#32 第1章 19話
老婆の家の地下室には、隠された通路があった。
ジュリアスとレヴィンは通路の中を見ると真っ暗であったが、長い通路の様に思えた。
「この通路を通って行けば王都の外に出る。そして、王都の壁を背にして真っ直ぐ北に半日ちょっと歩けば村に着く。
そこで乗り合い馬車に乗ってカズン炭鉱に向って、カズンに着いた後は渡したメモを見るがええ」
「ありがとうございます」
「ありがとう。婆さん」
剣の課題クリアに近付いて行っている様に感じられて、ジュリアスとレヴィンは張り切っていた。
それとは対照的に女の子は浮かない表情をしていた。
「がんばりな…あ~、そう言えば、名前を聞いとらんかったの。
ワシはルーシアじゃ」
「ジュリアスです」
「レヴィンです」
「……っ!?」
ルーシアは女の子のお尻を叩いた。
「黙っとらんで、お前も名乗らんか」
「……リサよ」
「「よろしく」」
ジュリアスとレヴィンがリサに目を向けると、リサはルーシアに何か言いたそうな様に見えて、ルーシアに視線を送った。
「ふ~。言いたい事があるならお言い!」
「あ、あの、これ……良いのですか?」
リサは自身の手の中にあるルーシアから受け取った鍵に視線を落としてから、横眼でジュリアス達を見た。
「お前には色々思う所がある。じゃが、世間に名をはせたウチの人の弟子達は、70年程前の一件で命を落とすか、鍛冶をできぬ体になってしまった。
その後、ウチの人は新たに弟子を取ったが大成した者はおらん。
お前はウチの人の最後の弟子で、ウチの人の系統の鍛冶師が途絶えるのも忍びないだけじゃ。
戻って来て、くだらん剣を打ったら承知せんからの」
「は、はい!」
「帰りはこの通路の出口付近にある、くすんだ色の水晶に魔力を込めたら開けてやる」
「わかりました」
「それじゃ、これを持ってお行き」
ジュリアス、レヴィン、リサの3人はルーシアから倉庫内の物を詰めた袋を受け取ると、隠し通路に入った。
3人が通路に入ると入口が閉まり、足元が淡く光ると、光りは一直線に奥へと伸びていった。
リサを先頭に3人は通路を進むと、しばらくして突き当たりに行き着いた。
リサは突き当たりの壁を見回して、左の壁の赤い出っ張りを押し込むと、行き止まりの壁が僅かな音と共に左右へ開いた。
「「おぉ〜」」
その奥の通路を抜けると地下壕の様な薄暗い場所で、ジュリアスとレヴィンが戸惑っていると、背後で通路の出口がまた僅かな音を立てながら独りでに閉まった。
地下壕の出口は草木で覆われており、3人は草木を掻き分けながら進んでようやく外に出る事ができた。
ジュリアスとレヴィンが振り返ると、3階建ての建物よりも高い王都の壁があった。
そびえる壁を見て、2人は王都に来た時は馬車の中でふさぎ込んでいて、王都の壁を見ていなかった事に気付いた。
「2人とも何をしてるの。行くわよ」
ルーシアに言われた通り、3人は王都の壁を背にして真っ直ぐ進んだ。
周囲に人が通った形跡は無く、舗装はおろか足元も踏み固められてもいなかったが、山育ちのジュリアスとレヴィンには通りやすい場所であった。
また、2人は魔物から逃げた時みたいに、獣等に遭遇する可能性を考えていたが、周囲は開けていて見通しも良く、その心配はなかった。
3人は特に会話をする事も無くひたすら歩き続け、王都から一番近い村であるロメスミーザへと辿り着いた。
ロメスミーザは小さな町であったが、活気に溢れていた。
店が立ち並び、どの店にも多くの客がいて楽しげにしていたが、良く見れば客の多くはローブを着ていた。
「なんか、ローブ着てる人が多いね」
「そうだな」
「あれはアヴァロン魔法学院の制服だったと思うわ」
「へぇ〜。じぁ、魔法使えるんだ」
「学年よって差は有るでしょうけど、当然使えるでしょうね。
そのための学校なんだし」
「まぁ、たしかに」
「こっちよ」
リサに続いて店に入ると、店内の至る所に様々な物置が置かれ、あるいは積み上げられており、ジュリアスとレヴィンは驚いた。
アヴァロン魔法学院の生徒達が楽しそうに品を手に取り、時折説明書きのポップをみてニヤリとしていて、気にってジュリアスとレヴィンも近くのポップを見てみた。
