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聖剣士物語(仮)  作者: レイファ
序章 レベン村の子供達
6/31

#6 序章 6話

 教会の地下、扉に掛けられた結界を超えてジュリアス、レヴィン、マリウスの3人は、だだっ広い空間が広がるフロアを歩き回るも何も見つけられずにいた。

 歩き疲れへたり込む3人であったが、何かに気付いたジュリアスが立ち上がると同時に、1本目の松明が消えた。



 3人は入口から差し込む光りを頼りに戻ると、マリウスが中の状況を中年シスターに伝える。

 その間にジュリアスは袋から松明を取り出し火を点けると、天井を照らしそのまま天井を見ながら歩き出した。


「何やってんだよジュリ?」


 レヴィンの問いかけに応えず、ジュリアスは上を向いたまま周囲の天井を見回した。


「どうしたのです?何か見つけたのですか?」


 ジュリアスは入口付近に戻って来ると、天井を指差した。


「天井をよく見てみて、少し黒くなって線になってる所があるでしょ?」


ジュリアス以外の全員が天井に注目した。


「……あ〜、たしかに!」

「そう言われて見ると……有るな。黒い線」

「でしょ?この辺以外にもあったんだ。何か気にならない?」

「えぇ〜。書かれた感じじゃないし、たまたまなんじゃない?」

「私がいる外からはよく見えませんが、うっすら黒い線があるのですね?」

「そうです」

「床や壁には開きそうな場所や仕掛けっぽい所はなかったし、模様っぽい所すらなかったから、ジュリアスが気になるってのもわかる気はするけど……」


 一堂が考え込む中、視線を落としたシスターの目に、ジュリアスが持つ松明が目に止まり、シスターの目が天井と松明を交互に見る。


「もしかすると……天井の黒い線は、松明の煤が付いて出来た物かもしれません。

 たしか前回も松明を点けて進んでましたし、毎回入口はここですから、たぶん間違ってないでしょう」


 中年シスターの話しを聞いてレヴィンとマリウスのテンションが上がった。


「壁に書いてあった意味不明の『正しき道を進むべし』って言うのは……」

「この黒いラインを辿るって事だ!」


 ジュリアスを先頭に3人は入口に並ぶと、天井の黒い線を辿って進んだ。


 線を辿ってしばらく何度も曲がりながら進むと、先頭を歩いていたジュリアスの足先が一段下がった感覚と共にカチッという音がし、ドンという大き目の音がした。


 驚いた3人は音がした方に移動すると、文字が彫られた壁の足元にはこれまでなかった下り階段ができていた。


「さっきまで階段なかったよな?」

「あぁ……」

「床が開きそうな感じしなかったよな?」

「しなかったと思う」

「魔法……かな?」

「まぁ、とりあえず他に何もないから行こうぜ」


 3人は階段を下ると細い通路となっており、暫く道なりに進むとピアノの様な物が置かれた部屋に出た。


「大木みたいな物から鍵盤みたいな物が突き出てて……ピアノ?」

「それより、精霊の何とかってのを探さないと」

「精霊の瞳な。宝石が付いた冠」


 3人は部屋の中央に置かれたピアノの周囲を見るもそれらしい物や引き出しとかは見つからなかった。そして、また下に何かあるのではと思った3人は地面に何か無いか確認するも、何も見つからなかった。


