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恥ずかしがり屋な私

小学校四年生の国語の授業中。

一人の男子生徒が椅子を引いて立つと教科書を音読し始める。

句点のところまで読むと席に座り次の人に交代する。

その光景を不安そうに眺めるマスクをつけたサラサラの長い黒髪の少女。さくら

ついに彼女の番がやってきて恐る恐る立ち上がる。

他の生徒たちが黙ってじっと見る。視、線、が彼女に集まる。

両手でギュッと教科書を握りしめる。

彼女は音読を始めようとする。

さくら『、、、』

教室の中が静寂に包まれる。

どんよりとした嫌な感じの雰囲気。

さくら『えっと、、あっ、、、』

声が出ない。

、、、

涙目になり必死に溢れそうになるのを堪える。

暫くして先生が

先生『東雲さんありがとう、次の人、彼女の分まで読んでください。』

男子『えー!?、はい、わかりました、、』

男子生徒が嫌そうに返事をした。

彼女は席に座ると涙が溢れてきてしまった。

さくら『ご、ごめん、なさい、、、』

授業は一時中断された。

授業が終わった休み時間。

ポニーテールが似合う明るくて活発な印象の少女奈津橘が俯いて座っているさくらに椅子をくっつけて座り手を握ってあげている。

奈津橘『もっと早く私が交代すればよかったね、頑張って音読しようとしてるように見えて様子みちゃった、、ごめんね』

さくらは首を横に振る。

男子生徒『東雲泣いてるの〜?』

男子生徒『また泣いてる〜!』

活発そうな男子たちがニヤニヤ揶揄いにやってくる。

奈津橘『うるさい!男子ども!キンタマ蹴るわよ!』

奈津橘の怒声に男子たちが嬉しそうに逃げていった。

さくら『奈津橘ちゃん、、、』

奈津橘『さくのことは私が守るからねっ!!』

さくらの顔を覗き込みながら言った。

さくら『、、ありがとう、、』

賑やかな食堂。

じゅるじゅるじゅる!!

四人席を流星と二人隣同士ですわり味噌ラーメンの大盛りを食べている。

この量で三百円ってコスパ良すぎる。

ラーメンを食べながら昨日の赤点補習のことを話した。

流星『やっと話せれたのかよ!』

かんた『だって、、話しかけるとかドキドキして無理だったよ!倒れて保健室運ばれてお礼言わなかったら一生話せれなかったかも』

じゅるじゅるじゅる

流星『そっか、さくらさん優しい人でよかったな。噂なんか当てにしない方がいいね』

かんた『そしてだよ!なんとさくらさんあの奈津橘さんと友達だったんだよ!!奈津橘さんも教室に来てちょっとだけ話したんだ』

流星『ごほっ!』

豪快にむせる。

流星『はぁ?まじかそれ!奈津橘さんと喋った??』

俺は得意げに流星の事を見る。

流星『くっそぉ、俺も赤点取ればよかった』

かんた『ようこそ赤点補習会に!』

流星『恋人は無理だけど友達になりてぇぇよ。お前羨ましいわ!どんな感じだった?』

かんた『ちょーフレンドリーな感じ』

奈津橘『あれー?かんたじゃん!よっ!』

かんた『そっそ、こんな感じ、、、えっ!?奈津橘さん!!』

いきなりの登場にびっくりする。

お盆を持っていてその上にカレーが置いてある。

これから食事ならしい。

奈津橘『隣の子はかんたの友達??こんにちは私西城奈津橘、二年生です。』

左目を閉じてウィンクした。

流星『、、永遠、流星、で、す』

奈津橘『とわりゅうせい??名前かっこよ!漫画の主人公かっ!』

流星『、、、』

照れた様子で固まっている。

奈津橘『かんた、流星、お願いあるんだけど相席していいかな?、、空いてる席なくて、、彼氏も一緒なんだけど、、』

最後彼氏も一緒と言う時は声を小さくして遠慮気味に言ってきた。

かんた『別にオッケーですけど、、』

俺はよかったが流星はどうだろう。彼氏にめっちゃ嫉妬してたけど、、

流星『だ、大丈夫っす』

彼もオッケーならしい。

奈津橘『やった!ありがとう!!』

ニコッと笑って踵を返した。ポニーテールがふわっとなる。

太陽のような眩しい笑顔だった。

流星『えべぇ、めっちゃ可愛い』

彼女に聞こえないように俺に耳打ちしてくる。

かんた『おっ、おう』

奈津橘『達磨!!こっちこっち!!』

お盆を持ちながらその場でぴょんぴょん跳ねる。

コップの水をこぼしそうでヒヤヒヤする。

彼女に気づいた彼が近づいてくる。

五十嵐達磨だっけ?やばいめっちゃイケメンがやってくる。

イケメンだけじゃない、なんかカリスマ性のあるオーラを纏っているようで思わず萎縮してしまう。

達磨『席見つかった?』

奈津橘『相席お願いしたらオッケーしてもらえたの』

達磨、、さんは俺と流星を交互に見る。

達磨『奈津橘の陸上部の後輩?』

奈津橘『ブーっブーっ!ハズレ!手前の子が赤点補習生のかんたで隣がその友達の流星です』

かんた『その紹介の仕方なんとかならなかったんですか?』

彼女の事をジト目で見ながらツッコミを入れた。

奈津橘『ごめーん』

達磨さんがちょっと口角を上げる。

達磨『ありがとな』

奈津橘『私の彼氏の達磨です。ちょっとうざいとこあるけどいい人だから遠慮しなくて大丈夫だよ』

達磨『その紹介の仕方なんとかならなかったのかよ』

すげぇ、、俺のツッコミにかぶせてきた、、

むかえに隣同士で座った。

奈津橘『お腹すいた〜いっただきまーす!』

カレーをスプーンいっぱいにすくって口に入れた。

ほっぺに手を当てて子供っぽい可愛らし笑顔をする。

俺と流星は黙ってうっとり見惚れてしまっていた。

みそラーメンと鼻の下が伸びてしまっている。

達磨さんもカレーならしくカップル同じものを食べていて羨ましい、、

俺もさくらさんと、、、なんちゃって。

奈津橘『二人は何か部活に入っているの??』

かんた『おれ帰宅部です』

流星『俺サッカーです』

奈津橘『サッカー!?流星顔かっこいいしモテるでしょ?』

流星『いや、そんな事ないっす、、』

謙遜しながら言う。

かんた『いやお前もてるだろっ!』

ちゃんと流星にツッコミを入れてあげる。

高校に入学する直前に別れてしまったらしいが実際中学の時は他校に彼女がいた。

奈津橘『サッカーかぁ練習大変でしょ?』

流星『大変です。たまにサボりたくなるけど好きなんで頑張れます』

流星かっけぇ

奈津橘『すっご、私陸上部なんだけど毎日サボりたいと思ってます、、』

俺と流星二人で苦笑いする。

じゅるじゅるじゅる

だいぶ伸びた味噌ラーメンを啜った。

奈津橘『かんた帰宅部??なんでぇ?部活やらないの??』

俺にもちゃんと話を広げてくれた。コミュ力少し分けてください。

かんた『ゲームするのが好きで、学校終わったらすぐにやりたくて、最近は配信とかも始めたんです』

配信という言葉に黙ってカレーを食べすすめていた達磨さんがちょっと反応した。

奈津橘『配信!!そうなんだかんた配信者なんだぁ。そしたら達磨に色々聞いてみるといいよ!彼登録者多くて人気配信者なの、主にゲーム配信メインにやってるよ』

かんた『この学校の噂で聞いてました、す、すごいですね』

達磨さんの事をチラチラ見ながら言った。

この前流星に聞かされていなかったら今ここで驚いていただろう。

奈津橘『達磨の配信にでたら人気者になれるかも』

かんた『ほんとですか!?』

達磨さんはスプーンを置くと真剣な表情になって俺の事を見てくる。

風格のあるその表情に俺は肩をすぼめる。

達磨『始めたばかりって言ってたよね』

かんた『、、はい』

達磨『やめておいた方がいいよ、ちゃんと自分のペースで増やしていった方が良い。近道なんてないからな』

俺を怖がらせないように最後ちょっと表情を柔らかくして言ってくれた。

彼の言葉が俺の胸に刻まれた。

近道なんてない。そうだよな。

もし彼の配信に俺が出て認知されて登録者が増えたとしよう。でも俺は実力不足で登録者は減っていく一方だと思う。そうなればモチベーションだって下がっていくだろう。しっかり実力と登録者を一緒に増やしていった方が良い。

彼は俺のために言ってくれたんだ。すごい、、、

かんた『はい、、頑張ります』

達磨さんはカレーを口に入れ始めた。

奈津橘さんは気を悪くしないでと申し訳なさそうに手を合わせている。

それからも四人で談笑が続いていく。

達磨さんはあまり喋らないから実際は三人でかな。

そして話題はさくらさんの事になった。

奈津橘『かんた、あのね、一つ聞いて欲しいことがあるの』

かんた『なんですか?』

改まってなんだろう。奈津橘さんからお願いされることっていったい??

