な、なによ?!私、笑ってないからね??――お笑い男子と無表情女子の、突っ込み虐(ギャグ)待・演劇(エンゲー)ジメント☆西園寺 呉夢の笑ってポン!嬉し恥ずかし服従毎ん度コント・ロール♡
五年三組の教室は騒然としていた。
生徒達は、興奮して近くの子と喋り、男女は教室の左右に分かれて睨み合い、
先ほどから膠着状態が続いている。
生徒の一人が「先生を呼んでこようよ!」と叫ぶのが聞こえ、男子が走り出す。
「待ちなさい!!」と鋭く高い声が教室に響き渡った。
ビクッ!として男子生徒が立ち止まり、恐る恐る後ろを振り返る。
……そこには胸の前で腕を組んだフランス人形のような風貌の少女(日本人)が立っていて、
その背中には、クラスの有象無象の女子達がピラミッド型に並んでいた。
男子は怯えたように後退りをする。
「動かないで!」
ピシャリ!と白いドレス風ワンピースを着た美少女が言い、後ろの女子が左右に散って教室の前と後ろの扉を塞いだ。
「今から誰も動くことを許しません!田口!ポケットから手を出して!男子は全員自分の机に戻って、机の上に両手を出しなさい!」
ザワザワ………と男子達が顔を見合わせる。
「ほら!男子!ナニをボケっと突っ立ってるのよ??早く西園寺さんの言う通りにしなさい!!」
男子達が渋々といった様子で自分の席に戻るなか、
五年三組のお嬢、西園寺 呉夢様は、その整った横顔にヒクヒクと青筋を浮き上がらせながら、汚ならしい男子という生き物の群れを見渡していた。
「あり得ないことよ。」
と、呉夢が嫌悪感を露にした表情で言う。そのよく通る声は教室の隅に生息するような弱男予備軍の耳にも届いた。
「そうよ!」と横から呉夢の腹心、背の高い少女木田可里朱が、男の子のようにショートカットにした髪を触わりながら、上の方から怒鳴る。
「可里朱……落ち着いて。見苦しいわよ。」と、長い髪の毛先をウェーブさせ、後頭部で縦横無尽に編み込み風ハーフアップした華麗なる西園寺呉夢は、冷たい視線を飼い犬に向け、
弁解の言葉を言おうとする少女を手で制する。
可里朱は耳まで真っ赤になりながら唇を噛み、次は声のボリュームをわずかに落としてクラスメイト達に通達した。
「…本日、10時20分!西園寺さんの縦笛がなくなったの!考えたくはないけど、盗難にあったと思われるわ!……今から持ち物検査を行うので、そこを動かないように!証拠隠滅の恐れがある為、今から何人足りとも、この教室の外へ出ることは許さない!中休みが終わるまでの間、全男子の持ち物を調べさせてもらうわ!」
「そんな…勝手なことを……!」と男子の一人が大声を出す。「俺は関係ない!遊びにいかせろ!いくら西園寺だからと言って、そんな横暴は許されないぞ!」
「黙りなさい!」と腹心可里朱が叫んだ。大きな声を出してしまったことに一瞬ハッとなり、呉夢のことを振り返ったが、彼女は、はぁぁ……と大袈裟に溜め息をついただけで何も言わなかった。
緑色のキュロットを履いた可里朱は「んんッ」と咳き込む振りをして、腰に巻いた黄色いお洒落なベルトに指を引っ掛けると「この中に犯人がいる!」と強い口調で言った。
「……もういいわ。下がりなさい。」
背中にほっそりとした冷たい指が触わり、
微かに花のような薫りのするワンピースを揺らめかせて、艶やかな髪の少女が前に出てくる。
可里朱は頭を垂れ、目線の先に見えた汚れ一つない上履きが、静かに進んでいくのを見送った。
白い靴下を彩る微細なレースが、きらきらと西園寺 呉夢の歩いた軌跡に光を散らす。
教室の片側に寄った女子達の群れは、……はぁぁぁぁぁぁ……と声にならない息を吐き出して女王を送り出した。
細い眉の下で、クッキリとした二重の瞼を半分ほど下ろし、目の前で固まる男子の足元を見て、汚れた上履きの色をチラッと見ると、
西園寺 呉夢は光沢のあるピンクの唇を開いて、「……汚ならしい。」と眉をひそめながら言った。
「な、な、なんだよ?お、俺は…お前のリコーダーなんか盗んでないぞ!?」と男子が言う。
「……そう。」と呉夢は興味なさそうに答えた。
