魔法少女たちの家
「お嬢様、私たち遂にこの森から出られるかもしれません」
「やっぱりその刀に何かあるのね。さっきから呪いが溢れていたし、その呪いが『結界』に何かをしているのね」
「はい、それは明らかです~」
「…ユハ、その刀貸してくれない?」
「あっはい」
そう言われ刀を貸そうとイズの手に刀が触れた瞬間。
「…ッガぁッ!」
白目をむき、口から吐しゃ物を出し、イズが倒れる。
「「!?」」
二人は突然の事で頭が真っ白になったと同時に、ユハの腹に衝撃が走る。
「ぐッ!」
何かが凄い勢いで腹に当たったのか声を上げて後方へ吹き飛ばされ、刀を放して地面に倒れこむ。
「お嬢様ッ!お嬢様ッ!!」と叫ぶシケリの声が聞こえ、何が起こっているのか確認しようとなんとか上体を起こした。
そこにはシケリの腕の中で、声を上げて身悶えするイズの姿があった。
「なッ…」
急いで傍に駆け寄ろうとして立ち上がろうとしたときだった。
「止まれ」
背後からの一言で場の空気が凍り付く。それはイズやシケリとは違う女性の低い声。
いつの間にか、ユハの首筋には剣が添えられていた。
指一本でも動いた瞬間首が飛ぶんじゃないかという程の殺気。
後ろの存在が怖い。あまりの怖さに体が震えだす。瞼が勝手に下りてくる。イズの苦悶の声もシケリの叫び声も聞こえない。
「私の質問に答えろ。何か変なことをしたら殺す」
(できねえよそんなこと!)
心の中でそんなことを言うが状況は何も変わらない。
「一つ目。お嬢様に何をした」
質問に答えようとするが声が出ない。声を出すのが、怖い。
(何もしてません、なんて言って信じてもらえるかコレ!?)
発言によっては死ぬかもしれないという恐怖。その恐怖に怯えながら時間は過ぎていく。
「なるほど、だんまりか…」
(マジでこのままじゃ死ぬぞ!クソっ、とりあえずなにか叫べ俺!)
必死に声を出そうと息を吸い込むその刹那の間に、声がした。
「死ね」
後ろの存在がゆっくりと剣を振りかぶる。
しかしその剣は、ユハの首を断ち切ることはなかった。
(なんだ…?俺は死んだのか?いや待て、足音がする…)
足音が聞こえたのも束の間、いつの間にか先ほどまでの凍てついた空気と殺気が無くなっていることに気づく。
おそるおそる、ゆっくり目を開けるとそこにはシケリに支えられながら立つイズの姿があった。
しかし、その顔色は先ほどまでの健康的なものとは大きく違っていた。
「あ”…よ”がっだ…ぎり”ぎり”セーフ…」
声もガラガラで聞き取るのがやっとだった。
「お嬢様~多分喉が壊れてるのであまり喋らないでください~」
先ほど叫び声を上げていたシケリはおっとりとした声に戻っていた。
「ハァ…ハァ…いっ今のって何だったんですか…」
ユハは呼吸を荒くし、大粒の汗を流しながら訊ねる。
「それは後程私が説明しますので、とりあえず場所を移しましょうか~」
シケリにそう言われ、ユハは頷く。
「じゃあ、俺あの刀取ってきます」
「あっそうそう。あの刀は絶対に人に近づけないでくださいね。さっきみたいなことがまた起きちゃうので~」
「はっはい!しっかりこの手で握っておきます!」
ユハのその言葉にシケリは微笑みで返した。
(えっと刀は…あそこか、結構すっ飛んでいったな…)
そう思いながら刀に駆け寄って拾おうとする。しかし、その手は刀を拾わずに停止した。
(この刀、本当に持って行っていいのかな…人に近づけるとさっきみたいになるのなら、この刀はここに置いていくか破壊するのが良いのでは…)
「ユハさん、どうかしましたか~?」
「…いえ、なんでもないです」
「?」
「それじゃあ、出発しましょうか~」
いつの間にかイズをおんぶしたシケリがそう言って歩き出し、その後をユハが付いていく。
イズは暴れ疲れたからか、シケリの背中で寝息を立てていた。
その寝顔は先ほどまでの表情と比べると穏やかなものであり、それがユハの心を締め付ける。
その後は道中でも休憩中でもユハとシケリの二人の会話もなく、気まずい空気が流れていた。
(ヤバい…めっちゃ気まずい…さっきのとは違う意味で喋れない…でも、さすがに謝罪だけはしないと…!)