「『この商品に魔力を込めて、黒板消しの代わりに入り口にセット。Hitすれば、授業中その人の顔を煙が覆う。逃げても追いかけるぜ』……」
「『勇気があるなら一粒食べよ。どんな味かは食べてからのお楽しみ。
幸運の主ならば、過去に食べた美味しかった味ベスト10のいずれかが口中に蘇る。
けれど運が無ければ人生最不味な味が炸裂』……何だこれ?』
ジュリアスとレヴィンは商品を手に取って見てみるがよくわからず元の場所に戻し、他の商品や他のポップを見ていくと、ジュリアスの前にいた魔法学院の少年が手に取っていた。そして、商品のボタンを押すと、少年の背後から赤いグローブが飛び出し少年をノックアウトした。
「何だよ。この店……」
「イタズラグッズのお店……かな?」
「あ、そういえばリサは?」
「あれ?いない……」
「何だよ、あのオバサン。どこ行ったんだ?」
「オバサン言うな」
レヴィンは後頭部にリサの肘打ちを受け吹っ飛んだ。
「いって〜〜。何つ〜力だ」
「大丈夫?レヴィン。
あ、ほら、リサさんはドワーフとのハーフだから力が強いんだよ、きっと」
レヴィンはジュリアスに助け起こされると、ジュリアスを盾にしつつ抗議した。
「あんなに強く殴る事ないだろ。
それにオレらより30歳以上は上なんだし、間違っちゃいないだろ?」
「レヴィン。それはそうだけど、女性に歳の事はやめた方がいいよ」
「ふん。ジュリアスはわかってるのね。
ほら、目当ての物があったから行くわよ」
リサは高さの違う箱を両手でいくつか持っていた。
「リサさん、それは何ですか?」
「説明は後でするから、行くわよ」
そう言うと、リサは入り口付近のカウンターで支払いを済ませると自分の革袋にしまい、一度ジュリアス達に振り返ると店を出で行き、ジュリアスとレヴィンもその後に続いた。
商品と客で溢れた店を出たジュリアスとレヴィンは、慣れないからかドッと疲れた気分だった。
店を出た後もリサが先導する形で3人は村の奥に進み、馬車の意匠が描かれた看板がある所に到着した。
壁は三方だけで通りに面した側の壁は無く、各壁の前には長椅子が置かれていた。
「ここが乗り合い馬車の停留所よ。座って」
ジュリアスはリサの隣りの長椅子に座り、レヴィンはリサの向かいの椅子に座った。
そして、リサは停留所の裏と周囲に人がいない事を確認してから長椅子に座った。
「ねぇ、2人共。この先誰かに何か聞かれても、バカ正直にペラペラ喋ったりしないでね」
「え、どういう事ですか?」
「私達が抜け道から王都を出たとか、これからどこに何しに行くとかについて、1から10まで言わないでって事。
子供は言わなくて良い事まで喋ったりするから」
「なん……」
見た的には同じくらいの歳に見えるリサの言葉に文句を言いかけるも、レヴィンはリサが自分達より30歳以上歳である事を思い出して言葉が出なかった。
「何もかも喋るなとは言わないわ。
当たり障りの無い事だけなら、言っても良いわよ」
「例えば、どんなだよ?」
「安く剣を作ってもらうため、鍛冶師の手伝いで鉱山に向かってる……くらいなら良いけど、鍵がいる鉱山に剣の素材を探しに行く……なんてのは絶対ダメ。何故だかわかる?」
「え?あ〜……鍵が重要アイテムだから?」
「そう。重要な物を持ってるなんて、わざわざ教える必要は無いって事。
知れば狙われる可能性があるし、価値の有る物を持ってるって話し以外でも、重要な情報も知られたら邪魔されたり、先回りして目当ての物を奪われたりする可能性があるからよ。わかった?」
「わかったよ」
「わかりました」
リサはルーシアから受け取ったため鍵を、腰の革袋からジュリアスとレヴィンに一瞬だけ見せてから話しを続けた。
「カズンで私達が入る坑道は、この鍵が無いと入れない特別な場所なの。だから、この後誰かに何か聞かれたら、『剣を安く作ってもらうために、鍛冶師の材料集めを手伝うためについて来た。それ以上は連れの鍛冶師に聞いてくれ』で、通してね」
「はい」
「わかったって」
グ〜〜〜〜。
レヴィンの腹が鳴った。