奈津橘『かんたって放課後さくと一緒にいられるんだよね?』

かんた『えっ??はい、、席が隣なので』

さくらさんの名前が出てきて戸惑う。

奈津橘『さく私のために生徒会選挙のスピーチするって昨日言ったよね??』

かんた『言ってましたね』

流星『え?奈津橘さん生徒会選挙でるんですか?』

奈津橘『そうだよん』

流星はきっと昨日の俺と同じ事を思っているだろう。

奈津橘『その事なんだけど、かんた....さくのスピーチ作るのちょっと気にかけてあげてほしいの』

かんた『え!!俺がですか!?なんでぇ?奈津橘さんがしてあげた方が良いと思いますけど、、俺ちょっと話したぐらいで仲良いとかじゃないですし』

奈津橘『そうなんだけど、私が手伝うって言ったらさく断っちゃって、大切な想いだから本番当日に一度だけ聞いてほしいって言われちゃって、、まぁ私のスピーチを私が考えるのもどうかなって思うし、、』

俺は相槌を打つ。

奈津橘『どうやらさくまだスピーチの原稿全くできてないみたいで、、話すこと苦手だからどうやって考えを伝えたら良いのかうまくまとまらないのかしら、、きっと一人で苦しんでると思うの、、』

心配そうに言った。

昨日の感じからすれば苦戦しているのは明らかに分かった。

このままだともしかしたら本番まで間に合わないかもしれない。

でも一つ疑問に浮かぶ。どうして俺なんだろう。

かんた『どうして俺なんですか?』

ど直球に聞いてみる。

奈津橘『頼めれそうな人がかんたしかいなくて、、その頼めれそうな人が人当たりよくて優しそうだからかな、昨日今日話してそう思ったの』

奈津橘さんからそんなこと言われて照れてしまう。

流星を見るとやってあげなよと眉毛をヒクヒクさせていた。

奈津橘さんがお願いと頭を下げてくる。

えっ!!そんな事しないで!!

まてよ?スピーチを一緒に考えるってことはさくらさんといっぱい喋れるってことじゃないか。そしたら仲良くなれるかも、、えへへへ

下心全開。

誰かさっき彼女の言ったこと取り下げてください。

俺は胸にポンと手を当てて、、任せろい!!と言った。

奈津橘『本当に!!ありがとう!!』

曇っていた表情が明るくなった。

たまたま昨日スピーチについて調べていたのでノウハウはある程度わかっていた。

(課題は全く進んでいない)

それから時間がくるまで四人で会話を楽しんだ。

全員完食して午後の授業に備える。

奈津橘さんと達磨さんは俺たちにお礼を言って席を立つ。

奈津橘さんからよろしくねと改めて言われる。

二人が去っていく姿を眺めている。

流星『なぁかんた』

かんた『ん??』

流星『午後の授業めっちゃ頑張れそう』

かんた『、、おう、、』

流星は奈津橘さんと話せれて大満足といった様子。

俺たちも片付けをして教室に戻った。

多目的室に向かって軽やかな足取りで向かっていた。

さくらさんに会えると思うと地に足がつかない。

心が躍りドキドキワクワクする。

さくらさんの居る多目的室は今俺にとっては青空の下の美しい花畑だった。

鼻歌なんか歌ってしまい階段を一段飛ばしで上がる。

ツルツル滑る床をさあーっと上履きで滑って歩数を減らす。

ガラガラ

ドアを開けると窓際のいつもの席に彼女が外を眺めながら座っている。

ドキッと俺は肩が上がる。

ゆっくりとドアを閉めて慎重に自分の席に移動する。

彼女の上品な雰囲気がそうさせてしまう。

リュックを机にそっと置いて座る。

スゥーッと深呼吸して心を落ち着かせる。

かんた『こっ、、こんにちは、、』

彼女に挨拶をする。

心臓がドクドクする。

さくら『、、、こん、、にち、は、、、』

身体を少しだけ向けて目は合わなかったが挨拶を返してくれた。

小さな声が空気に溶けてしまう前にしっかり言葉の一つ一つを両手ですくって耳に入れる。

もう一度深呼吸してさっき奈津橘さんから頼まれた話をする。

かんた『あの、、』

彼女は不思議そうに次俺が何をいうのかを待っている。

かんた『さっき奈津橘さんからお願いされたことがあって、、スピーチのことなんですけど、、』

さくら『えっ!??』

俺からスピーチの事について聞かれるなんて思ってもいなかったので驚いてしまう。

かんた『困っていたら俺協力するので言って下さい』

彼女は目を伏せてギュッと手を握って胸に押し当てる。その手は小さく震えている。

さくら『、、大丈夫、、です、、』

震えた声で小さく言った。

かんた『一人で考え込まない方がいいかなって思います、、俺放課後暇だし、一緒に考え、、』

たったったったっガラガラ!!

