一人の英雄の死
『おめでとうございます! 私は女神です! あなたに能力を一つ授けましょう!』
突如、頭の中に声が響く。
返事をしようにも僕は返事が出来ない。
なにせ、猿轡をされているのだ。
『ご安心ください。状況が状況なので声は出さなくても大丈夫です! 脳内で会話をしてくれれば!』
そう聞いてほっとして僕は女神へ問いかける。
『今、この状況で?』
『はい。この状況で! です! 幸運ですよね!』
『まぁ、幸運と言えば幸運だけど……』
僕は今、敵城に捕らえられている。
おまけにこれから拷問も始まる。
まさに万事休すだ。
『さて! どんな願いを望みますか!? なんだってあげちゃいますよ!』
『なんだっていいの?』
『そう! なんだって大丈夫! この状況を切り抜けられる能力だっていくらでも願ってください!』
『そうだな。それなら……』
*
「こいつ。最後まで口を割らなかったな」
「爪を剥ぐところから始まって、体を火で炙ったし、肌も剥いたし、歯も抜いたし……こんだけやっても何も言わなかったってことはコイツは情報を何も持っていなかったってことだな」
「仮に何か情報を持っていたなら大した奴だよ、本当……」
二人の拷問官がそうぼやきながら歩き去るのを女神は見送りながら、物言わぬ死体にぽつりと呟いた。
『あなたも真面目ですねえ。普通の人ならこんな状況だからこそ【チート能力】を願うだろうに』
女神は肩を竦めた。
この死体が人間のものだなんて、普通の人には絶対分からないだろう。
『情報を漏らさないよう【一言も喋れなくなる能力】を望むなんて』
チート能力を授かろうともここは敵の本丸。
再び捕まる可能性は十分にあった。
だからこそ、こんな能力を望んだのだろう。
その姿に女神は半ば呆れながら。
『まぁ、あなたのおかげであなたの国は勝利しますよ。必ずね。だから安心してお眠りなさいな。スパイさん」
手向けの言葉をニコニコと笑いながら告げた。




