#34 第一章 21話
ヴァリストン聖剣学院の課題で剣の素材を手に入れるべく、ジュリアスとレヴィンは鍛冶師のリサの先導で、カズン鉱山の入り口とおぼしき場所を見おろしていた。
山をすり鉢状に段々と掘り下げられた先に、ぽっかりと大穴が開いていて、ジュリアスとレヴィンはその穴を見て吸い込まれそうに感じていた。
「何してるの?行くわよ?」
「「え!?」」
ジュリアスとレヴィンが呼びかけられた方を見ると、リサが穴を横目にスタスタ進んでいて、2人は慌てて追いかけた。
「どこ行くんだよ?」
「あの下の穴が入り口じゃないんですか?」
「あそこも鉱山の入り口だけど、アレは通常の鉱山の入り口。
オババ様から預かった鍵の入り口はまだ先よ」
「あぁ……そう」
武者震いと共に気持ちが高まっていたジュリアスとレヴィンは肩透かし感が大きかったが、気を取り直してリサを追いかけた。
リサは掘り下げられた入り口の横にそびえる山の方に進む。
3人がその山と向き合う面は、木々の代わりに巨大な岩が積み上げた様に重なり合っていて、3人はその岩の間に入る様に進んでいた。
しばらく進むと、岩と木ではっきり人の手で作られた物とわかる入り口が見え、リサを先頭に3人は中へと入って行く。
中は真っ暗ではあったが、ジュリアスもレヴィンも入り口より空間が広がっている事がわかった。
「「止まれ!」」
「「!?」」
最後尾のジュリアスが広くなったフロアに進むと、突然ジュリアスとレヴィンは背中に何かを突き立てられた。
「ここは一般人は立入禁止の場所!」
「何用だ?」
ジュリアスとレヴィンが後ろを見ると、鉄の小手・胸当て・脛当と、レザーアーマーを着たドワーフ達に槍を突き付けられてる事に気付いた。
2人は槍を突き付けられるまでドワーフ達の存在に気付かなかった。そして、リサの兄弟子達とは違い、そのドワーフ達には歴戦の戦士といった佇まいがあった。
「私は上級鍛冶師のリサ。
正式に採掘をしに来た」
リサはルーシアから受け取った鍵を戦士達にかざした。
「確かにここの鍵の様だ」
「では、今己に向いている面に、指で己が師の紋を描け」
リサは戸惑いを覚えつつも、言われた通り自分に向いている面に指で紋様を描いた。
しかし何も起きず、リサが鍵から指を離しすと、鍵のドワーフの戦士達に向いている面から、オレンジの光でリサが描いた紋様が宙に浮かび上がった。
「何と!?真修練鍛冶師ガルド様の弟子とは!」
「たしかに、未だ現役の者が残っていたとはな」
ドワーフの戦士達はジュリアスとレヴィンに突き付けていた槍を下ろし、警戒を解いた。
ジュリアス達は素早くドワーフの戦士達から距離を取りつつ剣抜き、ドワーフの戦士達に向かって剣を構えた。
「坊主共、おそらくヴァリストンの1年生であろうが、良い構えだ」
「そして、槍を突き付けられても、冷静に機会を伺っていたのも悪くない」
今にも戦闘が始まりそうな空気を察したリサが、ジュリアスとレヴィンの前に出る。
「剣をしまって。彼らはここの見張りよ」
「……わかったよ」
レヴィンが剣を鞘に納めるのを見て、ジュリアスも剣を鞘に納めた。
「ガルド様の弟子、リサ殿。
採掘が正式な物である事を認め、ここを通そう」
「ありがとう」
ガチャ
ドワーフの戦士達が扉の左右を操作すると鍵が開く音が響く。そして、ドワーフ達は金属の閂を外した。
外した閂を地面に落とした音から、相当重い事が伺えた。
「凄く重そう」
「あぁ。それに、何の気配もなく一気に間合い詰めたスピードと気配の無さ……ムカつく」
「ふふふ。いかにヴァリストンの生徒といえ、聖剣士としての力を身に着けていない駆け出しならば、ワシらの相手でないわ」
気付く間もなく槍を突き付けられた時点で実力の差は明白であったため、レヴィンは悔しかったが何も言えなかった。
「ほら、まだ目的地の入り口よ。
行くわよ」
「あぁ」
「はい」
リサは閂があった部分に鍵が入る程度の穴を見つけ、鍵を差し込んだ。
鍵が全部穴に入ると、扉が静かに左右に開いた。
扉が開くとリサは中に進み、ジュリアスとレヴィンはその後に続いた。
ジュリアスはリサについて進みつつふと振り返ると、2人のドワーフはジュリアス達に背を向け、入口の前で腕組みをして立っていた。そして、そのまま進んでいると、左右の扉が閉まり出した。