目の前に彼女が居なくなっていた。

スクールバッグをギュッと抱え込むと俺から逃げるように教室から出ていってしまった、、

俺は状況が理解できずにボーっと彼女が座っていたところを眺めている。

しまった、、、

身体に力が入らない。無気力に思考が始まらない。

どうしよう、、俺嫌われた、、

窓の外から光が差し込んでいるのに真っ暗で真っ暗で真っ暗。

昨日みたいに意識を失ってしまった方が楽だった。

目の前にある現実を受け止めることができない。

心にぽっかり穴が空いたような気がして何も感じない。

担当『それでは課題に取り掛かって下さい。あれ??東雲さんは?』

先生が俺に何か言っているが頭の中をサッーっと流れていった。

それからリュックから課題を取り出しもせず補習の終了時間の十八時までただじっと何もしないで座っていた。

何もしないで?何もできなかったの方が正しい言い方かもしれない。

先生が終了を告げて帰っても良いのだが身体が動かずずっと席に座ったまま。

時間だけが一刻と過ぎていった。

外は日が落ちてきて暗くなってきていた。

ぽたっぽたっ

机の上に大きな雫が落ちる音が静かな教室に響き渡る。

彼女に嫌われて失恋してしまった現実を受け止めてしまい涙が溢れて止まらない。

肩をガクガク震わせて声にならない声でただひたすら泣いた。

ガラガラ

二人の様子が気になった奈津橘さんがやってきたのだが

奈津橘『かんた?どうしたの?』

かんたの様子に慌てて駆け寄る。

優しく背中をさすってくれる感触が伝わってきた。

その優しい感触がほんの少しだけぽっかり空いた心を埋めてくれた。

かんた『なずみざん、、おでぇ、、ざぐらざんに、、、ぎらわれぢゃっだ、、』

それから約三十分彼女が俺のことを黙ったまま背中を優しく撫でてくれた。

俺は涙枯れ果て少し落ち着きを取り戻した。

奈津橘さんはその様子を見ると隣の席の椅子を持ってきて脚を組んで座った。

奈津橘『大丈夫?落ち着いた?』

黙ったまま頷く。

奈津橘『何あったか話してくれる?』

黙って頷く。ゆっくりと俺は口をひらいた。

かんた『さくらさんに、スピーチ一緒に考えようって、言ったら、、教室から、出て行ってしまって、、』

奈津橘『そっか、、ごめんね、、私が頼んだせいでかんたのこと傷つけちゃったね、、』

表情を曇らせながら言った。

太陽みたいな可愛い顔の彼女を雲で隠して見えなくしてしまった自分が情けない。

俺は首を横に振る。

奈津橘さんのせいではない。

下心全開で彼女の心を覗き込もうとした俺が悪い。一番傷ついたのはさくらさんだ。

かんた『傷ついたのは、、俺じゃないです、、さくらさん、、です、、』

俯いたまま呟くように言った。

かんた『さくらさんに、、嫌われちゃった、、』

奈津橘さんは何か考える表情をすると

奈津橘『さくはかんたのこと嫌いになったりしないよ』

そう言ってくれた。

どうしてそう言い切れるのか分からなかった。

奈津橘さんは表情を和らげる。

彼女の明るさ、優しさが俺の身体に溶け込んでいって少し気持ちが楽になる。

暫くお互い黙ったままになる。

奈津橘『一緒に帰ろうっ、コンビニで何か食べて行かない?私奢るから』

首を横に振る。

食欲がもどったはずなのに今は何も食べたいとは思わなかった。

奈津橘『なら私がコンビニ行くのに付き合ってほしいなぁ!、、ね!一緒に行こっ!』

彼女の優しさが俺のぽっかり空いた心をパズルのピースのように埋めていってくれる。

彼女の優しさについていく事を決めて小さく頷いた。

彼女がニコッと笑う。

もし今ここに奈津橘さんがいなかったら俺は崩れてしまって修復不可能になっていただろう。

奈津橘さんの後をついてくために席を立つ。

ぎしぎしと音がなるような錆びついた身体を頑張って動かす。

奈津橘さんはそんな俺をドアのそばで待ってくれる。

こうして百年ぐらい、いた気がする多目的室を出た。

泣きまくったせいか目が痛い。きっと真っ赤になっていると思うのでなるべく他の生徒に気づかれないように俯いていたが誰にも会わずに玄関まで行けた。

靴を履き替えて外に出ると日がほとんど沈んで薄暗くなっていた。

外の心地よい風が身体に当たって気持ちがまた少し軽くなる。

外の気候も俺の事を励ましてくれるみたいだ。

奈津橘さんと合流して校門を出る。

いつも帰る時に聞こえてくる野球部の掛け声は聞こえず練習を終えていた。

たったったっ

隣を歩く彼女のローファーの音が聞き心地が良い。

すれ違う車はライトが点灯していて眩しい。

かんた『さくらさん、俺の事を嫌いになっていないってどうしてわかるんですか?』

さっき思った事を聞いてみる。

奈津橘『ん??、、わかるよ、、ずっと一緒にいるから、、さくはまぁーちょっと恥ずかしがり屋すぎるところあって周りから冷たい人って思われがちなんだけど、すっごい優しい人だから』