 そんな中、ジュリアスが何気なく鍵盤を叩くと、ピアノが光り出した。


「うわ!?」

「な、何?」

「何?、この青いの光!?」

「ジュリアス、何した!?」

「え、え?ぼ、僕は何となく鍵盤を押しただけだよ」


 3人は突然の事に慌てるも、光はすぐにおさまり、恐る恐る3人がピアノを見ると、先程までなかった楽譜が置かれていた。


「あの楽譜……さっきまでなかったよな?」

「う、うん」

「ジュリアスが鍵盤叩いて楽譜が現れたって事は、この楽譜を弾けって事なんじゃないか?」

「マリウス、オレ無理」

「オレも無理だなぁ。ジュリアスは?」

「エミリアと一緒に触ってたから、ちょっとだけなら……でも、自信ないよ」

「「うわぁ……」」


 3人の間に重い空気が漂うが、レヴィンが沈黙を破った。


「とりあえずさ、他に試せそうな事も無いし、ダメもとで弾いてみろよ」

「そうだな。ジュリアス、任せた」

「う、うん……」


 ジュリアスは鍵盤の前に立つと、マジマジと楽譜を見る。


「あ……教会で見るのと何か違う」

「……あぁ、達筆過ぎると言うか何と言うか。まぁ、どっちにしろオタマジャクシを見て押すんだろ?丸い所だけ気にしてれば良くないか?」

「そうそう。オレやマリウスは楽器わかんないから任せた!」

「そ、そう?じゃ、じゃあ……」


 ジュリアスはピアノの前に立つと、楽譜に顔を近付けマジマジと見た後、楽譜と鍵盤を何度も見る。

 そんなジュリアスの真後ろから、マリウスとレヴィンが覗き込んでいた。


そして、ジュリアスは思い切って弾いてみる。


 ジュリアスはたどたどしく一小節を弾いて指を止め、回りを見てみるが何も変化はない。 続きを弾き始めてから少して音が外れた。そのとたん、ジュリアス達の後方で何かが崩れる音が響く。

 

