#8 序章 8話
マリウス、ジュリアス、レヴィンの3人は、レベン村駐屯兵士のウェッジとラート、兵士達の隊長オルガに加え、白銀聖剣士のフランシスカと共にヘザーの街を後にし、レベン村に戻るべく山道を進んでいた。
快晴で日差しの強い中山道を進んでいた。
余裕のある大人達と違いマリウス達はバテていたため、オルガは休憩を指示した。
小休止のため、マリウス達はレザーアーマーを着たまま腰を下ろした。
「暑〜……」
「そうだね。分厚いレザーアーマー着てるからより暑いよね……]
「見ろよ。フランシスカ様は汗すら掻いて無いぜ……」
マリウスの声にジュリアスとレヴィンがフランシスカを見ると、たしかにフランシスカは汗をかいておらず、それどころか山道を3時間も歩いて来たとは思えない程涼し気であった。
「マジかよ……」
「ん?何〜、レヴィン?そんな目で見るなんて失礼ね。
こんなに日差しが強いんだもの、服の中は少し蒸れたりしてるわよ。ほ〜ら……」
フランシスカはレヴィンに近付き胸を寄せ、レヴィンをからかう。耐性がなく狼狽えるレヴィンを助けるべく、ジュリアスはフランシスカに質問をぶつけた。
「あの、フランシスカ様。聖剣士は凄い鎧を身に着けて戦うって村のシスターに聞いたんですけど、鎧は持って来てないんですか?」
「鎧?あ〜、たしかに専用の鎧櫃で持ち歩いたりもするけど、置いて来たわ」
「そうなんですか。見たかったな〜」
「「たしかに……」」
ジュリアス達を見て、フランシスカは柔らかい笑みを浮かべる。
「その気になれば、鎧はいつでも装着できるの。
必要になる様な事になったら見れるわよ」
わかった様なわからない様な感じといった表情を見せるマリウス達。
フランシスカは腰の剣に掛けられた布の紐の結びを解くと、マリウス達の前にスッと抜刀した。
マリウス達の前に抜き出された剣は、切っ先から柄尻にいたるまでくすみが無く、白銀の名に相応しい澄んだ銀色で、日の光を受けて眩しく輝いていた。
マリウス達は声すら出ないでいる。
「これが白銀聖剣士の剣。特別、大大大サービスなんだからね」
「「「「凄い!!」」」
「かっけぇ〜!」
「フランシスカ様、持たせて下さい!」
興奮するマリウス達。その興奮のままマリウスは剣を持たせてとお願いするが、フランシスカは微笑んだまま剣を鞘に戻すと、布を掛け直す。
「ダ〜メ。っていうかね。聖剣士の剣は聖剣士以外には持てないの。
それこそ隊長達を含めた全員でも持ち上がらないわよ」
「「「え?」」」
「認められた者でないとダメって事」
「へ〜。何でかわかんないけど、凄んスね」
「ふふ、そうよ。だから、聖器に認められた時は嬉しかったわ」
「クラ……」
「……テリス?」
「そう。聖器って言うのは、専用の鎧櫃に納められた聖なる武器と防具……聖器に認められた者だけが使える、聖剣士の証よ」
「マリウス、レヴィンにジュリアス。行けるか〜?」
マリウス達はオルガが様子を見に来たのに気付くと立ち上がり、レザーアーマーを位置を直す。
その後2日間、獣に遭遇しなかったため、傷みにくい野菜と干し肉を使ってラートが調理し、食事の度にフランシスカがその腕をベタ褒めしていた。
道中、マリウス達はフランシスカに色んな話しをせがみ、フランシスカは自身の戦いの話し等を聞かせた。
3日の朝、行きで遭遇した飛べない大型の鳥、ジョコボ2頭と出食わす。
ジョコボはどちらもかなりの怪我をしてる様子だが、マリウス達に気付くと猛然と襲いかかって来た。
前列のウェッジとラート、オルガに分かれそれぞれ応戦。
オルガはジョコボが激しく振ってくる翼を両断する。
翼を切り落とされ暴れつつも、なおもオルガに襲いかかる。
オルガは焦らずとどめを刺そうとした時、草むらからもう1頭が飛び出し、ジュリアス目掛けて飛び掛かった。
ジュリアスは槍を構えてはいたものの驚いて尻もちをつき、ジュリアスのすぐ側にいたマリウスはすぐにジョコボの頭に槍を突き、ワンテンポ遅れてレヴィンも槍を突くも僅かに傷付けただけでジョコボの突進を止める事はできず、弾かせる形になり二人とも体勢を崩した。
