不老不死の代金に
「ええっ! スフちゃん帰っちゃうの!?」
あれ? スフちゃんって偉い人との繋ぎ役で居るんじゃなかったっけ? 首を傾げたあたしの前で、サタンさんが縁側にいたスフちゃんをひょいと摘み上げる。
「坊ンと話せるなら俺らと繋ぎ取れんだろう?」
「ぷぅ」
「むぃ」
任せて? いや、でもさあ……。
「スフちゃんは帰るのに賛成なの?」
「わちは旦那が戻れっちゅうんなら従います」
「いやそうじゃなくて、スフちゃんの意志は?」
「偉い人に従いますぅ」
身も蓋もない?! サタンさんはスフちゃんぶら下げながらニヤニヤと何か企んでる顔だし。ど、どうしよう……。んーと、えーと。
悩むのも面倒になったので、サタンさんの魔の手からスフちゃんをしゅばっと奪い返した。
「お?」
「ぷ!」
「ほえ?」
「う?」
しゅーちゃんとしーちゃんを抱いたままだったんで、一旦離してからスフちゃんを胸に抱え込む。二人は翼を広げ、あたしの左右に滞空してる。何故か超笑顔。
「おいおいハルカ。俺らの決定に異を唱えるのか?」
サタンさんの顔付きが真面目で緊張感をはらんだものに変わる。あたしも冷や汗がだらだらと流れていくような気分を味わっている。超怖っ!
……でも、後悔は後で。
「す、スフちゃんはもうこの部屋の一員なんです! ちゃんと寝床だってあるし、渕華さんたちがスフちゃんの好物を常備してるしっ……」
「ほう? だけどそいつは始族で決定権はルシフェルにあるんだぜぇ。アイツが怒ると、……怖いってもんじゃねえぜ」
うぅ、ますます重圧が深まった感じになったよぉ。しーちゃんとしゅーちゃんもあたしを挟むようにサタンさんと対峙してくれる。
「スフちゃんが自分の身の振り方を決めないって言うんならあたしが決めます。ここに居て欲しい」
「……ほう、ならハルカ、覚悟は出来てるんだろうなァ?」
「ぷい」
「むー」
「決めましたから!」
あたしがそうはっきり口にした途端、サタンさんの殺気にまみれた気配が霧散する。本人はさっきまでの緊張感などなかったかのように苦笑した。あ、あれ?
「じゃ、スフインクス。残留ってことだそうなんで、この先も頼まア」
「にゃぁ、はいはいですえ」
「ぷいぷぃ」
「あむ」
え、あれれ、なにこの状況? あたし反対されてたんじゃないの? なんでしーちゃんもしゅーちゃんもスフちゃんも通常運転なの? 当然なの?
「おいおい、ハルカが状況分かってねえぞ。スフインクスが説明したんじゃねえのか?」
「はあ?」
えーと、スフちゃんの説明?
「あーぶぷ」
「うーぶ」
「え? しゅーちゃんたちと同じ?」
はーっと大袈裟な溜め息を吐いたサタンさんがあたしをびしっと指差した。
「坊ンと同じような立場だと伝えた筈だぜ。つまり、ハルカの決定は終族始族に関係なく従うモンなんだよ。お前が白っつったら、黒くってもそれは白なんだ。肝に命じとけよ」
……いや、ちょっと待って……。
「責任重大じゃないですかーっ!!」
「だから言ってるだろーが」
「ええええええっ!?」
なにその柚木果狩の一族を束ねるより重要な役職っ!?
絶句したあたしの肩を左右からしーちゃんとしゅーちゃんがポンポンと叩いてきた。おそろい? むしろ恐ろしいわっ!
「じゃ、用事は済んだし帰るか」
アデュー、と捨てゼリフを残したサタンさんは、ばっびゅーんと跡形もなく消えた。いや、飛んでったのか? 前後の脈絡なく行動しないでください。実態が掴みにくい性格してるなあ、あの人。いや、人じゃないけどね。
振動を感知して止まる遠赤外線ヒーターを購入したのですが、側を通った振動で止まるほどの柔肌なのはいかがなものか……。