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聖剣士物語(仮)  作者: レイファ
第1章 ヴァリストン聖剣学院の授業
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#31 第1章 18話

 王都サガリオン南西部の工房区で、瓦礫の中から助け出した女の子を送って行ったジュリアスとレヴィン。

 部屋の奥から現れた老婆にレヴィンは2階の通路へ投げられ、続いて女の子も老婆の投げで2階に上がった直後、入口の扉が乱暴に開けられた。


 バン!


 乱暴に開けられた扉の音で振り向きつつジュリアスは身構えた。

 レヴィンは女の子に棚の影へと引っ張られると、女の子に口を押さえられた。


「静かにして」


 何が何だかわからないレヴィンであったが、小声ながら緊張感のある声に、レヴィンは大人しく従った。


 乱暴に開かれた扉からは、ドワーフの男達が次々と入って来て入口の前を塞いだ。

 どのドワーフも悪者を絵に描いた様な容貌で、大鎚を持ったドワーフが室内を見ながら数歩前に出ると、ジュリアスと老婆を威嚇する様に大槌を床に押し付け、その柄尻に両手を置いた。


「おい、ここにドランの弟子のメスガキがいるはずだ。

 連れて来い!」


 大鎚を持つドワーフは凄むが、老婆は普通に声を掛けたられた様に一切臆する事なくジュリアスの前に出た。


「乱暴に入って来て何だい。

 ここにゃ、ワシとこの人間の子しかいないよ」

「おい!しらばっくれるな、ババア!」


 入口前に並ぶドワーフの1人が大声を出すと、大鎚を持ったドワーフが片手を上げて制した。


「婆さん。ここに2人入るのを見たヤツがいる。

 隠すとためにならねぇぜ」

「この子達がウチをノックしてきて、ワシが出て中に入れてやった……人影が2つで合ってるじゃないか」

「人間のガキが、何故ドワーフの民家を訪ねる?」

「この子の服装をよく見な。ヴァリストンの制服だ。

 この子は、剣探しの課題で色んな店を回るもしっくり来る剣が見つからず、作ってもらうならどこが良いか、工房以外の家に聞いてみようと思ったらしい。

 ワシはウチの人が死んで、長らく客もなく暇してたからの。

暇つぶしに話しを聞いてやろうと思っただけだよ。

 何か文句あるのかい?」


 平然と答える老婆をしばし睨み、一度ジュリアスを見た後大鎚を持つドワーフは老婆に視線を戻した。


「コイツは、オレらと事を構えたい様だが?」

「ん?ふ〜、何言ってんだい。

 剣探しの課題って事は1年生。10歳そこそこの子がドワーフの荒くれに凄まれたら、そりゃ体が強張るってもんだろ」


 ドワーフ達の視線がジュリアスに集まると、力の入った目で大鎚を持つドワーフを見ていたジュリアスは、目の力を抜いてドワーフ達から視線を合わせない様にした。

 そんなジュリアスを見て、大鎚を持つドワーフは鼻を鳴らした。


「ふん。まぁ、そのガキは良いとして、本当にジジイの弟子は来て無いんだろうな!」

「あんな娘、知るもんかい。

 ウチの人が死んだ後、今日まで来た試しが無いさね」


 老婆が憤慨する姿を見て大鎚を持つドワーフは納得がしたのか、体の力みが少し抜けた。


 ガタ


 2階の廊下に置かれた棚の影で、女の子に体を抑えられていたレヴィンの足が動き物音がした。


「おい、ババア!誰か2階にいるじゃねぇか!」

「引き摺り出せ」

「おぉ!」


 ドワーフの男達は次々殺気立ち、ジュリアスは戦闘を覚悟し、構えてはいなかったが臨戦体勢に入った。


「フニャ〜ン」


 間の抜けた泣き声がして、ドワーフの男達が2階の渡り廊下を見ると、棚の影からヨロヨロと少し太った茶色のネコが姿を現した。


「あぁ~、また登れなかったのか。あの子も年だねぇ。

 昔はヒョイと棚に登って、手摺の上を歩いたもんだけど、あの子もワシと一緒で、お迎えが近いのかもしれないねぇ……」

「ちっ。

 おい、行くぞ」


 ドワーフ達は拍子抜けとばかりに、扉を閉めずに出て行った。

 老婆は外の様子を見た後、扉をそっと閉じた。


「ふ〜、やれやれ」


 老婆が深呼吸をしながら伸びをした事で、ジュリアスを大きく息を吐きしゃがみ込んだ。


「オババ様」


 立ち上がり老婆に声を掛ける女の子に、老婆は即座に手で制した。


「お待ち。飛んだら音が立つだろ。

 階段を使いな」

「あ、はい……」


 女の子は階段で一階に降り、拘束が解けたレヴィンも体をほぐしつつ、女の子の後に続いた。


 老婆はジュリアスに部屋の隅に置いてある椅子を持ってこさせると椅子に腰を下ろすと、レヴィンとジュリアスを見た。


「どうやら、お前達がこの子襲ったわけじゃなさそうだね」

「はい。そうです」

「オレ達がガラクタの中から助けたんだよ」


 ジュリアス達の言葉を聞いて、老婆はジロリと女の子に目を向ける。


「その子達の言う通りです」

「そうかい。それで?