ジュリアスは、慌てて扉に近付くと扉は開き出し、ジュリアスが足を止めると扉も止まった。
「あれ?」
「ジュリ、どうした?」
「扉が……」
「ボウズ!自動的で開閉する仕掛けになっている」
「閉じ込められる事は無いから安心して進め」
「は、はい!」
ドワーフの戦士達の説明を受け、ジュリアスは気を取り直してリサとレヴィンに歩み寄り、入り口は再び閉まり始めた。
徐々に暗くなっていく中、リサは自分の袋から太めのステッキを取り出した。
「あ、それって、ロメスミーザで買ってたヤツ?」
「そうよ。ほら。
これから1つ取り出して」
ジュリアスとレヴィンはリサに投げ渡された革袋から、棒状の物を1つ取り出した。
棒の真ん中にガラスの様な物が埋め込まれていて、その上下に複数の穴が空いていて、一方の先端は円錐を逆さにした形状なっていた。
「リサさん。これは何ですか?」
「真ん中を持ってレミー・モス・ルーメンって言ってみて」
「「レ、レミー・モス・ルーメン」」
ジュリアスとレヴィンはリサに言われ言葉を口にすると、円錐を逆さにした方の先端から光った。そして、その光りは松明の様に揺らめきつつも光り続けていた。
「おぉ!?魔導具なんだろうけど、何かオレが魔法使ったみたいだ!」
「ふふ、そうかも。
あ、でもリサさん。たまに消えそうになるけど、コレは何に使うんですか?」
「松明の代わりよ。
これは本来、さっきの言葉を唱えて魔導具を起動した後、1人づつ穴に魔力を注いでいって、ハズレの穴に魔力そそきで先端から強い光りを出した人が負けっていう、一種のオモチャよ」
「オモチャ……」
「ちなみに、店でコレが入ってる箱に、白髭の魔法使いの絵が描かれてる所から『白ヒゲ』なんて呼ばれてるわ」
ジュリアスとレヴィンは魔導具だと思って少し興奮した物がおもちゃと言われて、2人は手に持つ棒を見め何とも言えない気分になった。
少しして、ジュリアスはハッと顔を上げた。
「あれ?リサさん、僕穴に魔力を注いでないですよ?」
「あ、そうじゃん!オレら魔力使えないぜ?」
「ふぅ。魔石自体の魔力で起動する様に術式が組まれているから起動に魔力はいらないし、本来の使い方をしないなら魔力を穴に入れる必要もないわ。
そして、馬車が暴走する前に、強い光を出さない代わりに、起動と同時に魔石の魔力が空になるまで光りを出し続ける様に弄ってたの。
ちなみに、その魔石は質が低いから、魔力が空になったら普通の石になって崩れるから、光が消えたら次の棒を使うのよ」
「わかりました」
素直に答えるジュリアスに対して、レヴィンはどこか腑に落ちない顔をしている。
「何?分かりやすく話したつもりだけど?」
「いや、普通に松明使えばいいんじゃないかって思ったんだ」
リサは大きく溜息をつくと、腕組みをしてレヴィンを見据えた。
「こういう鉱山っていうのは、地中から燃える空気や毒の様な空気が出てたりするの。
特にこの特別な方の鉱山は一般開放されてないから、中の情報が乏しい。だから、厄介な空気対策のために、この改造した白ヒゲを使うのよ、わかった?」
「あ、あぁ。わかったよ」
リサの剣幕にレヴィンはよくわかってないが言い返さなかった。
ジュリアスとレヴィンは白ヒゲと呼ばれる棒をかざして周囲を見ると、道は奥へと伸びていて、何か置いてある事に気付いた。
3人は置かれた物に近付くと、木の柄の先に金属が左右に伸び、片方は先が尖り、反対側は鍬の様に板状になっているマトックと呼ばれる道具であった。
「5本あるけど、とりあえず1人1本づつ持って行くわよ」
「はぁ〜、これで掘るの?」
「当然でしょ」
「これ勝手に使って良いんですか?」
「各鉱山には使って良い道具が置いてあるのは有名な話しよ。もし、ここだけ違うなら、入り口の2人が何か言って来てたはずよ」
「そうですか」
こうして、片手に白ヒゲ、もう片方の手にマトックを持って3人は奥へと進む。
鉱山内の天井は、大人がマトックを振り上げてジャンプしても届かない程度には余裕があり、ジュリアスとレヴィンはマトックを使う時に天井を気にせず振り回せると感じていた。
そして、1階、地階1階……と進みつつ、リサが指定した場所をジュリアスとレヴィンが掘って回るも、鉄鉱石等の普通の鉱石しか出なかった。