「汗臭いからあんまり近寄らないで。」と少女は言い、「誰もあなたが犯人だとは断定していないわ。ただし。…今からそれを証明してもらうから。」と、シャーリング加工を施したサテン生地のようなハンカチを鼻にあて、左右対称の顔をしかめながら呟いた。
遠巻きに見ている女子の一人が隣の女子に「もうすぐ林間学校よね?このクラスに、女子のリコーダーを盗むような男子がいるんなら……、最悪お風呂だって覗かれかねないよね??キモ過ぎるでしょ。今すぐこの場で捕まえておかないとヤバいって……」と囁いているのが聞こえた。
呉夢は、「では、あなたのリコーダーを見せてごらんなさい?」と正面に立つ男子に言った。
「は??な、なんでだよ?」
「あなたが私のリコーダーを盗んでいないか確かめさせてもらうわ。ほら、早くここに出しなさい。」
「や、やだよ、なんで俺がお前の命令を聞かなきゃいけないんだよ??」
すると横から可里朱が出てきて、「じゃあ佐々木が盗んだってことでいいんだな?」と凄む。
「いいから見せてみろ!西園寺さんにお前の無実を証明してみせろ!」とクラスで一番背の高い少女が言い、佐々木の顔を睨みつけた。
彼は、真っ赤な顔をして睨み返していたが、
やがて気圧されたらしく目を逸らし、「……やってねーって言ってるだろ……」と呟くと、「くそ!あーあー見せてやるよ!見せりゃいいんだろ?」と言って、ごそごそと自分のリコーダーを漁り始めた。
佐々木がブツブツ言いながら布のケースを取り出し、先端の方からチャックをじーーッと開いていく。
「ほれ。これは俺のだ。よく見てみろ。」
西園寺 呉夢は茶色っぽい袋から、先端だけ露出した縦笛の吹き口をじっと見つめて「ふん。」と口に出して言った。
縦笛の上部にある、ウィンドウェイと呼ばれるアーチ型に湾曲した頭には細い吹き込み口が切れ長に入っていて、
佐々木のそれは、きちんと洗えていないのかまだ濡れていて、酸っぱい臭いを残していた。
木田可里朱が、「きったねーな!お前、ちゃんと洗ってんのかよ?!」と叫ぶ。ヘッドピースの接合部に指をあてがい、ラピューム付近に白く固まった汚れをポロポロと落とす佐々木は、
「もういいだろ?これは俺のだ」と言ってチャックを閉じた。
西園寺 呉夢はまた「ふん…」と鼻を鳴らし、「面倒だからアナタ達、全員並んで出しなさい。」と残りの男子達に向かって言った。
「ほら!アンタ達!今の聞いたでしょ?!出しなさい!横一列に並んで!!西園寺さんが確認しやすいように見やすく前に出しなさい!モタモタすんな!」と木田可里朱が怖い顔をして男子達をけしかける。
彼らは青い顔をして、または赤い顔をして、自分達のリコーダーを、よく見えるように身体の前に取り出していった。
まだ五年生の彼らは、ソプラノリコーダーを使っていて、
中学生から使用するアルトリコーダーに切り替わっている者はいない。
少年達が前に出した縦笛を、表情を変えず確認していく呉夢は、「……あなた達って……どうして揃いも揃って臭いの?気持ち悪いからもうしまって」と踵を返しながら言った。
木田可里朱が、「……どうですか、ありましたか、西園寺さん。」と心配そうに訊ねてくる。
「なかったわ。」と呉夢は答えた。
「大丈夫ですか?」「…もういいわ。」と三組の美しきお嬢は興味無さそうに手を振る。
「でも、可里朱?」「はい」「男子達全員に自分のリコーダーを洗うように指示しなさい。臭くて敵わないわ。」「かしこまりました。」
休み時間の廊下の流しに、三組の男子がお尻を向けて並び、各々の身体の前方で、リコーダーの吹き口にチョロチョロと水道水を通して、下に流している。
時折それを確認するために可里朱は背中側から覗き込み、黙々と自分の仕事をこなしていた。
――――――――――――――――
汗一つかく様子のない、陶磁器のような肌を白い壁に溶け込ませながら、
西園寺 呉夢は、廊下のど真ん中を歩いていた。彼女は………、よく考えてみたらリコーダーを家に忘れていたことに気付き、早々に教室から退散していた。……私としたことが……こんなミスを犯すなんて……。
彼女は苛々としながら上履きのゴムをキュッキュッといわせて進む。
