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恋して死にそう

『かんた!いつまで寝てるの!?遅刻するわよ!』

甲高い声に鼓膜が刺激されて頭がくらくらする。目覚まし時計などいらないとでも言わんばかりに母ちゃんに起こされて学校に行く支度を始める。

眠い目を擦りながらリビングに向かう。

そこには制服に着替えた姉ちゃんとまだ着替えていない弟がいた。

姉ちゃんは肩の上ぐらいまで伸びた黒髪のボブヘアが似合っている。目はキリッとした吊り目の二重で美少女高校三年生彼氏持ち。ブームを繰り返すルーズソックスと言う靴下を履いている。

この靴下は履くと足が細く見えるらしく都会を中心に徐々にまた流行り始めているみたい。

姉ちゃんはしっかり履きこなしていて綺麗な美脚にマッチしている。

弟は中学一年生でまだ幼い顔立ち。大人しくてまったりな性格。兄弟の中で一番勉強が得意。

弟の隣に胡座をかいて座る。用意されている朝ご飯を食べようとする。

ボーっ、、、ホワホワ❤️

一ヶ月以上前のあの日のことを思い出す。彼女の顔が頭に浮かぶ。あの日から俺の頭の中に家賃タダで住んで下さっている。

ちょっとボーっとすると直ぐに彼女の事を考えてしまう。

名前は、、、東雲さくらさん。

あの後少し時間が経ってからマスクを付けている可愛い人が二年生にいると一年男子の間で盛り上がっているらしい。名前は部活の先輩から聞いた流星から教えてもらった。

それと、、、彼氏がいないことも。いつも一人でいるらしくて友達が少ないならしい。

たしかに初めてみた時マスクを付けているせいか話しかけづらそうな雰囲気はあった。

ずっとマスクをしているので彼女も話しかけてほしくないのかもしれない。

姉『ねぇーかんた!昨日の夜いつまで配信してたの??すっごいうるさいんだけど?』

かんた『えっ?あーごめん....』

俺は高校に入ってから本格的にゲーム配信を始めたんだ。将来は人気ゲーム配信者を目指している。

姉『お母さんからも言ってよ!』

母『朝から喧嘩しないで』

姉『私今年受験生だから勉強頑張らないといけないの!夜集中したいから静かにしてよね』

かんた『、、、彼氏の家ですればいいじゃん』

姉『こっちにもいろいろ事情があるの』

かんた『、、、わかったよ、、、もう少し静かにする』

俺もついこの前まで受験生だった。良い高校に入ったら母ちゃんにスペックの高い配信機材を買ってもらう事を約束して毎日必死に勉強を頑張った。そして見事に富山第一義塾高校に入学する事ができて今使っている高い配信機材もゲット。

姉ちゃんにも勉強教えてもらったし受験の大変さはわかるので出来る限りは協力しよう。

弟『...にいちゃん食べないの?』

弟に促されてご飯を食べようとするがあまり食欲がなかった。最近食事が喉を通らない。

体は健康だと思うのだけど、、、

姉『早く食べて!私お皿洗って学校行くから』

母『お姉ちゃんありがとう』

かんた『うん、、、やっぱいらないや』

俺はそう言って立ち上がる。どうしても食べる気になれなかった。

姉『ちょっとかんた?大丈夫??』

母『ほんとよ、最近あんまりご飯食べてないよ?学校でなんかあったの?』

かんた『大丈夫だよ』

いつもたくさん食べるから心配されてしまった。

洗面所に行って顔を洗い歯を磨く。

入学してもうすぐ二ヶ月、環境が変わって疲れが出たのかもしれない。それとも、、、俺は一つ思い当たる節があった。

それはついこの前終わった入学してから初めての中間テスト。

俺はこのテストを全く勉強しないで受けてしまった。

念願の配信機材を手に入れて毎日夜遅くまでゲーム配信をして過ごしている。

それが楽しくて夢中になりすぎてしまった。

将来は人気ゲーム配信者になってお金をたくさん稼ぎたい。ずっと叶えたいと思っている俺の夢。

丁寧に歯を磨いてコップで口を濯ぐ。

歯をいーっとして鏡を見る。

そして先のテストの事なのだが今日からどんどんそれが返却されてくる。、、、要らないです、、、

おそらくほとんど三十点以下な気がする。

このピンチをどうやって乗り越えようか考えていたらもう一度歯磨きしてしまった。笑

いつもよりも歯がピカピカになる。

制服に着替える。ネクタイを締める。最初は戸惑ったが慣れたものだ。

家を出ようとすると姉ちゃんと母ちゃんはもう出発している。

姉ちゃんの学校は母ちゃんの職場の近くで車で送ってもらっている。

弟は中学高がそこまで遠くないのでのんびり最後に家を出る。

『いってきます』

弟と家に挨拶して出発する。

通学路は約五分徒歩で最寄駅に。そこでライトレールと言う電車に乗って富山駅に行く。

このライトレールは二両構成で虹に見立て七色ある。赤色に乗ると良い事があるなんて言われている。

富山駅で鉄道に乗り換えて学校の最寄駅に。そこから校舎まで徒歩十五分ほど。合計約一時間の通学路。バスも有りそっちの方が早いのだが、、俺バスに弱くて乗ると酔ってしまう。

だから仕方なく電車通学にしている。ちなみにバスだと三十分で丁度半分くらい。バスで行きたい、、、

最寄り駅に一人ボーっとしながら歩く。

流星は朝練で一緒に行けない。

ふとあの人の事を考える、、、さくらさん、、、

ほんとに可愛かったな、、、美少女すぎる、、、

あの日から一度も見ていない。一年生と二年生なんて普通に過ごしていたら会う機会なんてほとんどない。部活をしていたら違うけど俺は帰宅部。帰って速攻ゲーム配信野郎です。

同じ一年生の中にだって三年間で一度も話さない人が殆どだろう。

さくらさんと話してみたい、、、

頭の中で妄想する。

マスク外したらどんな顔なんだろう、、、

彼氏いないみたいらしいから、、、俺付き合えるかな〜〜なんちって〜、、、あははは、、、、ハァ

心の中でため息が漏れる。ここ最近毎日ボーっとするといつもさくらさんの事を考えてしまう。

無理に決まってる、、、彼女と仲良くすらなれるわけない。諦めよう、、、諦めろ、、、諦めたくない。

どうしたら良いのか今まで付き合った事ない俺にはわからなかった。

ドタドタドタドタ

駅に向かって全速疾走する。こうでもしないと心がぐちゃぐちゃで苦しかった。

手をギュッと握りしめて思い切り足を踏み出す。

さくらさん!!!めっちゃ可愛い〜!!!あああ!!

