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黒刀の勇者  作者: 阿化佐棚
シヒリ樹海編
2/2

閉鎖の森

 洞窟から一歩出たユハの視界には、青々とした森が広がっていた。

「マジか…」と、ユハは落胆の声を漏らし、その場にしゃがみこんだ。

「ぜっっっっっっっっったい人いないじゃん…」

 そう呟くユハの顔には、不安の色が滲んでいた。


「とりあえず、この森を出よう!」

 そう自分に言い聞かせるように、ユハは言葉とともに立ち上がった。

(人が見つかるまで野宿になるなぁ…やったことないけど)

 そんなことを考えながら、ユハが歩き出したときだった。


「え?」

 それは、ほんの一瞬の出来事だった。

 ユハの周囲の風景がぐにゃり、とねじれたように見えたのだ。

(俺…目に病気でもあるのか?)

 そう思いながら周囲の風景を確認し、振り返ったときだった。


 ユハの背後にある岩壁に()()()()()()()がないことに気づく。

「洞窟が…無い!?」

 そう声を出したと同時に、ユハに悪寒が走った。

「ハーッ ハーッ」

 呼吸が荒くなる。 冷や汗が額に滲む。

 両手でしっかり刀を握らないといけないほどに手が震える。

 その場に行って確かめたいが、足が出ない。

 まるで、足を誰かに掴まれているかのような感覚だった。


「…ッ!」

 とうとうユハは、その場から背を向けて逃げ出した。

 走れば走るほど、先ほどまでの悪寒はなくなっていった。

 暫くして少し開けた場所で立ち止まり、その場にへたり込む。

「何だったんだよあれ…てか暑っ」

 そんな愚痴をこぼし、木陰に入って座った。

「結局何も分からないまま走ってきちゃったな…マジでどうしよう」

 全力で走ったことで荒くなった呼吸を整えながらこれからの事を考えてみたが、何も考えが纏まらないままユハは張り詰めた糸が切れたように眠ってしまった。




 ◇ ◇ ◇




 ~ユハが洞窟から出た少し後~

 メレッケ王国。

 シヒリ樹海と呼ばれる国境を跨ぐ世界最大の樹海と共生している国。

 そこの極秘研究室と呼ばれる場所は今、怒号が飛び交っていた。

()の居場所はまだ分からないのか!」

「分かんねぇから今探してるつってんだろ!」

「そう言ってもう最後の反応から4時間経つぞノロマが!」

「うっせーなドブジジィ、ならお前も早く見つけてみろよ!」

「なんだとこのクソガキ!」

 怒号を飛ばしているのは短髪で灰色の髪をした男性研究員と髪を後ろで束ねた赤髪の女性研究員だった。

 男性研究員の方は中年に見えるが、女性研究員の方は若者であり、一見すると親子のように見えてしまう程である。

 しかし、その二人の間に流れている空気は誰がどう見ても殺し合い一歩手前の状態だった。


「なら、私が()を先に見つけたら次の室長は私ということで良いな?」

「あぁいいぜタコ!そのかわりアタシが先に見つけたら、次の室長はアタシだかr」

 ピタリ、と女性研究員の口が止まる。

 なぜなら、いつのまにか部屋の奥に小柄の男が座っていることに気が付いたからだ。

 男性にしては少し長めのブラウンの髪、立派な髭が付いているその男は一般的に『ドワーフ』と呼ばれる種族だった。

「室長…」

 男性研究員がそう呟くと同時に男は頬杖をつき、呆れた顔でため息をついた。


「オディス君、バトラちゃん、こっちに来なさい」

「「はい…」」

 二人は肩をすぼめながら、室長と呼ばれたドワーフの男の元へ行った。

「君たち…ずいぶんと楽しそうじゃないか」

「いや…その…悪いのはアタシじゃなくてオディスの方で…」

「はい…最初に私がバトラに」

「あぁ待て待て違う、そういうのを聞きたいんじゃない」

「「すみませんでした」」

「はい、よろしい」


 ドワーフの男は微笑みながら、言葉を続けた。

「それで?君たちが喧嘩していたということは未だに()()は見つかっていない、ということかな?」

「はい、私の鳥たちによる捜索はともかく、バトラの地図を用いた捜索魔法でも見つかっていません」

「アタシの捜索魔法でも見つからないとなると、捜索隊を組んで現地で探すしかないかもしれません」


 その報告を聞き、ドワーフの男は髭をいじりながら話し出す。

「そうか…実は私もちょうどそうしようと思っていたところなんだ」

「私たちじゃなくて、室長が直々に行かれるのですか?」

「ん?行きたいのかい?」

「あっ…いや、えっと…」

「はっはっはっ、遠慮しなくてもいいんだぞ?ほら、もう捜索隊は組んであるし、総指揮者に君たち二人の名前を書いておいたから、行ってきなさい」

「え?」「は?」


 素っ頓狂な声を上げた二人の前に、一枚の書類が置かれた。

 そこには『シヒリ樹海での■■■捜索任務』と書かれており、その下にある総指揮者の欄には『任務総指揮:オディス・リージン、バトラ・ウブレジェー』と書かれていた。

「「………」」

 その書類を見た二人は固まって声も出せなくなっていた。

「出発は明日の夜3時ね、よろしく~」

 そう言って、ドワーフの男は一瞬の内に消え、後に残ったのは突然告げられた任務に放心状態になっている研究者二人だった。




 ◇ ◇ ◇




