2 滞在一日目・朝②
軽い鍛錬の後(タイスンならきっと、あれは『軽い鍛錬』ではありませんと言うだろうが)、朝食を済ませた。
今日は一日『休養日』の予定になっているが、公式の用がなくて比較的自由度が高いというだけ、当然だが完全な休みではない。
(昨日、軽く打ち合わせてある通り、午前中は大神殿内の『見学』。その時に、第五~第十位という、下位の島長とそれとなく顔合わせをして『世間話』をする……予定。全員と会えるかどうかはわからないけど)
レーンは、大まかにいって大小十の島々からなる国である。
一番大きな島は大神殿のあるここ『本島』。そして名目上の領主は『大神官』だ。
これもレーン独特の習わしというか体制で、名目上の島の領主と実際に島を治める『島長』は別なのだ。
古い時代は神官が直接島を治めていたものの、時代を経るにしたがってそれでは対処できなくなり、実務を取り仕切る者へ権力を移譲したのだそう。
『実務を取り仕切る者』は基本、世襲なので、レーンの中では特権階級と言えなくもない。
ただ、我々大陸に住んでいる者の感覚での『特権階級』と、彼らのそれは違う。
生まれはどうあれ実力を見込まれ養子になった者、あるいは婿入り嫁入りした者であってもちゃんと『実務を取り仕切る』能力があれば、その地位に就いても反発されることは少ないと聞く。
この部分はラクレイドの元々の気風――出自より能力ある者を尊ぶ気風――に近く、それ故か古くから、遠く海を隔てながらも二国は、あっさりとしたいい付き合いをしている。
神殿内の『見学』なのだから、華美な服装は控える。
風通しの良いように袖口や襟を広めにとった、肘までの袖のストンとしたデザインのワンピースは深い青色。
装飾品は、赤白のストーンカメオのブローチで胸元を飾る程度にする。
ただ、ワンピースの下、下着のすぐ上にひそかに剣帯を着け、右腿に愛用の護身用短剣をつるす。
最悪の場合ワンピースを脱ぎ捨てて戦う、もしくは利用される前に自害するための用心だ。
何故そこまでするのかと、エリアーナが着任したばかりの頃、訊かれたことがあった。
子供の頃に怖い目に合ったからと、わたくしは答えた。
「ラクレイドの護衛官は精鋭ぞろいだけど、その精鋭たちにどれだけ手厚く守られていても。相手が本気でこちらの命を狙ってきた場合、狙われている本人が戦えるか戦えないかの差は大きいって、その時、実感したの。ちょっとくらい鍛えていたとしても、わたくしは決してあなた方のようには戦えないでしょう。それはわかっているの、でもまったく何もできないまま相手の手にかかるのは金輪際、嫌。……負けず嫌いなのよね、きっと」
笑みをまじえてそう言ったが、彼女は顔をこわばらせ、絶句した。
もしかして、彼女の護衛官としての誇りを傷付けてしまったのかと思ったが、エリアーナは首を振る。
「殿下のお覚悟、お心を知り、ますます務めに励みたいと決意を新たにいたしました。私の出来得るかぎり、ギリギリを超えて力を尽くすと誓います」
以来、彼女はわたくしの剣の師でもある。
もちろん彼女の本来の仕事は『護衛侍女』、わたくしの個人的な鍛錬に付き合ってばかりはいられない。
だが、早朝の鍛錬を共にすることはほぼ日課になっている。
今朝タイスンに、殿下は何を目指していらっしゃるのかと訊かれたが、わたくしだって正直、よくわからない。
自分で自分の誇りを守る方法が、他に思いつかなかったというだけなのかもしれない。