心でさくらさんと呼びながら

教室に着くと中は賑やかな雰囲気に包まれている。入学当日の牽制し合うような感じはなくなりみんな馴染んできたみたいでそれぞれグループみたいなものが出来上がってきている。

俺の小中学生の頃は一クラスしかなく生徒の数も男子六人女子四人しかいなかった。

みんな仲が良かったのでこういったグループみたいなものは初めての経験だった。

『あっ数学の田畑先生きたぞ!』

一人の男子生徒が俺にモノマネのネタを振ってきた。

『えーっとね!ほならね!今日はね!教科書のね!五ページのね!ところを開いてねほんでー進めていくからね!』

声音を真似て言った。

俺のモノマネを聞いた何人かの生徒がケラケラ笑う。

数学の田畑先生はやたら語尾にねが多い独特な喋り方をする先生。

俺はお茶目なキャラとしてクラスに馴染んできていた。

配信とかでよくモノマネとかのネタ振りをリスナーからされるのでこういったことは慣れていた。 

よっしゃ!

俺のネタを聞いてみんなが笑ってくれると嬉しい。

翔太『かんた、こっちきて!』

坊主で丸顔、目は綺麗なぱっちり二重で少し可愛らしい印象の野球部翔太に呼ばれる。

リュックを机に置いてそっちに行く。

他にも男子たちが集まっていて流星もいる。

流星『おはようかんた、遅いよ』

かんた『電車やから仕方ないよ』

流星『酔い止め飲みまくってバスにしたら?』

かんた『飲みまくったら眠くなって面倒い、、、』

流星『飲まなくても寝てるやん』

かんた『まあ、、ね、、、』

流星に図星を突かれて言い返せれなかった。

かんた『何してるの??』

翔太『今みんなで可愛い子ランキングつくってる、かんた誰可愛いと思う?』

男子生徒たちはこういった可愛い子のランキングを作るのが大好き。

アイドルにもよくこういったイベントがあって盛り上がる。

机の上にノートが広げてあって十位まで名前が書いてある。

気になったのはさくらさんの順位。彼女の名前を探すと七位にあった。横にマスク外したら順位変わるかもって書いてあった。

一位の所を見ると西城奈津橘と書いてある。

他の人の名前を見ても正直誰だかわからなかった。

さくらさんしか興味ない。

かんた『さくらさん!他の人は興味ないしわかんない』

俺は翔太の質問に即答した。

翔太『またさくらさんか!俺顔見た事ないからわからん』

翔太はまだ見た事ないらしい。これだけたくさんの生徒がいて校舎も広いからなと思う。

男子生徒『俺も東雲さんだと思う、絶対もっと上やって、マスクつけててもわかる、あの人やばい』

俺がさくらさんの名前を言って彼女の話題になる。

男子生徒『俺部活の先輩から聞いたんだけどその人なんか話しかけたら無視するらしいよ、友達とか少ないみたいだし性格やばい人かもしれん』

俺はドキッとしてしまう、、、

憶測だよね、、、俺にはそんな人を無視するような冷たい人には見えなかった。

一目惚れしただけで彼女の事は何もわからない。ほんとにそんな人だったら、、、残念、、、俺の恋は終わってしまうだろう。

俺は肩を落として席に戻る。

流星が肩をポンと叩いてきた。

流星『かんた、さくらさんの事好きなん?』

ぷっと思わず吹き出す。

体温が上がって顔が真っ赤になるのがわかる。

なんでわかったんだ??

かんた『違うし、、別に、、』

動揺を隠せない。

流星『さくらさんしか興味ないって言ってただろ』

しまったと後悔する。流星とは長い付き合い。まぁこいつにならバレてもいっか。笑

ニヤニヤしながらなんか嬉しそうに聞いてくる。

かんた『そうだよ、みんなに言わないでよ、、』

流星『わかってるよ!』

好きな人をあてられて意地を張った俺は流星に背中を向けて座って頬杖をつく。

ホームルームのチャイムが鳴り今日も学校生活がスタートする。

現在三時間目の数学の授業中。

テストが返ってきて確認すると、、、二十四点...

