#4 序章 4話
人がろくに通った事のない獣道を通って山間の駐屯所に着くなり、体調が悪くなったジュリアスとレヴィン。
その2人に付き添ったマリウスは、2人と一緒にいつの間にかうたた寝をしていた。
3人は、来る途中に兵士達が倒したジョコボの肉が焼ける匂いで目を覚ました。
レベン村駐屯兵で一番料理の腕が立つラートが調理した物で、倒して直ぐに血抜きをし、複数のバーブ等を擦り込んだその肉は、肉が焼ける香ばしそうな匂いにバーブ類による芳しい匂いが加わり、匂いを嗅いだマリウス達は目を覚ますと共に腹が鳴り、自然と肉を焼く方に足が進むのだった。
蒸し焼きにされたジャガイモと共に絶妙に焼かれたジョコボの肉をラートが木皿に切り分け、さらに木のカップに野菜スープが注がれた。
マリウスとレヴィンはジョコボの肉を一口齧ると、気持ち悪くて休んでいたのがウソの様に猛烈な勢いで食べ出した。
大盛りと言える量が盛り付けられてあったがあっと言う間に食べ終わり、おかわりまでした。
それとは対照的に、ジュリアスは肉とエミリアからもらった弁当をゆっくり食べていた。
マリウス達が寝ている間にオルガ達の仕事は終わった様子で、岩山に駐屯していた兵士達も順番に食事を済ませると、ビックス、エゼント、ペーゼの3人が岩山の駐屯所に残り、マリウス達3人の少年は兵士達の隊長オルガと兵士のウェッジ、ラート達と共に岩山の駐屯所を後にし、再び獣道に入った。
獣道を抜け、歩きやすい通常の下山ルートに戻って、一行はヘザーの街へと向かう。
「レヴィン。どうかしたか?」
「へ?あ、エゼントさん達がいなくなって、特にビックスさんは体がデカかったから、なんか急に人が少なくなった様に感じてさ」
「バ〜カ」
ウェッジの質問に答えたレヴィンに、マリウスが速攻で突っ込む。
「普段のお使いは、オレら子供が1人か2人に対して兵士おっちゃんが1人。出発した時より兵士のおっちゃん達が減ったって言っても普段の3倍!しかも、これまでお使いに付き添った事がない隊長までいるんだから、異常事態ってもんなんだよ」
「マリウス。モーリス神父から説明なかったのか?
光迎祭前に変な奴が出た事もあるから、その用心さ」
「それと、我々兵士にもヘザーの街で仕事があるのだ」
獣道と違い、過去何人もの人間が行き来して踏み固められた道は歩きやすく、マリウス達はへばる事なく歩き続けた。
途中、獣に遭遇するも、ウェッジ達が苦もなく倒し、当たり前の様に食材として処理していく。
ラートが夕食の準備をする間、ジュリアスとレヴィンはウェッジから槍の使い方の指導をちょっとだけ受け、夕食を取った後は焚き火を囲んで初の野宿をする。
そうしてレベン村を出て3日目の朝、一行はヘザーの街の入口に到着した。
ヘザーの街の塀はレベン村の物より遥かに大きかった。さらに掘りがあり、跳ね橋が架けられている。
橋を越えた先にある街の入口では、数人の兵士が門番として出入りする人間を検閲していた。
「オルガ様!ご無沙汰しております」
門番の1人が気付くと、他の門番達も敬礼し、オルガ達も答礼を返す。
「ご苦労。仕事を続けてくれ」
「「「はっ!」」」
オルガに気付いた門番以外の兵達は検閲を再開する中、オルガに気付いた門番はレヴィン達をサッと見る。
サッと頭から足までを観察するその視線に、ジュリアスとレヴィンは身を強張らせた。
「今回は私と隊員が2名。そして、レベン村の少年が3人だ」
「いつもはたいてい1人なのに、今月は多いんですね」
「ん?あぁ、光迎祭関連って事もあってな」
「そうでしたか。それでは……ヘザーの街へようこそ、少年達。今日はどこからどういう目的で来たのかな?」
