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ひなの1歩のために

 青竹の裾を持つ、一年中花が咲き続ける不思議な梅の木で覆われた梅香雨山(うめのこうやま)。薄紅色の小山の奥には大きな泉に浮かぶ社がある。


 その泉のほとり、一際巨大な梅の木陰の下。うずくまって小さくなった童女がひとり、眉間をしわくちゃにして唸っていた。


「空よ、空をたゆたう雲たちよ、わが声の元につどひたまへ」


  足の間にはこんもりとふくれた小さな畝。ムムムムム……と力む度に赤い鼻緒の足先から珊瑚色のつむじまで震え、山吹の毛先も連動して揺れる。

 

 彼女が力を込めて祈る度に、空に点在していた白い雲がひとつに集まり、やがて灰鼠の大雲が山を覆った。雲たちの勢いは留まることを知らず、次々と四方の彼方から押し寄せてくる。


「あまねく命にことほぎ、大地をうたうは水のしらべ」


 灰色の雲は水分量を増してより暗く、水面のように波打つ奇妙な雲へと姿を変えてゆく。雨の匂いが山に立ち込め、山鳥達は高度を下げる。


「……恵雨雲来(けいううんらい)!」


 童女の祈りと共に、バケツをひっくり返すような大雨が降り注ぐ。この山一体に水を撒き散らした。


 ポンッ


「わ、起きた」


 足元の畝から双葉が芽吹く。それも束の間、双葉はどんどん茎を伸ばし、葉を増やしていく。それだけでは無い。この山の不変の青竹と梅を除いて、全ての植物達が一斉に背を伸ばし始めた。


 彼女は豊穣の太陽神を祀る雨の一族。

 雨ノ宮の巫女娘である。


「がんばれ、がんばれ」


 彼女の応援に応えるように、育った茎は蕾を付け、そして花が綻んだ。

「わ……! うぁ」

 花が開くと同時に童女は膝から崩れ落ちる。力を使い果たしたのだ。恵みの大雨に打たれながら、嬉しそうに笑う。良かった、咲いてくれた。


「あ、ぁわ……」


 されども可憐に咲いた花々は間もなく萎れ、あまねく枯れ、静かに朽ちて眠りについた。


「うぅ……また、できなかったんだ」


  悔しさを逃がすように強く手を握り締め、地面を引っ掻く。本当は甘雨を降らせ、綺麗な花や素敵な実をつけるお手伝いがしたかった。それがここの巫女のお役目なのに、何度やっても全て枯らしてしまう。この水責めにより五年の間に何千、何万もの種を枯らしてきた。今日もまた罪の意識にしょもしょも落ち込んで、朽ちて土に還りゆく花を力無く撫でた。


「ごめんね、ごめんね。またたく間しか見れなかったけれど、綺麗だったよ、長く見れなくてごめんね」


 去っていく雨に打たれながら、しばらく花の死を悼んでいた。かなしくて、くやしくて、辛かった。


「ひいさま、見つけましたよ」


 泉の中から声がする。水面を泳ぐ梅の花びらをかき分けて、黒絹の髪を持つ美しい女が顔を出した。睡蓮の髪飾りに赤い化粧、濡れた白地の着物に赤い斑模様と赤い兵児帯。足は無く、代わりに着物と同じ模様の美しい鱗と尾鰭が水底で揺れる。人魚だ。


「にしぎぢゃん」

「はい、紅錦(べににしき)ですよ」


 安心できる姉さんの顔を見つけた童女は(まなこ)一杯に水を張り詰め、ひしゃげた声で名前を呼ぶ。にしきちゃんは錦鯉の人魚である。


「また空に(うた)わせましたね。修行はもう五日程休むよう言いつけられていたではありませんか」


「うん……ごめんなさい」


「動けないでしょう。大丈夫ですよ。いま、子らが官女を呼んでますからね」


「ごめんなさい。あとで母様(かかさま)にもお叱りを受けます」


「……心配なさってるのですよ。小さなお身体で三日と待たずに、大規模な甘雨を呼び寄せるのです。近頃は食事もあまりお召しにならないでしょう。御母堂(ごぼどう)は心配でたまらないのですよ。もちろん紅錦も心配です」