今日三つ目の三十点以下。

この調子だと成績は学年最下位だろう。

この学校の赤点ラインは進学校なこともあって四十九点以下と高い。

赤点を取ると放課後に開かれる補習会に参加しないといけないらしく夕方十八時までみっちり勉強しないといけないらしい、、、

高スペックの配信機材のために良い学校に入ったのだがその後のことは全く考えていなかった。

勉強は全く好きではない。この先みんなについていけるのか不安が募る。

今思えば別の高校に入学してゆっくりバイトして自分で配信機材を買った方が良かったのではと思ってしまう。

お金がない中学生の俺にとっては高スペックpcやマイクを買ってあげると言われたら飛びつくに決まっている。

勉強しないでゲーム配信ずっとしたいよ〜〜〜

田畑先生は相変わらずねの多い口癖で授業を進めている。

頬杖をつきながらグラウンドを見る。

緑のネットに囲まれた広くて開放感のあるグラウンド。その奥に綺麗な立山連峰が黒板よりも魅力的にみえる。

グラウンドは他にもあってサッカー専用、野球専用など分かれている。

どんだけ凄いんだこの学校。

グラウンドには他のクラスの生徒たちが体育の授業をしている。

この時期は全学年体力測定をしていて百メートル走や持久走ハンドボール投げなどして運動能力を測られる。これは後に体育祭の団の振り分けに活かされる。

黒板ではなく他のクラスの体育の授業を眺めている、、、

あっ!!!もしかしてさくらさん??心の中で叫んでしまう。口に出そうになって危うかった。

どうやら二年生の授業だったらしい。

少し遠くて見えずらいがサラサラの黒髪とマスク姿の美少女なので彼女だ。

顔が小さくてほとんどマスクでのっぺらぼうみたい。笑

体操服から遠慮気味に白くて透き通った細い手足がすらっと出ている。

胸は柔らかく膨らんでいてスタイルが良い。ルックスが完璧すぎる。

他の生徒たちと距離を置いて一人キョロキョロしている。

ペアを決めないといけないらしく彼女は一人残されていた。

すると一人の女子生徒が彼女の元に近寄って行き手を握ってみんなが集まっているところに移動する。

さくらさんの友達かな??めっちゃ可愛いな、、

ポニーテールの美少女。胸がデカくて筋肉質な白い美脚。

何か運動部なのかな。

『金田君ね、金田君ね』

田畑先生に呼ばれてはっとなり黒板に顔を向ける。

田畑『金田君ね、あなたね、授業聞いてますかね?』

かんた『えっとね、全然ね、聞いてませんね』

何人かの生徒がぷっと笑う。それを皮切りに教室の緊張感がなくなり少しざわざわし始める。

田畑『あなたね、先生の事馬鹿にするのは良いけどね、しっかり授業に集中してね』

かんた『すいません、、でも先生、ねが多くて真似したくなる』

田畑『ごめんね、これはね、癖なのね』

かんた『そうなのね』

さっきよりも大きな笑いが起こる。

田畑『はいみなさんね、静かにね、授業集中してね』

教室が静かになっていき再びみんな授業に集中し始める。

グラウンドのさくらさんが気になるがこのままだと次のテストがまずいと思い板書をし始めた。

午前中の授業が終わって昼食の時間。

学食に行く生徒たちが教室からどんどん出てきてドタドタ音が鳴る。

こんなにたくさんの生徒が一体どこに隠れていたのかと一気に校舎内が賑やかになる。

流星『学食いこうぜ!』

隣の席の流星に誘われる。

かんた『うん、、』

流星『大丈夫か?』

元気のない返事に心配させてしまう。

かんた『大丈夫だけど、、、最近食欲あんまなくて、、』

流星『まじか!?そういえば昨日残してたな、珍しいなと思ったんだけど今日もか?』

かんた『心配させてごめん』

流星『テストの事?』

かんた『うーん?そうかも』

心当たりあるとすればそれしかない。でも俺はテストの成績が悪くても食欲がなくなるとは思えなかった。

流星『わからないとこあったら教えるから元気だせって』

優しい言葉をかけられて気持ちが楽になる。

彼とは小学校からずっと仲が良い。海が近いので一緒に泳いだり岩波の町全域で鬼ごっこをしたり紹介したらきりがない。

かんた『サンキュー』

流星『おう!そんなら食堂行くぞ』

かんた『話しきいてなかったのかな?』

流星『いいから食わないと!無理やり口に詰め込んでやるから』

流星に引っ張られて食堂に移動する。

食堂に移動する時も彼女の姿を探してしまっていた。

残念ながら会えなかった、、、苦しい、、、彼女の事を考えると胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚になる。

