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散歩道・本家⑥


 かなえくんとしゅーちゃんが相互に「ばいばい」して別れました。幾留さんにも笑顔がもどってくれたようで何よりです。


 しかし、しゅーちゃんは悪戯っ子だなあ。きっとまたダメだって言ってもやるんだろうなあ。しーちゃんも見てないで止めるか、たしなめるかしてくれるとありがたいのに。でもやはりこういうのは、あたしが注意するしかないんだろう。これも乳母の務め、頑張りましょう。




 裏庭側を抜けて表門方面に廊下を進むと、ひろびろーとした庭と様々な樹に囲まれた大きな池が。周りには石畳の小道などが配置されていて、あっちも一応散歩道になっているんだよね。


 昔はツツジが咲くと花ごとむしって、裏側から少ない蜜をちゅーっと吸う遊び(?)をしてました。それなりに甘いんだよね、あれ。味をしめたあたしとさーちゃんでむしりまくって、やはり怒られたわな……。今考えると、二人してさっきのしゅーちゃんとしーちゃんのような事をやったなあ。




 ちょっと昔を懐かしんでいたら、庭ばっかり集中してたせいで、途中の部屋の障子が開いているのに気が付かなかった。


「おお、遥じゃねぇか」

「へっ!?」


 いきなり声を掛けてきたのは、作務衣姿で畳に胡座をかいて座り、詰め将棋をしている快活な老人。


「あれ、ここ栄蔵兄さんの部屋?」

「俺の部屋ではないが、まぁ使い手はいねぇわな」

「空き部屋なんだ。一番東側なのに」


 見下ろして会話するのも失礼なので、ちょっとお邪魔させて貰おう。望さんも「お茶にしましょうか」と、部屋にあったポットと急須を拝借して、持ってきた湯飲みにお茶を淹れてくれた。栄蔵兄さんの分も。


 乳幼児用のパン、と言う市販品を小さく千切ってしーちゃんたちに食べさせてあげる。本当は牛乳とかに浸してあげると良いらしいんだけど、そのままの牛乳って飲まないんだよね、二人共。


「はい、あーん」

「「あー」」


 ぱく、あむあむ、あーんの三拍子。これだけで頬がとろけるような可愛さだわ。うーん、至福のひと時。


「ははっ、ちゃんと母親やってるようじゃねえか。親馬鹿になりそうだがなァ」

「もう遅いと思われますね」

「おお、鞍町んトコの。オメエがそう言うんなら確定だな」

「だって二人共可愛いんだもん。他にどう転べと言いますか」

「「うー」」

「ああ、ごめんね」


 話に気を取られて手が止まったら、二人から異口同音に非難の声をあげてきた。パンを千切ってほぐしてから、口の中にほいほいと入れてあげる。


「ああっと遥……」

「はい、なんですか?」

「この前は悪かったな。酔っ払いが絡んじまってよ、スマン」


 姿勢を正した栄蔵兄さんが畳に手をついて土下座。いやいや、そこまでして謝ることぉ?


「兄さんが反省しているのでしたら別に構いませんよ。ほら、二人とも、この前の酔っ払いがこの人よ~」

「あー」

「みゅー」


 しゅーちゃんは口を開けるだけ、しーちゃんは酔っ払いじゃなきゃ平気みたい。二人共、振り向きもしないので、ダラダラと脂汗を垂らしながら固まる兄さん。


「特に気にしないみたいだよ?」

「っはあああぁ~」

「あたしの中では昔のカッコイイ兄さん像が崩れ落ちて暴落したけど」

「おおおおおおいっ!?」


 安堵した兄さんが、あたしの一言で一転して引きつった表情に変わる。まあ、それだけ見れたら、あたし的にはもういいかな。



 ツツジの花の蜜は昔、オヤツ代わりだったそうですが、コレ知ってる人いるのかなあ?


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― 新着の感想 ―
[一言] よく吸ったのはサルビアで、ツツジは近所では余り効率が良くなかった(2割が当たり、2割が大外れの苦味)です。
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