二話:森に巣食う者
目が覚めたら見知らぬ神社にいた少女。少女は帰るため雨の降る森に入る。しかし、その森で少女は不可解な出来事に出会う。はたして、少女は無事に帰ることができるのか。
どこまで歩いたのだろう。
どれだけ歩いても出口が見えない。
周りが木に囲まれているせいで、景色が一向に変わらない。
まるで同じところを通っているような気がする。
いや、もしかしたら本当に同じところを通っているのかもしれない。
「…………」
”ザッ…ザッ…”
私は近くの木に近づくと、その下の地面に足でバツ印を描いた。
そして、私は再び道に沿って歩き出した。
私は歩きながら一つの可能性を考える。
それは現実ではありえない可能性。
”そんなはずはない”と思いつつも、私は心のどこかで確信のような何かがあった。
しばらく歩くと、見覚えのあるものがあるところに”戻った”。
私はその木に近づくと、地面に描かれたバツ印を見下ろした。
それは、先ほど私が描いた印。
それを見てもどこかで”そうではないか”と思っていたので、あまり驚きはしなかった。
私はここを何回も通っている。
それも私は直線の道を歩いていたのだ。
どこにも曲がるところも分かれ道もなかった。
そこまで考えると嫌でもその結論にたどり着く。
「…この森には何らかの力が働いていて、私はその力のせいで何度もこの場所に戻っているってことだよね。」
そして、それは結果的に私がこの森から抜け出すことはできないことを意味している。
そう考えると、私はどこか焦るような気持ちが湧いた。
しかし、私はここから”帰らないといけない”。
…じゃないと親が悲しむ。
”ピチョン”
雨が落ちるような音が耳に響く。
その音は普段は嫌いなはずなのに今だけは何故だか落ち着くような気がする。
私は何となくその音のほうを向く。
「…ん?木の隣に何かある?」
先ほどつけたバツ印の前にあった木の隣の背の高い草むらに小さな穴のようなものを見つけた。
今まで気が付かなかったのだろうか。
しかし、先ほどバツ印を描いた時にはこの穴はなかった気がする。
この戻される道といい、この森には何か不思議な力が働いている。
何が起きても不思議ではない、私はそう思い気を引き締めた。
私は草むらをかき分けてみた。
「これは………道?」
そこには、人がギリギリ通れるような隙間で、さっきの道と同じで直線だが、今度は遠くに少し光が見える。
私はもしかしたら出口かもしれないと思い、その道を通ることにした。
傘を一時的に畳み、慎重に草むらへと入る。
飛び出ている草や木から垂れているツタなどを手や足で払いのけて進む。
まるで、秘密基地に向かっている子供のような気分になる。
横は木や高い草で、上は木の葉っぱが雨を防ぐ、そんな自然にできたトンネル。
私はそのトンネルに少し癒されながら進む。
”がさっ”
私は横の草むらから何かが動いたような気がした。
私はそれに少し驚いたが、もしかしたら動物かもしれないと思い、興味本位でそれを見てみることにした。
私はその場にしゃがみ込み、ドキドキしながら気配のした草むらをかき分けた。
”バサッ”
………しかし、そこには何もいなかった。
(………気のせいだったのかなぁ。)
私は何もいなかった安心と何もいなかった落胆を感じ、立ち上がった。
”目の前の木の枝にそれはいた”
「っつ、………痛い!」
目の前の”何か”はわたしに飛び掛かってきた。
私は恐怖のあまり動くことができず、右目に深い傷を負い、その場に倒れた。
”ピキッ”
その時何かがひび割れるような音がした。
しかし、私はそんなことを考えている暇がなかった。
皮肉にも、右目の痛みは私の動けなかった体を地面から引きはがした。
そして、さっき向かっていたほうへと走った。
右目から大量の血が出ている。
しかし、立ち止まってはいけない。
後ろのほうで”何か”が追いかけてくる気配を感じる。
あれは明らかに言葉の通じる相手ではない。
”ピチョン”
(まただ、またあの音だ。”こっち側”に来て何度も聞いた音だ。)
すると、いきなり目の前が開けた。
どうやら、あの森のトンネルを抜けたらしい。
いつの間にか”何か”の気配も感じない。
「逃げ切れたの?」
私がそう呟くと、私はその場に座り込んだ。
今度こそ、逃げ切れた安心を感じられる。
安心を感じ緊張の糸が切れたのか、それと同時に先ほどの恐怖が急に襲う。
”ばっ”
私は先ほど攻撃を受けた自分の右目を勢い良く抑える。
しかし、受けたはずの傷は残っていなかった。
私は少し混乱したが、すぐに原因を考える。
「………幻覚、いや、私はあの時確かに痛みを感じた。だとしたら………そういえば、あの時何かが割れるような音がしたような。」
私が持っている割れ物は一つしかない、私は自分のポケットからビー玉を取り出した。
それをよく見ると先ほどまではなかったひびが入っていた。
………それを見つめていると、やはり落ち着きが戻ってくる。
しかし、ひび割れを見ると何故だか胸が痛くなり焦りだす。
私が目が覚めた時、傘と一緒に持っていたビー玉。
ループする道といい、先ほどの”何か”といいこの森は何かがおかしい。
明らかに何か不思議な力が働いている。
実際、あの長い階段を下りた際、私は息切れをしていなかった。
もしかしたら、私の体にも何かしらの力が働いているのかもしれない。
しかし、そんな都合のいいことがあるのだろうか?
先ほど、傷を負った時このビー玉が割れたのなら、傷を治したのはこのビー玉のおかげかもしれない。
このビー玉が割れることで私の傷がなかったことにされる。
しかし、もしそうだとして、このビー玉が完全に割れたら私はどうなるのだろう?
………きっと死ぬのだろう。
ー雨はまだ止まないだろう。
私はビー玉を静かにポケットに入れなおした。
私は立ち上がり傘を開いた。
先ほどは安心でその場ですぐに座り込んでしまったが、まだ森を抜けたわけではない。
私は先ほどのことも考え、より一層集中した。
私が目の前に視線をやると、そこには驚きのものがあった。
「えっ、……………村?」
村を見つけた少女はそこで何と出会うのか?それでは次回の作品までおやすみなさい。