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 数日後――。

 ライオット帝国の首都アインフェルトでは、エマとレイヴンの婚儀に向けた準備が再開していた。


 皇宮だけでなく、他の街も含めて、帝国全体が祝福ムードに染まっていた。

 至る所に華やかな帝国の国旗や花飾りが掲げられ、誰もが二人の婚姻について嬉しそうに話している。


 もはやエマを悲しませるものは何も残っていない。

 最高のフィナーレに向けて、全てが順調に進んでいた。


 ◇


 皇宮の大広間では、式典のリハーサルや打ち合わせが行われていた。

 使用人や侍女が走り回り、全てにおいて問題がないかを何度も確認している。


 その頃、エマは控え室にいた。

 ナディーネのサポートを受けながら、そわそわとしている。


「ついにこの時が来ましたね! エマ様!」


 ナディーネは声を弾ませながら、エマの衣装を整える。

 数え切れない回数の試着を経て選ばれた極上で最高のウェディングドレスだ。


「本当に夢のようです」


「あはは。現実ですよ! そして、今のエマ様はいつも以上に美しいです! まるで神話に出てくる海の巫女……いえ、それ以上に素敵ですよ!」


「もー、ナディーネさんはいつも大袈裟ですよ!」


 エマは恥ずかしそうに頬を染めた。

 それから、振り返ってナディーネを見る。


「ナディーネさん、いつもありがとうございます。ナディーネさんがサポートをしてくださっているおかげで、帝国に来てからずっと快適な時間を過ごせています」


「いえいえ! 私のほうこそエマ様には感謝してもしきれません! それに、エマ様のおかげで、私も幸せのお裾分けをいただけましたから!」


 ナディーネが「ほら!」と左手を見せる。

 薬指に婚約指輪がはめられていた。

 相手はアルフォンスだ。


「まさかナディーネさんとアルフォンスさんがそういうご関係だったとは知りませんでしたよ。いつも私の傍にいるのに、どうやって関係を深めていったのですか?」


「ふふふ、実はナディーネは三つ子で、三人で交代しながら『ナディーネ』という侍女を演じていたのです」


「な、なんだってー!」


「あはは、冗談ですよ! 冗談!」


「本当かと思いましたよー! それで、実際はどうやって関係を深めたのですか?」


「その件は別の機会にお話ししましょう。今日の主役は私ではなくエマ様なのですから!」


 二人が話していると、扉がノックされた。

 ナディーネが「はーい!」と元気よく開ける。

 しかし、やってきた相手を見て固まった。


「へ、陛下……! メリエンヌ皇妃も……!」


 エマも愕然とした。

 そこに立っていたのはヴァルタリオ皇帝とメリエンヌ皇妃だったのだ。


「少しよろしいですか? エマ」


 メリエンヌ皇妃が優しく微笑む。


「もちろんです!」


 ヴァルタリオ皇帝とメリエンヌ皇妃が中に入る。

 ナディーネは静かに部屋を出た。

 邪魔が入らないよう、扉の外に立っておく。


「ど、どど、どうされたのですか?」


 緊張のあまり声が震えるエマ。


「今日は皇帝と皇妃ではなく、レイヴンの両親としてそなたと話しに来たのだ」


 ヴァルタリオ皇帝が柔らかな笑みを浮かべる。


「わたくしたちの子――レイヴンは、あなたと出会ってから大きく変わりました。恋を知ったことで、自身の未熟な部分に気づき、そして、大きく成長することができました」


「私やメリエンヌは、親として、あの子を成長させてくれたそなたに深く感謝している」


「いやいや、そんな……! レイヴン様には、私のほうがお世話になりっぱなしで、成長もさせてもらっていて……ですから、どうかお気になさらず……!」


 エマはあわあわとして、顔の前で両手を振る。


「エマ、そなたが私たちの家族になってくれることを誇りに思う。私やメリエンヌの立場を考えると難しいことだとは思うが、皇帝や皇妃などとは思わず、実の親として接してほしい」


「陛下……!」


「エマ、レイヴンを、どうかよろしくお願いしますね」


 メリエンヌ皇妃は穏やかな口調で言い、深々と頭を下げた。


「こちらこそ、何卒よろしくお願いします!」


 一礼したあと、エマは勇気を振り絞って言ってみた。


「お、お義父(とう)様、お義母(かあ)様……!」


 その言葉に、ヴァルタリオ皇帝とメリエンヌ皇妃が驚く。

 二人は顔を見合わせたあと、嬉しそうに微笑んだ。


 ◇


 結婚式は帝国の習わしに従って行われた。

 皇宮の大広間に帝国の重鎮が集まる中、エマとレイヴンが向かい合う。


「綺麗だよ、エマ」


「レイヴン様も、美しいです……!」


 レイヴンは、黒と銀の装飾を施した礼服に身を包んでいた。

 純白のドレスを着ているエマとの並びが、すごく似合っている。


「新郎であるレイヴン殿下、ならびに新婦であるエマ様が――」


 式を取り仕切る神官の言葉が響く。

 それが終わると、二人が言葉を述べる。


「エマ、君に出会うまで、私は帝国のことだけを考える皇太子だった。それが悪いとは言わないが、それだけでは人間として足りないものがあった。そのことに気づかせてくれたのは、エマ、君に他ならない。君の優しさや思いやりに触れることで、私は成長することができた。そして、君と一緒なら、これからも成長することができると確信している。私にとって、君はかけがえのない存在だ。私は君の隣に立ち続けていたい」