休憩中にユハは心に決めて声に出す。
「「あの…!」」
意図せず二人の言葉が被る。
「あっそっちからどうぞ…」
「あ~いえいえ、ユハ様からで良いですよ~」
「あ…じゃあ俺から…その、本当にすいませんでした。まさかこの刀があんなに危険なものだとは思わなくて…」
そう言ってユハは隣に座っているシケリに頭を深く下げた。
「でも…イズさんを苦しめたり、傷つけようとは思っていないんです。信じてくれないかもしれませんが…」
「信じますよ~」
「え?」
意外な言葉にユハは目を丸くする。
「さっきユハ様を魔法で見たから分かります。あなたは優しく、誠実な方です。むしろ謝らなくちゃいけないのは私の方です~」
「いや…そんなことは」
「ありますよ?私は貴方を蹴飛ばしたり、あなたを殺そうとしました。頭に血が上っていたとはいえ、申し訳ありませんでした」
「あれ全部シケリさんだったんですか…」
「はい~…お恥ずかしながら…私、頭に血が上ると声も言葉遣いも変わっちゃうんですよ~」
「そ、そうなんですか…でもなんであの時シケリさんが二人いたんですか?」
「分身魔法ですよ~?もしかして見るの初めてですか~?」
「は、はい。というか魔法自体みるのが初めてというか…」
「魔法自体が…初めて…?」
そう言うシケリの顔は驚きに満ちていた。
「はい、実は…」
ユハはシケリに事情を説明した。
「なるほど~…つまりユハさんには今までの私たちの話はチンプンカンプンだった可能性が高そうですね~…」
「まぁ…はい…なんとか『結界』とかの話は、さっきの説明でなんとかギリギリ分かるんですが…」
「それなら猶更急ぎましょう!私たちのお家に来ればその魔法についてゆっくりお話しましょうか~」
「そうですね、急ぎましょう」
そう言って二人はイズとシケリの家へと急いだ。
十数分後。
空には星が煌めき始めた頃にユハたちは大きく開けた場所に着いた。
その中央にポツンと小洒落た小さな家が一軒だけ在った。
「ふぅ、お嬢様~着きましたよ~」
そう言ってシケリは背中のイズを揺らして起こす。
「んぃぇ…ぁ…ぇえ?もう着いたの…?」
「はい~おかえりなさいませ、お嬢様~」
「んぅ~…ただいまぁ…」
先ほどまで壊れていたはずの喉はいつの間にか治っており、本来の声に戻っていた。
ユハはそれに驚くが、シケリはそれを気にも留めずにイズを背中から降ろす。
「お嬢様、お体の方は大丈夫ですか~?」
「えぇ…大丈夫よ。心配ないわ」
そう言ってイズはユハの方を振り向く。
「ようこそわが家へ!さぁ、遠慮せず入ってちょうだい」
そう言ってひとり家の中へと入って行く。
「なんか…張り切ってますね」
「そりゃあそうですよ~だって家に人が来ることなんて初めてのことですから~」
(そう言えば外からの人間とは『結界』で会えないんだったな…ん?てことはまさか)
「じゃあシケリさん以外の人間に出会ったのも初めてなんですか?」
「はい!なのでお嬢様ったら貴方を見つけた時、とてもテンションが上がってたんですよ~」
「ははっ俺と同じじゃないですかソレ」
そんな会話をしながらユハはシケリと共に家の中へ入った。
「おお…」と声を上げたユハの視界に映っていたのは、無造作に積み上げられた本の塔。
それが一つだけではなく、いくつもあることから整理整頓などが出来ていないということが分かる。
テーブルの上にも本や何かが書かれた紙が散らかっており、椅子の上にも本や謎の小道具が置かれていた。
「いらっしゃいませ~」
「いらっしゃい!ユハ!適当にそこら辺の椅子にすわってちょうだい」
家の奥の方からイズの声が聞こえる。
「あ…は、はい」
(座れる椅子がないんだが!?)
そう思いながら座れる椅子を探していると、シケリが「ユハ様、こちらへどうぞ~」と言って椅子の上の物を払いのけた。
払いのけた本やペンがドタドタと音を立てて床に落ちる。
(雑すぎない?)
