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ぬいぐるみ、飛ぶ



 さて、新しい同居人を迎えても、畳二十畳の部屋はまだまだ広々しています。スフちゃんですが、あたしたちが主に部屋の南側を使っているのに対し、猫用の丸籠型小屋を住処として部屋の北側隅に陣取っています。あっちって鬼門じゃなかった? 


 それはもう本人の意志なのでとやかく言いませんが、時々しゅーちゃんたちに捕まって寝床に引っ張り込まれてるからねー、いい加減腹を括った方がいーんじゃないかな?




「あーぶーあー」

「ぷー! むーむー」

「でか過ぎ……」

「そうですか?」


 ある日、母屋の使用人さん何人かが抱えて持ち込んできたのが、先日渕華さんに頼んだぬいぐるみでした。超でかっ! 1/1スケールライオンぬいぐるみリアル嗜好とか、どう見ても特注でしょうこれ!


 部屋の中央に置かれた腹這い座り状態のライオンぬいぐるみに早速よじ登ろうとするしゅーちゃん。半開きになった口の中をのぞき込み、タテガミを引っ張るしーちゃん。


「抜ける抜ける、毛が抜けるから。止めなさい、しーちゃん」

「あーうー」


 背中に登るまでは良かったけど、そのまま反対側へコロリンと転がるしゅーちゃん。ああもう、危ないからちょっと待ちなさいってば。


 あたしにたしなめられても「きゃっきゃっ」と喜ぶ二人。気に入ったんですね、そりゃ良かった。あたし的には夜に見ると怖そうだわこれ。今のウチによく見ておいて、夜に悲鳴を上げないようにしよう。


「は!? クマは? クマももしかして実物大とか?」

「流石にクマは大きすぎるので普通サイズですが」

「ライオンも充分大きいと思うんだ……」


 渕華さんが抱えてきたのは、世界的に有名なクマぬいぐるみのブランド品。その辺の椅子に座らせて人と並べても遜色ない少年サイズと言うべきか、充分デカいわそれ。つか、幾らするのよ、赤ん坊のおもちゃにしてはかなり高額でしょう。


「あーうー!」


 ハイハイ突進して来たしーちゃんが一体に飛び付き、一緒になって転がって行った。ちなみにクマは二体。黒っぽいのと茶色っぽいの、両方とも綺麗なレースのリボンが首に結んである。転がっていった先にあるのはスフちゃんの籠部屋である。ボーリングのピンよろしく、どーんと吹っ飛ばされた。「ナニゴトォー!?」とか悲鳴が聞こえたけど、中に居たんだ……。


「こら、しーちゃん。あぶないでしょう、飛びついたらダメ」

「あーうー」

「ちゃんと二つあるんだから、しゅーちゃんと仲良く分けなさい」


 ハイハイしてやってきたしゅーちゃんと、二体のクマぬいぐるみを前にして「あー」「むーうー」「ぷーむー」「あーぷー」と協議するみたいに会話(?)を始める。


「ああしてると可愛いんだけどねー」

「そうですね。可愛らしいですよねー」


 ホッとした感じで肩の力を抜いて渕華さんと話す。望さんと渕華さんも時々抱きしめていたいらしいんだけど、長く触れられないのがネックなんだよね。赤ん坊らしくぽやぽやしている所を眺めるのが二人の楽しみみたい。


「あうー」

「むー! ぷー」


 そのうちになんか結論が出たのかしーちゃんが茶色っぽいクマを、しゅーちゃんが黒っぽいクマをビシッと指差した。って二つとも宙に浮いたんだけど、黒っぽいのだけが逆さま……。サタンさんにやられた腹いせかな、しゅーちゃんってば。


「ぷー!」

「むー!」


 二人の掛け声と共に天井すれすれに浮いていたクマぬいぐるみ二体が勢いよく飛び、部屋の中央でばちこーん! と激突した。そのまま離れてぶつかり、離れてぶつかりを繰り返す。


「………………」

「…………な、なにがしたい」


 あたしと渕華さんはあまりの脱力光景に畳に突っ伏した。

 赤ん坊のやることはよう分からん。


 


 結局、延々と続いたのであたしの雷が落ちました。



 「むー」系がしーちゃんで

 「ぷー」系がしゅーちゃんです。

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