彼氏がいないらしいが可愛い彼女の事だから近いうちに誰かと付き合うんだろうな。

くるちぃ、、、考えたら胸が張り裂けそう。

食堂はたくさんの生徒で溢れかえっている。どの場所にも列ができている。

みんな楽しそうに青春を過ごしている。

そういえば一つこの学校に残念だったところがある。

それは女子の制服のスカートが長くて地味な事。

結構校則が厳しくてみんな膝が隠れている。

ミニスカを見たかったのでちょっと残念、、

中には注意されないギリギリを攻めてスカートを短くしている女子生徒がいる。

感謝します。

流星が何食べようか呟いている。

流星『味噌ラーメン大盛り、ご飯大盛り、これにしよっかな、かんたわ?』

かんた『俺もラーメン食べたいけど、、』

流星『残したら俺食べてやるぞ』

いつもなら流星と同じのを頼むのだが、、少し考える。

かんた『わりぃ小さいパン適当に買って外で食べてくる。』

食堂の中よりも外の風に当たりたい気分だった。

流星『そっか、、なら俺もそうしよー』

かんた『えっ?いいの?』

流星『いいよ、ほらはよ並ぶぞ』

かんた『わりぃ、、』

並んだ後俺は焼きそばパン一つ、流星は焼きそばパンにクリームパンクロワッサンメロンパンを購入した。

流星は落とさないようにパンを重ねて両腕の上に抱える。

少し持ってあげて玄関に行く。靴を履き替えて校舎を出る。

綺麗な青空がどこまでも広がっている。入学した時に歓迎してくれたさくらはもう散って緑の葉をつけている。

すーっと春の風が顔に当たり気持ちいい。夏はまだ先だなと思う。

校門の前の道を挟んだ所に野球部専用のグラウンドがあって昼練をしている。

しゃーっと大きな声が聞こえてくる。

校舎横に流星と移動する。

ここだと誰も来なさそう。ボーっと考え事するにはうってつけの場所。誰か来るとすればタバコを吸う先生か人目を避けてイチャイチャしに来るカップルぐらいだろう。

適当に地面に胡座をかいて座る。

流星『さくらさんに告るの?』

ぷっ!! 不意に言われてびっくりする。

流星は焼きそばパンを豪快に口に放り込む。

かんた『いきなりすぎるだろ!、、、無理だよ、付き合えるわけないよ、だいたいまだ話したこともないし』

流星は焼きそばパンを咀嚼しながら聞いている。あっという間に平らげ次はクリームパン。

流星『そっか、ならまず話してみないとだな』

かんた『なんて話しかけたらいい?』

流星『わかんねぇ』

かんた『だよね』

沈黙が続く。流星のパンだけどんどんなくなっていく。

俺はまだラップを開けていない焼きそばパンを地面に置いた。

かんた『流星は朝のランキングのやつ誰か言ったの?』

流星『あー』

どこか遠くを見ながら口を開く。

流星『西城奈津橘さん』

かんた『確か一位の人だっけ』

流星『そっそ、二年生の陸上部めっちゃ美人』

かんた『へーっ』

どんな人か気にはなったがそれ以上踏み込もうとは思わなかった。

流星『俺の好みドンピシャ、活発そうで太陽みたいな明るい感じ、見たら一瞬で惚れた』

かんた『俺もさくらさんに一瞬で惚れた...両方年上?』

流星はだなとつぶやく。ちょっと間を置いてでもなと言うと

流星『奈津橘さん彼氏いるんだよね』

彼の長いまつげの乗った瞼が下がりながら悲しそうにさらっと言った。

俺は何も言わずに黙っている。

最後のパンをパクッと頬張り

流星『一年早く生まれていたらそいつよりも早く告れたのになぁ』

かんた『いやだよそしたら俺と友達になってないかもしれないじゃん』

流星『はっ?おまえ可愛こと言うじゃねぇか!』

かんた『いててて!!』

彼は嬉しそうに口角を上げながら思い切り頭をグリグリしてくる。

頭グリグリをやめると元いた場所に戻っていく。

流星『ちょ!まじぃ!』

かんた『えっ?』

何かに気づいた流星が俺を引っ張って校舎の角に連れていく。

頭グリグリされて次は引っ張られて訳がわからなくなる。

流星はこっそり校舎の角から顔を出して今来た方を見ている。何が起こったのか分からず俺も彼に倣う。

かんた『どうしたん?』

二人の男女がイチャイチャしながら歩いてきてさっき俺たちのいたところから近い場所に校舎を背に横に並んで腰を下ろす。

美男美女のカップルに釘付けになりながら様子を伺う。

ん?なんかあの女子生徒みたことあるような、、、

ポニーテールの髪型の美少女の記憶は新しかった。

さっきグラウンドでさくらさんの手を握っていた人だ。

流星『あの人奈津橘さん』

あの人がランキング一位の、、、確かにめっちゃ可愛い。運動部男子からは特にモテそう。

流星『あの彼氏五十嵐達磨、なんか人気な配信者ならしいぞ?知らないか?登録者五万とか十万とかって聞いたよ』

かんた『聞いたことないよ、配信者なんて今いっぱいいるし、、五万?十万?すごっ』

流星『かんた今何人なんだ??』

かんた『えっ?俺?、、、三十七人』

流星『すくなっ』

かんた『始めたばっかだから仕方がないよ、、、』

二人の様子を流星と黙って見ている。

イチャイチャ楽しそうに話していて羨ましい、、、

少し遠くて見えずらいが奈津橘さんの人当たりが良さそうな感じが伝わってくる。

彼氏の方は全く興味なし。イケメンだなと思うだけ。笑

いい雰囲気になったのか奈津橘さんが五十嵐の前に移動して背中を密着させる。五十嵐が奈津橘さんの事を後ろから抱く。

これまずいかも、、、何か凄いことが始まりそうな予感。

奈津橘さんは上半身を捻ると五十嵐とチュウし始めた。、、、

かんた『やばい、、ちんちん元気なってきた』

流星『俺も、、、』

童貞高校一年生のかんたには刺激が強すぎた。

ちゅうはどんどん激しくなり五十嵐がそのまま胸を触り始めた。

だったたた

流星がその場から逃げるように走り去る。俺も後を追う。

流星『五十嵐クソ野郎!!』

全速疾走で校舎をぐるっと周り玄関に向かう。

かんた『はっ、はっ、、やばっ、、焼きそばパン置いてきた!!』

流星『今は無理だぁぁ!!』

ぜぇぜぇ息を切らして校舎の中へ。

焼きそばパンきっとカラスに持っていかれたよね、、、

午後の授業は流星と二人上の空だった。

さっきの光景がなん度も頭に蘇る。

流星の様子を見るとボーっと黒板を見つめていて板書の手が止まっている。

五限と六限の間の休み時間に焼きそばパンを取りにさっきの場所にダッシュで行った。

寂しそうにポツンと置かれた焼きそばパン。

置いていきやがってはよ食えと言われた気がしてパクッと食べる。

ここにくるとあの二人のエッチを思い出して顔が赤くなる。

そして放課後になる。

担任の先生がやってきてホームルームの時間。

担任『はい!残りのテスト全て預かっているので返します』

いまなんておっしゃいましたか??

次々返却されるテストの用紙。

右フック、左フック、最後はアッパーが俺の顎にクリンヒット。

レフリーのカウントも虚しくダウン。

全教科赤点。

テストにボコボコにされてしまった。

死体蹴りされるように先生から職員室に呼び出し。

流星『サッカー休みたい、、、』

流星は抜け殻のように呟いた。彼はテストではなく五十嵐にダウンさせられていた。

かんた『職員室行ってくる、また明日、、』

流星『おう、、サッカー行ってくる、、またね』

休みたいと言っていたがちゃんと行くらしい。

ずっとサッカーを続けていて本当にサッカーが好きなんだなと思う。

リュックを背負うといつもよりも重く感じた。

重い足取りでゆっくりゆっくりと職員室に行く。

中に入って挨拶する。

コーヒーの匂いがして職員室に来てしまったんだなと思う。

俺にはまだコーヒーのうまさは全くわからない。

よくあんな苦いのを飲めるなと思う。

担任の先生の席に移動して、赤点補習会の説明をされる。

説明を終えると各教科の先生方からの課題の内容がずらっと書かれた紙を渡される。

目を通して吐き気を催す。細かい字でびっしり。

夏休みの宿題の倍はありそうだった。

先生から呆れた様子で叱られて職員室を後にする。

赤点補習会はもうこの後すぐ行われるらしい。

場所は四階の多目的室。またまた遠い。

移動している間に赤点補習について整理すると、各教科四十九点以下を取った人がその教科の課題が出されて全学年まとめて多目的室に集められる。そして夕方十八時まで勉強していかないといけない。解放されるには課題を終わらせるしかない。