そう思ったユハだったが心の奥にそっと仕舞っておいた。
「すみません汚くて~私たち掃除があまり出来ないんですよ~」
椅子に座ったユハにシケリが言う。
「えっそうなんですか。イズさんはともかく、シケリさんはメイドなのに?」
「えっと~その…私ってメイドではあるんですが、それは前のご主人様の趣味なんですよね…」
「前の主人って…」
「母よ」
そう言いながら奥の扉から出てきたイズは先ほどよりラフな格好になっていた。
「シケリは私に仕える前は母のメイドをやっていたの」
そう言ってイズはユハの向かいの椅子に座った。
「はい。今のご主人様であるイズシウ様が生まれるまでは前のご主人様であるイノメノ様に仕えていました~」
「そうだったんですか…それで、趣味って?」
「メイド服作りです~」
「…はっ?」
「イノメノ様、メイド服が好きすぎて自分で作っちゃうぐらいにはメイド服が大好きだったんですよ~」
「そ、それとシケリさんが掃除出来ないことがどう関係してるんですか!?」
「実は私、イノメノ様の護衛として造られたので身の回りのお世話などは専門外なんですよねぇ…あと、お掃除しようとするとイノメノ様がお怒りになられたもので…」
「…今さらっとすごいこと言いませんでした?『造られた』って…」
「そういえば言ってなかったわね、シケリは人造人間なの」
「ほ…ほむ…なんです?」
「聞いたことない?簡単にいえばシケリは私の母が造った人造人間ってことよ」
「魔法ってそんなことができるんですね…」
「正確に言えば魔法ではなく、魔術ですね~」
「あの…魔法と魔術の違いってなんですか?」
ユハがそう言うとイズは驚いた顔をする。
「え?それ知らないの?」
「はい、言うタイミングがなかったんで今言っちゃうんですけど、俺記憶喪失でこの場所はおろか魔法とかのこともさっぱり忘れてて…」
「なるほど、それは気の毒ね…よし、じゃあ私が魔法と魔術について説明してあげる!」
「お願いします!」
「まずは魔法の説明ね。魔法は個人が生まれながらに持っているものよ。どんな魔法を持っているかは人によってバラバラで、シケリのように複数個持って生まれるパターンがあるわ。シケリの場合は4つね」
「先生質問です!それは多い方なのですか!」
「良い質問ね!シケリの場合は多い方に分類されるわ」
そうイズが言うとシケリは誇らしげな顔をした。
「次に魔術。魔術は魔法と違って誰でも出来るものよ。でも、発動させるには『儀式』を行わなければならないの」
「『儀式』ってどんなものですか?」
「それは行う魔術によって違ってくるわ。ただ、世の中には人体の一部を使ったり、子供を生贄として使う魔術もあるの。ちなみにシケリを造ったのは魔術の力よ」
「マジでなんでも出来るんですね」
「そうね、でもシケリほどの人造人間を造るとなるとかなりの素材を要求するわ」
「シケリさんはどうやって造られたんですか?」
「ごめんなさい~それは私にも分からないんですよ~」
シケリはそう言ってペコペコと頭を下げた。
「私もどうやってシケリが造られたのか知りたいのだけどね…全く分からないわ。一応ノートがどっかにあるはずなんだけど…」
そう言ってイズが周囲を見渡す。
「あ、あった。あれよ」
そう言ってユハの背後の雑貨の山の前に移動し、山の中腹辺りに腕を突っ込む。
「よいしょっと…」
そう言いながら腕を引き抜くと、それにつられて色々なものが勢いよく飛び散る。
さらに、山が色んな音を立てて崩れ、雪崩を起こす。
その様子を見て、イズは「おお…」と声を漏らし、シケリは床一面に散らばった雑貨をてきぱきと拾い集めていた。
その様子を見て、ユハは苦笑することしか出来なかった。
「シケリさん、手伝いますよ」
そう言ってユハは床に散らばったものを拾おうとして下を向く。
ユハはそこにあったそれを見て目を見張る。
そこにあったのは、何の変哲もないただの手鏡。
そこには、少し汚れた服を着て、襟足が長い白髪の、猫顔の少年が映っていた。
それを認識した瞬間、ユハの頭に激痛が走る。
「ッぁああ…あああッ…!」
その声に驚いてイズとシケリがユハの方へ駆け寄る。
「ちょっとユハ、大丈夫!?」
「ユハさん?どうしたのですか?ユハ様!?」
二人がユハに声をかけるがその声は、段々と遠ざかっていく。
息が苦しくなり、視界が少しずつ暗転していく。
そして、ユハの意識は奥底に沈んでいった。
読んでくださりありがとうございます。めちゃくちゃ更新おくれましたね、ごめんなさい。という訳で(?)第3話です。やっとユハ君の顔の描写が出てきました。第1話に書けばよかったと今更後悔してます。