 奴らは何でお前を狙うんだい?」


 女の子はジュリアス達が聞いている事を気にするが、老婆の一睨みで話し出した。


「師匠の秘伝書を出せと言われました」

「はっ。鍛冶師にそんな物があるもんかね」


 憤慨する老婆に、女の子はさらに言いにくそうに言葉を続ける。


「もう一つ。

 秘伝書を出さないなら、剣の礎にすると……」

「何だって!?」


 老婆は一際驚き立ち上がった。


「えっと、ば、婆さん。何の事かわからないんだけど……」

「そんなに驚く事なの?」


 レヴィンとジュリアスの問いかけに、老婆は冷静さを取り戻し、椅子に座った。


「おい、ワシとこの子達に茶を入れな」

「わ、わかりました」


 老婆の指示にで、女の子は部屋の奥へと行き、ジュリアスとレヴィンは無言に耐えれず老婆に質問する。


「あの、お婆さん。

 さっき、男達に話した通りで、僕達課題で霊晶石から作った自分に合う剣を探してて、色々お店を見てもしっくりくる剣が見つからなくて。

 快く作ってくれるお店も見つからないんですが、作ってくれそうなお店を知りませんか?」

「どこの店を見て来たんだい?」


 ジュリアスとレヴィンは今日見た店の場所や外観の特徴を老婆に話した。


「……で、入口が他より豪華な店は、貴族の親子と会って買う気がなくなったから、何も試さずに出たんだ」

「あそこは剣だけでなく、魔法師の杖なんかを作る職人もいる老舗なんじゃが、帰る時に引かれる物を感じなかったんなら、相性の良い剣はなかっただろうね」

「そういうものなんですか?」

「あの店は、質は良いのに長く持ち手がいない武具も多いからね。どこの店でもってわけじゃないよ」


 ジュリアスとレヴィンが老婆と話す間、戻って来た女の子はテーブルにお茶を置くと、そのまま黙って立っていた。

 老婆はジュリアス達との話しが一区切りすると、女の子に視線を向けながらゆっくりとお茶を飲んだ。


「久しぶりに来たと思ったら、えらい静かじゃないか」

「わ、私は……」

「ウチの人が死んでからだから……30年振りくらいかい。

 今さら何しに来たんだい?」

「「さ、30年振り!?」」


 ジュリアスとレヴィンは、自分達と同じくらいの歳と思っていた女の子が、老婆に会うのが30年振りと聞いて驚愕した。

 女の子の顔を改めて見るも、とても信じられなかった。


「ふ〜……10歳程度だから、まぁ妥当な反応かね」

「え?」

「あ、失礼しました」

「良いさ。知らなきゃ仕方ないさね。

 ちなみにその娘は、人間とドワーフのハーフでね。

 外見は人間の母親似だけど、肉体の性質や素質は思いっきりドワーフの父親似でね」

「「へ〜……」」

「そして、ドワーフは人間より寿命が長いのさ」

「初めて聞いたぜ」

「え?ちょっとレヴィン。

 歴史の授業で、種族によって寿命や得意な事が違う話しは何回か出てたよ」

「え?あれ?そうだっけ?」

「そうだよ、も〜……あ、すみません」


 レヴィンにツッコんだジュリアスは、老婆の視線に気付いて口を閉じた。


「ふっ。人間の子供と話すのはウチの人が死んで以来だけど、久々のせいか、何だか新鮮だねぇ」

「え?」

「へへへ」


 ジュリアスとレヴィンはどう返したら良いかわからず、曖昧に笑ったが、レヴィンが気になった事を思い出し質問をする。


「あ、そう言えばさ、さっきのヤツが言ってた『剣の礎』って何なの?」

「!?」


 レヴィンに老婆の鋭い視線が向けられ、レヴィンは凄い威圧感にたじろいだ。


「あ、いや、婆さんがめっちゃ驚いてて……だから、ちょ、ちょ〜っと気になっただけだよ」


 少し間を置いて老婆は目を閉じ深呼吸をし、レヴィンは威圧感がなくなり大きく息を吐いた。


「あの、僕達が聞いちゃいけない事でしたか?」

「……。

 『剣の礎』っていうのは、鍛冶師の邪法……500年以上昔、遠い国から持たらされた邪悪な技の事だよ」

「鍛冶師の邪法……」

「どういうのかよくわからないけどお姉……さんは、それをやれって言われたんだ」


 女の子はレヴィンの問いに答えていいのか迷い、老婆を見た。

 老婆は重い溜息を吐きつつ頭を掻いた。


「まぁ、端的に言うと、この子は金属を溶かす炉に飛び込んで、材料の一部になれって言われたって事なんだよ」

「「え!?」」