門番はジュリアス達に体を向けると、にこやかに語りかける。
戸惑っているジュリアスとレヴィンの背中を、マリウスがそっと押して前に出す。
「ぼ、僕達、レベン村から来ました」
「村のモーリス神父のお使いで、この街にいるグラフェス司教に会いに来ました」
「あ、オレは2人のお守りッス」
「そうか。普通の人が持ってちゃいけない物や、危険な物は持ってないかな?」
「「無いです」」
「な……」
マリウスとレヴィンは即答し、ジュリアスも一瞬続こうとして言葉が止まる。
ジュリアスは手に持ってる簡素な槍の穂先を見ると、門番に槍を差し出した。
「あの、僕達刃物……槍を持ってます」
「あ"……」
「う……」
ジュリアスの一言に、マリウスとレヴィンは顔を上げて穂先を見た。
「そうだった……」
「ずっと出番なくて、ほぼ杖になってて忘れてた……」
「おいおい。穂先が小さいと言っても刃物である事には変わりはないんだぞ。
個人装備の武器は持ち込んでいいが、武器を使ってケンカとかしたら処罰の対象になるから忘れない様にな」
「「「はい」」」
門番は頷くと姿勢を正して、オルガに敬礼をする。
「異常無しを確認しました。お通り下さい」
「了解した」
答礼をするオルガ達をマネして、マリウス達も敬礼をする。
こうして一行は、ヘザーの街に入った。
ヘザーの街はう港も擁し、アルザード大陸南東部では一番大きく、活気のある街であった。
通り沿いの店舗や出店。行き交う人の数がレベン村と比較ならないくらい多く、初めて来たジュリアスとレヴィンはキョロキョロしながらオルガ達の後をついて行った。
「すげぇ〜。今日何かあんのか?」
「あ!ボクらの村みたいに、お祭りなのかも……。
ほら、シスターが王都から聖剣士様が来るって言ってたから、通り道になるこの街が先にお祭りやるとか」
「あ〜!」
「ブブ〜!ここはこれが普通なんだな〜」
「「えっ!?」」
ジュリアスとレヴィンの後ろを歩くマリウスの一言に、2人はバッと振り返る。
「村と街の違いってヤツだな〜。村より広いだけじゃなくて賑わいも上なのさ」
「よく言うぜマリウス。お前も最初に来た時は2人と同じ反応してたじゃねぇか」
得意気に語るマリウスの頭を、マリウスの後ろを歩いていたウェッジがペシッと叩いてツッコミを入れる。
そんなやり取りをしてる間に、この街の駐屯所に到着した。
一行は駐屯所の中には入らず、オルガの前に整列する。
「ここがヘザーの街の駐屯所だ。オレ達はオレ達で仕事があるから、ジュリアス達はお使いを済ませて来るように」
「「「はい!」」」
「そして、マリウスはあくまでジュリアス達のサポートだから、2人をリードするなよ」
「わかってます。大丈夫です」
「ならいい。ほら……」
「待ってました」
マリウスはオルガが腰の革袋に手をかけると同時に、オルガに両手を差し出していた。
「お前はこういう時は本当に速いな……まぁ、いい。今マリウスに渡したのはお前達の小遣いだ」
「「おぉ〜!」」
「買い食いするも良し、記念に何か買うも良し、好きに使うと良い」
「イェ〜イ!」
「ただし!これは勉強の一貫という事を忘れるなよ。
マリウス、硬貨の種類や買い物の注意点なんかを、ちゃんと2に教える様に」
「了解であります!」
何を買おうかテンション高くマリウスと話してるレヴィンと対照的に、大人しいままのジュリアスの肩にペーゼが手を置く。
「どうした?」
「え?あ、大丈夫です。ちょっと考え事をしてました」
「そうだよな〜。ジュリアス君は、やっぱ彼女に気の効いたお土産気が見つかるか気なるよな〜」
「え?」
ウェッジの一言に思わず振り返るマリウスとレヴィン。
