#9 序章 9話
レベン村の少年マリウス、ジュリアス、レヴィンの3人はヘザーの街でのお使いを終え、兵士のラートとウェッジ、兵士達の長オルガ。そして、白銀聖剣士のフランシスカと共にレベン村へと帰って来た。
「えぇ〜〜!ホントに聖剣士なの〜〜〜っ!!」
村の入口でエミリアと一悶着の末、エミリアの声が辺りに轟き、それを聞きつけた子供達が集まって来た。
子供達は唯一見慣れない人物であり、帯剣しているフランシスカが光迎祭のスペシャルゲストの聖剣士であるとすぐに理解し、フランシスカに集まった。
さらに子供だけでなく、大人も何人か集まって来ていた。
フランシスカが軽く対応して、オルガは兵士達に興奮する子供達を落ち着かせつつ、オルガはマリウス達3人とフランシスカを騒ぎの輪からスルッと連れ出し教会へと向かった。
「いや〜、大変だったな。村の子供が大集合。
流石フランシスカ!」
「私にってより、聖剣士にって感じでしたわよ。でも、汚れた大人と違って、あれだけ沢山の純粋な目が集まると、流石に気恥ずかしい感じもしますわ」
「普段はアレな……に⁉」
フランシスカは少し遠い目をしながらオルガと話していたが、マリウスの呟きを聞き逃さなかった。
マリウス達の前を歩いていたフランシスカの姿が消えたと思った瞬間、フランシスカはマリウスの背後に立ち、マリウスの両肩に手を置いていた。
「何かしら?日頃の精神的疲れを癒してくれるのかしら?」
「え?あ〜ほら、オレよりジュリアスの方が癒やし効果高そうじゃないッスか?」
急に振られて驚くジュリアス。フランシスカは短い溜め息をつくと、マリウスの脳天を軽くノックする。しかし見た目とは裏腹に、マリウスは声も出ない程の痛みに、頭を抑えうずくまった。
「ジュリアスにはあの子がいるでしょ?
関節的にでも女の子を泣かせる様な事言わないの」
「そうだぞ。ほら、モーリス神父に報告するんだからシャンとしろ」
そうして、オルガ達は教会に入ると真っ直ぐ神父ロラン・モーリスの部屋の前へ進み、オルガが2回ノックした。
「どうぞ〜」
「失礼します。モーリス神父」
「おぉ〜オルガ隊長!マリウス、レヴィン、ジュリアスも。よく帰って来ました。
おや、そちらの女性は……」
オルガ達を暖かく迎えるモーリスの問に、フランシスカが前に出ると、姿勢を正し左手で鞘ごと剣を引き抜き、唾元の意匠を示すかの様に右胸の前にかざし、右手は体の後ろに回した。
聖剣士が正式に名乗る時の所作である。
「今回の光迎祭に立ち会う聖剣士として派遣されました。
白銀聖剣士、ガルーダのフランシスカですわ」
「フランシスカ!?いや〜、貴女でしたか。ガルーダの勇猛さは聞き及んでますよ。
いや〜、懐かしいですね。すっかり大人の女性ですね。見違える様にキレイになってて驚きましたよ」
モーリスはゆっくりとフランシスカに歩み寄ると手を差し出した。
フランシスカは剣を腰に差し直すとにこやかに握手に応える。
「お久しぶりです。モーリス神父」
「え?知り合いなの?」
「そうよ。長い事会えてなかったけどね」
「道中はいかがでしたかな?」
「ヘザーを出てから時折。ほんの一瞬、微かにですが……」
その時、オルガがわざとらしく咳払いをした。
モーリスはオルガを見ると、オルガは微かに目を細め、モーリスはジュリアス、レヴィン、マリウスを見て思い出したかの様に3人に話しかけた。
「あ~、ジュリアス、レヴィン、マリウス、申し訳ない。
長い事会えてなかった方との再開に、私も少々浮かれていた様ですね」
「忘れてたって事?」
「そうですね、申し訳ない。さて、レヴィンにジュリアス。無事帰って来た様で何よりです。そして、マリウスも付き添いご苦労様でした。
グラフェス司教の所から光迎祭で使う祭器、精霊の瞳は持って来れましたか?」
「はい、モーリス神父」
ジュリアスが精霊の瞳を納めた箱をモーリスの前に置くと、モーリスは精霊の瞳を取り出し色んな方向から見た後、目を閉じると淡い光がモーリスの手から精霊の瞳に流れ、少し光が強くなってすぐに消えた。
「間違いなく精霊の瞳ですね」
「え!?モーリス神父、今の魔法?」
「使えたの!?すげ〜!」
「凄いです」
モーリスが魔法を使った所を見た事ないジュリアス、レヴィン、マリウスの3人は興奮した。
「3人とも落ち着いて下さい。
聖職者は全員ではありませんが、癒やしや守りの魔法が使える者は多いのです」
「そうなんだ〜」
「そうだ」
オルガがレヴィンの頭に手を置いた。
「そして、モーリス神父は昔、並みの勇猛さ以上の勇猛さでならしたんだ」
「オルガ隊長。その話しは……若気の至りの様な物ですから」
「あぁ、すみません」
そんなやり取りをしつつ、モーリスは精霊の瞳をしまうと、フランシスカに椅子を勧め、自分の椅子に座った。
「さて、ジュリアス、レヴィン。精霊の瞳を持って来るお使いはこれで終了です。
付き添いのマリウスもご苦労様でした。これで光迎祭を無事開く事ができます」
「これってそんなに必要なの?」
「まぁ正直、そんなに重要ならウチの村で大事に保管しとけば良くない?って気はするな~」
「ははは、レヴィン、マリウス。その気持ちはわからないではないですが、伝統という物は大事にすべきですし、子供達が精霊の瞳を受け取りに行く所から、光迎祭は始まってるともいえるんですよ」
「それに二人共、もし精霊の瞳をモーリス神父が村で保管してたら、レザーの街に行くチャンスが減るぞ?
