ん。こころ安らかなり。
あ!
夢を見る。この夢を見る時は決まって同じ時に目が覚めるんだ。その夢にはおれの他に1人の女の子がいるんだ。その子は泣いている。おれはその子になんで泣いているの?って話しかける。その子は答える。「私のせいであなたが死んじゃうの」
だからおれはその子を安心させるように言うんだ。「おれは死なないよ。信じられないなら、毎年君の元に帰ってくるよ!この暑い夏の日に君のところに帰ってくる!だから泣かないで!」
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ピピピピッピピピピッピピピピッ
「んんんんんんんんん」
うるさい。この真夏日の朝に耳障りなアラームが部屋に鳴り響く。おれは片手で叩きつけるようにアラームを止めた。
「今日、学校に行けば、、夏休みか」
今日は一学期最後の登校日だ。
「かなめー!!おきなさーい!!」
「おきてるよー!」
おれはため息をつき、部屋を出た。
朧気な足で階段を降りて、テーブルにあったものを口に入れ顔を洗い服を着る。7歳の頃からいままでのルーティンをして、鞄を持ち靴を履き「いってきます」と一言いい外に出た。お母さんからの「いってらしゃーい」の言葉を背に学校への道を歩き出す。
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「おーーい!要!」と後ろから声がかかる。
「おはよう太陽!」そう彼に一言告げると、「おす!おはよ!」とかえってくる。
彼は日比野太陽。小学3年生の頃からの付き合いであり、そこから高校生になった今までずっと一緒にいる。
「今日が終わるといよいよ待ちに待った夏休みだぜ!」と嬉しそうに話す。
「要は夏休みなにするんだ?」
「んんー。一応あさってからの1ヶ月おばあちゃんの所に行かないといけないんだよね」
「なんで?てか1ヶ月もかよ!」
「なんでも新しい家を建てたいからって倉庫にあるものを整理するらしいんだけど、それを手伝って欲しいらしい」
「げええええ。まあお前のばあちゃんも歳だもんな。今年でいくつだっけ?」
「89。まったく見えないけどね。」
「でもなんでまたお前がそれをするんだよ?他にも親戚いるだろ?」
「いるけどみんな割かし忙しいからね。世間は夏休みでも会社は仕事ある人多いし、旅行に行く人とかもいるから」
「あぁー。おまえ、暇だもんな」
失礼なやつだな。たしかにおれは暇だがそれはいつか来る日のために力を蓄えているだけである。
「そういう太陽は?」
「おれかー?おれはバイトだろ?それに彼女とデートもしたいしなー」
「あーはいはい。もういいようざいうざい」
「はっはっ!羨ましかろう!いいぞ彼女は!お前も作れよ!」
「作ろうと思ってそんなすぐ作れたら世の中の男子は苦労しないんだよ!」
そんなことを話していると目的地である学校に着いた。
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「おっはよー!」太陽が元気よく教室の入口から挨拶しながら入っていく。おれとその後ろにつきながら足を踏み入れる。
「おはよ!太陽」「太陽はよー!それと月乃もおはー」
「お、おはよう」なんとかクラスメイトに挨拶を返し、自分の席に着く。
「ふぅ」疲れた。このクソ暑い中登校するだけでも普段運動をしない人間にとっては過酷なのである。
太陽を見ると皆に絡まれているところだった。
昔からそうだ。太陽は人と接するのがうまい。分け隔てない優しさ、だれも不快にさせない会話に、あの眩しい笑顔。他にもあいつのいい所を挙げるときりがない。流石は太陽とおれは自分のことじゃないのに謎に胸を張っていた。
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「えぇー、明日から夏休みが始まりますが、羽目を外しすぎないよう........」
暑さに耐えながら校長先生の話を聞きながら、、拷問か?この時間は。
みんなも思ったことがあるだろう。とくに夏の集会で。体育館という閉鎖空間に全校生徒が集まり、教師陣の話を長い間座りながら聞く。ケツが痛い。汗は垂れてくる。前髪がデコにへばりついて鬱陶しい。
(早く終わんないかな)
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「やっと終わったあ!まじで話長すぎだろこの学校は!」
太陽と愚痴りながらおれたちは下校していた。
「今日部活は?休み?」
「今日は後半組。だから家帰って飯食って着替えてだらだらしたらまた行かなきゃなんねえ」
あぁ、めんどくせぇーと太陽を嘆きを聞きながら朝来た道を歩いていた。
「要さー。そろそろ俺以外のやつにも慣れろよー」
唐突にそう言ってきた。
「なにさ急に」
「おまえ人見知りすぎだろ。あのクラスになって1学期たつのにまだ慣れねえのかよ」
「な!失敬な!慣れてるわい!今日だって太陽がいない時は外から覗いてきた鳥と会話してたわい!」
「お、おまえなぁ。人と会話しろよ、、」
おれはある事がきっかけで無意識にも人と距離を置いてしまう、らしい。太陽曰くだが。多分それは正解だ。心のどこかで線引きをしてしまっているのだろう。
「まあそれはおいおいどうにかして行くとして、それよりも!まずは俺以外にも気兼ねなく話せるやつくらい作れよ!」
「はいはい。善処しますよ」
気づけば太陽の家の近くまで来ていた。「じゃあーなー」と太陽と別れおれは家に向かって再び歩き出した。
「あっ」そういえば今日から近くのコンビニで限定のアイスが発売されるんだった。その名も「ガチガチちゃん。乙女の青春味」とかいう何故か無性に興味が湧く製品名だ。せっかくだし買って帰るか。
コンビニに入りお目当てのものを手にレジに並ぶ。「あっ。いらっしゃーい。アイスひとつでいいの?」と大学生くらいのお姉さんに聞かれた。この人はずっとここでバイトしているらしい。おれがいくとよくレジの担当をしていて、なんだかんだ仲良くなった。「は、はい大丈夫です」と適当に返事をしなんとか山場を乗り越えた。
(やっぱ太陽以外だと変に緊張してしまうな)
そんなことを思いながらアイスの封を開けた。ピンク色のなんともフルーティーな香りだ。ではでは早速頂きます。その時、頭上から影が通り過ぎた。そしておれが先程まで持っていたアイスが白に染まっているではないか。
「、、、、」
ウン。クソかけられた。体にかからずに良かったとほっとするべきかそれとも限定のアイスが食べられずに絶句するべきか。
(あ、あたらしい、ものを、買うべきか)
チラッと先程並んでいたレジを見る。
(あ、まだいる)
今いくのは流石に気まずい。今日のところは諦めて帰るか。
とほほ。
おれの気持ちとは正反対な爽やかな風が頬をさする。
うん。暑い日差し、爽やかな風、子供たちのこえ、車の通る音。そして、糞まみれのアイス。はは、心、安らか、なり。
ん、5点