「でも、たくさん練習しないと、ひな、要らない子になっちゃうもん」

「そのような事は」

「あるもん……しずくちゃんが選ばれるもん」

 

 ひなには分家筋の娘が傍付きとして宛てがわれている。それが雫という名前の娘であり、同じく巫女見習いの五つ上の姉さんである。彼女の才覚は素晴らしく、分家筋ながら既に豊穣の祈りも、雨乞いの祈祷も、神降ろしの儀も立派に身につけているのだ。


 才だけでは無い。


 これがまた気持ちのいい良い娘で、落ちこぼれの主人を見下すことも、能力に傲ることもなく。伸び悩むひなへ一生懸命に教え、慰め、嫌な噂を囁く者は張り倒し、誰よりも怒ってくれる。実に頼もしく優しい姉さんなのだ。


「ひいさま……」


 ひなとて、雫のことは大好きだ。それでも、いつまで経っても上達しない自分に自信が無くなり。このままでは、次代の巫女を求める母は雫を選び、自分は要らない子になるという不安が止まらないのだ。その不安に突き動かされ毎日無理な鍛錬を重ねる。そういう病気みたいに、せずにはいられないのだ。


「ひなちゃん見ぃっけ」

「ぁ。のぶおいちゃん……」


 土に転がっていると、雨具と手拭いを抱えた男がやってきた。彼は忍といって、父の弟にあたる叔父さんである。のぶおいちゃんは、柔らかい布でひなを包むと抱き上げてくれた。


「さっきの大雨凄かったな、おいちゃんびっくりしちまったよ。なぁ、紅姫」

「すごくないよ」

「いいえひいさま。紅錦も、忍さまと同じく思います。ひいさまには素晴らしい才がおありです」

「ないもん」


 むん。と小さな口を尖らせて、叔父の襟元に顔を擦り付けている。褒められたって、素直に喜べないのだ。だって、結局はできてないのだから。慰めに無邪気に喜べる時期は過ぎたのだ。


「ひいさま!!」

「嗚呼、おいたわしや」

「なんとまぁ!」


 連れ戻されたウチのひめ様は青白い顔で泥水にまみれていた。雨ざらしに捨てられた子犬と変わらない姿で帰ってきたので、官女達は悲鳴をあげて卒倒した。いつもはもう少しマシなのである。

 ヨヨヨ……と皆揃って目眩を起こしていたが、クシッと小さなくしゃみを聞くと正気に戻り、大慌てで湯へと姫を放り込んだ。


「……めんなさい」


 ホカホカになったひなは布団の上に転がされて、母の小言を聴きながら粥を啜る。分かっていたことだが、母の叱る声に更に落ち込んでしまい、膝を抱えて丸まった。沸き立った涙は意地で目の裏に戻した。


「努力できることは貴女の美点です。ひたむきに取り組む姿勢は、賞賛に値しましょう。ですが……」

「……」


 布団の中で丸まり直して口を尖らせた。いつも通りのお叱りは聞き飽きていたし、理解せども反論が口の中でモゴモゴ泳いでいるのである。

 そんな娘の姿に母は困ったように慈愛のため息を吐いた。


「これじゃいけないわ。……ひ、 ひな。あのね、よく聞きいて頂戴。鍛錬というものは、ただ一生懸命にすれば良いというものでは無いの。無茶することと、頑張ることは違うのよ」


「無茶してません」


「しているわよ。起きていられないのも、ご飯が食べれないのも、力が出ないのも。ひなの身体がね、もうやめてーって言ってるの。ひなの身体はひとつしかないのよ、壊れて動けなくなってからじゃ……」