かんた『そうなん、だ』

呟くように言う。

奈津橘『かんたの優しさだってきっとわかってると思う、、』

黙って頷いた。

さくらさんのことをきっと誰よりもわかっているかもしれない彼女の言う言葉を信じてみる。

奈津橘『でも教室から飛び出していくなんて思わなかったー、、ごめん、やっぱ私さくのことぜんぜんわかってないかも、、』

かんた『え〜!!?』

急な彼女の自信無さげな発言に思わず声が漏れた。

奈津橘『とりあえず後で連絡してみるね、、、かんたが泣きまくってたって事も伝えておく。』

かんた『だめ!絶対やめて!!』

彼女が悪戯っぽく笑う。

でもその笑顔はすっーと消えていきどこか遠くを見つめる。

その横顔は普段の彼女らしくない切なさが混じっている。

奈津橘『きっとさく、、追い込まれてるんだと思う、私のせいでさくをくるしめちゃってる、、』

哀しい声音で呟くように言った。

自分が生徒会長に立候補すると言ったせいで彼女の事を今の状況にしてしまっている自分をせめているようだった。

奈津橘『さくともう一度話し合ってみる。かんた協力してくれてきのどくさまやね(ありがとう)』

俺はうんと頷いた。

コンビニに向かって車道を彼女と進んでいく。

コンビニは最寄駅の近くの踏切をこえてすぐの場所にある。

まだまだは見えてきそうにない。

かんた『奈津橘さんはなんで生徒会長になりたいんですか?』

奈津橘『奈津橘さんって呼ばなくて良いよ奈津橘で大丈夫!流星にも言っといて。』

かんた『えっ!?でも、、』

女の人を呼び捨てで呼んだことなんて無かった。

それに、、

かんた『奈津橘って呼んでるところ達磨さんに聞かれたら怒られないですか?そういうのってカップル同士で呼ぶんじゃ、、』

奈津橘さんはぷっと吹き出して笑う。

奈津橘『ちょっとかんた!可愛い〜』

人差し指をほっぺたにグリグリしてくる。

俺はいてててとリアクションしてしまう。

奈津橘『怒られないから!だいじょうぶ!さん付けで呼ばれるのなんかくすぐったくて嫌なの』

怒られないと言われてもやっぱ奈津橘って呼ぶのはなんか照れ臭いというか、、他の呼び方を考える。

かんた『なら奈津橘パイセンはどうですか?』

いいねそれとなって俺は彼女の事を奈津橘パイセンと呼ぶことになった。

奈津橘『えっと、生徒会長になりたい理由だっけ?』

俺はうんと頷いた。

奈津橘『かんたはこの学校の女子の制服見てなんか思った?』

かんた『えっ??女子の制服?』

思いがけない質問に戸惑う。

富山第一義塾高校の女子の制服を頭に思い浮かべる。

第一印象は正直言って地味といったところかなと思う。

校則が厳しいせいでみんなおんなじだしスカートも膝が隠れている。隣の人は例外だが、、

ミニスカ好きな俺たち男子はよく文句を言っていた。

かんた『正直に言っていいですか?』

奈津美『もち』

かんた『めっちゃ地味。ミニスカが良いです』

奈津橘『、、、エッチ』

ジト目で俺を見ながら言った。

かんた『はぁ??もちって言ったから正直に言ったのに』

奈津橘パイセンが俺の反応にケラケラ笑う。

奈津橘『まぁっ言ってほしいことは言ってくれた。そっズバリ地味なの』

俺は何度も頷く。

奈津橘『なんか校則めっちゃ厳しくて嫌になっちゃうの、もっと可愛く着こなしたいじゃん』

かんた『いや奈津橘パイセンぜんぜん守ってるように見えないんだけど、、』

奈津橘『私たちは毎日生徒指導と闘ってるの!』

俺のツッコミを無視して手をグーにして腕を曲げ空に向かって高々と言った。

奈津橘『反抗してたら先生が生徒会長になって校則変えてみろって言ってきたの。うちの学校は生徒会長の政策が大きく影響するからって、なるほどって思ったわ』

俺は何度も大きく相槌をうっていた。

奈津橘『私ね、ルーズソックス履いて学校生活をおくりたいの!都会で今すっごい流行ってるらしいの。SNSで画像流れてくるたびに羨ましいなぁって思ってるの、、』

乙女みたいに両手を合わせてモジモジしながら言った。可愛い

『達磨もルーズソックス好きみたいで他の子履いてるの見て可愛いばっか言っててやきもち妬いちゃう、、』

今度はちょっとほっぺを膨らませて両手の人差し指をツンツンしながら言った。可愛い

かんた『それ知ってる!姉ちゃん履いてた。』

奈津橘『えっ!!かんたのお姉ちゃん羨ましい!!』

かんた『奈津橘パイセンが生徒会長になったらミニスカ見れるんですか?』

奈津橘『そだよん!!私の友達はみんなするって言ってるよ、私ももっと短くしちゃう!』

かんた『ぜったいなって!!応援する!!よろしくお願いします!!』

両手をグーして両腕を曲げて勢いよく言った。

奈津橘パイセンはまたジト目で俺を見る。

またエッチとボソッと呟かれてしまった。

奈津橘パイセンと話していたらあっという間にコンビニが見えてきた。

コンビニは最寄駅の近くの踏切をこえてすぐの場所にある。

たくさんの一高の生徒が利用する。

中は食べる場所も充分確保されていてとても賑わっている。何度か流星と入ったことがあって初めて利用した時は本当にコンビニかよとびっくりした。

入り口のそばに着く。

自動ドアで中に入ろうとしたら向こうから三人の一高女子生徒がやってきた。

女子生徒1『奈津橘〜部活お疲れー』

奈津橘『おつかれ〜もうクタクタ、、』

奈津橘パイセンがその三人の生徒と話し始める。

暫く待っていると一人の生徒が俺に気づいた。

女子生徒2『キミ奈津橘の陸上部の後輩??』

かんた『えっ?、、違います』

一気に注目が集まって緊張する。

奈津橘『この子は赤点補習生日本代表一年のかんた』

かんた『奈津橘パイセン俺今度は日本代表になったんですか??』

赤点補習生の昇格に思わずツッコミを入れた。

女子生徒1『パイセンだって!可愛い〜』

やばいさっきのノリで言ってしまった。

可愛い女子生徒三人にニコニコ見られて顔を赤くして照れる。

女子生徒3『赤点補習大変だね。私も何回か補習参加させられたけどもうやりたくない』

女子生徒1『うち進学校だから赤点のライン高いよねーこれからどんどん勉強難しくなるから頑張らないとだよ』

かんた『、はい、、』

三人の女子生徒が奈津橘パイセンと挨拶した後俺に手を振ってくる。照れながら会釈して三人と別れた。

すげぇ、、奈津橘パイセン人気なんだな。

彼女の背中が逞しく見える。笑

そういえば今の人達もスカート結構短かった。

放課後だから先生の目を気にしなくて良いのでこっそりと楽しんでいるのかもしれない。

みんな校則には不満があるのかな。奈津橘パイセンの革命を期待してしまう。

店内に入ると耳に残る音楽が流れる。

時間帯もあってか意外と空いていた。

グゥーっとお腹が鳴った。奈津橘パイセンと話していたら元気を取り戻しつつあった。

彼女の後をついていくと食べ物コーナーの所についた。ラーメンだったりハンバーグ弁当スパゲッティと色んな種類置いてあってどれも美味しそう。

奈津橘『何食べる?』

かんた『本当にいいんですか?』

奈津橘『かんたの元気を取り戻すために連れてきたんだから、あっ、でもあんまり高いのはダメだからね、、』

だんだん声が小さくなっていった。

高校生のお財布事情は常にカツカツ状態。

この前流星とじゃんけんして負けた時は胃から血が出そうになって奢った記憶がある。

かんた『奈津橘パイセンと話しながら歩いていたらなんか楽しくてもう元気です』

奈津橘『ちょっと、、照れるじゃん、、ばか、、』

なんかツンデレを発動させてしまったみたい。

ちょっとほっぺを赤らめていて本当に太陽みたいに明るくて可愛い。

さっきは何も食べれないと思っていたがこんなに美味しそうなものを見たらお腹が空いてくる。

俺はオムライスを手に取って見る。

とろとろの卵にデミグラスソースがかかっていて美味しそう。

かんた『これ食べて良いですか?』

奈津橘『オッケー私はおにぎりにしよっ』

奈津橘パイセンが明太子入りのおにぎりを一つ手に取った。

レジに移動して奈津橘パイセンが会計してくれた。

電子レンジであっためてもらい食べるスペースに移動する。

横一列に座れる場所を選んでそこに彼女と並んで座る。目の前は大きなガラスになっていて景色を眺めることができるのだが外は暗くなっていて反射して自分の影が映る。

俺の隣の影はスタイルが良くて美しいシルエットをしていた。

リュックを置いてスマホを取り出してラインで母ちゃんにご飯を食べてくる事を伝えた。

時刻は十九時を過ぎていた。

かんた『いただきます』

目の前のキラキラ輝くオムライスと奈津橘パイセンに言うように呟く。

プラスチックのスプーンで卵とライスをバランスよくすくって食べる。

卵の甘さとデミグラスソースが合わさってとっても美味しい!!

かんた『奈津橘パイセンめっちゃ美味しいです!ありがとう』

オムライスに負けないぐらい目を輝かせてお礼を言った。

奈津橘パイセンはうんとニコニコしながら頷くとパクッとあっという間におにぎりを食べてしまう。

俺もモグモグオムライスを食べ進める。卵のふわっとした感じが、、さくらさんを想ってしまう、、

かんた『さくらさん、、今なにしてるかな、、大丈夫かな、、』

奈津橘さんは窓の外を目を細めてじーっと眺める。

さっきみたいに哀しそうな横顔。

奈津橘『きっと、頑張って、、原稿書いてると思う、、』

かんた『、、そう、だよね、、』

奈津橘パイセンがねぇかんたとその辛そうな顔で見てくる。

自分の腕をギュッと掴みながら

奈津橘『どうしてあげたらいいか、、わかんないよ、、』

かんた『、、、』

奈津橘パイセンの言葉に返す言葉なんか俺には出てこない。

奈津橘『私が生徒会長に立候補するって言った時さくが私のためにスピーチしたいって言ってくれて嬉しかった。でもそれと一緒に心配もしちゃって、、だってさく、、クラスで国語の音読できないんだよ、、正直できないと思っちゃった自分がいたの、、他の友達にお願いした方がいいんじゃないかって、、』

俺は黙って彼女の言う事を聞いていた。

今度は奈津橘パイセンが泣いてしまいそうだった。

俺なんかよりもずっと彼女の方が今考えている事想っていること背をっているものがたくさんあるのに全部押し込めて俺を励ましてくれていたんだと思った。

俺はギュッと手に力が入る。

奈津橘『、、でもやっぱ私さくを信じたい、あの時の本気の目を見たらさくに私のスピーチやってもらいたいの!親友だから、、』

俺は黙って強く頷く。

かんた『俺も諦めてないです!俺に協力できることあったらなんでもするから!』

生徒会選挙は来週の金曜日。時間は少ないが誰も諦めていないなら信じるしかない!!

奈津橘パイセンはかんたにお願いして正解だったありがとうと言うとスクールバッグからスマホを取り出した。

奈津橘『連絡先交換しよっ!』

かんた『はい!お願いします』

す、すげぇ、、こんな美少女と連絡先を交換してしまった、、

奈津橘『とりあえず休みの明日明後日さくと話してみるなんかあったら連絡するね』

かんた『わかりました』

時間は少し前に戻る。

たったったっ

彼から逃げるように校門を出た私さくらは心の中がぐちゃぐちゃで思考がまとまらない。

いきなり私のスピーチを一緒に考えると言われて彼との距離がギュッと近くなった気がして気づいたら今こうして彼から逃げて駅に向かって早足で帰っていた。

早くお家に入って毛布でも包まって心を落ち着けたかった。

マスクで全身を隠してしまいたかったのに隠せるのは口元だけ。

たったったっ

忙しなくなるローファーの音がだんだんゆっくりになっていく。

冷静さを取り戻していくと彼を傷つけてしまったかもしれないと後悔し始める。

涙が溢れてきてしまいスクールバッグの肩にかける紐をギュッと握りしめる。

また私はそうやって逃げちゃうんだ、、

何も変わることなんかできないんだ。

後悔、悔しさに包まれて誰も居なそうな道に逸れて自分を抱きしめるようにしゃがみ込む。

肩をさすって泣き止もうと頑張るがたくさんの想いが溢れてきて止まらなかった。

涙が枯れ果てて疲れがどっと押し寄せてきた。

鼻を啜り気がつくとセーラー服の袖がびしょびしょになってしまっていた。

スクールバッグからハンカチを取って丁寧に拭く。

立ち上がるとジーンと足が痺れて痛かった。

誰にも顔を見られないようにいつものように俯いて自分の足先を見ながら歩く。

さっきの事、傷つけてしまった彼の事を考える。

彼とは赤点補習会が始まって出会った。

隣の席でたくさん私のことをチラチラ見ているなと思っていた。

優しそうで純粋な人な気がした。だから絶対さっきの私の行動は彼の心を切り刻んだ。

奈津橘ちゃんからお願いされたって言っていたような、、

誰でもいいから協力してもらえそうな人を探していたみたい。

奈津橘ちゃんにたくさん心配かけてしまっているんだなと思う。

私の友達は彼女だけで頼れる人も彼女だけ。

でも今はその彼女に頼るわけにはいかなかった。

恥ずかしくって彼女のために書いたスピーチを本番の時以外に聞かれるのは嫌だった。

私のわがままのせいでいっぱい迷惑をかけてしまっている。

変わらないと!!心配かけないためにも!!奈津橘ちゃんみたいに明るくて優しい人になりたい。

彼女の周りの人はみんな笑顔で楽しそう。

私もその一人でたくさん彼女に助けてもらった。

恥ずかしがり屋で引っ込み思案な私を変えたい!!

