先にあたしから降りていたしーちゃんも真似してペコリ。しゅーちゃんは欠伸をひとつ、『始族に下げる頭はねぇっ!』ってことなのかなあ?
特に気にした様子もなく、微笑んでいるだけのルシフェルさん。どうしようかちょっと悩むけど。
「うーん。しゅーちゃん、お客様にはちゃんと挨拶しようね」
「むー」
「ぷー」
やっぱり基本は大事よね。あたしが言うと、しーちゃんがしゅーちゃんをぺちぺちと叩く。言葉的に表すなら「ほら、やるんだってさ」「えー」みたいな。しゅーちゃんは頬を膨らませてあたしを見上げてきたので、腕を組んでにっこりと優しくない笑顔を向ける。それだけでしゅんと肩を落としたしゅーちゃんは、ルシフェルさんにペコリと頭を下げた。
「よしよし、ちゃんと挨拶出来たねーしゅーちゃん、えらいえらい」
「ぷー」
上手に出来たら誉める、これが正義。抱き上げてイイ子イイ子してたら、突然ルシフェルさんが笑い出した。
「プ……あははははっ、最高! 最高ですよハルカ! はははははっ!」
「ちょっ、えええっ? この流れのどこに笑う要素が!?」
お茶が冷め切るまで爆笑されました。どういうことなの……。
「あー」
「あーむ」
お茶菓子の落雁を砕いてしーちゃんたちに食べさせているあたしの横で、ルシフェルさんが笑顔で頭を下げている。あれだけ意味不明に笑われればこっちもぶーたれるわ。
「いやいや、唐突ですみません。機嫌を直してくださいハルカ」
「ふーんだ」
「ぷぅ」
「みぅ、むい」
「おやおや、これは厳しいですね神子」
しゅーちゃんが代弁して怒ってくれてる。それでもまだ何か可笑しいのか、今にも吹き出しそうな様子のルシフェルさん。
ちなみにスフちゃんはあたしの後ろで直立不動だったんだけど、ルシフェルさんが笑い出した途端に物凄い勢いで猫小屋に飛び込みました。今は小屋の入り口から顔半分出してこっちを伺ってます。どーゆー恐れられ方をしてるんですか、ルシフェルさん。
「まさかここまで面白い育てられ方をされているとは思いませんでした。サタンの言った事もあながち間違ってはいなかったようですね」
「面白い育て方って何ですかっ!? サタンさんってば何を吹聴したんですかっ?」
子育てうんぬんについては、さーちゃんとか潤ちゃんに参考意見を聞いただけなのに。極々普通の人界の育て方よね? これを面白いということは、始族と終族は今までどんな育て方をしてきたのっ!
「あああ、頭痛い。どこに突っ込めばいいんだろう?」
「ぷうっ!」
「むいっ!」
あたしが頭を抱えると、翼をぐわしと広げる二人。しーちゃんは翼の色の白いオーラを立ち上らせ、しゅーちゃんは黒いオーラを吹き上げて、怖い顔(可愛いけど)でルシフェルさんを威嚇する。さすがのルシフェルさんもこれには顔を引きつらせた。
「いや、御二方共。これは私が悪いのですか?」
「発言が悪いです」
「ちょっ、ハルカ殿!?」
ゴゴゴゴゴ、と空気が重苦しい色に染まってきた。比喩表現でなくてホントに視覚が灰色じみてきたので、慌ててしーちゃんとしゅーちゃんを抱き上げる。
「こ、こら二人共、お家が壊れるから止めなさい」
「ぷいぷい!」
「あうむぃ!」
「え、代わりにぶっ飛ばす? そういうのは何処にも影響が出ない所でやりなさい」
「穏便に宥めてくれるかと思えば場所を変えてからの推奨!? セメントですねハルカ……」
「のびのびと育てていますから」
「ぷー」
「あむい!」
「よし帰れ」「狙うから」と言うしーちゃんたちの返事にルシフェルさんの顔色が本気で青くなった。
穏便に攻撃しない方向で済ませたけどね。家庭訪問に来て逃げ帰る保護者とか……、本気で異世界はどうなっているんだろう? しかし、用件は何だったんですか、ルシフェルさん。
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