「ァ……ワ、いっ、イヤ!! だって、らって、やらないと、できないんだもん!!」


 途端にわーっと決壊した娘に母は驚いて固まる。

 雨ノ宮の巫女として何も出来ない自分に沸き立つ巨大な自己嫌悪から、自分を守っていた最後の糸は『毎日欠かさず鍛錬に励むこと』即ち『努力を続けることができる自分』であったのだ。それを母に叱られ、糸を切られたのである。


「がんばることも、できなくなったら、ひなは、もうなんにもなくなっちゃう、いらない子に、なっちゃうよぅ」


 正論でも、優しい言葉でも、追い詰められている彼女にとって、否定はすべて平手打ちされるようなものだった。聞きたくなくて、黙って欲しくて遮ったのだ。

 押さえ込んだはずの涙がボロボロこぼれて、無い力を振り絞って叫んだ。語彙の乏しい自分にできる唯一の自己防衛だった。


「かかさまは、ななつのころには、できてました!! しずくぢゃんらって、ここのつになる前に豊穣の儀をじょうずにできました!! 他のことらって、しずぐちゃんの、ほうが、できる、ひなは全部できないもん!! れんしゅうしないと、もっと、できないまま、かかさまの、おやくにたてない、いらない子になっぢゃうもん、れんしゅうしなくちゃ、もっと、もっと、やれば、かわるんだもん、ひな、できるんだもん」


 わーん。とストレスをぶちまけるように発された声は、社中に響きわたり、泉を揺らした。心の底から解き放たれる強い感情と言葉には、おのずと力、言霊が乗る。


 それに気がついた母は焦った。慌てて安心させるように抱きしめる。


「ひな、ひな、落ち着いて。貴女は何ができても、できなくてもいいのよ」


 言霊に使われるのは本人の霊力なのだが、ひなは絶賛ガス欠である。では、この溢れる霊力は何か。無理やり生命力を変換して捻出しているのだった。火事場の馬鹿力のような現象である。

 しまっていた感情の吐露が自己防衛の手段だったのに、いつの間にか己の首を絞め始めたのだ。


「大丈夫だから、要らない子なんかにならないわよ。落ち着いて、ね。力を抑えて頂戴。今は弱ってるのに、いけないっ。大丈夫、大丈夫だよ」


 次第に息をうまく吐くことができなくなり、伴って吸気が荒れてくる。吸いすぎて過呼吸を引き起こし始めているのだ。

 パニックを起こした娘を抱き締めて、必死に呼びかけるも、もう声が届いていない。涙を流しながら、引きつるような呼吸を繰り返していて、目が合わない。


「待って、お願い、落ち着いて、死んでしまう、かあさまが悪いの、泣かないで、息をして……!」


眠れ(スレアペヌム)!」

「ヒッ、あァァっぁ、ヒィ、ック……フー、フーっ、フー……スゥ」

「ひな、ひな、あァ、イヤ……っ」

「落ち着け義姉(ねぇ)さん、眠らせただけだ」

「眠った、だけ」

「そうだ。眠ってる。そら、心地よさそうな寝息だろ?」


 くたぁ……と腕の中で泣いてる子は、すぅすぅ眠っていた。


「忍くん……あ、ありがとう……娘が、ひなが、このまま死んでしまうかと思った。こわかった……ありがとう、ありがとう」


 瞳に張り詰めた水を抑える姿はひなと同じだった。


「大したことでは無いさ。覚えさせられたマホウが早速役に立ったな」

「マホウ、今のが噂に聞く西洋の道術ね……助かったわ」

 

 母はしばらく子供を抱き締めて動けなかった。震える程恐ろしかった。されどもこれは、過去に自分が施してしまった教育(ドク)が回った、それだけの現実だ。


「来てくれてありがとう……本当に。また恥ずかしいところを見せてしまったわね」


 もう反省し改めようと鋭意努力中なのだが、一昨年まで彼女の教育は独善だった。娘を自分とは完全に別の個体であると認識できず、自分の分身であるかのように扱ってしまったのである。自分にできたのだから血を引く娘も同じであるはずだと。できないのは娘の努力不足であると。本気で彼女のためになると思って、熱心に子育てしていたつもりだった。素直で聞き分けが良い()も母の厳しさを受け入れ、健気にも己と母を信じて励むことを選んだ。