ジュリアスも槍を突こうとするも、尻もちをついていて力を込めれず正面に槍をかざす事だけで恐怖から目を瞑った。
3人共にもうダメだ……と固く目を瞑っていたが、急に静かになったと思ったら何かが地面に落ちた。
恐る恐る3人が目を開けるとジョコボではなくフランシスカが剣を血振りをして納刀する所だった。
「3人共にケガはないわね?」
やや後方に離れていたフランシスカが目の間にいて、目前まで迫っていたジョコボの姿がない事、ジュリアス、マリウス、レヴィンの3人は混乱していた。
3人は周りを見渡して、ジュリアスの後方に仰向けになり眉間から血を流し事切れているジョコボを見つけた。
「フ、フランシスカ様がやったの!?」
「え!?倒した?」
「何が起こったの?」
「マリウスとレヴィンがジョコボを止めれなくてジュリアスがピンチだったから、お姉さんがス〜っと前に出で、ジョコボをプスってやったのよ」
まるで物を落としそうになった物を受け止めたくらいの容易さで言うフランシスカに、マリウス達は言葉が出ないでいたが、ジワジワと聖剣士の凄さなんだという実感が湧いて来て、3人の目が輝く。
「さ、立ちなさいジュリアス。ゲカはないのでしょ?
呆然として無防備な美少年の構図は唆られる物もあるから、お姉さんが優しく触診してあげてもいいのよぉ?」
「「うわぁ………」」
マリウス達は一気にドン引きした。
「この人、ホントは痴女なんじゃ……」
「あ〜ら、何かしらマリウス〜?」
マリウスににじり寄るフランシスカの前にレヴィンが立つと、深々と頭を下げた。
「オレに剣を教えて下さい」
「え?」
「僕も!弟子にして下さい」
レヴィンに続き、ジュリアスも立ち上がって頭を下げた。
「そう、それ!弟子に!」
「……悪いけど、弟子にはできないわ」
フランシスカは少し間を開けはしたものの、即座に断った。普段のおちゃらけた雰囲気ではない真摯な受け答えに、食い下がる事はできなかった。
「聖剣士はね、アドバイスくらいは許されるけど、条件を満たしてない者を弟子に取る事は掟で禁じられてるの」
「掟……」
「もし、二人が単に鍛えたいだけじゃなく、聖剣士になる事を目指したいのなら、王都にある王立ヴァリストン聖剣学院に行きなさい。ただ……」
「お金高いですか?」
「世界を守る聖剣士を育てるんだからお金はかからないわ。でも、試験はあるわよ」
「勉強苦手……」
「ふふ、入学したらたっぷり勉強する事になるけど、試験に勉強は必要ないわ」
「え!?何スかそれ?なぞなぞ?」
黙って見ていたマリウスが思わず口を挟んだ。
「入学試験は、聖剣士になれる可能性が有るか無いか?……そこを見るのよ。
歴史上、入学試験に落ちて聖剣士に成れた人は0じゃないけど、ほぼいないそうよ」
「うへ〜……何するかわかんないスけど大変そうですね」
フランシスカはレヴィンとジュリアスの頭をそっと上げさせた。
「そんなわけだから弟子にはできないけど、一緒にいる間ちょっとだけアドバイスはしてあげる」
「は、はい!」
「ありがとうございます」
「じゃ、オルガ隊長の所に戻るわよ」
休憩を終えた一行は山道を再び進み、フランシスカは歩きながらマリウス達にジョコボとの戦闘のダメ出しをした。
ジョコボとの戦闘でピンチになったジュリアスは積極的に質問し、マリウスは茶化す事なくダメ出しを聞き、勉強が苦手なレヴィンも普段は見せない集中力で聞き、3人はダメ出しされた事をその場で復習した。
「お〜い、お坊っちゃん達。
フランシスカ様の講義に夢中なのはわかるけど、歩くペースが落ち過ぎだぜ」
フランシスカの話しに夢中になるあまり、前を歩くオルガ達から遅れがちなため、ウェッジは4人に声をかける。
「フランシスカ様も、ノロノロ進んでたら村に着けずまた野営になっちゃいますよ?」
「私は良いわよ?ペーゼの料理は野営とは思えないくらい美味しいし、美少年達との戯れも捨てがたいし。
この任務が終わったら、またのんびりできない毎日だとも思うのよね〜」
「その理由で光迎祭の準備を遅らせたら、オレら減給に加えペナルティーですし、フランシスカ様もお説教ですよ?
