誕生秘話?
二人をなだめるのは大変でした。しゅーちゃんを泣き止ませればしーちゃんが泣いたまま、しーちゃんを泣き止ませればしゅーちゃんが再び泣き出すし。延々とそんなのを繰り返していたら、渕華さんの「遥様、ご飯食べられます~?」と言う一言でピタリと終了しました。
……ふ、二人共、そんなにすりリンゴが気に入ったんだね……。つ、疲れた。苦労とはなんだったのか……。次からは物で釣ろう。
……で。
「お初に、始族から派遣されて参りました。スフインクスと申しますわ。どうぞよろしゅう」
あむあむとあたしたちの食事中に、姿勢を正した青い子猫さんがぺこりと頭を下げた。青くて喋る子猫を前に、渕華さんと望さんがポカーンと口を開けている。普通に受け入れるあたしがオカシイのかな?
しゅーちゃんとしーちゃんは仲良く並んで鳥の雛みたいに口をあーんして待っている。そこに小さいレンゲですりリンゴを入れてあげると、むにゅむにゅと口を動かしてよ~く味わってからしばらくして、こくんと飲み込む。その間にあたしは自分の御膳から食べられる暇が出来るんだけどね。しかし、そうか、始族の人だったんだ。でもなんで白と黒?
疑問点を聞いてみると、
「ああ、この翼でっか? 実はわち、生み出したんは始族だったんやけど、育ててくれたんは終族なんやよ」
首を傾げたあたしたちに、スフインクスと名乗った青猫さんは衝撃の事実を語ってくれた。なんでも始族と終族は死期を悟ると自分の後継者を造り出すのだそうだ。始族なら丸い光の珠、終族なら闇の珠を作ってそこに残った力を注ぎ込んで、最終的には自分のコピーが生まれるらしい。でも経験は真っ白なので、人生やり直しなんだって。スフインクスちゃんの場合、途中で作成者がお亡くなりになり、酔狂な終族が後を継いだので今の生があるという。普通ならそのまま放置され、自然消滅するのがオチだとか。
「まァ、わちみたいな半端モンはそれなりに数がおるに。姐さんが気ニィせんでもよかよ」
なんか可哀想だなあと、思ってたら気を使われてしまった……。しかし、妙な言葉使いだね。突っ込んだら負けなのかな。
「坊ンって呼ぶのはサタンさんだけかと思った」
「その酔狂な終族がサタンの旦那の事ですわ」
なんと、ぶっきらぼうかと思ったら、意外と面倒見がいいのか、あの人。
「暇つぶしィ言うとりましたンですがーね。」
そうケラケラ笑うスフインクスちゃん。あ、ただの買いかぶりだったわ。
「姐さん凄いおすなぁ、坊ン様たちに手をあげるわ、命令するわ。ウチのモンらが知ったら仰天するえ」
「どんだけ甘い育て方なのよ、それ。あと、命令じゃなくて躾だから」
「あむー」
「むにゅ」
子供用のお椀に半分ほど入ってたすりリンゴがなくなると、しーちゃんは満足したように座布団へコテンと転がった。望さんがタオルで口元を拭いてあげると、直ぐに「くぅくぅ」と寝息を立て始める。しゅーちゃんの口元をあたしが拭い、自分のお昼をゆっくり食べようとしたら。してててー、と素早いハイハイでしゅーちゃんがスフインクスちゃんを捕獲する。この高速移動はもうハイハイじゃないよ。
スフインクスちゃんもさっきみたいに顔面引っ張られるんじゃないかと、ビビって硬直している。その緊張は杞憂だったようで、しゅーちゃんはスフインクスちゃんを抱きしめたまま、寄りかかるように寝入ってしまった。寄りかかるちゅーか、押し潰す?
「……くぅ」
「ちょっとちょっと姐さん。わち、どうしたらいいんじゃろ?」
「んー。頑張れ」
「そないな殺生過ぎや!」
「騒いだら起きちゃうよ」
「あわわわわ」
「これは何かぬいぐるみとか必要かな? 猫はあんまりだから、犬かクマで。渕華さん、手配お願いしていい?」
「はい、何か適当に見繕ってくればいいよね?」
「チョイスはお任せします」
「りょーかい」
びし、と笑いつつ敬礼した渕華さんを望さんが「失礼だよ」と突つく。渕華さんフランクだけど、望さんは真面目だよね。
とりあえず今回の更新はここまで。また話を思いついたら続きを書きます。
レギュラー陣は多分これくらいかな?