 空が赤くなった頃、ユハの前に二人の人影があった。

「…ぅすんの?」

「とりあえず、生きているかどうか見てみま…あらっ起きましたね」

「ぅん…誰…って人!?」

 いつぶりかも分からない自分以外の人の声にユハは飛び起きた。


 そこには二人の少女がいた。

 片方は金髪で長い髪の少女。

 もう片方はメイド服を着たショートボブの桃髪の少女だった。


「えぇそうですよ、人ですよ~」

「アンタ誰?どこから来たの?っていうか『結界』はどうやって潜り抜けたの?」

 そう問い詰める金髪の少女の顔は、警戒と期待の色が半々に滲んでいた。

「あっ俺の名前はユハ・ソノトって言います。どこから来たと言えば、洞窟から…?」

「は?洞窟?この森に人が住める洞窟なんてあったっけ?」

「私はそのような洞窟は存じ上げないです~」

「えっでもあっちの岩壁にかなりデカい洞窟があったんですけど…」

「え?私この森に長い間住んでるけど、そんな洞窟しらないわよ」

 話が嚙み合わず、三人は困惑の表情を浮かべる。

「俺、その洞窟で目が覚めてここが何処かも分からないんです」

「えぇ…?シケリ、どう思う?」


 シケリと呼ばれた桃髪の少女はそう問われると、ユハをじっと見つめた。

 ユハは少し照れて顔をうつむけたが、すぐにシケリによって戻された。

「う~んそうですねぇ、一応ユハ様は本当の事を言っているみたいです~」

「へぇ…じゃあ信じましょうか」

「あ…ありがとうございます…?」


「そういえば、まだ私たちは名乗ってなかったわね。私はイズシウ・ベルーオン。気軽にイズって呼んでちょうだい。あと堅苦しいのは嫌いだから私には敬語は不要よ」

「お嬢様のもとでメイドとして働いてるシケリ・キエンテと申します~」

「お嬢様ってことは、もしかして貴族の方だったり…?」

 そう質問するユハにイズは笑いながら「違うわよ」と返した。


「私たちは生まれてからずっとこの森で暮らしているの」

「生まれてから…?」

「はい、お嬢様も私も生まれた時からこの森に住んでいるんです~」

 その言葉にユハは驚くとともに、期待をしていた。

「じゃあっこの森に住んでいるなら、森の抜け方とかも知ってるんですか!?」

 そう聞いたユハの目には、ばつの悪そうな顔をした二人が映っていた。


「えっと…それはですね~…」

「…私たち、この森を一度も出たことが無いの」

「え?マジで…?」

 ユハのその言葉に二人は申し訳なさそうに首を縦に振った。

「正確には出たことがない、じゃなくて()()()()()んですよ~」

「何でですか?」

 そうユハが問うと、イズが顔に少し怒りの色を滲ませながら言った。

「私たちはさっき言った『結界』に閉じ込められているの」

「閉じ込められてるって…この森に?」


「えぇ、私たちをこの森に留まらせるための『結界』。私の母が生前に創ったらしくてね、外から来る人間やそれらが関わっているモノ、魔物は私たちに近寄ることが出来ないの。私たちから外の人間に接触しようとしてもダメ。そして極めつけに、私たちが森から出ようとすると途中で森の中に戻される…」

 イズの顔が怒りで染まっていくのをユハとシケリは眺めることしか出来なかった。


「…結界っていうのは本来、何かを守るために創り出す魔法だって本には書いてあった…なのに母の『結界』は違う!これはもはや私たちを守ってない、私たちを封じ込めてる…!」

 母親への怒りと憎悪が混じった声色の前に、ユハはなにも言葉をかけてやることは出来なかった。

 そこに、シケリが流れを変えようと言葉を紡ぐ。


「で、でもその『結界』の効力がこの数時間で薄れているんですよ~」

「え?それまた突然ですね…」

「えぇ突然すぎてビックリしたわ」

 そう言いながらイズはユハの事をじーっと見つめる。

「な、何か俺の顔についt」

「アンタ、『結界』に何かした?」


 突然の質問にユハは困惑する。

「は…?いや、俺はここで眠っちゃってただけで…」

「でも、この場所は結界の核の部分。そしてそこにアンタが眠っていた。これで何もしてないっていうのは無理がない?」

 その言葉に賛同するようにシケリが大きく首を縦に振る。

「いやっでも俺は本当に何も知らなくて…」

「そう言われてもねぇ…そこにある刀から少し呪いが溢れ出してるしねぇ…」


 そう言われたユハは、はっとした。

「そうだ!この刀について何か知りません?俺が起きた時、すぐ傍に置かれてた物なんですけど」

 そう言ってユハは刀を二人に見せた時だった。

「ユハ様、ストップ」

 シケリが何かに気づいたらしく、刀を怪訝な目で見ていた。

「な、何ですか?」

「その刀を上げてください」

 そう言われ、ユハは刀を上げる。

「下げてください」

 次は下げる。


 訳の分からないことを始めたシケリにユハとイズは当惑する。

 そして数回同じことをした後、シケリはイズにこう告げた。

「お嬢様、私たち遂にこの森から出られるかもしれません」

読んでくださりありがとうございます。投稿が2ヶ月も空いてしまってごめんなさい。次は早めに投稿できるように頑張ります。

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