 叱られながら日々実らぬ鍛錬を繰り返し、いつしかソレは強迫観念に変わっていた。お日様のような笑顔の絶えない娘は、気がつけば健やかに病んでいる。母の愛情をすっかり誤認していた。


「私、もうずっと悔いて、間違いだったと反省して、態度も改めたわ。でも、もう、消えないんだわ」


 母が毒に気がついた時には、娘はボロ切れになっていた。反省し態度を改めたとて、毒に犯された彼女はもう、母から無条件に愛されることを信じることができない。

 自分はいつだって無償の優しさを躊躇いなく振りまいているのに。母のソレは愛を渡されていると認識出来ない、ただの娘を愛そうとしている事の現れであると知らないのである。


「義姉さん、それは時間がかかることだ。変わると決めたのだろう。あんたがそんなんでどうする。焦ってどうにかなるもんでもないだろう」


「……そうね。ごめんなさい」


 母もまた。娘が笑う度、涙を流す度、無茶を重ねる度、巨大な自己嫌悪に胸を貫かれるのである。


「……ひなちゃんだけじゃない。アンタもだいぶ参ってるだろう。一度距離を置いてみたらどうだ。実は開国に伴って、西洋の道術学校への渡航生徒を国が募集しているんだ。女生徒も募集されているんだが……まァどのお家も嫁入り前の姫さんを出したがらなくてな……」


「悪いけれどウチだってお断りよ……外つ国なんて何があるかもわからないところへ、愛娘を出すなんて有り得ないわ。私は平気よ。私が傷を付けてしまったのだから、母として傍にいて癒してやらねばならないの。それだけが私に出来る償いよ」


 人は簡単に変わらないのである。独善を悔いた彼女だが、傍に居て娘を癒すこと(自分のしたいこと)が最善であり、娘のためになると信じて疑わない。


「俺も教師として常駐する。あの子の安全にきちんと目を光らせる。それに、アンタら親子にとっていい療養になる。あの子の世界は今とっても狭くて、母親(アンタ)しか見えてない。だからアンタの巫女(むすめ)であることだけに固執して、無茶な修行が辞められない」


 忍とて、人様の親子関係に口を出せるほど立派な親などでは無い。それでも、幾多の武士を育ててきた指導者として、かける言葉は持っていた。


 そもそも、なぜ他所様である彼が態々首を突っ込み世話を焼いてるかといえば、兄に頼み込まれたからである。この影を差した家庭環境を打破すべく、ひなを一度外へ出そうと考えたのは兄であった。しかしこの男は奥方にめっぽう弱く、何か意見を出そうも一言二言返されるだけでもう、適わなくなる。自分のダメさを理解し、それでも何とかしたい想いから、弟に救難信号を出したのだった。


 当然「えぇ……」と介入を渋っていた弟だったが、涙と鼻水を擦り付けながら懇願され、『……西洋へ渡航させる女学生を探す任も片付けば御の字か』と渋々手を貸すことにしたのが顛末である。


「一度、ひなちゃんを『雨ノ宮の巫女姫』から、なんのしがらみもない別の環境へ連れ出してみないか。ここの九十九神や人魚達以外に、友達もまだ居ないんだろう。依存への一番の治療は依存先を増やすことだ。友達ができれば、彼女の心も安らぐだろう」