そうしないと全校生徒の前でスピーチはできない。

変わらなきゃ、、、このままではいけない、、、

恥ずかしがり屋って自分のことばかり考えているからだと思う。

自分が傷つかないために自分を守るために一番に行動する。

私はほんとに最低な人だ。

ちゃんと謝らないと、、彼が優しさで私を助けようとしてくれたのに。

ほんとに私は酷い人。

だから、、変わらないと、、このままじゃまた誰かを、、傷つけてしまう。

コンビニで奈津橘パイセンとご飯を食べて今最寄り駅で電車を待っている。

辺りは真っ暗で駅には俺と彼女しかいない。

夜はまだ少し冷えてほっぺに冷たい風が当たる。

虫の鳴き声が聞こえてきてあと一ヶ月もしたら蝉がメインボーカルになる。

俺はこの最寄り駅の静かな雰囲気の中で奈津橘パイセンと二人きりで少し落ち着かなくて周りをキョロキョロ観察中。

彼女は隣で脚をクロスしてスマホを弄っている。

こうして並んで立つと俺の身長が百六十八センチメートルで彼女はだいたい百六十五センチメートルでそんなに変わらない。

かんた『ねぇ奈津橘パイセン』

奈津橘『ん??』

かんた『奈津橘パイセンの他にもどんな人が立候補するのか聞いてるんですか』

奈津橘『私の他だと、、平塚大河って人が立候補してる。成績はトップなんじゃないかな。まぁみんなその人が生徒会長になると思ってる。』

かんた『そうなんだ、奈津橘パイセン友達多いし勝てるんじゃないですか?』

奈津橘『正直難しいと思う、、かんたが私のそばにいるからみんな校則に不満あるように見えるけど制服の校則を変えようって思ってるのってほんの一部の人だけなの。うちは進学校だし大学受験の事を一番に動く大河の方が票は集まるの、だから頑張らないとね』

奈津橘『なら奈津橘パイセンも大学受験の政策をメインにして校則も変えればいいんじゃないですか?』

奈津橘パイセンは肩を落として両腕を曲げて手のひらを上に向ける。

奈津橘『私受験の政策なんてさっぱりわかんなーい、そっちに関したら大河の方が圧倒的に有利』

話していたら電車がやってきた。

乗り込むとほとんど人がいなくて自由に好きな席に座れる。

都会だと絶対に見ることのできない光景。

真ん中に吊り革を持って立つ場所があって両サイドに横に伸びた椅子が設置されている。

ぽんと椅子に座るとふかふかでお尻が気持ちよかった。

奈津橘パイセンは俺の隣に脚を組んで座る。

スカートがめくれて陸上で鍛えられた綺麗な白い太ももが見えてドキッとしてしまう。

落ち着かせるために深呼吸してゴクリと唾を飲んだ。

電車の独特な匂いがしていたが隣のパイセンの良い匂いに変わっていく。

電車に揺られていたら眠気がきて目を閉じては開けてを繰り返す。

奈津橘『かんたどこで降りるの?』

かんた『えっ?、、富山駅』

眠気の中答える。

奈津橘『私も富山駅、そっからバスで移動。結構市街地に家あるの』

かんた『そうなんだ。俺はライトレールに乗って、、海の中、、でおり、、る』

眠くて海の近くで降りると言いたかったが中と言ってしまう。

それを聞いて彼女が笑う。

俺が眠そうにしている様子を見ると

奈津橘『寝てて良いよ、着いたら起こしてあげる』

うんと頷く。

奈津橘『私に寄りかかってもいいからゆっくり休んで』

かんた『ありがとう』

奈津橘パイセンの横顔を見ると彼女も眠たそうにしていた。

奈津橘パイセンに少し寄りかからせてもらう。あったかい体温と柔らかい女子の身体を制服越しに感じた。洗剤のいい匂いと安心感で眠気がピークに。

疲れてなかったらドキドキしてやばい〜とか思っていただろうが疲労がデカすぎてそれどころではなかった。

耳元でほんとに今日はありがとうと囁かれたが先に眠ってしまって聞きそびれてしまった。

富山駅で奈津橘パイセンと別れてライトレールに乗る。

疲れと眠気で後のことはほとんど語れないのであった。

土日を終えて月曜日の赤点補習会の時間。

さくら『ご、、ごめん、、なさい、、』

かんた『さくらさんの気持ちにズカズカ入っていくようなこと言ってごめんなさい』

お互い謝っていた。

土日にさくらさんと奈津橘パイセンは話し合った結果、、俺にスピーチの練習を手伝ってもらうということに無事なった。

奈津橘パイセンから日曜日に連絡があって改めてよろしくと言われた。

だから昨日の日曜日、俺はさくらさんのためにスピーチ練習日程表を考えたのだった。スピーチの作り方もしっかり勉強してゲーム配信もした。

(赤点課題は全く進んでいない)

生徒会選挙は今週の金曜日。正直言ってかなりまずい状況。

原稿すらできていないので急いで進めていかないといけない。

でもさくらさんを焦らすわけにはいかない。落ち着いて目の前の課題に向き合っていかないといけない。

(赤点補習の課題は後)

俺の計画はこう。まず今日で原稿完成。火曜日水曜日に実際読む練習。木曜日には実際体育館のステージに立って練習といった内容だった。

どうだろう?一生懸命に考えました!!

後もう一つ。今回さくらさんのスピーチを作るにあたって彼女と仲良くなろうと思った下心は排除すると誓った。

彼女の奈津橘パイセンのスピーチのために全力で一緒に考える。

かんた『さくらさん、、まずは、、原稿から作ろうと思ってるんですが、、どんな感じか聞いても、、いいですか?』

一目惚れした美少女に緊張しながら伝える。

可愛い、、天使みたい、、

だめだ、、誓いがさっそく破られてしまいそうになる。

彼女はスクールバッグから一冊のノートを取り出した。

ぎゅっと大切に抱きしめて持っていてその身体は震えている。

あれ?そのノートって、、

彼女の事ばかり見ていたから気づいてしまう。そのノートは赤点補習が始まってからずっと机に広げていたものだった。俺はずっと彼女は赤点補習の課題をしているのだと思っていた。

違っていた、、彼女は赤点補習会の時もずっとスピーチの原稿を考えていたんだ。

かんた『、、読んでもいいですか?』

さくらさんは大きく深呼吸してから小さく頷いた。

彼女からそのノートを慎重に受け取って中を開けた。

、、、

ページを巡っていく。

こんなにぎっしり文字の書かれたノートを見たのは初めてだった。

、、、

そこには奈津橘ちゃんのすごいところと書かれた下にずらっと箇条書きに彼女の事が書いてあった。

他にもさくらさんと奈津橘パイセンの二人で過ごした事だったりが思い出すだけずらっと書かれている。

俺は泣きそうになるのを堪えて読んでいた。

彼女と仲良くなれるかもって思いこのノートを利用しようとしていたかもしれない自分をぶん殴ってやりたかった。

このノートと向き合うためには覚悟がいる。

読んでいたらスピーチの原稿を書いたページにたどりついた。

そこにはバツが書かれていて何度も新しく書き直していた。

このノートには消しゴムで消した跡が一切なかった。それは消すという事が奈津橘パイセンとの思い出を消すといったことになるから使うことが嫌だった。

書き直した原稿を読んでいく。

そして原稿を読んで思ってしまう。

内容がチグハグで伝えたいことが伝わってこない。

確かにこれだとスピーチにならないと思う。

さくらさんの恥ずかしがり屋を体現したノートだった。

さくらさんは不安な表情でずっとノートを読む俺を眺めていた。

かんた『スピーチの時間て決められてるんですか?』

さくら『えっ、、はい、、えっと、、五分までには終えないといけないです』

五分かぁ

これだけ奈津橘パイセンの事が書いてあるから逆に五分にまとめる方が難しいと思った。

でもこれなら今日中に原稿は仕上げる事ができそう。

かんた『原稿考えていきましょうこんなにたくさん奈津橘パイセンの事が書いてあるから今日中になんとかできるかも』

彼女は俺が奈津橘パイセンと呼んだことに少し驚いて目を丸くする。

パイセンなんて聞き馴染みのない人が聞いたら最初戸惑って先輩のことだと分かるまでちょいとラグが生じる。

それから小さく頷いた。

かんた『このさくらさんのたくさんの想いを整理していきます。まず何を伝えたいかです。今回だと奈津橘パイセンが生徒会長にならないといけないので彼女の魅力だと思います。』

さくらさんは相槌を打つ。

マスクで見えないが口を真一文字に結んで緊張する。

昨日勉強したスピーチの作り方の知識を使っていく。

かんた『俺はこのエピソードがみんなに魅力を伝えるにはとってもいいと思います。』

書かれている場所に指をさす。

彼女が相槌を打つ。

そうだったんだ、、さくらさんもとチアガール部だったんだ、、、可愛い、、ダメ〜!!!冷静になれ!!

かんた『さくらさんは奈津橘パイセンの魅力を伝えるにはどうしたらいいと思いますか?俺ばっかの意見になったらダメなので遠慮しないで言ってください』

ニコニコしながら親しみやすく言う。

さくら『えっ、、私は、、、私も、そのエピソードはとっても助けられて、だから私も魅力を伝えるにはそれがいいと思います、、』

彼女も同意した。

とりあえずはこのエピソードを軸にしてスピーチを考えていくことにする。

次は冒頭。正直俺はこの冒頭が最も重要だと思っている。

最初にどれだけの人に興味を持ってもらえるかがスピーチの成功と奈津橘パイセンに票が集められるかが決まる。

調べたらそう書いてあった。笑

ごめんなさい俺はとか自分が考えたように言ってしまって、、

かんた『次は冒頭を考えるんだけどここが一番重要で

考えなきゃいけない部分だと思っています。だから、、最初にこのエピソードを話してみんなの興味を惹こうかなって思うんですが、、』

ノートを指さしながら説明した。

彼女はうんうん頷く。

このエピソードは奈津橘パイセンとさくらさんが初めて出会った幼稚園の頃の話。

なんか読んでいたら面白くてあったかい気持ちにさせられた。

これだと聞く人みんな一気に惹かれる気がする。

まずそのうちの一人の俺がそうだし。

かんた『さくらさんは、どうですか?』

さくら『私も、、それが、いい、です』

さくらさんも同意して一応冒頭と核の部分は完成。あとはこれを上手いこと繋げて最後にまとめでスピーチ原稿は完成。

彼女と話し合いながら無事一つ原稿が完成する。

他にも同じようにして冒頭の部分と核を変えて幾つか原稿を作る。

出来上がった原稿を読んでさくらさんとどれが良いか決める。

そして遂に!!!