……このままではリコーダーの授業中私だけ見学になってしまうわ……。それは…避けたい。私がピアノ伴奏を請け負う旨、先生に進言しておきましょう……。音楽の教科書を胸の前でクロスした腕に抱える呉夢は、急ぎ足で第2音楽室に向かっていた。
……私はいつも人のお手本になるような人間となることを心掛けている。私はピアノもクラシックバレエも、お琴も……、それにお料理だって習っている。私は一段上に位置する生徒なのだ。だいたい他の生徒と同じ課題を受ける必要性があるのかさえ甚だ疑問だが、致し方ないわ。でも私には…縦笛よりもフルートが似合うのではないかしら……
そんなことを考えていると、正面から一人の男子が歩いてくるのが見えた。
他のクラスの男子だ。
呉夢は普段、男子の顔や名前などは気にも止めず、覚えていることも少なかったのだが、
……この男子のことだけは記憶していた。
それは何故か。
四年生の時に一緒のクラスだったこの慈光亘という男子は、
あろうことか、呉夢の隣の席で、国語の授業中、我慢できずに『おもい出しわらい』をしたのだ……。
最初は何が起こっているのか分からなかった。
急に、横に座った男子の方から、うっうっうっ……と泣いているような声が聞こえてきた為、怪訝な顔をした呉夢が、そちらの方を見ると、
慈光亘が、ぶるぶると身体を震わせながら、机に背中を丸めて、おもい出しわらいをしている最中だった。
「ちょっと??!何やってるのよ、あなた??」思わず呉夢 が叫ぶと、
慈光亘の後ろの席に座った女子が、「うわっ?!」と言って机をガタッ!と後ろに引いた。
そして「せ、先生??!慈光くんが、おもい出しわらいしちゃいました!!」と大声でわめいた。
呉夢は、笑いの波がこちらに押し寄せてくるのを見て、「え?え?なに?え?」と慌てて自分も机ごと身体を引いたが、
手で必死に口を抑えながら押し笑いする慈光亘の呻き声が、上履きの方まで伝わってきてしまった。
***************
……信じられない。あの男子、私の隣でなんてことをしでかしてくれたの……。
しばらくは慈光亘のおもいだしわらい事件は、隣の席にいたクラス一の美少女とセットで語られることが多く、正直死ぬほど恥ずかしかった。………それにしたって…四年生にもなって授業中におもい出しわらいなんて……あり得ない………。
正面から歩いてくる五年の慈光亘は、誰が歩いてきたのかをすぐに察知し、慌てて左へよけた。
呉夢はよけるつもりはなかったが、汚い物を反射的に避けるように、自分も左によけ、結果として慈光亘とぶつかりそうになって立ち止まってしまった。
「ご、ごめんなさい……」と気弱そうな老け顔の男子が言う。
呉夢は無視して、今度は右によけようたしたが、同時にこの男子も右に体を動かし、
本当に腕が接触してしまう。
「ちょっと何よ??そこ、どいてよ!!」と我慢出来ずに呉夢が怒鳴る。
「ご、ごめんなさい!」
この2人の組み合わせに気付いた四年の時のクラスメイトの女子が、「あ……」といった顔をして、見てはいけないものを見てしまったように顔を背けて逃げていく。
それを見た呉夢の顔は、みるみる赤くなっていき………「ふ、ふざけないで!!」と言った。「どうして私がコイツと同列の反応されなきゃいけないのよ!!」「ご、ごめんなさいごめんなさい…」「あなたそれしか言えないの??…勘弁してよ………四年にもなって授業中に失笑した奴が私に話しかけないでよ?!ノコノコとまた私の前に現れて、私に恥をかかせないで!?」
白いワンピースのせいで激しく赤面して見える西園寺 呉夢は、「しっしっ!!」と手の甲を男子をパタパタと仰いだ。
「どうかしたしましたか!!」と慌てた様子の部下、木田可里朱が廊下を走ってくる。
徐々に人混みが出来てきた音楽室前に、小さなグループを掻き分けて入ってきた可里朱は、
呉夢が変な男子に絡まれている(?)のを見て、「誰だお前は!!」と鋭く叫んだ。
「ああ、可里朱?いいところに来てくれたわ。こいつ、四年の授業中に、おもい出しわらいした奴よ。」と手のひらで熱い頬を冷ましながら綺麗な少女が言った。
