散歩道・本家①
「お散歩に行こう!」
「ぷ?」
「う?」
いやいや、しーちゃん、パンの絵が描いてあっても絵本は食べるものじゃないから、かじらないの。しゅーちゃんも、なにクマぬいぐるみを毛布で簀巻きにしてるの? 可哀想だから止めようね。
気が付いたんだけど、あたし離れに住み始めてから、今まで一歩も外出てないのよね。これって引き篭もりよ。引き篭もり以外の何者でもないわ。
……と言う訳で、外に出るにあたって。
「二人ともお洋服を着ようね?」
「ぷーぷ!」
「あ~む!」
嫌ですか、そうですか……。んなに頭が残像になるくらい首を振らなくてもいいじゃないのさ。
「じゃあ本家をぐるりと回るかなぁ。スフちゃんも来る?」
「構わんとーですにゃあよ」
「…………」
いや、スフちゃんや。なんで頭から尻尾までカラフルなリボンまみれになっているの? なんで語尾に『にゃ』をつけるの? その後ろで「きゃ~」とか悶えている渕華さんは何?
なんか最近は渕華さんと望さんに、文字通り猫可愛がりされてるし。見た目子猫だから構いたくなる気持ちも分かるよ。しーちゃんたちみたいに抱いていても気分悪くならないし。
あたしが一度「ふかふか~」とか撫でてたら、しゅーちゃんとしーちゃんがふてくされちゃったんだ。お陰で一日中二人の髪の毛を「ふかふか~さらさら~」と撫で回す羽目に……。翌日、筋肉痛で腕が上がらなかったけど。
とりあえず本屋敷の周りを囲む外側の廊下をぐるりと回ってこよう。屋敷自体が大きいから、ゆっくり歩けば十分か十五分くらいの散歩にはなるでしょう。たぶん。
実際の所、住んでいる身としては色々時間が掛かるのよ、この家。学校に行くとき───体の事もあったから車通学だったけど───家から出て門まで行くのに時間が掛かって、門から丘を下って行くのも大変だったし。一番大変だったのは帰りだけど、何回階段を上るのに挫折したことか……。
念の為、ハンカチやオムツやタオルを入れた手提げバッグを望さんが持って、総勢五人となったあたしたちは本屋敷へ向かう。渕華さんはお留守番です。
しかし、実は今の季節十二月なんだけど。寒風吹きすさぶ中、本家外側一周なんて人だった時は苦行でした。そんな理由で望さんは待ってても良かったんですけど。本人的には「これもお役目ですから」との事。あたしたちは暑さ寒さはあんまり気にならないから大丈夫なんだけどね。
「う~」
「はいはい、抱っこね」
しゅーちゃんはあたしの腕の中、ぱたぱた羽ばたいたしーちゃんは頭の上へ。これ、鴨居とかに当たらないかな? スフちゃんは半歩後ろをトコトコと、その後に望さん。
「んじゃ、しゅっぱ~つ」
「むーむー」
「うぷぃ」
「遥様、気をつけてくださいね」
うん、頭上は気をつけるよ。
この前に幕間2を入れる予定だったのですが、予想外に暗い話になったのでカット。でも本当の理由は病床でメモ用紙に殴り書きしたので、自分でも解読不能な文章になっていました。この本家編も解読しながらです。