肩を落とし重い足取りで階段を登る。

立山を登山しているような疲れが押し寄せてくる。

やたらツルツル滑る廊下の床を歩いていると多目的室が見えてきた。

俺たちの教室から離れた所にあって用がないとなかなか来ないだろう。

こんな所にトイレあるんだ。うんこする時誰も来なさそうだし静かにできそうだからここにこようかな。

ガラガラ

教室のドアを開けると、、俺の他にも、、、思ったよりも沢山の生徒がいた。みんな各々勉強を開始していた。

空いている席を探すが無さそう。ピッタリ埋まっていると言うことは三十人はいるみたいだ。

先生『君何年生?名前は?』

かんた『一年です。金田かんたです』

担当の先生に声をかけられた。眼鏡をかけていて白髪混じりの短髪。五十代ぐらいだろう。教卓を机代わりに座っている。

辺りを見回すが空いていない事に気づいた。

担当『空いていないな、、』

少し考えるような口調。

担当『きみ隣の教室使いなさい』

返事をして隣の教室に行こうとした時、、、


??『ごめんなさい、、、遅れました、、、』


後ろから可愛い女子の声が聞こえた。気になって振り返る、、、


時が止まる。思考が停止する。うそ...


そこにいたのはさくらさんだった。

先生『君も空いている席ないから隣使いなさい』

さくら『、、、はい、、、ごめんなさい、、、』

空気に溶けていく小さな声音。

少し俯きながら俺に近づいてくる。

俺のそばを通る時に小さく会釈して教室に入って行った。

サラサラの黒髪が窓から差し込む光に反射して美しい黒曜石みたいな輝きを作っていた。

いい匂いがする。

心が追いついてこない。突っ立ったまま動けない。

先生『きみ、早く教室に入りなさい』

出てきた先生に促されてはっとなる。

教室に入ると真ん中らへんで彼女がキョロキョロしていた。どこに座るか決められないみたい。

先生も教室に入ってくる。

『東雲さんあそこの窓際の席、君はその隣に座って課題に取り組みなさい。

え?え?えー〜!さくらさんの隣!!?

先生の指示に従って彼女が席に座る。

先生『早くしなさい』

俺も指示された席に座った。

先生が金田とマジックで書いたテープを机の右上に貼った。どうやら補習会の間はこの席を使えということなのだろう。

彼女の机にも同じようにして貼った。

『先生は隣の教室にいるので何か困ったことがあったら呼びにきてください。たまに様子を見にくるのでしっかり課題に取り組むように。十八時になったら終了の合図をしにきます。頑張ってください』

そう言って教室から出て行こうとする。

待って!先生行かないで!さくらさんと二人きりになっちゃうよ!今は側にいて下さい!!!

白髪混じりの先生に側にいてなどとキモい事を心の中で言ってしまう。

このままだとさくらさんと二人きりになってしまう。無理無理無理無理無理無理

やばいやばいやばいやばい

心拍数が上がる。勉強どころではない。

気になって一瞬隣を見る。

窓際の席だからさっきと同様窓から差す光が彼女にあたっていて、、、

なんて可愛いんだ、、、

白が何でも似合うような清楚な感じ。

俺のタイプにドドストライク。

横顔のマスクをしていて目元しか見えないのだが目と雰囲気だけでも可愛いかった。

身も心も全て彼女に持っていかれた。

彼女は俺の事を全く気にしないでシャーペンをすらすら動かしている。

ここに俺は存在していないかのようだ。

あんまりじろじろみたらまずいのでとりあえずリュックから適当に教科書とノートを出して勉強しているふりをする。

心がもうぐちゃぐちゃ、、、

何度も気づかれないようにこっそり彼女の事を見る。

流星『まずは話しかけないとだな』

流星に言われた事を思い出す。

でも話しかけるって言っても、、、

隣を見ると課題に一瞬懸命に取り組む彼女の姿。

こんにちは、なんの教科赤点なんですか??

こんにちは、赤点補習大変ですね、これから頑張りましょうね、、

こんにちは、、挨拶だけでも、、

どれも却下!ハァ、、、

心の中でため息が漏れる。

苦しい、、、誰か助けて、、、

黒板の上にある時計を見ると十六時を少し過ぎた頃だった。

まだこんな時間なんだ。

一分が十分に感じるほど時の流れが遅い。

集中している彼女の邪魔をしてはいけない。

きっとじろじろみてる事を気づいていたら嫌に決まっている。

俺は諦めてたくさんある課題に向き合う事を決める。

どっと疲れが出てきて眠気が一気にくる。

目を擦り全く集中できないままとにかく頑張ってシャーペンを動かし続けるのであった。

十八時。先生が終了を告げにやって来た。

隣の教室から生徒たちが椅子を引く音が聞こえてきた。

さくらさんは机の上の物をスクールバッグにしまうと教室から出て行った。

約二時間課題も彼女との距離も進まないままただボさっと座っていた俺はそのまま机に突っ伏した。

疲労でもう動けない。このまま学校に泊まっていこうかなとか考える。

無気力に机の上の物をリュックにしまっていく。

流星『話しかけないとだな』

無理だよ、、、机に突っ伏したまま涙が溢れそうになってしまう。

チャンスはあった。

何度か休み時間があって気を落ち着ける時間はあった。

でも無理だった。

配信でリスナーによく話しかけているがさくらさんにはできなかった。

言い訳っぽくなるのだが確かに彼女には何か話しかけ辛い雰囲気があった。

ずっと付けているあのマスクが原因なのだろうか。

周りを拒絶するような壁を作るあのマスク。ずっと風邪をひいている、、わけないか、、

あのマスクに話しかけないでくださいと言われている気がした。

冷たい氷のような人なのだろうか。

でもあの優しそうな瞳、どこか柔らかそうな雰囲気もあってそんな人だとは思えない。

明日こそは、、挨拶だけでも!