 3人が驚き振り返ると、3人がいる場所から2mもしない所から後方の通路が崩れ落ちた。


「おいおい、マジかよ……」

「底が見えないし、崩れた物がぶつかる音もしないよ……」

「どんだけ深いのさ!?……うん?あれ?これ……戻れなくない?」


 レヴィンの一言に、通路の方をバッと見るマリウスとジュリアス。


「助走つけてジャンプ……で、届くかな?」

「やってみれば?向こう岸まで3m以上あるから、レヴィン君は穴にダイブする事になる気はするけど、勇姿を見届けてはあげるよ」

「なんだよ、冷たいな」

「ね、どうしたらいいのかな?」

「ど、どうって……」

「戻れなくなったし、一か八かでジャンプして戻るか……ピアノの続き弾くくらいしか、できる事がないよな」


 無言になる3人。しばらくお互いの顔を見た後、マリウスとレヴィンがジュリアスを回れ右させて背中を押した。


「やるの?失敗したら……ごめんね」

「い、いけ」


 レヴィンの声を聞くと、マリウスは無言でジュリアスの肩を叩く。

 ジュリアスは楽譜に顔を近付けた後、鍵盤の上で弾くイメージを固める。そして、何度か深呼吸をして再びピアノを弾き始めた。


 一小節、二小節……楽譜のページを捲り、たどたどしいが今度はミスなく弾きづけられた。

 何となくマリウスとレヴィンも楽譜を目で追っていて、ページが終わりそうな所まで演奏が進むと、ジュリアスの右隣に立っていたレヴィンがページを捲る。

 それまでたどたどしくも心地よいメロディが流れていたが、ページが変わって最初の半小節ほど音が外れた。

 次の瞬間、3人の左右の足場が大きな音を立てて崩れ落ちた。


「「「うあぁ〜〜〜〜!?」」」


 3人は絶叫し、体を強張らせた。

 ピアノの前は3人の回りにもう一人立てるかどうかくらいの余裕しかなかった。


「ジュリ、頼むぜ……」

「うん……あ、ページが違う。さっきレヴィンがページを捲る時に2ページ分捲ったんだよ」

「え、おれ?」

「何やってんだよ!」

「わ、悪い。たぶん、ページがくっついてたんだ。ワザとじゃないよ」

「……じゃ、じゃあ、気を取り直して」


 ジュリアスは慎重にページを確認するとピアノを再開する。

 これまでは一音つづだったが、徐々に和音が入る様になり、ジュリアスは楽譜が読み取りにくいのもあって、難易度が上がって来てる様に感じていた。

 和音ばかりが続く中、再び音が外れた。すると今度はジュリアスの左右、マリウスとレヴィンが立っていた場所が半分崩れた。

 マリウスとレヴィン咄嗟にジュリアスの肩とピアノの端を掴む事で、何とか落ちるのを堪えた。


「あ、あのさぁ……」

「な、何?」

「何か……大冒険ッチクな事になってるけど、オレ達って、モーリス神父のお使いで祭りに使う物を取りに来ただけだよな?」

「うん」

「そうだよ」

「危険は無いって言ってなかったっけ?」

「い、言ってたと思う……」

「なら、何でこんなピンチになってんのさ?」

「そんなのオレらに言うなよ!」


 そんな事を言いつつ、マリウスとレヴィンは足を置き換え、なんとか安定して立てる所を見つけた。


「とりあえず、ジュリアスもわかってると思うけど、残ってる足場的に次間違えたらココが落ちると思う」

「う……うん」

「オレも彼女作って、ジュリみたいにイチャイチャしてみたかったな〜」

「僕、イチャイチャなんてしてないよ!」

「してんじゃん!エミリアと。村出る時だって、弁当受け取る時見つめあって、チュ〜でもしそうな感じだったじゃねぇか!」

「レ、レヴィン。お、落ち着け。狭いし、次ミスったアウトなんだから、な」


 マリウスはレヴィンを落ち着かせ、ジュリアスを鍵盤に向かい合わせる。


「やるしかないから頼んだ。もうそんなに無いだろ?」

「うん。残り1ページ切ってる」

「ジュリ、頼む」

「が、がんばるよ」


 鍵盤に添える手が震えるジュリアス。ジュリアスは肩や首を回し一つ深呼吸をすると、一気に引き出した。


 マリウスとレヴィンも目で楽譜を追っていたが、最後の二小節を見て、3人は目を丸くした。

 何と譜面の音符が掠れて判別しにくくなっていた。

 3人の背中に嫌な汗が流れ、マリウスとレヴィンはジュリアスの顔を見る。

 ジュリアスは一瞬手を止めるも、すぐに唇を噛んで弾き出し、ジュリアスが一音を弾く時は3人共目を瞑っていた。


 3人は目を瞑ったまま固まっていたが、目に強い光を感じて恐る恐る目を開けた。


「楽譜が……光ってる」

「ま……まだ何かあんの?」

『子供達よ……』


 呆然と楽譜を見ていた3人に、男とも女とも言えない声が聞こえ、3人は周囲を見るも誰もいない。


『子供達よ、こちらです』

「え?楽譜?」

「「え⁉」」


 3人が楽譜に注目すると、楽譜が独りでに浮き上がった。


『そう、こちらです、子供達よ。ここに来たという事は精霊の瞳を取りに来たのでしょう。

 あなた達は精霊の瞳を正しく使えますか?』

「え?いや、オレ達はただお使いで取りに来ただけだし」

「そうそう、村の祭りでいるからって」

「光迎祭って15年に一度のお祭りです」

『………』


 3人は息を飲んで次の言葉を待った。


『嘘は言ってないですね。良いでしょう』


 楽譜ペラペラとページが捲り戻されると、ページが真ん中から両開きの扉を開ける様に開くと、黄金色に輝く冠が現れた。


 それは、主に前面が飾られた繊細さを感じさせる冠で、中央部分にアーモンドを縦にした様な形をした大きい宝石が嵌っている。


 楽譜と向かい合っているジュリアスが手を差し出すと、冠は楽譜からフワリと飛び出しジュリアスの掌に納まった。


「これが精霊の瞳……」

「金に宝石だなんて思わなかった。凄げぇ〜」

「う、うん。僕も。なんか持ってるのが怖いや」

「お二人さん。感動はいいんだけど、ここからどうやって戻るのさ?」


 マリウスの一言にハッとする。周囲の状況は何も変わってないからだ。


『……よ、再び眠りを……』


 楽譜の独り言の様な声に3人が振り返ると、楽譜はスーと消えるのと同時に崩れ落ちた床にモヤが掛かり、モヤが消えると崩れる前の床に戻っていき、3人が周囲を見るとフロア全体か元通りになった。

 そして、天井からが白く光り、暗かった通路が地下とは思えないくらい明るくなっていた。


 マリウスとレヴィン、ジュリアスの3人は呆然となる中、ジュリアスが精霊の瞳を落としそうになって慌てた声を出した事で、マリウスとレヴィンはハッとする。


「お、おい、ジュリアス。落として壊したなんてオチは勘弁してくれよ」

「ご、ごめん」

「それにしても、魔法で幻を見てたってヤツ?やられた気分で一杯だぜ……」


 3人は盛大に溜息をつくと、来た道を戻りだした。

 階段を登ったフロアも一面明るくなっていた。


「下もそうだけど、凄く明るくなってる……」

「これも魔法……なのかな?」

「そう考えた方が話し楽でいいじゃん」


 そんな事を話しながら来た道を戻っていると、結界の前で待つシスターとトーマスの姿が見えた。


「大きな音がしましたが大丈夫でしたか?」

「は、はい。何とか……」

「3人共、祭器はあったのかい?」

「あ、えぇ、トーマスさん。見つかりました。

 ほら、ジュリ……」


 ジュリアスは結界を出ると、トーマスとシスターに精霊の瞳を差し出した。


「これです」

「間違いありません。精霊の瞳ですね。ご苦労様でした。

 私は先にグラフェス司教へ精霊の瞳を届けますので、トーマスは3人を元の服に着替えさせたら、司祭の部屋まで連れて来て下さい」


 こうして、ジュリアス、レヴィン、マリウスの3人は無事結界の中から目的の物を持ち帰る事ができ、緊張の糸が切れて脱力したのだった。

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