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 その後も、虚偽の情報を書いた怪文書が帝国中に出回った。

 怪文書の内容は様々だが、「エマを貶める」という点では一貫していた。


「エマ様が魔獣を操って俺たちの生活を滅茶苦茶にしたんだって……?」


「ありえないだろ。あのエマ様は〈海の巫女〉なんだぞ」


「だけどよ、この紙に書いてある通り、エマ様は帝国で最高の生活を送っているじゃないか……」


 帝国民の中には、怪文書を信じる者も現れていた。

 割合で表すと、ちょうど1:1:1に三分割される。

 信じる者、半信半疑の者、信じない者の三者だ。


 一方、帝国貴族に目を向けると全く違っていた。


「我が国にここまで派手で下手な工作を仕掛けてくる国がいるとは思いませんでしたな」


「いやぁ同感ですなぁ。これでは偽情報だと言っているようなもの」


 最初こそ半信半疑だったが、すぐに他国の裏工作だと確信していた。

 怪文書の出回り方が不自然すぎて、あっさり見抜いたのだ。

 故に、帝都の玉座の間で行われる話し合いの議題は決まっていた。


「このような偽情報に領民たちが惑わされないよう、各自で対策を採るように」


 ヴァルタリオ皇帝はそう指示するだけだった。

 それだけで十分というのが、キャサリンたちの計画に対する評価だ。

 言い換えると、キャサリンたちの計画が失敗した、ということである。

 エマの地位が危ぶまれたのは一瞬にすぎなかった。


 ◇


 偽情報に大した効果が見られないからといって見過ごすことはできない。

 また、こうした裏工作は帝国に対する攻撃行為とも捉えられる。


 帝国としては、誰の仕業なのかを特定する必要があった。

 そこでレイヴンは、アルフォンスに命じて調査をさせていた。


 数日後――。


「皇帝陛下、レイヴン殿下、この者が怪文書をばら撒いていました」


 アルフォンスは、玉座の間に一人の男を連れてきた。

 手枷と足枷で動きを封じられている、目つきの悪いゴロツキだ。

 アルフォンスに首根っこを掴まれて、完全に怯えきっていた。


「エマ、この男の顔を知っているか?」


 レイヴンが尋ねる。

 玉座の間には、エマとメリエンヌ皇妃もいた。


「いえ、全く見覚えがありません」


 エマは神妙な顔で首を振った。


「だろうな」


 レイヴンはそう呟くと、腰に装備している刀を抜いた。


「この者を殺せば問題が解決する。アルフォンス、この者を跪かせろ。私の手で首を切り落としてやる」


「かしこまりました」


 アルフォンスが言われた通りに男を跪かせ、動けなくする。


「や、やめてください! お願いします! やめてください! 俺じゃないんです! 俺は悪くないんです! ほんとなんです!」


 男は泣き喚きながら訴えた。


「悪くないだと? 怪文書をばら撒いていたのはお前だろ?」


 レイヴンがゆっくりと近づいていく。


「そ、そうだけど! 俺は雇われただけなんです! エマ様の評判を落とすのは気が引けたけど、借金で首が回らなくて仕方なかったんです!」


 男は床に額を押しつけられた状態で白状する。

 レイヴンとアルフォンス、それにヴァルタリオ皇帝はニヤリと笑った。

 最初から男を処刑するつもりなどなかったのだ。


「ではお前を雇った女の詳細を話せ。情報が正しければ見逃してやってもいい」


「も、もちろんです!」


 アルフォンスが手を放すと、男は顔を上げた。

 そして、自身の知っているあらゆる情報を包み隠さず話した。


 ◇


 さらに数日後。

 キャサリンとリリアンは、帝都アインフェルトに来ていた。

 ヴァルタリオ皇帝から直々に召喚状が届いたのだ。


「皇帝陛下、キャサリン・ラドフォードでございます」


「あたしはリリアン・フェネルでございます」


 玉座の間で、二人はヴァルタリオ皇帝に挨拶する。

 その場にはレイヴンや帝国貴族たちが揃っていた。


 ただし、エマやメリエンヌ皇妃の姿はない。

 二人がいないからこそ、余計に重々しい空気が漂っていた。


「ご足労に感謝する。詳細は息子のレイヴンが話をする」


 この言葉を受けて、皇帝の隣に立つレイヴンが一歩前に出た。


「近頃、我が国ではエマの評判を不当に貶める怪文書が出回っている。お二人はその件についてご存じないか?」


「いいえ、レイヴン殿下! わたくし、全くもって心当たりがございません!」


 キャサリンは堂々と言ってのけた。

 その顔には、焦りや動揺の色が全く見られない。

 伯爵夫人として何年も過ごしてきた彼女は、今の状況を的確に分析していた。


(今の帝国には、私やリリアンの仕業だと裏付ける証拠がない。もし証拠があれば、召喚状など送らず逮捕していたはず。ここは堂々と白を切り通すだけでやり過ごせますわ)


 もちろん、この思惑はリリアンにも伝わっている。

 故にリリアンも余裕の表情でどっしりと構えていた。


「そうか、キャサリン伯爵夫人は何も知らないか。ではリリアン、そなたはどうだ? 何か知らないか?」


「いえ! あたしも知りません! たしかにあたしは過去にエマ……いえ、エマ様を苦しめようと画策したことがあります。しかし、帝国に温情をかけていただき無罪放免となったことで、自分の行動を反省し、今は更生につとめていますわ!」


 リリアンはウキウキした様子でペラペラと話す。

 キャサリンは「最低限のことだけ話せばいいのに」と、内心で苛ついていた。


「そうか、二人は何も知らないと申すか……」


 レイヴンは表情を変えることなく、声を張り上げる。


「例の男を連れてまいれ!」


 レイヴンの命令によって、先日捕らえられた男が玉座の間にやってくる。

 手枷と足枷は外されているが、逃げる素振りは全く見られない。


「レイヴン殿下……この方は?」


 キャサリンが首を傾げる。


「この者は帝国で怪文書をばら撒いていた者だ。本人が言うには女に雇われたという。そして、女の名前は分からないが、顔ははっきり覚えているそうだ。だから、この者にそなたらの顔を確かめてもらおうと思ってな」


 ニヤリと笑うレイヴン。


「お待ちください。それって、あたしらを疑っているってことですか?」


 リリアンが尋ねると、レイヴンは「そうだ」と頷いた。


「私はそなたらが共謀して行ったと考えている。ま、それも今に分かることだ」


 レイヴンは男に命じ、キャサリンとリリアンの顔を確かめさせた。


「どちらだ? お前を雇った女は。言ってみろ」


 キャサリンとリリアンがごくりと唾を飲み込む。

 帝国貴族たちも緊張している。

 そんな中、男は振り返ってレイヴンに言った。


「すみません、殿下。どっちも違います……」


 場に衝撃が走った。

お読みいただきありがとうございます。


本作をお楽しみいただけている方は、

下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして

応援してもらえないでしょうか。


多くの方に作品を読んでいただけることが

執筆活動のモチベーションに繋がっていますので、

協力してもらえると大変助かります。


長々と恐縮ですが、

引き続き何卒よろしくお願いいたします。

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