【短編】真実の『声』が聞こえます!
※後味悪いです!いつのも作風と違います。それでもよろしければ、先へお進みください。
「愛しているよ、タラッサ。こちらへおいで」
(忌々しい女だ。私の視界に入るだけで気分が悪い)
優しく微笑みながら私に向かって手を差し伸べてくる、旦那様。
よく、心にもないことを言葉にできるわね。私は軽く首を横に振り、旦那様の部屋を後にした。
重い足取りで自室に戻るも、使用人たちの「声」がうるさい。
(最近、旦那様と奥様は仲が悪いようね。当然だわ。こんな暗い妻、誰だって嫌がるに決まっている)
(ああ、この女、どうにかしていなくなってくれないかな。私は旦那様の世話をしたいわ)
「……」
自室でじっと耐えていると、昼食の声が掛けられた。
「最近、あまり食欲がないようですね。どうか、少しでもお食べ下さい」
(じわじわと死に至る毒を入れているが、まさか気付かれてはいまい)
「……食欲がないの。食事はもう結構よ」
私は逃げるように食堂を出た。
この家では、旦那様を始めとして、すべての使用人に至るまで、私の存在を邪魔だと感じ、追い出そうとしているようだ。最近は、命を狙われることも増えた。
そんな状況は、どこへ行っても変わらない。街へ出た時も、両親に会った時も同じような罵詈雑言が聞こえる。
私の事を本当に心配し、力になってくれる人間に出会うまでは、自分の身は自分で守らないといけない。
そう心に固く誓って、私は自室の扉にいくつも鍵をかけた。
時折強いノックの音が聞こえたり、私を呼ぶ声がするが、裏のある人間ばかり。
みんな、優しい顔をして甘い言葉をかけてくるけど、私は絶対に騙されない。
真実を見抜く、この能力があって、本当に良かったわ。
1人の貴族女性が衰弱死した事件は、世間を騒がせた。
女性を知る関係者によると、妄想に取りつかれ、何もない場所で独り言を言ったり、聞こえもしない声が聞こえると騒いだりすることがあったらしい。
現在、女性の夫とされる男性は、気力を無くし、屋敷内に引き籠っているという。