「ぷっ……」と可里朱は吹き出し、「マジですか。」と呟いて、すぐに嫌な顔をして一歩下がった。周りを囲う九割方が女子のギャラリーも「ヤバ……」と言ってクスクスと笑い出す。
「おい、お前、おもい出しわらいした男子のくせに、西園寺さんに話しかけたのか?」
ホッとした様子の呉夢は、「聞いてよ可里朱、そうなのよ!こいつ、四年にもなっておもい出しわらいして!四年って言ったらもう上級生と同じよね?普通、我慢出来るでしょ?おもい出しそうになっても、口を閉じるとかさ……、そもそも休み時間のうちに笑っておきなさいよ。何のための時間だと思ってるの?あなた幼稚園生?」と言った。
いつになく饒舌に話す呉夢に、可里朱が嬉しそうに相槌を打ちながら、男子を振り返り、「授業中におもい出しわらいかよ……」ともう一度言う。
「いや、別に構わないけどさ。」と可里朱は、そう口では言いながら、明らかな軽蔑の眼差しを慈光亘に向けていた。
彼らの周囲を囲う有象無象の女子達も、口々に、「マジウケる」とか「失敗は誰にでもあるよね」とか「可哀想かも」とか「いやナシでしょ」などの賛否両論を戦わせていたが、
西園寺 呉夢が、「では私、急ぐので…」と言うと、さっ!と開いた人の道を抜け、彼女は誰よりも綺麗な黒髪の表面にキューティクルを輝かせながら、ふわり……とシャンプーの薫りを後ろに残して音楽室へ入っていった。
……………。
…………。
………。
呉夢はまだ知らなかった。
1ヶ月後の林間学校で、まさか自分自身が五年生にもなって、
朝方、急速に冷えた部屋の、慣れないお布団の中で、おもい出しわらいをしてしまうことを……。しかもちょっと微笑しただけでない。
あろうことか、おもい出しながら、ほくそ笑んでしまったのだ。
「なあに?!この臭いは??」
あちこちで目が覚めたばかりの女子達の声が上がり、色々な箇所を見て回った後、最後に西園寺 呉夢のお布団の周りに集まってきた彼女らは、
青ざめた木田可里朱が掛け布団を引っ張るのを全員で見守っていた。
呉夢は眠ったまま白いお布団の上で、だらしなく足を開き……まん面の笑みをうかべた状態で、一昨日の夕飯をおもい出しながら柔らかいこえを出して笑っていた。
「う……」と可里朱は手で口を抑える。
「キャァァァァァァァァァ!!!」
女子達が悲鳴を上げた。
背後で誰かが「……西園寺さんが……、五年生にもなって…そ、相好を崩しちゃった……。」と呟くのが聞こえた。
清潔で良い薫りのする西園寺 呉夢は、今や見る影もなく、
へそで茶を沸かしながら、朝一の口臭を周囲に漂わせる、お行儀の悪い笑い声を漏らしていた。
「さ、最悪……」と可里朱が小さな声で言った。
「木田さん……か、可哀想だよ…いつも一緒にいるじゃん…お世話してあげなよ……」と女子の一人が言う。
「嫌よ?なんで私が?!」
その頃、西園寺 呉夢はまだ夢の中にいた。彼女は四年生の教室にいて、隣に座る慈光亘が、笑うのを堪えきれない様子で身体を折り畳んでいるのを見て、
「気持ちの悪い笑い方しないでよ!」と叫んでいた。
「あなたどんだけ我慢してたのよ??wカッコ笑すぎるわ……と言うかそれ以前の問題よ……」
そうこうしている間に、彼女の真っ白に漂白された上履きに向かって、大草原が迫ってきて、……なぜか呉夢は遠いところで、アイドルに反応して叫んでいるような女子達の黄色い悲鳴を聞いていた。
彼女は眉をしかめて疑問に思いながらも
「草!草!まだ笑ってんの?!」と、慈光亘に向けて整った自分の鼻を摘まんで見せる。
急に場面が転換すると、狭い個室に腰掛けた西園寺 呉夢は、笑いの壺に入った排せンスな米ディ異(※縦読み推奨)を見ながら、
……ん?……ん?……んんん??
と違和感に気付いていた。
それから後の記憶はない。
怒涛のお笑い特番、『ネタままぶっ通しおもしろライブショー』の話題は、林間学校が終わるまで続き、
一夜にして西園寺 呉夢は、新進気鋭の小が臭え芸人として、華々しくデビューしたのだった。
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。面白いと感じていただけましたら、現在絶賛連載中、『因習村ラプソディー』の方も覗いてみてください!