マリウス達を横目に見つつ、ウェッジは話しを続ける。
「お彼女様がいるジュリアス君は、当然考える事だよな〜。マリウスとレヴィンもモテたかったら、女子にお土産の1つも買っていくマメさがないとダメだぜ」
「「ぐぬぬ……」」
「と、とりあえず、グラフェス司教の所に行かないと」
「まあ、村に戻るのオレらの仕事が終わってからだから、教会に行くのは小遣いで楽しんでからでいいぞ」
マリウス、ジュリアス、レヴィンの3人は、オルガ達と別れて大通りの店を見ながら進んでいた。
大勢の人々が行き交い、いくつもの店や屋台が立ち並ぶレベン村には無い光景に、3人はテンションが上がった。特にレヴィンははしゃいでいた。
「なぁ、あの店で焼いてるのメッチャいい匂いだ!食ってみようぜ!」
「待った!」
串に刺した肉を焼いている屋台に駆け出そうとしたレヴィンの襟を、マリウスが掴んで止めた。
「うぐっ!?何だよ!」
「お前、今いくら持ってて、アレが小遣い的に気軽に買えるかどうかわかってるのか?」
「あ……」
やれやれと無言のジェスチャーをした後、マリウスは革袋からお金を取り出した。
「いいかレヴィン、ジュリアス。金は銅貨と鉄貨、それとこの中には無いが銀貨と金貨がある。でもって、それぞれ大中小とあって、カネの単位はガルンだ。ここまでいいな?」
「あぁ」
「うん」
「小銅貨から始まって……
小銅貨:1ガルン
中銅貨:5ガルン
大銅貨:10ガルン
小鉄貨:50ガルン
中鉄貨:100ガルン
大鉄貨:500ガルン
小銀貨:1,000ガルン
中銀貨:5,000ガルン
大銀貨:10,000ガルン
小金貨:100,000ガルン
中金貨:500,000ガルン
大金貨:1,000,000ガルン
……って感じさ」
「あぁ……うん。覚えたよ」
「オレも……たぶん大丈夫」
「ほんとか〜?」
マリウスは横目でレヴィンを見ると、革袋から何枚かお金を取り出し、レヴィンに渡した。
「レヴィン。それ全部でいくらだ?」
「え?中銅貨1枚に中鉄貨が……」
レヴィンは渡されたお金を数えて何ガルンかを答えようとするが、すぐに答えられずにいる。
「ま〜だかよ?ギブか?」
「いや。あ〜……133ガルン」
「当たりだ。でも遅い」
「初めてなんだよ!」
「お前さ、金を手に取って見てたけど、何か気付かん?」
「え?」
「あ、僕にも見せて」
レヴィンは中鉄貨を1枚手に取り、ジュリアスに大銅貨を1枚渡すと、表と裏を何度も見返す。
レヴィンの表情からは、頭に?が浮かんでいるのがわかる。
「あ、わかった!横に数字が彫ってあるんだ!ほら」
ジュリアスは大銅貨の側面をレヴィンに突き出した。
「ホントだ!10って彫ってある。こっちの中鉄貨は100って!」
「そうだ。わかりやすいだろ?あとは、お釣りを誤魔化されない様に計算できるかどうかだな」
「あ、あぁ……」
「とりあえずジュリアスの買い物からだな」
「え?」
「買うんだろ?エミリアへのお土産」
「あ、うん」
3人は雑貨を扱っている露店を見て回った。
木彫りの置物、織物、ガラス細工、柔軟性のある植物で編まれた小箱等があった。
何軒か目でジュリアスが髪飾りを手に取りじっと見ている事に気付いたマリウスが声をかける。
「ジュリアス、それにするのか?」
「うん。どうかな?」
「良いと思うぜ。色もキレイだ」
「よし、じゃあ買おう」
「レヴィン、落ち着けよ。ここで買い物についてのレクチャーだ。
いくつか店を見て回ったけど、今ジュリアスが持ってるのと似た様な物がいくらだったか覚えてるか?」
「え〜?一番高かったのが大銀貨1枚だったのは覚えてるけど、他は余り覚えてない…あ、でも結構バラバラの値段だった気がする」