「そんな事したら、死んじゃうじゃん……」

「そうだよ。だから邪法なのさ」


 ジュリアスとレヴィンは思いも寄らない回答に言葉がなかった。


「まぁ、邪法は自分の意思で炉に飛び込まないと効果がなかったはずだから、その子が嫌がってれば意味は無いんだけどね」

「な、な〜んだ。じゃ、大丈夫じゃん。

 無理やり炉ってのに入れられても意味ないなら、ビビる事無いじゃないの?」

「魔法とか駆使すれば必ずしもそうとも言えんし、邪法はそれ1つじゃないんじゃよ」

「マジで……」


 老婆は黙ったままの女の子に視線を向け、それに気付いた女の子は顔を上げた。


「で?ウチの人の葬儀にも出ず、30年も経って今さら何し来たんだい?」

「師匠と最後に会った時に、自分が死んでも葬式に出ず、腕を磨き続ける様にと。そして、腕を磨いて修練鍛冶師マイスターに挑戦したくなったら、女房を訪ねよと言われました。

 それで……来ました」

「あの男達は何だい?」

「破門された元兄弟子達です。

 大鎚を持った男の後ろにいた2人がそうです」

「ワシが顔を知らんと言う事は、最後の方の弟子か。

 ふ〜〜………」


 老婆は大きく溜息を吐いた。

 ジュリアスとレヴィンには、心無しか老婆の表情が悲しげに見えた。しかし、次の瞬間表情が一変。

 老婆から殺気ではないが物凄いプレッシャーを感じ、ジュリアスとレヴィンは鳥肌が立ち、微動だにできなかった。

 女の子は両手でズボンを掴みながら、鋭い視線で見つめる老婆に視線を合わせ、視線を逸らさなかった。


 沈黙が流れ、ジュリアスとレヴィンは黙って老婆と女の子を視線だけで交互に見る事しかできなかった。


「手を見せな」


 女の子は恐る恐る老婆の前に出ると、ゆっくりと両手を差し出した。

 その手が上がり切る前に、老婆は女の子の手首を掴み見やすい位置に引っ張ると、時折角度を変えて無言のまま見つめる。


 しばらくして女の子の手を離した老婆は、湯呑に残っていたお茶を飲み干した。


 老婆からプレッシャーが消え、ジュリアス達3人は大きく息を吐いた。


「どうやら、ワシが知らない間、しっかり修行してた様じゃの」

「ありがとうございます!」

「じゃが、真に力量を見るためには、やはり何か打ってみなければな」


 老婆は部屋を見渡した後、ジュリアスとレヴィンに目を止めた。


「坊や達は、ヴァリストンの1年生じゃったな?」

「そうです」 

「そうだよ」

「ふむ……」


 老婆は真剣な立ち上がると奥の部屋に消えた。

 ジュリアス達は黙ってまっていて、部屋の奥から時折物音だけが聞こえる。

 物音が止み、老婆が戻って来ると、老婆は手に持っていた物を女の子に差し出した。


「ほれ」

「これは、何でしょうか?」


 女の子は差し出された物を受け取ると見回した。

 それは手書きの地図と、所々切り欠きがある長方形の金属プレートだった。


「それは鉱山までの地図と、鉱山の鍵じゃ。

 修練鍛冶師になれば護衛が手配されるし、多くの人間の目に止まる様になって、クズ共はおいそれと手出しできんじゃろう。

 そして、修練鍛冶師になるには奉納の儀で認められる事」

「でも、師匠の工房は元兄弟子達が見張ってますし、他に王都で使える工房は……」


 俯いた女の子の目には薄っすら涙が滲んでいた。


「それはワシが何とかしてやる。

 その鍵の入り口は一般には知られとらんから、その子らと採って来るのじゃ」

「え?オレら?」

「剣が欲しいんじゃろ?

 素材と無いと剣は作れんぞ?」

「あ、そういう事……」

「たしかに、素材から相性の良いのを選べば、より良い剣ができそうですね」

「そういう事じゃ。

 それじゃ、ワシに付いといで」


 老婆の後について行く女の子の後ろを、ジュリアスとレヴィンもついて行った。


 地下室の奥にまで行くと物置部屋があり、老婆は棚の物を袋に入れるとジュリアス達に渡していった。

 そして、棚の前にしゃがみ込むと、床に敷かれたレンガの一部を抜き取った。

 そして、婆の背中で何をしてるかジュリアス達はわからなかったが、老婆がゴソゴソと何かをすると、棚が後ろの壁ごと動き、人が一人通れる通路が現れたのだった。

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