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格闘ごっこ

 ひとしきり二人を抱きしめた後、静流ちゃんがあたしの部屋に来た理由を片付けよう。


「ごめんね、静流ちゃん。無理を言ったみたいで」

「いえ、大丈夫です。私もちょっと楽しみでしたし」


「ぷーぷー」

「あーむー」

「あ、ごめんね、二人ともー。静流ちゃんにちょっと教えてもらいたいことがあるんだ。静かにしている、って言うのは無理がありそうだけれど。それでよければ私の膝の上に座る?」


 ちょこんと座布団に座ったしーちゃんとしゅーちゃんが何か疑問を持ったようなので聞いてみる。構って欲しいのだったら静流ちゃんには悪いけど、今日の話は延期するしかない。私が今ここに居る理由はこの二人を育てることだし。


 でも聞き訳がいいのだ、この二人。それが美徳なのかそうでないのかは置いといて。


「ぷー」

「むーむー」


 二人で顔を見合わせてなにやら頷き、ハイハイでてこてこ歩く。しーちゃんは茶色っぽいクマぬいぐるみを捕まえ、しゅーちゃんは黒っぽいクマぬいぐるみを手に取る。二体は二人の力───スクちゃんによると念動力の一種らしい───を受けてひょこっと畳の上に立ち上がった。


 まあ、あれはあれで遊園地とかでよく見かける着ぐるみのようだけど。初めてその場面を見る静流ちゃんが「ええっ!?」と驚いている。これでしーちゃんやしゅーちゃんが翼が生えているだけの赤ん坊ではない、と証明されたわけだ。静流ちゃんにとって二人は「翼が生えてるけど普通の赤ん坊」と言ってたから。




 二体はゆっくり歩き対峙すると、等間隔を開けて右向きに回り出した。しいて言うならば嵐の前の静けさ、猫同士が縄張り争いをする為に相手を見据え、隙を見せないように回りだすような感じだ。


 ぬいぐるみ同士だというのに部屋には緊張感が漂う。静流ちゃんもお茶を持ってきてくれた渕華さんも微動だにせず二体に視線が釘付けだ。


 カーン!


 不意に何処からともなくゴングを鳴らす音が響き渡った。これ幻聴じゃなくて実際にスフちゃんが鳴らした音である。みんなで同じものを見ていたからなあ、鳴らせそうなスフちゃんがこの役を買って出た。


 ゴングが鳴った瞬間、短い足を俊敏に動かして二体が相手に向けて疾走する。ちゃんと体を使って走らせるあたり、しーちゃんたちも操作が徹底してる。


 黒っぽいクマぬいぐるみが地を蹴って飛び、相手にフライングキックを食らわせようとした瞬間、茶色っぽいクマぬいぐるみは体を低くしてキックをかわし、黒っぽいクマぬいぐるみが頭上を通過しかける前に頭を上に跳ね上げた。


 当然頭上を通過中の黒っぽいクマぬいぐるみはお尻のあたりに打撃を食らい、バランスを崩して足が上、頭が下に。すかさずジャンプした茶色っぽいクマぬいぐるみが背後からおなかの辺りを掴み、そのまま落下。黒っぽいクマぬいぐるみは畳に頭をぶつけて停止する。


 ダッと駆け寄ったスフちゃんが二体の前で「わーん、つー、すりー」、前足を畳でぱしぱしぱしと叩き、カウントがゼロになって勝敗が決する。ぽてんと黒っぽいクマぬいぐるみが畳にうつぶせに倒れ、茶色っぽいクマぬいぐるみは短い両腕を高々と上げる。スフちゃんの尻尾がソレに添えられて。


「始族の神子様の勝ァちですえー」

「あーうー」

「……ぷー」


 同時にしーちゃんも両手を上げる。しゅーちゃんは悲しそうに俯く。あたしと渕華さんは「「わーぱちぱちぱちー」」と口と拍手で健闘を称えるの。


「……なんですかこれ……」

「あーうん。この前TVつけたら丁度プロレスがやっててねー。それを見た二人が真似し始めたの。ちょっと可愛いでしょー?」


 ぽかーんと口を開けた静流ちゃんにこうなった訳を説明してあげよう。





 あたしが少し席を外したときの出来事でした。その場に居た望さんが「これは見せたらまずい」とか思って慌ててチャンネルを変えたらしいんだけど。初見で興味を持った二人がチャンネル変えられて号泣しちゃったんだよ。


 当然二人の号泣である、また障子やらふすまが全部飛んだ。ぬいぐるみが無事だったのが理解に苦しむところです。慌てて戻り、二人を嵐の中なだめて目を回していた望さんに理由を聞いて、プロレスを見せてあげました。


 そしたら次の日からぬいぐるみ合戦が相撲からプロレスゴッコになっていたんだよね、これが。どうやらしーちゃんとしゅーちゃんが交互に勝ったり負けたりを繰り返しているのも遊びのうちらしい。


 あたしも最初はただ眺めているだけだったのだが、渕華さんが言うには「健闘を称えてやった方がいい」とのこと。そうして今みたいにその場で見ていたものは拍手をする、状態になったのだ。


「ぷーぶー」

「うーあー」

「ちょっと構えなくてごめんねー二人とも」


 戦い方に論議している(?)しゅーちゃんとしーちゃんの頭を優しく撫でたあたしは、静流ちゃんのところに戻ってから「よろしくね?」と頭を下げた。


「あ、はい!」


 視線を合わせたらどちらかともなく吹き出しちゃったよ。





 静流ちゃんが部屋まで来た理由が伸びる伸びる。


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