かんた『原稿完成!!やったぁぁ!』

さくら『、、ありがとうございます』

たくさんの原稿案から一つを選んで完成した。

選んだのは一番最初に作ったものだった。

さくらさんは表情を柔らかくして安堵した様子。

俺と一瞬目が合うとはっと恥ずかしくなって顔を伏せてしまった。

、、、可愛い、、、

担当『補習の時間終了です』

担当の先生がやってきた。

えっ!?もうこんな時間!!

あっという間に二時間経過していた。

窓の外を見ると空が真っ赤になっていた。

予定通り今日中に原稿を仕上げる事ができた。

かんた『次は読む練習なんだけど、今日は遅いし疲れもあると思うから予定通り明日からしましょうか?』

さくら『、、はい、、』

さくらさんは小さく返事をすると俺の机の上にあるノートをとって優しく両腕で抱いて持つ。

ぎゅっとして目を瞑り何かを心の中で呟いている。

さくら『、、本当にありがとうございます』

改めてお礼を言われてめっちゃ照れる。

あまりにも可愛すぎて奇声を上げて教室を走り回りたくなる。頭がぶっ壊れそう。

ガラガラ

今度は部活が終わった奈津橘パイセンが俺たちを心配してやってきた。

奈津橘『さく!かんた!どう?大丈夫??』

ここまで走ってきたらしく肩で少し息をしている。

さくら『奈津橘ちゃん!』

俺はパイセンの方に振り返ると白い歯を見せて親指を立てる。

かんた『安心しなパイセン!原稿完成したぜ!』

自分が出せる全力のイケボを披露した。

奈津橘『ほんと、、よかった、、』

奈津橘パイセンは安堵するように言った。

彼女はさくささんが大事そうに持っているノートに気づくと、

奈津橘『さくが今持ってるノートに書いてあるの??私にも見せて〜』

さくらさんの所へ嬉しそうに駆けていく。

さくら『だっ!ダメ!!』

彼女は奈津橘パイセンに捕まらないように机を障害物にしてぎこちなく逃げ回る。

あっという間に追いつけるのだがわざと追いつかないように追いかけるパイセン。

その愛らしいやりとりに窓の外から差し込む光が当たって幻想的に見える。

ファンタジーの世界から飛び出してきた天使たちが楽しそうに遊んでいる。

それを微笑ましく眺めていた。

まだ原稿が完成しただけなのだが今日頑張って良かった!!

暫くして奈津橘パイセンがさくらさんの後ろ俺の左斜め後ろの席に突っ伏して座った。

奈津橘『部活疲れた、、』

仕事から帰ってきたサラリーマンのおじさんみたいにトーンを下げて言った。

さくらさんもちょこちょこ自分の席に戻るとノートをスクールバッグにしまって彼女の頭を撫で始める。

奈津橘『よかった、、原稿仕上がって、、』

さくら『ごめんね、、心配かけちゃって』

奈津橘パイセンは目を瞑りながら首を振る。

ほっぺが手の甲にグイッとなって子供みたい。

奈津橘パイセンは顔を上げると俺を見る。

奈津橘『かんた、ありがとう』

奈津橘パイセンにもお礼を言われた。

二人の美少女からありがとうっ言われて嬉しくてこころが躍りまくる。

かんた『でも、原稿が完成しただけで多分ここからが、、たいへ、、』

俺はそれを言うのをやめた。さくらさんの前だし今は原稿が完成した喜びに包まれていたかった。

暫く三人黙ったまま時間が過ぎていき

奈津橘『さく、かんた一緒に帰ろ』

かんた『えっ!俺もですか?』

奈津橘『もち、電車でしょ?だめ??』

ダメなわけがない。

ただ二人の友情の中に俺が入っても良いのだろうか。

そう思って答えてしまった。

かんた『ふ、二人がいいなら、、、』

俺は奈津橘パイセンからさくらさんに顔を向ける。

彼女が首を横に振るかもしれない。

恐る恐る、、、

さくらさんはうんうんと頷いてくれた。

よかった、、、

かんた『じゃ俺も、、一緒に、、』

こうして俺は二人の美少女と帰る事になった、、

多目的室を出て玄関に向かう。

外で合流して校門を出た。

夕焼けの綺麗な空の下、俺は二人の後ろ眺めながらを歩いている。

奈津橘パイセンが何か話していてそれをさくらさんがずっと聞いている。

さくらさんの横顔が時折見えてそれは奈津橘パイセンにしか見せない特別な笑顔だった。

さくらさん結構笑うんだ、、可愛い、、、マスクとった笑顔はきっともっと可愛いだろうなぁ、、

さっき彼女のノートを見させてもらったから二人のこれまでの時間が背景として映る。

二人の思い出の中を歩いているみたいで心が温かい気持ちに包まれた。

たったったっ

まぁそれは一旦置いといてだ。

二人の制服を見比べてみると一緒の学校に通っているようには見えなかった。笑

奈津橘パイセンはスカート短いし靴下の色は黒、セーラー服の袖を捲っていて綺麗な白い腕が伸びている。

さくらさんはスカートが長くてほとんど肌は見えない。靴下は白色でセーラー服はちゃんと腕まくりなんかしないで着ている。

さくらさんのセーラー服姿はほんとに似合っていてお人形が歩いている様に見える。

奈津橘パイセンは、、、校則ぶち破りファッション、、、

二人の正反対に苦笑いしていると、、

奈津橘『かんた!後ろ歩いてないでこっちおいでよ!ん?なにニヤニヤしてるのよ』

声をかけられた。やばいニヤニヤしてるのバレた。

かんた『別にしてないし!』

そう言って奈津橘パイセンの横に早足で移動した。

こうして車道側から俺奈津橘パイセンさくらさんと並んで歩く。

三人の身長差はあまり変わらず俺はもっと大きくなりたいと思った。

俺がきたせいで少し警戒したのかさくらさんの今まで見せていた笑顔がなくなる。

残念、、、

奈津橘『そういえばかんたってなんの教科赤点取ったの??』

かんた『えっ??ぜんぶぅ、、はっ!』

俺は口元を押さえた。

ここで全教科赤点取ったなんか言ったら二人に心配事を増やしてしまう。

課題そっちのけでスピーチ手伝ってるんだってなったら優しい二人のことだからきっと心配してしまうだろう。

それか単にドン引きされるかもしれない。

奈津橘『どしたの??』

口元を押さえた俺を心配して聞いてくる。

かんた『数学、だけ、、』

奈津橘『数学かぁ、、さくも数学だったよね』

さくら『えっ!?、、うん、、』

さくらさんの優しい声音に耳がうっとりする。

さくらさんが数学赤点取ったのはチラチラ横見ていたからなんとなく知っていた。

さくら『数学、難しいですよね、、』

今俺さくらさんに話しかけられた??敬語だったからパイセンにではないはず。嬉しい、、えへへへ、、鼻の下伸び伸び。

かんた『めっちゃ難しい、、』

奈津橘『二人とも数学のことだったら奈津橘お姉さんに聞きなさい、、って言いたいところだけど私も結構苦手な方です!』

大きく手を上げていった。

車道にタクシー走ってたら止まるからやめてください。笑

かんた『パイセン何得意なんですか』

奈津橘『パイセン体育』

かんた『俺も体育好き!』

奈津橘『一緒じゃん!』

パイセンが手のひらむけてきたのでぱちっとハイタッチを交わして謎の一体感が生まれた。

奈津橘『得意科目といったらこちら隣におられますさくらさん、なんと!国語、古典学年一位です』

かんた『すごっ!!』

さくらさんを見て言った。

さくら『すごくなんか、、ないです、、』

謙遜して俯きながら言った。

学年一位とかすごすぎる。ということは成績トップの平塚大河という人よりも文系だとさくらさんの方が成績いいんだ。それを聞いてさくらさんの事が可愛いだけではなくてカッコいいとも思うようになった。