そう心に誓って重い疲労の乗った身体を起こし赤点補習生の中で一番最後に帰路についた。

補習三日目。

昨日もずっとあんな感じで彼女に話しかけることはできずに過ぎてしまった。

赤点補習が始まってからさらに食欲がなくなり一昨日の晩からほとんど何も食べていなかった。

睡眠もベッドで寝ようとするとさくらさんの事ばかり考えてしまい殆ど寝ていない。

流星に顔色悪くねぇ?と言われたが心配させたくなかったので相談もしないで明るく振る舞って今日をのりきった。

隣には可愛い彼女が今日も課題に取り組んでいる。

か、わ、い、い、

あれ?なんかフラフラする。

さくらさんがなんだか歪んで見える。

シャーペンを持つ手に力が入らない。

今度は吐き気がおそってくる。

近くにトイレがあったなと思い立ち上がる。

ガタン!!!

大きな音が教室に響く。

あれ?倒れた?床が急に近くなる。

意識が薄れていく、、視界が暗くなって...


かんたは恋煩いになってしまっていた。


ゆっくりと意識を取り戻す。

四方をレースのカーテンで囲まれている。

保健室のベッドに運ばれたみたいだった。

さっきの吐き気や頭のクラクラは治っているみたい。

外から先生たちの話す声が聞こえる。

『だいじょうぶ??』

優しい声が近くから聞こえた。

天国なのかな?俺もしかして、、、

目線だけを動かして声のした方を見る。

そこには心配した面持ちで椅子に座っているさくらさんがいた。

驚いてベッドから飛び起きそうになるが力が出なかった。

彼女に大丈夫ですとだけ伝える。

初めて目が合った。

ぷっくりと大きな涙袋の上にある透き通った美しい瞳に吸い込まれそうになり再び意識を失いそうになる。

さくら『先生呼んできます』

レースを開けて出ていく。

すぐにシャッ!と音が鳴って補習会の担当の先生と保健室の先生が枕元にやってくる。

担当『大丈夫か?今救急車呼ぼうかと思っていたところだ!』

かんた『救急車??大丈夫です、今は吐き気とかないです』

担当『そっか、、』

保先生『おそらく低血糖かと思うんだけど、、、睡眠不足で極度の緊張状態が続いたとか、ご飯を食べていないとか』

おっぱいの大きな保険の先生にそう言われて心当たりしかなかった。

かんた『多分そうかもです、、』

保先生『しっかり食べて寝たらすぐ治るわよ』

かんた『、、はい』

担当『そうか、、よかった、、』

二人とも安堵の表情。

担当『回復したら今日はもう帰りなさい』

かんた『心配かけてごめんなさい』

さくら『私は教室に戻ります。何事もなくてよかったです』

俺を挟んで先生たちと反対側で見守ってくれていた彼女がそう言って保健室を出て行った。

さくらさんと話すことができた。

嬉しくなってきていてもたってもいられなくなってきた。

上半身を起こす。様子をみるが問題無さそうだ。

かんた『先生!』

担当『なんだね?』

かんた『さくらさんと話すことができた!』

この嬉しい気持ちをしまっておくことができずに目を輝かせて先生に話してしまった、、、

担当『なっなにを言ってるんだねきみは!!』

いきなり意味のわからない事を言われて先生は動揺を隠しきれない。

俺も何言ってるのかよくわからない。笑

担当『東雲さんが慌てて先生のところに呼びにきたんだ。あとでお礼を言っておきなさい』

かんた『はい!その、、ありがとうございました!なんか元気出てきた!帰らなくて大丈夫です!補習いってきます!』

ベッドから起き上がり四階の多目的室に向かう。

走っていこうかと思ったがまだ足がおぼつかなくて歩いて行くことにする。※廊下は走ってはいけない

少し迷子になりながら四階の多目的室に到着。

校舎広すぎる、、、

このドアの向こうにさくらさんがいる。

ちゃんとお礼言わないと!