ウチの村にはモーリス神父がいるッスよ。
ホワイトヘヤード……」
モーリス神父の名を聞いて、フランシスカは一瞬固まり、一筋の冷や汗を流す。
「そうね。のんびりし過ぎて任務中なのを忘れてたわ。行きましょ」
こうして一行は移動速度を戻し、レベン村に向け歩を進めた。
途中、何度か遠目獣を見かけるも、フランシスカが一瞬殺気を放つと脱兎のごとく逃げ、邪魔される事なく進み続けた。そして、西日が射す頃、レベン村の入口に到着した。
村の入口には村の少女エミリアが待っており、エミリアはジュリアスを見つけると、ジュリアスに駆け寄り抱きついた。
「おかえり、ジュリアス!ちゃんとご飯食べてた?怪我はない?」
「うん。大丈夫だよ。ただいま」
「あら、ジュリアスのお友達?」
「はい。そう……で……す」
振り返りフランシスカの姿を見たエミリアは固まった。そして、エミリアはフランシスカを足元から観察した。
長く太過ぎず、女性らしさを讃えた脚線美。滑らかな曲線からの括れたウエスト。そして、服の上からでもわかる豊かな大きさでありつつも、垂れずに山頂が上向きであろう2つの山。
さらに金髪で、黄金比率に整った美人の一言に尽きる顔を見て、エミリアは目を見開き戦律を覚えた。
「危ない、ジュリアス!下がって!」
エミリアはジュリアスを自分の背後に下がらせつつ、ジュリアスを隠す様にフランシスカの前に出る。
エミリアは無意識に自分の胸に手を当て、冷や汗を流した。
「ジュリアス、誰?この人?変な事されてない?大丈夫?」
「あら?変な事は何もしてないわよ〜。教えてって言われた事だけ、お姉さんが優し〜く教えてあげただけよ?」
フランシスカの一言にエミリアは狼狽え振り返えり、ジュリアスの両肩を全力で掴んだ
「ジュ、ジュリアス!?あ、あ、あ……あの人から何を教えてもらったの?いかがわしい事?人には言えない事?頭に『大人の』が付く様な事?」
「ちょ、ちょっとエミリア落ち着いて。僕は槍の使い方とか、獣と戦う時にどうしたらいいかを教わっただけだよ」
エミリアがマリウスとレヴィンをキッと睨むと、マリウス達は無言で素早く何度も頷いた。
「エミリア、安心しなって。この方はちょっと……茶目っ気が強くはあるけど、お前が心配する様な事はないさ」
「……」
ウェッジもエミリアに声をかけるが、エミリアは半信半疑といった目をしている。
「本当さ。この方は光迎祭のスペシャルゲスト!白銀聖剣士、ガルーダのフランシスカ様だぞ?」
「そうですか。でも、スタイル抜群の色白の美人で、ジュリアスと何か距離近いし。私まだ大きくなり始めた所で、その人の大きさには遠く及ばないし……」
「ほ、ほら、エミリアのはこれから大きくなるんだよ。それに、胸が全てじゃないさ。な、ジュリアス?」
気落ちしたエミリアがこのまま泣くんじゃないかと焦りを覚えたウェッジは、ジュリアスに声掛けつつ、マリウスとレヴィンを見ずに手で小さく手招きをして、乗っかれと合図を送る。
「もちろん、僕はエミリアが一番だよ」
「心配なら、料理スキルを鍛えて、ジュリアスの胃袋を鷲掴みすればいいんだよ」
「そうそう、ジュリの好みは既に掴んでるんだから、難しくなだろ?」
「そう、それだ。男はやっぱ胃袋掴まれると弱いさ。それに、聖剣士に剣で勝つのは夢のまた夢でも、料理なら勝ち目があるかもしれないぞ?」
「そうね。料理なら聖剣士に……え?セ……フィ……ター?……聖剣士!?」
「さっき、そう紹介したよね?」
「どうも〜」
呆れるウェッジに、にこやかに手を振るフランシスカ。
「えぇ〜〜!ホントに聖剣士なの〜〜〜っ!!」
エミリアの声が辺りに轟いたのだった。