女女女しい
「この度は不快な思いをさせてしまい大変申し訳無く……」
「わちは気にしてませんよってに」
「ぶーむー」
ちょっとした騒ぎのあと、当主と先代がスフちゃんとしーちゃんに頭を下げる、とかいう事態になりました。まだ国交が結ばれたばかりな時期だから、一族の馬鹿爺の行動で戦争に発展した。なんて結果になったら国に対しても顔向け出来ないんだそうな。
オムツだけの赤ん坊と子猫に土下座する女性二人の図。……なにかちがう。
「ぶーぷー」
「むぷー」
横から口をだしたしゅーちゃんに握り拳を振って力説するしーちゃん。あたしには何が言いたいのかまだ分からない。スフちゃんだけがコクコクと頷いている。しかし、兄さんは初冬に池へ落ちたっていうのに風邪もひいてないらしい。なんちゅー頑丈な老人か。
「始族の神子様は遥様に酔っ払いが近付くのが我慢ならないそうですじゃ」
「あたしぃ!?」
いきなり対象があたしに向いたので素っ頓狂な声を上げてしまった。ちょっとさーちゃんが眉をひそめたけど、この場ではどうこう言えないから沈黙を保つ。
「ぷーぷー」
「むーうー」
あたしの腕を左右からそれぞれ掴み、一緒になってぷらぷらさせるしゅーちゃんとしーちゃん。所有権を主張しているような、違うような?
あたしが首を傾げて苦笑すると、膝の上へ腹這いになるしーちゃん。頭を撫でていると、こっくりこっくり舟を漕ぎ始める。しゅーちゃんは黒っぽいクマぬいぐるみをずりずり持ってきてあたしの横に置き、覆い被さるように乗っかる。洗濯物を持ってきてくれた望さんから新しいタオルケットを受け取り、掛けてあげる頃には二人とも寝入ってしまった。
「ええっと……」
「叔母上様、私共は許していただけたのでしょうか?」
話を途中で切られた形になり、さーちゃんと湖桃ちゃんが困惑してる。スフちゃんに目を向けるとコクコクと頷いてくれたので、話はこれで終わりだと判断していいみたいだね。
「大丈夫みたいだよ」
「……ほぅ」
安堵するさーちゃんとがっくり肩を落とす湖桃ちゃん。
ちょうどいい時間だし、渕華さんにお茶を頼もう。
「まったくもう、お父様ときたら……」
「栄蔵さんも真っ昼間からお酒に手を出すなんて……。しかも、姉さんの所にまで行って醜態を晒すとか」
「昔の頼りがいのある凛々しい兄さんの思い出が、木っ端微塵に砕け散ったわ」
のっけから兄さんの愚痴会に。スフちゃんが音を抑える結界とかいうのを張ってくれたので、三人で会話しててもしーちゃんたちが早々起きることはない。二人の体勢はさっきのまま、あたしはミリ単位ぐらいしか動いてない。
「大丈夫なのですか、叔母上様?」
「何が?」
「そのお二方、そのままで。布団に移さなくて宜しいので?」
あたしの姿勢に無理があるんじゃないかと、心配してくれた湖桃ちゃん。しーちゃんは膝に乗っていて、白い右翼はあたしの左肩と畳に広がっている。しゅーちゃんはクマぬいぐるみの上だけど、黒い左翼はあたしの右肩に乗っかっているからだろう。
「翼に重さはないから平気。でもありがとうね、湖桃ちゃん」
「こ、湖桃、ちゃん?」
あたしが礼を述べると、口元を引きつらせる湖桃ちゃん。あれ?
「ねえ、さーちゃん、あたし変なこと言った?」
「まあ、本人が言われ慣れてませんから。湖桃の代は分家の者に年下が多かったですしねぇ」
ほぅ、と溜め息を吐くさーちゃんと、頬を染めて俯く湖桃ちゃん。なるほど、あたしたちの時は年上に男ばっかりで、年下が女ばっかりだったしなー。なんか年下の子に懐かれてた。ああ、年下筆頭といえばさーちゃんだが……。
「そうそう、さーちゃん。今はもう平気?」
「何がです? 出来れば質問には主語を入れてください、姉さん」
「え、前にさ、雷雨の晩によくあたしの部屋に来て『姉さんが怖がってないか心配d「わー! わー! わー!!」…………」
「お、お母様?」
「『姉さん偶には一緒に寝るとか致しm「わああああああっ!?」……」
ぜひーぜひーと息が荒いさーちゃん。そこまで親が慌てるところを見るのが初めてなのか、超驚いている湖桃ちゃん。
その昔、雷が苦手だったさーちゃんは何かと理由をつけて、あたしと一緒に寝ようとしていたのだ。ガラガラドーン(三匹のヤギじゃないよ?)と音がした途端、布団に潜って生まれたての子羊のように、ぷるぷる震えていたのだ。あのころのさーちゃん、反応が面白……、いやいや、可愛いものでしたよ。
「ふ、ふふふふ……。姉さん、私に何か恨みでもあるのですか?」
「何か酷い誤解があるようだね、さーちゃん。あたしはただ、さーちゃんと過ごした思い出を湖桃ちゃんに聞かせてあげようとしているだけじゃないかー」
「あ、あのー、お、お二人とも……?」
「思い出話でしたら私も負けてはいませんよ、姉さん」
「ははは、何を殺気立っているのかなあ、さーちゃん」
湖桃ちゃんがあたしたちの間に流れる何かを感じ取って、一歩下がる。近くで皿に盛った角砂糖を齧っていたスフちゃんが脱兎のごとく逃げ出した。
サブタイトルは「かしましい」と読みます。