「そう。ここで大事なのは同じ物でも店によって値段が違うから、各店でいくらくらいで売って物なのか知っとくのは大事ってこった」
「「なるほど」」
「それを知らないと、安い物を高く売られてもわからないもんね」
「そういういう事さ、ジュリアス」
「あ⁉じゃあさ、一番安く売ってる店のを全部買って、それを別の店かその辺の人に少し高めに買い取ってもらえば小遣い増えるじゃん!」
「そいつは関心しねぇな」
マリウス達が声がする方を見ると、店主と思われる恰幅のいい中年親父が、不機嫌そうな顔をして出て来た。
「黒髪のボウズ。そいつぁ、あまり良い事じゃねぇ。同じ町でやるなら尚の事な」
「そうなの?」
「あぁ。例えばだ、ボウズがこの町の店にある高く売れる薬を買い占めて、別の町で高く売りに行ったとする。
その後にボウズが買い占めた薬がないと死んじまう奴が出たらどうだ?」
「薬が無いから助からない」
「そうだ、金髪のボウズ。まぁ、今のは極端な例えだがな」
「まぁ、まぁ、親父さん。こいつら今日が初めての買い物で、いま金の使い方を教えてただけなんだよ」
「ま、それならいいがな。で、その髪飾りは買うのか?」
「はい。濃い青でしっかり染まっててキレイです」
「そいつは染めちゃいない。木自体の色なのさ。この辺りじゃ採れない上に、少しだが聖属性の力を持ってる素材だから、5200ガルンだ」
「5200ガルン⁉」
露店のジュリアス達がこれまで見て回った小物より圧倒的な値段の高さに、3人は驚きの声をあげる。しかし、驚くレヴィンを押しのけ、マリウスは店主の前に出た。
「親父さん。この2人は人生初の買い物なんだよ。だから、ここは一つ、小銀貨1枚で!」
「小銀貨1枚って、5分の1以外じゃねぇか!大赤字、論外だ」
「ですよね〜。完全に予算オーバー……」
「そっか……」
ジュリアスは諦めて髪飾りを元あった場所に戻すも、不思議と後ろ髪を引かれて、髪飾りを見つめる。
その後、3人は代わりの物を探すも、ジュリアスの気に入る物は見つからず諦め始めた時、それまで黙って3人を見ていた店主が、3人に声をかけた。
「なあ、ボウズ達?」
「あ、はい。何ですか?」
「お前達、どこから来た?」
「え?レベン村だけど」
レヴィンがレベン村から来たと答えると、店主は目を僅かに細めた。
「お前達から甘い匂いがしてるが、この匂いの感じ……もしかして紫桃を持ってるのか?」
「え?は、はい。1つだけ……」
「そうか。ちょっと待ってろ」
そう言うと、店主は背後の荷物を探り始める。しばらくして店主は包みを1つ手にして振り返り、ジュリアス達の前で包みを広げる。
包みの中から現れたのはペンダントだった。
ジュリアス達が見ていた髪飾りと同じ素材の木材で作られていて、中央の赤黒い石を包み込む様なデザインをしつつも厚みは抑えられ、服の下に入れても目立たなそうであった。
「使ってる木材の量はさっきの髪飾りよりだいぶ少ないが、これも同じ素材を使っていて、職人の力作だ。
値段は3400ガルンだが、あの村特産の紫桃となら交換してもいい。どうする?」
「お願いします!」
ジュリアスは即答した。そして、ジュリアスは紫桃とペンダントを交換した。
ジュリアスはペンダントを受け取ると身震いをした。その瞬間、店主が薄く笑った気がした。
「おい、ジュリ!どうした?ボケっとして」
「え、ううん、何でもないよ」
「はっはっはっ。初めて高価な物を自分の物にして感動するもんさ。」
こうして店を後にしたジュリアス達は、露店等が立ち並ぶ区画を進む内に、奥に一際大きな建物がある事に気付くのだった。