 レイヴンは、エマの瞳を見つめながら言った。

 対するエマも、皆の前でレイヴンに気持ちを伝える。


「レイヴン様、私も、帝国に来てからずっと幸せな時間を過ごすことができました。王国にいた頃には味わうことのできなかった人の優しさや温かさが、私に勇気と力を与えてくれました。そして、そのきっかけをくださったのはレイヴン様に他なりません。私も……レイヴン様と一緒にいたいです。二人で同じ道を歩んでいきたいです」


 二人が言い終えると、神官が進行を再開。

 誓いの言葉を確認し、結婚指輪の交換を行うと――。


「さいごに、誓いのキスを」


 エマとレイヴンが見つめ合い、距離を近づけていく。

 レイヴンがエマの両肩を掴む。

 エマは目を閉じて受け入れる。


 そして、二人の唇が重なった。


「おめでとうございます。今、この場をもって、お二人は夫婦となりました。二人の心が強く結ばれ、大いなる海の加護が続くよう、ここに宣言いたします」


 次の瞬間、列席者から拍手が巻き起こった。

 皇宮の外にいる帝国民たちも、その音に反応して歓声を上げる。

 そうして祝福の声が連鎖していき、瞬く間に帝国全土へ広まった。


 ◇


 式を終えたエマとレイヴンは、帝都からほど近い岬に来ていた。

 過去にも一度訪れた場所であり、先のほうには古いベンチがある。

 そこに二人で座って、穏やかな海を眺めた。


「レイヴン様、すみません。無理を言って」


「かまわないさ。君の希望なら何だって叶えるよ」


 本来であれば、エマとレイヴンは、馬車で帝国中を回る予定だった。

 実際にそうしていたわけだが、エマがこの岬に行きたいと言い出したのだ。


「前にここでレイヴン様と過ごしたときのことが、私の中ではすごく印象的で、どうしても来たかったのです」


「私のお気に入りの場所だからな。君が気に入るのも無理はないさ」


 レイヴンが笑いながら返す。

 二人は手を繋ぎながら、静かに海を眺める。


『エマ、幸せになったんだね』


『おめでとう、エマ、僕たちも嬉しいよ!』


 海から魔獣の声が聞こえる。

 ラグナやクラーケンと違い、友好的で穏やかな魔獣たちだ。

 エマは笑みを浮かべて頷いた。


「海の声が聞こえたのかい?」


「はい……といっても、海ではなく魔獣ですが」


「君の表情を見る限り、良い魔獣なのだろう」


「そうですね。人に危害を加えることもありませんし、私にとっては大切な友達です」


 二人が話していると、海に異変があった。


「キュイーン!」


 甲高い声で鳴きながら数頭のイルカが海からジャンプしたのだ。

 それによって小さな虹ができる。

 海もエマたちの結婚を祝福しているのだ。


「素敵ですね」


「ああ、最高だ」


 時が来て、エマとレイヴンが立ち上がる。

 いつまでもこの場で過ごしたいが、そうするわけにもいかない。


「行こうか、エマ」


「はい!」


 エマは幸せに満たされていた。

 その気持ちが踏みにじられることは二度とない。



  (了)

これにて完結になります。


絢乃は男性読者を想定した作品をよく書いているのですが、

今回は女性の方にお楽しみいただける恋愛作品を目指して、

えっさほいさと執筆してみました。




ざまぁ成分を高めてみたのですが、いかがでしたか?




お楽しみいただけたのであれば、

【ブックマーク】と【評価】で応援していただけると幸いです。


満足できなかったという人も、

完結記念に採点がてら【評価】していただけると嬉しいです。


既にそれらが済んでいるという方、

応援していただきありがとうございます。

おかげさまで多くの方に本作品を知っていただけました。

本当に本当に感謝の気持ちでいっぱいです。


また、【お気に入りユーザ登録】もありがとうございます。

本作品経由で登録してくださっているであろう方も確認していて、

投稿してよかったと心から思いました。


さいごに、絢乃は色々と執筆しており、

なかには書籍化した作品もございますので、

よろしければ他の作品も読んでやってください。


それでは、ご愛読ありがとうございました!

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