 これは、彼の言う事はきっと正しいと思った。女の中で「然り、一考の価値あり」と頷く自分がいるからだ。

 されど、素直に是と言えないのは何故だろう。胸の内に渦巻く者が藻掻くのだ。嫌だと。


「で、でも、今あの子を外へ出してしまったら、それこそ私に捨てられたと、見限られたと思ってしまうわ。もっと傷付けてしまうかもしれない」


 口をついて出たのは自己弁護だった。

 女は気がついてしまいそうだった。また自分は、自分の為を『娘を思って』と言い聞かせているのだと。


 -忍が私の建前を暴いていく。


「義姉さん、アンタはこの子に何を求めてる? 後継か? 違うな。従順さか? それも違う。ただ娘が健やかに育てば幸せだと、アンタは思ってるはずだ。だがな……それはアンタにしかできないことじゃない。いや、むしろアンタだけじゃできやしない事だ」


 忍が言葉を紡ぐ度に、自分の娘に対する愛情のカタチにヒビが入る。金槌で打ち込まれるような、壊されるような。嫌でも理解ってしまう。


 声にならない息が「やめて」と言った。


 忍の声は穏やかに、それを無視した。泣き出しそうな子供みたいに歪んだ女の眉を見ていたのに。


「……母親って存在はもちろん偉大さ、子どもにとっては特に大きい。だが、その大きな存在が包んで離さなかったらどうなる? 風を恐れて囲ってしまえば、日も雨も浴びられない花は開かないぞ。……自分の存在に奢るな。アンタだけじゃ、母親ってだけじゃできないことがあると受け入れろ。……あの子の目を塞いだのはアンタだ、義姉さん。今は、その手を退ける時じゃないのか」


「あ……」


 ガツン。音を立てて自分が抱きしめていたものが砕けて、中から変わらぬ毒が顔を出す。嫌でも、理解るしかなかった。


「嗚呼……そうなのね。私はまだ、変わってなどいなかった……」

天音(あまね)さんッ!」


 女が暗い顔で項垂れた時。スパーンッと音を立てて襖が開いて、男がやってきた。

「みちるくん」

「兄さん……」


 やって来た男は忍の兄で、女の夫だった。じわり涙を浮かべている。弟に任せるつもりが、妻のショックを受けて落ち込む姿に我慢できずに出てきてしまったのだ。


「天音さん、ごめん、ごめんよ。僕頼りなくて、一人で育てようと思わせてごめんよ。駄目な男でごめんよぅ、君を独りで泣かせてごめんよぉぉ」


 天音にしがみついて、わぁぁぁっと泣き始めた男に、彼女は驚くあまり間抜けな顔をしてなすがままだった。

 忍は呆れたように、「オイオイ兄さん、そういうのは俺が帰ってからやってくれよ……俺は暫く席を外す」と言って立ち上がった。2人きりにしてやった方がいいだろう。どうあれ、自分の言葉を受けて傷ついただろうから。


「泣いちゃいないわよ。勝手に泣かせないで。……泣いてるのは満くんじゃない」


 襖が閉まると、はたと我に返り、ツンと目を伏せた。 


「貴方が悪いんじゃないの。全部私の自己満足。……ひなのこと、言えなかったの。恥ずかしくて。貴方が頼りないとかじゃなくて。私、間違えてしまったから、一人で取り返したかったの。たぶん。一人でできると思いたかった。私、ずっと完璧だったから。初めて大きく間違えて。貴方に幻滅されたくなかっただけ。……貴方の方がずっと優しくて、愛情深い人だから。私の苦手なことが得意な人なのだから、頼れば良かった。相談すれば良かった。……この子ね、貴方によく似てるの」

 

 気が付きたくなかった自分の醜さを突きつけられて弱っていた。だからか、随分素直に懺悔ができた。

 

「天音さん……僕だってそうだよ。僕も、この子の父親なのに。自信が無くて。君だって人なのに。間違えることのある、人なのに。君が言うなら正しいと、思考を放棄してたんだ。ごめんね」

 

 コク……と腕の中で小さく頷いてくれた嫁さんに、笑みが零れる。そしてスヤスヤ眠る娘にも謝った。

 

「ひなちゃんもごめんね、ごめんね。父様何もしなくて。天音さん、僕考えたんだ。できるなら外にこの子自身が興味を持って欲しくて」

 

 -お友達になれそうな子を呼んでみようと思うんだ。

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