友達
何かが目を閉じて日向ぼっこをしているオレの鼻をくすぐる。
ふわふわしていて、触り心地が良い何か。
クソっ今日はせっかくの青天だっていうのに。
どうせ、アイツがオレが寝ていると思って悪戯でもしているのだろう。
ここはひとつ、反撃してやるか。
「わっ」
「うえわっ」
突然オレが起き上がったことで、悪戯をしていたそいつが変な声を上げる。
こいつ、タンポポの綿毛でくすぐってたのか。
「ははっ 何だよその声」
「アンタが突然起き上がるからじゃない!」
そう言ってそいつは頬を膨らませる。
「いやお前から先に仕掛けてきたんだろ」
「…そうだっけ?」
「おいこら」
そう言ってオレはそいつの頭にコツン、と拳を乗せた。
「ぼーりょくはんたーい」
そう言いながらそいつもオレの頭に拳を乗せる。
「…ふふっ」
「…ははっ」
そんな一連のやり取りに、オレたちの頬が緩む。
「ところで、オレに何か用があるのか?」
「うん、おばさんがアンタのこと探してたから」
「母さんが?ちなみに…なんか怒ってたりしてた?」
「鬼の形相だったよ」
「…秘密基地行ってくる」
そう言ってオレは村の近くの森へと歩き出す。
そうだ、コレは一応言っておかないと。
そう思い、後ろを振り返る。
「■■■!母さんに絶対オレの居場所言うなよ!」
そう言ったオレに、そいつはほくそ笑む。
「はいはい、貸し一だからね、■■■」
それはオレの…いや、オレたちの日常だったもの。
まだオレたちが、淡く青い恋をしていた日々の記録。
◇ ◇ ◇
目を覚ましたユハの目に最初に映ったのは、木でしっかりと造られた天井だった。
「…夢?」
「あっユハ様、起きられましたか?」
ソファの傍にはシケリが座っていた。
「は…はい…すみません、突然倒れちゃって」
「いえいえ、それよりお体の方は大丈夫ですか?」
「はい…今はなんともないです」
そう言ってシケリは安心したのか、ホッとした表情を見せた。
「お騒がせしてすみません…どんだけ寝てました?」
「かなり長い間寝てましたよ~…今が3時過ぎぐらいなので大体8時間ほどでしょうか~」
「8時間…!?そんなに…」
「森中を歩き回ったので、疲れがどっと来たのかもしれませんね~」
そう言いながら、シケリは視線をソファの下に落とす。
「?」
ユハは不思議に感じ、体を起こしてシケリの視線の先を見る。
そこには、シケリに膝枕されている形で眠っているイズがいた。
「ぐっすりですね」
「そうですね~」
そう言ったシケリは、再びユハの方へとゆっくり目を向ける。
「ユハ様。少々よろしいでしょうか」
「いいですけど…どうしました?」
ユハの承諾を得たシケリは、イズの頭を撫で始める。
「ユハ様、お嬢様に遠慮とかしてないですか?」
「え…遠慮?」
突拍子もない質問にユハは困惑する。
「してないですけど…何か俺、いけないことでもしてましたか?」
「いえ…そういう訳ではないのですが…」
そう言って、シケリはイズを見つめる。
「…お嬢様はこの森から出た時にしたいことが沢山あるんです。小さい頃はよくノートにやりたいことリストを作って私に見せてきたりしました」
「…そうなんですか」
「はい、私は何回も見せられたので大体そのリストの内容は覚えてるんです。…その中には『友達が欲しい』というのがあったんです」
「シケリさんは『友達』じゃないんですか?」
「私はあくまで『従者』なので…お嬢様はまだ一回も友達が出来たことがないんです」
そう言ってシケリはユハの目を見る。
「ユハ様、私からお願いです。どうかお嬢様を、イズシウ様を対等な『友達』として接してあげてほしいのです」
「友達…ですか」
「記憶がないあなたに頼むことは筋違いであることは承知しています。なので…もし無理であるなら、この森を抜けて別れる際まで、『友達』として接してほしいのです」
「…シケリさん、それって俺がイズさんに常に敬語だから話したんですか…?」
その質問にシケリは、一瞬の逡巡の後に「はい」と答えた。
「…俺も、イズさんに『友達』のように接したいのは山々なんです。でも、俺には知ってのとおり記憶がないんです…もしも俺の記憶が無事に戻ったとして、その正体が世紀の大悪党だったりしたら…なんて思って一歩を踏み出せないんです…」
そう言ってユハは俯く。
「そうですか…すみません、無茶なお願いをして」
「いや…こちらこそすみません。でも…別れの時が来るまでは頑張ってみようと思います」
「分かりました。ですが、あまり無茶はなさらないでくださいね」
「はい、出来る範囲でやっ…」
そのユハの言葉はドンドンという突然のノック音によって遮られた。
「すみませーん!夜分遅くに失礼します!ちょっと道を尋ねたいのですが!」
突然の、しかも深夜の来訪者に二人は警戒する。
「ん~…何の音ぉ?」
イズがその騒ぎによって目を覚ます。
「お嬢様、静かに」
そう言ってイズの口元にシケリが手を添える。
「シケリさんどうす…」
「静かに」
そう言うシケリの目は、外の存在を睨みつけるかのように扉に向けられていた。
「お嬢様、私が合図したらユハ様を連れて裏口から逃げて『結界』の核へ向かってください」
「シケリ!?何言って…」
質問しようとするイズの言葉を遮って、シケリは外の存在と会話を試みる。
「道?そんなものこの森には無いはずですが…嘘をつくならもう少し賢くなったらの方がいいですよ」
「いやいや、本当に僕はこの森に迷い込んだだけなんですって!嘘ってなんのことですか!」
外の存在がシケリの言葉に反論する。
「しらばっくれるな馬鹿が…というかお前、一人じゃないだろ。数十人単位で家を囲んで何がしたい?」
「「…は?」」
突然のシケリの言葉に二人は思わず声を漏らす。
それと同時にノック音が止む。
そこからほんの数秒…しかし3人にとっては永遠に感じられる時間が流れた。
そして、外の男が口を開く。
「総員、行動開始」
読んでくださりありがとうございます。第4話です。なんか第3話を投稿したのが数日前だった気がするんですけど気のせいなんでしょうね。