今回は普通のお使いより重要度が高くて自由時間が少なかったが、ヘザーの街に行くチャンスは多い方がいいだろ?」
「「たしかに」」
「そうですね」
話しが盛り上がりそうな所を、モーリスが手を叩いて止める。
「3人がヘザーの街でどんな事を感じたのかゆっくり聞きたい所ですが、光迎祭は明日です。
私はオルガ隊長達と打ち合わせをしますから、ジュリアス、レヴィン、マリウスの3人はシスタークラレンスの指示に従って下さい」
「「「わかりました」」」
3人はフランシスカを見ると、柔らかい表情で軽く手を振りつつもどこか緊張感の様な物を感じはしたものの、フランシスカに声をかける事なくモーリスの部屋を退室した。
ミサや勉強で使う聖堂に行くと、同じ子供達から3人は質問攻めに遭い、ひたすら答え続けていると、クラレンスが外への扉から入って来た。
クラレンスは、自分に気付いていない子供達を掻き分け、聖堂の中央に進んだ。
「さっきから何を騒いでるの!……あら、マリウス、レヴィン、ジュリアス。エミリアが叫んでたって聞いたからもしやって思ってたけど、やっぱりあんた達だったのね。
それで?戻って早々何をしてるわけ?」
クラレンスは腕を組み、呆れた顔をした。それを見た何人かが、そっとレヴィン達から離れた。
「も、戻って来たら質問攻めに遭ってただけたよ」
「そうそう、聖剣士について色々聞かれてただけですよ〜」
「あと、お土産ないのかって……」
「あ〜、エミリアの聖剣士〜って叫んだのが騒ぎの原因だったわね。それで、ちゃんとお使いは果たせたのかい?」
「それは大丈夫」
「モーリス神父に渡したよ」
レヴィンとマリウスは敬礼をして答えた。
ジュリアスは話し半分といった感じで、周りをキョロキョロ見ていた。
「どうしたの?ジュリアス?」
「みんな集まってる様に思えたけど、エミリアがいないなと思って」
「何だよ。ジョコボと戦ったとかレヴィンが言ってたけど、相変わらず嫁離れできないのか、ジュリちゃんは?」
ガキ大将のジャインが囃し立てると、その子分のスニーオ達がその後に続き、マリウスとレヴィンが言い返して騒がしくなるのをクラレンスが一喝した。
「あ〜、も〜……静かに!