ガラガラ

ドアを開けたことで彼女とまた目が合う。

もう課題に取り掛かっていたらしい。

自分の席に移動して

かんた『先生から聞きました。、、その、、、助けを呼んでくれたって、、ありがとうございます!』

ニコッと笑ってお礼を言えた。

さくら『、、、体調は、もう大丈夫??』

耳を両手で優しく包みこむように優しく言ってくる。

かんた『大丈夫です。ごめんなさい課題の邪魔してしまって』

彼女は首を小さく横に振ると

さくら『体調が回復してよかったです』

目を細めて微笑しながら言った。

あっ、、、

こんな素敵な笑顔なんだ、、

冷たい氷のような人だと少しでも疑った自分が情けなかった。

かんた『俺、金田かんたっていいます、一年生です、よろしくお願いします』

彼女の心にゆっくりゆっくり慎重に近づくように自己紹介をした。

さくら『私は、』

そう言って恥ずかしそうに目を伏せる。その後に小さな声で東雲さくらですと言ってくれた。

かんた『えっと、、さくらさん、、補習頑張りましょうね、、』

慎重に慎重に彼女にかける言葉を選ぶ。

彼女の繊細な雰囲気が無意識にそうさせる。

さくら『、、はい』

ぷつりと会話が途切れる。

これ以上邪魔してはいけないと思い席に着いて課題に取り掛かり始める。

心の中でガッツポーズをする。

樹海の中をずっと迷い込んでいて出口が見えたようなそんな気分だった。

彼女の物語に脇役いやエキストラでも登場できたような気がして嬉しかった。

すーっとずっと苦しかった心のモヤモヤが晴れていく。

ぐぅぅぅ〜

やばい腹鳴った。汗

気持ちが軽くなってお腹が空いてしまう。

ここ最近ほんとに食欲がなかったから久しぶりの感覚。

今日の晩御飯を楽しみにして少し彼女の事を見たりして残りの時間頑張って課題を進める。

そして十八時をむかえる。

担当の先生に改めて体調の心配をされながら終了を告げられた。

かんた『補習、おつかれさまです、、』

片付けをしている彼女にそう言った。

さくら『、、おつかれ、さまです、』

小さな声音で返事をしてくれた。さらにえっと、その、と恥ずかしそうに何か付け加えようとする。

さくら『しっかり休んで下さい』

彼女にも改めて体調の事を心配された。

それが嬉しくて顔が赤くなり照れてしまう。

かんた『はい!ありがとうございます、帰ったらめちゃくちゃ休みます』

彼女はまた目を細めて微笑した。

愛愛しく守ってあげたくなるような幼さが混じっている。

まじまじと見るとけっこう童顔なんだ。

俺も机の上の物を片付け始める。

彼女はいつも片づけるとソッコーで帰るのに今日はまだいるみたいだった。

??『さくー補習終わった??』

明るく弾むような可愛い声音がドアのところからした。

ぱっとそっちを見ると、、

あっ!!確か、、奈津橘さんだ!!なんでここに??今さくらさんの事、さくってよんでなかった??

ポニーテールが目立つ翔太たちの作った可愛いランキングトップの彼女が立っていた。

大きく膨らんだ胸、スカートは校則なんかお構いなしと膝が堂々と出ている。俺が見てきた中でダントツに短い。

陸上部でスタイル抜群。スクールバッグを掲げている。

陸上部の人って日焼けしているイメージだが彼女は綺麗な白い肌。

さっき事を思い出す。

彼氏にしか見せたくない顔を盗み見してしまって気まずい。

さくらさんの後ろの席に座ると脚を組んで座る。

奈津橘『部活疲れた〜』

ダラーっと机に突っ伏しながら嘆いた。

さくらさんは椅子を両手で持って向きを変える。

机に突っ伏しいる奈津橘さんの頭をゆっくり優しく撫で始めた。

すごい、、俺も、、やってほちぃーです。

さくらにそんな事されたら疲れなんか一緒でなくなりそう。

奈津橘さんは手を重ねてほっぺたを乗せる。

とっても気持ちよさそうに目を瞑る。

俺は帰ってもいいのに二人の美少女の愛おしいやりとりをポカンと眺めてしまっていた。

奈津橘『ありがとうさく!すっごい回復した〜』

さくら『うん!』

さっきみたいに目を細めて微笑して頷く。

この二人とても仲が良いみたいだ。

奈津橘さんが座ったままグーッと背伸びをする。

ふと俺と目が合ってしまう。

奈津橘『ん??ねぇねぇキミ何年生??』

興味津々と言った様子で聞いてくる。

俺は話しかけられるとは思っていなかったので戸惑う。

かんた『えっ??あっ!、、一年生です』

奈津橘『名前わ〜私は西城奈津橘、キミもさくと一緒で赤点補習なの??』

かんた『、、はい、、名前は、金田かんたって言います、』

奈津橘『かんた!可愛い名前!そっかーちゃんと勉強しないとダ、メ、だ、ぞ』

かんた『はい、、』

苦笑いしながら返事をする。

なんだこの人コミュ力高すぎる!

奈津橘『中学はどこだったの??』

かんた『えっと岩波です』

奈津橘『岩波かぁ!てことは海めっちゃ近いじゃん!いいな〜私行ったことあるよ!』

かんた『海めっちゃ近いです。中学の時は夏良く友達と遊びに行ってました』

奈津橘『いいね、いいね、泳ぎは得意?私結構苦手なんだよね〜クロールならちょっとできるんだけど。だから海行ったら浅瀬のところとか砂浜でバレーとかして遊んでるの』

かんた『泳ぐのは得意です。テトラポッドのところまで行ってダイブとかして遊んでました。』

(危険ですので絶対やめましょう)

奈津橘『すごっ!!』

相手のことを聞いて自分のことを言ってくれるからとっても話しやすい。

俺が牛乳だとしたら彼女はコーヒー、違和感なく混ざってきてくれる感じ。なんだかとっても美味しいコーヒー牛乳ができそうな予感!!

さくら『あの、、そろそろ、、かえ、、』

申し訳なさそうに小さな声で彼女が言う。

このままだとずっと話していそうな勢いだった。

帰りたそうにしているさくらさんにごめんなさいと心の中で謝った。

奈津橘『ごめんさく、帰ろっか。かんたも話してくれてきのどくさまね(ありがとう)』

かんたって呼んでくれて照れくさくなる。

帰る雰囲気になった時に奈津橘さんがあっ!と何か思い出すように言った。

奈津橘『さく、スピーチは上手く進んでいる?』

奈津橘さんが心配そうな面持ちで聞いた。

さくら『えっと、、、ごめんなさい、、全然すすんでなくて、、』

目を伏せて胸元に手をギュッと握りしめて当てながら悲しそうに言った。

俺は彼女が何か苦しんでいるようにそう見えた。

俺はスピーチと言った事が気になって奈津橘さんにきいてみることにした。

かんた『スピーチってなんのですか??』

奈津橘『ん??あっ、スピーチって生徒会総選挙の事、私立候補したいの!』

かんた『、、、えっ??』

俺はきょとんとしてしまう。

生徒会総選挙って生徒会長を決めるあれだよね?奈津橘さんが?まじか!!