たしかに彼女のさっきのノートは文系って感じがしてとても読みやすかった。

なら文系ならスピーチは得意なのではと思うが書く事とコミュニケーション力は別。

英語を書く事はできるが話せないといった現象ににているのかもしれない。

たったったっ

駅まで残り半分といったところまでやってきた。

美少女たちとの帰路は賑やかでとても楽しい。

さくらさんはほとんど聞いていて相槌程度で賑やかの正体は俺とパイセンのやりとりがほとんどなのだが。笑

もうここまできてしまったのかと思ってしまう。

一緒この帰路が終わらないでほしい。

かんた『体育好きっていったけど最近運動ぜんぜんしてないや。帰ったらゲーム配信ばっかり』

奈津橘『え〜??なら陸上部おいでよ!私がめんどうみてあげるから』

かんた『いやだ、ゲームしたい』

奈津橘『何照れてるの〜』

ぐりぐりぐり

ニコニコパイセンにほっぺをぐりぐりされる。

かんた『いててて』

俺とパイセンのやりとりをさくらさんは愛おしそうに目を細めて見るようになっていた。

気がつけばパイセンと話す時の敬語は無くなっていた。

奈津橘『そうだかんたの配信見にいきたいから登録してもいい?』

かんた『俺の配信メインはゲームだけどパイセンゲーム興味あるの?』

奈津橘『最初は全く興味なかったんだけどね、達磨と付き合ってからやるようになったの。彼の好きな事は私も好きになりたいの』

かんた『ラブラブすぎる』

奈津橘パイセンは下を出してあどけない様子をする。

可愛い、、、

奈津橘『だから、ゲーム一緒にしよ!最近はモンハンやってるの。邪魔するような事はしないから』

かんた『モンハン!?俺も今配信でやってる。一緒にやろう!やった!パイセンとゲームできる!』

パイセンはポケットからスマホを取り出す。

かんたちゃんねると教えると手際よくスマホを操作して彼女が登録してくれた。

登録者数が三十八人になった。

かんた『ありがとう』

俺は嬉しくて目を輝かせてお礼を言った。

奈津橘『ちなみにゲームの腕前はへたっぴだから助けてね、、』

かんた『それは達磨さんにお願いしてください』

奈津橘『あいつ意地悪だからぜっぜん助けてくれないの。私の前に爆弾置いたり銃で私の事撃ってくるんだよ??』

彼女の話を聞いて俺は大爆笑した。

やばいお腹痛い。笑

笑いながらお腹を押さえる。

奈津橘『ちょっと笑いすぎ!!』

ようやく笑いがおさまる。

お腹千切れてないよね?はぁーよかった。ついてる。

奈津橘『なんか配信でやるギャグとかないの??』

かんた『えっ?ギャグ?あるよ、何個か』

奈津橘『やって!やって!』

パイセンが両手を合わせてお願いしてくる。

かんた『えー??いいよ』

さくらさんがいて恥ずかしいがこの雰囲気に乗せられてやる事に。

一回咳払いして場を整える。

かんた『ごめんなサインインするパスワード忘れました〜〜!!』

全力で声のトーンを上げてお茶目に言った。

奈津橘『あっはっはっ』

今度はパイセンが大爆笑していた。よかった!!めっちゃウケた!!

奈津橘『ごめんなサイン、、あっはっはっ、、忘れたって、、はぁはぁ、、一生わすれとけ〜〜』

パイセンと二人で大笑い。

暫く笑いに包まれたまま。

そして少しずつ二人の大きな笑い声がおさまっていった。


???『ふふふ』


!?


さくらさんがマスクの前に手を当て目を細めて上品に笑っていた。

奈津橘『さくも笑ってる〜』

俺のギャグで彼女が笑ってくれたの??

パイセンと二人大声で笑っていたから気づかなかった。

好きな彼女に笑ってもらえて嬉しすぎる。

さくら『私、電子書籍でよく本を読むんだけど、パスワードよく忘れちゃうんです』

俺は今日この日をこの時間をこの一瞬を絶対に忘れないし忘れたくない。

特別な場所に特別な思い出としてちゃんとしまっておこう。

かんた『、、そうなんだ、読書好きなんだ、、、』

さくらさんに話しかける。

パスワードを間違えて困っている彼女の事を想像すると可愛くて仕方がない。

さくら『お家にいる時はほとんど本を読んでいます、、、』

彼女がゆっくり話すのを黙ってじっと見つめて待つ。

ちょっとだけ、ほんの少しだけさくらさんの事がわかってドキドキする。

さくらさんは自分の事を話してしまったとはっとなり顔をまた伏せてしまった。

さくら『ごめんなさい、、勝手に私の事話してしまって、、、』

奈津橘『さく!!そんな事ないの!』

奈津橘パイセンが彼女の手を握りながら言う。

さくらさんはほんとに恥ずかしがり屋なんだなと思った。

明日からは今日作った原稿を声にして心から出さないといけない。

かなり大変な練習になるだろう。

何かいい方法はないかな。


でもさくらさんが奈津橘パイセンのた、め、にスピーチを成功させたい気持ちが大きいからきっと、きっと、大丈夫、、、と俺は思う。


最寄り駅に着いた。

駅にはたくさんの一高生徒の姿があった。

一高生徒の帰宅ラッシュに俺たちも加わる。

さくらさんは普段学校が終わるとすぐに帰るので今みたいに駅で沢山の生徒に囲まれる機会が少ない。

俯いて不安そうにしている。

そんな彼女の手を奈津橘パイセンがしっかりずっと握って身体を密着させている。

電車がやってきて乗り込む。

どわっと一高生徒で埋め尽くされ俺は中央に吊り革を持って立つ。

目の前に美少女二人が手を繋いで座っている。

奈津橘パイセンが脚を組む。綺麗な太ももが俺の目の下にあって思わず見てしまう、、

奈津橘パイセンと目が合う。

彼女は何見てるのエッチと悪戯っぽい笑みをしながらアイコンタクトしてくる。

こんなん見てしまうに決まっている。

俺は恥ずかしくなり窓の外を眺める。

頑張って窓の外を眺める。

下見るなぁ〜と念じながら窓の外を眺める。

少しチラッとパイセンの脚を見て窓の外を眺める。

また奈津橘パイセンと目が合うとニヤニヤこっちを見てくる。

隣のさくらさんを気にするとサラサラの美しい黒髪しか見えなかった。

電車に揺られて富山駅に到着。

二人と別れて俺はライトレールに乗って家に帰った。

火曜日の赤点補習会。

赤点補習会が始まって結構時間が経ち課題を終えた生徒が増えてきた。

隣の教室に空きができて俺とさくらさんは先生から隣の教室に移動するように言われたのだが床に頭をつけてここの場所でやらしてほしいとお願いした。

隣の教室に移動してしまうと先生とまだ何人かの生徒たちがいてスピーチの練習ができなくなってしまう。

原稿を書くだけなら大丈夫なのだがこれから声に出して読む練習をしないといけない。

課題をしなさいと先生に注意されるに決まっている。

俺がずっと頭を下げてお願いしたら先生はわかったと不思議そうな顔をして隣の教室に戻っていった。

かんた『今日の予定は、昨日書いた原稿を読む練習をしようかと思ってるんですが、、』

さくら『はい、、お家でも練習してきて、内容は頭にはいっています』

かんた『わかりました。えっと、、読み方のコツは確か、、目線はしっかり前を向いて、表情は固くならずに柔らかく、滑舌をよくハキハキゆっくり話す事が大事です。話し方は聞く側の印象を良くするのにとっても大事で頑張らないといけないです、、』

さくら『、、わかり、、まし、た、』

かんた『頑張って、、そしたら、えっと、その場でいいので立って俺の方を向いて読んで下さい』

彼女は恐る恐る立ち上がる。

俺の方に向きを直すと目を閉じて胸に手を当てて深呼吸をした。

ゆっくり目を開けて目線を前に向ける。

俺は黙ってじっと彼女を見つめる。

さくら『、、えっと、、あっ、、』

奈津橘パイセンの魅力をみんなに伝えたいと一生懸命に声を出そうとする。

、、、

声が出ない。

、、、

さくら『ご、ごめんなさい』

かんた『大丈夫!ゆっくりで大丈夫です。さっき言った大事な事は忘れていいからとりあえず声を出してみよう、、』

さくら『、、はい、、』

、、、

何度も何度も深呼吸しながら声を出そうとするのだが最初の冒頭すら読む事はできなかった。

心の奥にある大事な想いを声に出す事は誰にだってとても難しいこと。

彼女にとってはもっともっと難しい事だった。

だんだん彼女の身体が震えてきた。

このまま続けるのはまずい。

かんた『一回休もう』

彼女にそう促す。

さくらさんは椅子に座ると自分を抱きしめながら震えてしまっている。

俺は彼女に近づく。

さくらさんに触れるのは、、

今はそんな事考えている場合じゃないだろっ!!