明日の夜はいよいよ光迎祭なんですから、ちゃんとできない子は欠席でもいいんですよ?」
ジャイン達を含め、子供達が静まり返った。
15年に1度の光迎祭では、普段出るご馳走を大きく超えるご馳走が出るとされ、村の大人達も楽しみにしてる様子を見て、期待に胸が膨らんでいた。
ジュリアス、マリウス、レヴィンの3人もその事を思い出し、即時に口を閉じた。
「エミリアはね、光迎祭で精霊の眷属役をする事になって、ジュリアス達がヘザーの待ち出発したすぐ後から、裏の高台で手順を覚えたり準備をしてるのよ」
「え!?高台?」
子供達がざわつく。
教会の裏には高く切り立った大岩があり、レベン村の中心地にあり、見方によっては岩の高台を囲う様に村の塀が築かれていた。
ほぼ垂直で掴まれる所は無く、天辺付近は鼠返しの様な形状となっていて誰も登れなかった。
そんな高台の頂上には食糧の備蓄庫がある、神や精霊が祀られている、伝説の剣が刺さってる等様々な噂があったが、入口らしき扉は厳重に施錠されていて誰も真相を確かめられずにいた。
また、扉に近づくだけでこっぴどく怒られるだけでなく、重いペナルティが課せられる謎の場所であった。
「そうです。光迎祭の成功に関わりますから、おかしな事をしたらいつもいつも以上に厳しく罰します」
普段怒る時は違う真剣さを感じ、子供達は身動一つ、無駄口一つ叩かなかった。
「いいですか?ジャイン、レヴィン、マリウス?あんた達は特に何かやらかさないか心配です。
3人がおかしな行動をしてるのを見かけたらすぐに教えて下さい。教えてくれた子にはお菓子をあげます」
「何だよ〜」
「何もしないですって」
「あれ?ジュリは入ってないの?贔屓〜」
「おだまり!とにかく、イタズラとかせず大人しくして、みんな一緒に光迎祭に臨みます。
ちょっとでも変な事をしたら一切容赦しませんからね!」
クラレンスは話しを終えると解散の号令を出し、子供達は食堂に移動し食事を取った。
マリウスとレヴィン、ジャインとジャインの子分達は、巻き添えを食いたくない子供達によって軽くマークされている事に気付き、早めに食事を済ませると部屋と戻った。
村に家族がいない孤児達は教会で暮らし、4人で一つの部屋を使っていた。
ジュリアス、レヴィン、マリウスの3人は、もう一人のルームメイトであるカイトにヘザーの街の教会地下での出来事や、フランシスカの事を話していた。
「大変だったみたいだけど、やっぱ羨ましいな〜。
順番が一つズレてたら僕が今回行けたのにな〜」
「エミリア……」
「ん?どうした?」
「食事の時にも食堂にエミリアがいなかった……」
「そういえば……出迎えの様子じゃ、居たらすぐ来たろうな〜」
気落ちするジュリアスに、他の3人はどう声をかけていいかわからないでいた。
「とりあえずさ、何か重要な役をやるみたいだし、準備?特訓?してんじゃ……ないかな?なぁ?」
「え?あ、あぁ〜。お前らみたいに村の外に行くわけじゃないから危険は無いだろ」
「そう、明日になれば会えるし、もしかしたら着飾ったりするかもしれないぜ?」
「そうだよ!カイト良い事言った!」
エミリアが着飾る。その一言にジュリアスの表情は少し明るくなった。
その後も談笑して、ジュリアスはトイレに行くべく部屋を出た。
時折扉の向こうから話し声がする廊下を進んでトイレに行き、用足しを終えてトイレを出て、ジュリアスはそこまで誰とも出くわしていない事に気付いた。
お腹をかきつつ、懐に入れていたエミリアのお土産に買ったペンダントの存在を再認識した。
少し迷って、ジュリアスは周囲に誰もいない事を確認すると、そっと窓を開けて外に出て窓を閉めると、窓から自分が見えない様に気をつけつつ、教会の裏に向かった。
ジュリアスは足音を立てない様に気を付けて壁伝いに進むと、裏山の一箇所に篝火と人影が見えた。
篝火の後ろには、いつもは閉まってる扉が開いているのが見えた。
ジュリアスは入口の人影から見えない所まで大回りをして、裏山の絶壁伝いに入口に近付いた。
裏山の入口らしき場所に近付くと2人の大人人の声が聞こえた、光迎祭が明日に迫っているからか、聖剣士であるフランシスカが村に来た事からか、ジュリアスは警戒が緩い様に感じ、さらに近付いてみる。
「どうだった?」
「真剣にやってたよ。明日に備えて、今日はメシ食ったら寝るらしい」
「そうか。でも、あのお転婆のエミリアが眷属役ってのは、やっぱ何か変な感じだな」
「ジュリアスに首ったけって言うか……昔から過保護で、レヴィン達と一緒にしょっちゅうジャイン達とギャーギャーやり合ってるるらしいからな。
だか、厳かさを要求される眷属役をやるって、なんか感慨深いな……」
「お前はあの子の親父か!……まぁ、いい。篝火の薪を取って来る」
「あぁ」
ジュリアスは体を強張らせ、心臓がバクバクなった。しかし、薪を取りに動いた大人は、ジュリアスがいる場所とは反対方向に歩いて行った。
残った大人は入口らしき場所の前左右に置かれた篝火の真ん中に立ち、時折左右を見張っていて、エミリアに合うべく裏山に入り込むには邪魔な場所に陣取っている。
ジュリアスはどうする事もできず、じっと潜んでいた。
しばらくして、正面から忍び込むのは諦めて、よじ登れる場所を探そうかという考えが浮かんで来た所で、足音と硬い物が小さくぶつかり合う音が聞こえて来た。
だか、その足音は妙に感覚が長く、ジュリアスが不思議に感じていると、ガラガラガラと甲高い音が辺りに響いた。
ジュリアスがそっと篝火の方を覗き込む。
「何やってんだ。持ち過ぎなんだよ」
「何度も取りに行くのは面倒だから、まとめてと思ったんだが、窪みで躓いた」
「しょうがねぇな〜」
篝火の間に立っていた男がもう一人の男の方に移動した。
今しかないと思ったジュリアスは体をかがめ、なるだけ音を立てない様に大急ぎで入口らしき場所に入り込む事に成功した。