生徒会長に立候補する人ってなんか真面目でメガネかけてて堅苦しい印象だったのでびっくりしてしまう。

彼女は制服の着こなしからして真面目な印象には全く見えなかった、、大丈夫なのかな、、

奈津橘『うちの学校生徒会長になるには推薦人が必要でさくが私のためにやりたいって言ってくれたの』

奈津橘さんははっとした表情をするとさくらさんに手のひらを向けて

奈津橘『さくはこの子、幼馴染で私の親友、恥ずかしがり屋さんで人見知りなんだけどすっごい優しいの!』

自慢するかのように嬉しそうに彼女の事を紹介した。

コミュ力高すぎの奈津橘さんと人見知りのさくらさんの組み合わせに二人はどのようにして仲良くなったのか気になって仕方がなかった。

コミュ力が高い奈津橘さんだからこそさくらさんと親友になれたんだろうな。

かんた『はい、、さっき俺体調悪くなってその時さくらさんに助けてもらいました』

奈津橘『そうなの?!えっ??かんた体調悪いの??呼び止めるみたいな事してごめんね!早く帰って休んで』

奈津橘さんもとても優しい人なんだなと思った。

かんた『今は回復したので大丈夫です』

倒れて運ばれたとか言ってしまったら余計心配かけそうだったのでそこは伏せておいた。

奈津橘『そっかーよかった』

奈津橘さんは今度はさくらさんの方を見る。

奈津橘『さくすごいじゃん!!』

さくら『えっ、、私は、、なにも、、』

謙遜しながら言った。

彼女が帰りたそうにしているのに随分長引かせてしまった。

かんた『あの、さくらさん帰りたそうにしてるので』

奈津橘『そうだね、ごめんね、帰ろっか。皆のもの撤収じゃ〜』

最後武将みたいな口調で言った。

奈津橘『じゃあねかんた、また学校で会ったら話そうね』

かんた『はい!』

元気よく返事した。

二人は席から立ち上がる。さくらさんは小さく俺に会釈すると二人は教室から出て行った。

ちょっと時間が経って今美少女二人と話していたんだというものすごい現実をうけいれて心がドキドキする。

それから彼女のあの苦しそうな表情を思い出す。

自分の中で何か葛藤しているようなそんな気もした。

スピーチをするって全校生徒の前でするんだよね。

この学校たくさんの生徒がいるから恥ずかしがり屋の彼女の事が心配になってしまう。

奈津橘さんはどうして生徒会長になりたいのかな?次会ったら聞いてみよう。

いろんな事を心の中で考えてしまいきりがない。

俺はリュックを背負うと多目的室を後にした。

玄関から外に出ると春の涼しい夕方の気候に迎えてもらえる。

西の空は真っ赤に染まっていて東の空は薄暗く星明かりが薄っすらと見える。

富山県民を見守る立山は黒い影になり月と交代して休んでいた。

校門を出て駅に向かって歩く。

この学校の野球部は甲子園の常連校で今年も甲子園を目指す活気のある声が右にあるグランドから響いている。

まだまだ練習していてすごい。

恋愛禁止ならしくみんなそれぞれ甲子園への想いが大きい。

ラノベのハーレム主人公みたいに分部両立恋愛も順調なんて高校生はそんなに器用ではない。

車道を通るいろんな種類の車とすれ違う。

さくらさんとほんの少しだけ心が近づけた気がした。

彼女の顔を思い浮かべると目を細めて笑う顔になっていた。

嫌だなと思っていた赤点補習だが彼女がいると思ったら待ち遠しいものになってしまう。

あーあ、早く明日の補習の時間にならないかな。

野球部のグランドを過ぎると今度はテニス部のコートの横を通る。

練習している生徒はもういなくて更衣室から楽しそうに談笑する声が漏れていた。

駅まで徒歩で約十五分の道をひたすら歩く。

明日の補習の時は何話そうかな。でも人見知りだからたくさん話しかけるのはよくないよね。

どんな食べ物が好きなのかな。

どんな事が好きなのかな。

好きな男のタイプはなんだろう。

彼女の好きな人になるように努力したい。

可愛かったな。

保健室で心配された時嬉しかったな。

マスクを外した顔も見てみたい。

ぐ〜ぅぅお腹がなる。

久しぶりに食欲が湧いてきて今日の晩御飯を楽しみにしながら軽やかな足取りで家に帰るのであった。

夕飯をお腹いっぱい食べて自分の部屋のベッドに横になっている。

家族のみんなから食欲がもどって安心された。

心配かけてしまい申し訳ない、、

学校で倒れた事は言わないでおいた。

学校から連絡があったら言ってくると思うがなかったので俺の様子を見て大丈夫だと判断したみたいだ。

部屋の中は狭い一室で勉強机とベッドを置くともう空いているところはない。

勉強机の上にはゲーム配信で使うパソコンとモニターとマイクが置いてあって勉強机とはいえない状態。笑

黒い配線が絡まったりしてぐじゃぐじゃに伸びていて迷路みたい。

隣は姉ちゃんの部屋になっている。

今部屋に篭って勉強している。

奈津橘『スピーチ上手く進んでいる?』

さくら『えっと、ごめんなさい、、まだ進んでない』

さっきのやりとりを思い出していた。

スピーチかぁ。

さくらさん相当苦戦しているみたいだった。

何か役に立てる事はないかなと思ったが勝手に踏み込むのは良くなさそう。

推薦人のスピーチとなるとその人が生徒会長に相応しい理由をみんなに伝えるってことだよね。

性格だったり得意なこと、人柄つまりは当人の魅力。

票を集めるために大事なことである。

プレッシャーが大きいに決まっている。

なんとなくスマホでスピーチやり方と検索してみる。

スピーチの上手にできるやり方がたくさん書いてあって目を通してみる。

スピーチをするにあたって大事な事は準備と練習、人目を気にしない事、完璧主義にならない事ならしい。

なるほどと思いながらスクロールする。

次は原稿の作り方が書いてある。

目的を明確にする。

起承転結で伝える。

ふむふむ

赤点補習の課題そっちのけでスピーチの原稿の作り方を真剣に読んでいた。

暫くしてスマホがポトっと手から転がり落ちて俺は夢の中へと旅立って行った。

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