「そう言えば、ヴァリストンで朝飯食ってから何も食ってなかったな」
「そういえば、そうだね。
あ、そこの店が開いた」
「まだ馬車は来なさそうだから、買って来て良いわよ」
「よし、行こうぜ。ジュリ」
「うん。
じゃあ、リサさん。ちょっと行ってきます」
ジュリアスとレヴィンは停留所の向かいの店に入ると、そこは飲食店らしく、美味しそうな匂いが漂っていた。
店員に声をかけると持ち帰りできる商品を勧められ、ジュリアスが生徒カードを店員に見せた。
「うん?あぁ、ヴァリストンの生徒かい。
今日は村に泊まるのかい?それとも馬車で移動かい?」
「あ、馬車で移動します」
「じゃ、カード良いかい?」
店員はカウンターの上にカードを置くと、カウンターの引き出しから細長い棒を取り出し、カードの上に置いた。
「金髪の坊や。確認しておくれ」
「え?」
ジュリアスは何の事か分からずレヴィンを見るが、レヴィンも訳が分からず困惑した。
「おや?もしかして、初めてカードを使うのかい?」
「はい。そうです」
「そうかい。カードで買い物をしたら、カードにこの棒の情報を読み取らせるんだよ。
棒に商品名と、他の面に値段が書いてあるから、間違いなかったら、棒でカードに触れてる状態で『購入。成立』って言ってごらん」
「はい。
購入、成立」
ジュリアスが言われた言葉を口にすると、カードに触れてる棒の端がオレンジに光り、すぐにカードへ吸い込まれる様に消えた。
「はい。これ支払い終了。
もし、光りがオレンジじゃなく、赤だったら買い物できない。残金不足って事」
「「へ〜」」
レヴィンも商品の会計をしていると馬車の音が聞こえて来た。
「これで終了だよ」
「ありがとう。馬車来たから行くよ」
「ありがとうございました」
「気を付けて行くんだよ〜」
ジュリアスとレヴィンは店員に振り返り振り手を振ると、停留所に戻った。
2人が停留所に戻ると2頭引きの馬車が停まっていて、荷台はこれまでジュリアス達が見た物より広く、真ん中の通路の左右に背もたれ付きのベンチが同じ向きで並んでおり、20人程が乗れる様に感じた。
そして、馬車に気付いて近くの店からバラバラと人集まって来ていた。
3人は御者近くの入り口から乗り込むと、体を鍛え込んでいるのがわかる30代くらいの御者に声をかけれた。
カズン炭鉱行きを確認して支払いを済ませると3人奥の席に座り、その後数人が乗り込んだ。
「他に乗る奴はいるか〜?出発するぜ〜!」
こうして馬車は動き出し、レヴィンは茶色く固めの葉の包みを開けて、レヴィン肉と野菜を白生地で挟んだ物にかぶりついた。
ジュリアスも同じ様に包みを開けると、リサに差し出した。
「はい、リサさん。どうぞ」
「ありがとう。
気が利くわね」
「そんな」
「対して、レヴィンは典型的な男子ね。
そんなんじゃモテないわよ」
「何だよそれ〜」
リサはレヴィンに何も言わず、ジュリアスから受け取ったサンドイッチを食べた。
ジュリアスおレヴィンは食べながら不思議な感覚がしていたが、少ししてこれまで乗った馬車に比べ、ほとんど揺れを感じていない事に気が付いた。
そして、3人が食べ終わり、ジュリアスが自分とレヴィンの包を畳み紐で縛った辺りで、御者の声が響く。
「何か食ってるヤツがいたらしまってくれ。
……大丈夫そうだな。
これから飛ばすから、目の前のバーをしっかり掴んで、舌を噛まない様に、口を閉じていてくれ。
行くぞ、アス!ラーダ!」』
乗客達は訳がわからないながら、何か始まる事は理解し、慌てて目の前のバーを掴んだ。
それと同時に御者が手綱を振って馬に当てる音と共に、馬車が物凄い勢いで走り出した。
「ぐわぁっ!?」
「な、何だっ!?」
乗客の何人はうめき声や驚愕の声を挙げ、ジュリアス達も急加速の勢いに驚き、馬車の中を吹き抜ける風の勢いに抵抗し、バーを掴む手に力を入れる。
「ど、どうしたんだよ!?」
「に、荷台に来る風が……す、凄い!?」
「な、何の、一体!?」
「ふはははは!良いぞアス、ラーダ!
今日こそ行くぞ!ゼロの領域へ!!」
こうして、とんでもない速さで走り出した馬車に乗って、3人はカズン炭鉱への向かうのだった。