俺は彼女の側に行き奈津橘パイセンがするように手を握り、、ることはできなかった、、

さくら『ごめんなさい』

かんた『大丈夫!きっとできるようになるから!』

安っぽい励ましの言葉しかかけてあげる事ができなかった。

こうなる原因がわかれば少しは良くなると思うのだが。

過去に何かトラウマがあるのだろうか。例えばいじめられていたとか。

でも彼女には奈津橘パイセンがいるしそれはないと思う。それにもしそうならパイセンから聞かされていると思う。

かんた『俺の事、こわいですか?』

さくらさんは首を横に振る。

どうやら俺が怖いとかそんなんじゃないらしい。

うんって頷かれたらちょっとショックだったかも。笑

クラスで国語の音読をできなかったと奈津橘パイセンから聞いたからこうなる事はなんとなく想像はしていた。

少し彼女が落ち着いた様子を見て

かんた『さくらさんがさっきみたいになってしまう原因みたいのって教えてもらえる事できますか?』

と聞いてみた。

さくら『えっ?、、原因ですか、、』

彼女は俯いて考えている様子。そしてゆっくりと教えてくれる。

さくら『、、視線、、で、、す。』

視線かぁ、、

さくら『静かにじっと見るあの視線が、、怖くて、、

奈津橘ちゃん以外の人の視線はきっと全部、怖いって、感じてしまうと、思います』

俺は相槌を打つ。

さくら『あと、、私が注目を集めている時のみんなが静かになっているあの雰囲気も、とっても、怖くて、、』

なるほど。じっと彼女の事を見る視線とあの静かな雰囲気かあ。

納得した。俺もあの雰囲気は好きではない。

原因がわかったからなんとかなるかもしれない。

例えば、、

視線が怖いならみんなにサングラスかけてもらうとか。

約五百人の生徒がサングラスかけて見てくるとかそっちの方が怖いなと思った。

んーどうしようかな。

なかなか良い案が思いつかない。

こっちはこっちで考えるとしてさくらさんの読む練習にも付き合う。

かんた『とりあえず席に座ったまま練習してみましょう。無理しないでいいからちょっとずつ声を出して俺に奈津橘パイセンと事を教えてください』

俺はとにかくどんよりした雰囲気にならないように心がける。

ニコニコ柔らかい表情で彼女にお願いした。

さくら『はい、、』

彼女は座ったままゆっくり昨日完成したスピーチを言い始めた。

俺は視線を彼女の方に向けないために目を閉じて聞いていた。

そして、、

かんた『できたぁ!』

さくら『はい!』

最後までスピーチを言う事ができた。

声の大きさはとても小さくて滑舌もマスクのせいもあって良くはなかった。

でも彼女の優しさが溢れた素敵なスピーチだった。

俺は小さくぱちぱち拍手する。

彼女はこっちを向いて嬉しそうに肩を少し上げて目を細めた。

あまりにも可愛いその仕草にキュン死しそうになった。いやキュン死した。

席に座ったままで視線や雰囲気の問題は解決してないが彼女にとっては大きな一歩を踏み出せた。

まずは滑舌や声の大きさスピーチを読む事に慣れていくことから始めた方が良いかもしれない。

かんた『今日はこのままでスピーチを読む練習していきましょう。立って練習するのは慣れてからの方が良いかもしれないです』

さくら『はい!、、ありがとうございます』

一瞬彼女と目が合った。

綺麗なぱっちり二重の目に吸い込まれそうになってしまう。

こうして何度も何度も繰り返してスピーチの練習をした。

だんだん声の大きさと滑舌が良くなっていった。

途中休憩を挟んでちょっとだけおしゃべりもした。

日が暮れて先生が終了を告げにやってきた。

かんた『今日はここまでにしよっか?』

さくら『はい、、』

かんた『声の大きさとかすごく良くなってきたと思います』

さくら『はい!、、ありがとうございます』

何度も繰り返してスピーチを練習して彼女の顔に疲労が見えた。

俺もずっと聞いていて疲れた。でもさくらさんのためなら俺頑張れます!!

帰るために補習の課題をリュックにしまおうとしたがそもそも出してなかった。笑

かんた『ずっと口動かしていたから喉乾いてないですか?俺なんかダッシュで自販機で買ってきますっ!!』

さくらさんは首を横に振ると、、

さくら『私が買います、、何か、飲みたいですか、、?』

かんた『へっ??』

逆に聞かれてしまう。

まのぬけた変な声が漏れた。

さくらさんが上目遣いで見てくる。

その優しさにあまえてしまいたくなって

かんた『お茶で、、』

と言ってしまった。

玄関にある自動販売機に一緒に行ってさくらさんにお茶を買ってもらっちゃった!!!!

今日の疲れが一瞬で吹き飛んだ。

彼女に買ってもらったから飲むのなんか勿体無いなぁ

ペットボトル部屋に飾っておこっと。

さくらさんも小さめのを一本買っていた。

近くにあるベンチに腰を下ろす。

彼女は俺から拳三つ分ほど空けた場所に座った。

蓋を開けて五百ミリリットルの半分ほどを一気に飲んだ。

いつも買って飲むお茶よりも美味しい。

もしかしたら飲む時マスクとった姿見れるかも、、と思い隣を見る。

さくらさんはペットボトルを両手で持って動かしながらそれを見て座っていた。

黒髪がほっぺたのところのマスクに少しかかった美しい横顔。

さくら『、、迷惑かけてしまってごめんなさい』

小さな声で謝ってくる。

かんた『ぜっぜん迷惑じゃないです!!』

ほんとそう全く迷惑だなんて思ってもいない。

一目惚れした人の役に立てるなら頑張りたいし協力もする!!

さくら『変わらないと、ダメ、ですよね』

ボソッと俺に聞いてほしいように呟く。

かんた『さくらさん何に変わりたいんですか?俺は変わりたいんだったら、、ん〜』

さくらさんと話がしたいから繋ごうと考えてみるのだが何も思いつかなかった。

かんた『俺はこのままでいいや』

俺の言葉にさくらさんはきょとんと目を丸くして驚いた様子で俺と目が合った。

俺なんか変な事言っただろうか。

彼女はまた俯いて自分の持っているペットボトルを眺め始める。

さくら『、、私、奈津橘ちゃんに憧れていて、彼女の様になりたいなって思っていて』

初めて彼女の思いを俺に伝えてくれた。

それがとっても嬉しかった。

さくら『奈津橘ちゃんの周りの人はみんな笑顔で楽しそうですごいなって思います』

かんた『俺はさくらさんと一緒にいて楽しいですよ』

さくら『!?』

かんた『さっきのスピーチの練習だってさくらさんがちょっとずつ上手くなっていくの見てたらめっちゃ楽しかった』

彼女はマスクをつけていて良かったと顔を赤くしてさっきよりも少し速くペットボトルを動かす。

かんた『奈津橘パイセンに憧れるのわかります。あの人すごいですよね、初めて話した時なんかずっと前から仲良かったような気がしたんです。パイセンのコミュ力分けて欲しいなぁーそしたらもっとゲーム配信のリスナーとか増えそうなのになー』

さくらさんは頷きながら聞いてくれていた。

それから暫くお互い黙ったまま時間が過ぎる。

ちらほらまだ残っていた生徒たちが靴を履き替えて帰っていくのを眺める。

やがてそれもなくなり二人しかいない玄関は静寂に包まれた。

彼女は立ち上がると俺の方を向く。

さくら『頑張って自分を変えます、、今のままだと、きっと、スピーチを成功させれません、、だから、、』

ぎゅっと胸の前で手を握り勇気と声をふりしぼるように

さくら『明日も、よろしくお願いします』

と頭を下げてお願いしてきた。

慌てて俺は立ち上がり声をかける。

かんた『あああたまあげてください!!』

手をあたふたさせて戸惑う。

かんた『俺にできることは何でもします!』

さくら『ありがとうございます』

かんた『さくらさんが困っているみんなの視線や雰囲気の解決方法もきっと見つけてみせます!』

さくら『ほんとに、ありがとうございます』

何度もお礼を言われて照れる。

でもなんだろう、、俺はさっきの彼女の頼み方になにかい、わ、か、んがあった。





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