「あ”〜、また違う」
「そうだ。2人共ヴァリストンの生徒だったわね。
心理力で周囲を探ってみて」
「は?」
「どういう事ですか?」
「聖剣士は心理力を高めて周囲の状態を感知する事ができるって聞くわ。そして、霊晶石は心理力を吸収するか反応するらしいから試してみて」
「そう言われても……」
ジュリアスもレヴィンもリサの言う事は初耳で戸惑った。
「そんな話しあったか?」
「う〜ん……心理力を高めると色んな事ができるとは先生達言ってたよね。
霊晶石は、心理力を込める事ができるから、もしかしたら何かわかるかのかも」
「じゃあ、試しにやってみるか」
「うん。ここは鉱山の中だから、大地の力を吸収するイメージだよ」
「あぁ。わかってるって」
ジュリアスとレヴィンは目を閉じて足から、そして周囲から力を吸収するイメージで心理力を高めた。
すると、2人は地面と接している足の裏から、そして周囲からも徐々に心理力が集まって来るのを感じた。
それから、入って来た心理力を自分の心理力と混ぜて心理力を高めていく。
「ん?何となく力が集まるスピードが不規則ね」
「「え!?」」
「リサさん!?」
「聖剣士じゃないのにわかるのかよ!?」
「心理力は聖剣士の専売特許じゃないのよ。
意識的に使えるわけじゃないけど、修練鍛冶師が本気で腕を振るう時には、その鎚に心理力が宿るの。
だから、私も真修練鍛冶師だった師匠の鍛冶を何度も見たし、鍛冶も学んでいるし、心理力を感じれてもおかしくないでしょ?」
驚くジュリアスとレヴィンとは対象的に、リサはやや呆れた様に答えた。
「へ、へ〜」
「そうなん……あ!?」
「ん?」
ジュリアスとレヴィンの体が突然ピタッと止まった。
「何か感じたの?」
「あぁ。たぶんこっちから……」
「こっちから心理力が吸われてる気がする」
ジュリアスとレヴィンが同じ片方向を指差し出した。
「じゃ、その方向を調べるわよ」
3人はジュリアスとレヴィンが指差した方向を調べながら進み、さらに階下に進むも、霊晶石は見つからなかった。
「リサさん、白ヒゲも半分くらい減ったよ」
「変ね。地階4階くらいから下に行く程霊晶石が出やすいって聞いたけど、全く出ないわね」
「あの、リサさん。
今いるのが地階5階だけど、下に降りれる場所は無かったと思ったつもけど……」
「たし……あ!?」
3人が考え込んでいると、3人の持つ白ヒゲの光りがそれぞれ消えた。
3人は革袋から新しい白ヒゲを取り出し、リサとジュリアスはすぐに点灯させた。
「この鉱山の情報が少ないって事は中に入る前に話したけど、その理由の1つが、入る度に中の様子が違うらしいって話しがあるの」
「え?」
「そう言うのは最初に言えよ」
「らしいって程度で、そんな鉱山の話しは聞いた事無いし、情報の精査ができてないだけだと思ったのよ」
リサが振り返ると、白ヒゲで顎下から顔を照らした顔が目の前に現れた。
「ちょっとレヴィン。何ふざけてるのよ!」
「は?白ヒゲ落として探してるんだよ」
「え?」
ジュリアスもリサと同じ方向を見て、レヴィンがふざけてると思ったが、レヴィンの声は白ヒゲで照らされた顔よりも下から聞こえた。
ジュリアスがそっと白ヒゲを向けると、しゃがんだままジュリアスを見上げるレヴィンの姿があった。
「え?レヴィン?」
「は?何だよ?」
「え?じゃあ……」
ジュリアスがリサの方に白ヒゲをかざすと、リサの前にたしかに白ひげで下から照らした顔があった……が、しかし、よく見ると頭だけで体がなかった。
「うそ……」
「え?か、顔だけ!?」
「さっきから何だよ、うるさ……え?えぇ!?
オバケ!?」
「「「うわぁ〜〜〜!!」」」
3人は驚き叫び、後退ったり、尻もちをついたりした。
「うわぁ〜!!
ははははははははっ!」
何故か顔だけの何かも驚きの声をあげたが、すぐに大笑いをしだした。
その様子にリサは警戒をしてジュリアスは呆気に取られるも、レヴィンは胡散臭い物を見る目で見つつ、大笑いする顔の脳天にチョップをした。
「は〜、はは……ぶべっ!?」
「うるせぇ!」
「レ、レヴィン!?」
「え?」
レヴィンのチョップを受けた顔は地面に落ち、全体がウネウネと動きながら徐々に変えて行くのだった。




