#29 第1章 16話
心理力術の教師イフリスが授業を進める最中、霊晶石を持つイフリスの右手から吹き出し赤い光りが、炎の様に揺らめき霊晶石を包んでいた。
それを見ている生徒達は息を呑み、声を発する事もできなかった。
「あ、あの光りって……心理力?」
「そうよ。物凄い力だわ」
「はっきり見えるなんて……」
「オレら全員の心理力より強いんじゃ……」
「すげぇ……」
生徒達は心理力を扱い始めた事で、イフリスが涼しい顔で放出する心理力が自分達とは比較にならない強い物である事を感じ取れ、その差に愕然とする。
「静かに!」
普段大声を出さないイフリスの一喝に、生徒達は一斉に黙った。そして、ジュリアスとレヴィンには、イフリスの目付きも普段と違う様に見えた。
「今のは心理力です。皆さん驚いていますが、長年心理力を使っている私と、心理力を使い始めて1年も経たない皆さんと同じなわけないでしょう。
もし、皆さんの心理力に私の心理力が負ける様な事があれば、私は立ち直れず辞職しますよ」
イフリスが心理力を出すのを止めた後の霊晶石は、少し赤みがかっていた。
「話しを戻しますが、霊晶石の色が変わっているのがわかりますね?
この様に、霊晶石には心理力を吸収する性質があり、霊晶石等から職人が作った剣は皆さんの心理力で剣としての性能が高まっていき、聖剣士になれた際に聖器を受け継ぐ際の触媒的な役割を成します」
「「「先生!」」」
「「「はい、はい、はい!」」」
生徒達は次々と手を挙げ質問しようとした。
イフリスは生徒達の勢いに動じる事なく、挙手する生徒を当てていった。
「触媒っいうのは、剣のデキと別に選ぶ時に注意する点があるって事ですか?」
「触媒としての良い物を選んだら聖剣士になりやすいんですか?」
「剣のデキも聖剣士の成りやすさに関係ありますか?」
概ねこの様な意見が出て来て、手が挙がらなくなり、イフリスは口を開いた。
「まず、剣として質はもちろん高いに越した事はありません。
この課題で手に入れた剣はずっと使って行く事になり、戦闘も何度も行っていく事になります。
そして、一番気になる人が多かった触媒の話しですが、これは皆さんが剣と共に成長した結果、聖器の使い手の後任として相応しいと聖器に認められた際、剣が聖器とそれを継ぐ者とを繋ぐ仲立ちとして作用し、受け継ぐ者用に聖器を変え、剣も聖器と一体となるのです。
それ故に、この課題で手に入れた剣と自分との相性が一番重要と言えます。
相性が悪ければ自分が成長しても剣が共に成長できませんし、戦闘においても十分な力を発揮できないでしょう」
レヴィンが挙手しながら立ち、イフリスに当てられる前に質問を始めた。
「先生。相性っていうのは、どうやったらわかるんですか?
持った時に光るとか、相性が悪いと持った時に気分が悪くなるとか、何かこうなったら……っていうのを知りたいです」
レヴィンの質問に、他の生徒達も何度も頷いた。
「何もかもを教えてもらおうというのはダメですよ。
自分の感覚や直感を大事にすればいいのです。直感は戦闘だけでなく、色んな場面で役立つ事がありますからね。
まぁ、優秀な職人達の中でも上位に入る『修練鍛冶師』の称号を持つ方ならば、相性が良いか見極める事はできるでしょうね。
それでも最後に剣を選ぶの決めるのは皆さんで、作ってもらう場合は自分のために作ってもらうわけですから、結局は皆さん次第です」
イフリスは腰に付けた袋からカードの束を取り出し生徒達に見せた。
「それでは、このカードを配りますので、名前を呼ばれたら取りに来て下さい」
イフリスはカードに書かれた名前を呼んでいき、呼ばれた生徒はカードを受け取るとカード見ながら座っていた場所に戻って行く。そして、ジュリアスとレヴィンもカードを受け取ると元の場所に戻り、カードの両面を見た。
カードの厚みは薄いが非常に硬く、表面には自分の名前と学院の正式名称や所属する寮名記載されていた。そして、裏面にはレリーフが刻まれていた。
「全員受け取りましたね?」
「「「はい!」」
「あ、カードが!?」
1人の生徒が驚きの声を上げ、それを聞いたジュリアスとレヴィンが自分のカードを見ると、自分の名前等の記述が消えていた。
同じ様にカードを見て生徒達はざわつくのを、イフリスは手を数回叩いて鎮める。
「説明するので聞きなさい。
そのカードは冒険者ギルドで使われている冒険カードの様な物です。皆さんの場合は、生徒カードって所ですね。
1週間前の身体測定の際に髪の毛を1本抜かれましたが、その時の髪をカードに仕込んでいて、髪の持ち主が最初に触るまでは文字は消えませんが、髪の持ち主が触ると一定時間で文字は消えます。そして、以降は持ち主かカードの更新作業の担当者以外はカードの情報を見れない様になっているんです」
「「「へ〜」」」
生徒達は不思議そうにカードを見た。
「ん?……って事は先生、これは魔導具なんですか?」
「その通りです、イリーナ」
「「「おぉ〜!」」」
生徒達、特に男子は興奮してカードを触り出した。
「はいはい、落ち着いて。
そのカードは『ジーク・セル』と唱えると文字が表情され、『オーフ・セル』で文字を消せます。
今回の課題が長期間設定されているのは、このカードがあれば皆さんはギルドで仕事を受ける事ができるので、剣の購入や作成依頼の費用を稼ぐのに使います」
「「「稼ぐ!?」」」
多くの生徒達が驚き、レヴィンを驚いていたが、ジュリアスはイフリスの話しに納得し頷いていた。
「何を驚いているのです?
霊晶石以外にも素材は必要ですし、剣を作るのも大変の作業なのですからタダな訳ないでしょう。そして、自分の剣なのですから、自分で何とかするのは当然です。
いくら必要になるかは皆さんと職人のやり取り次第って事ですね」
ほとんどの生徒は代金は学院持ちで、自分で工面するとは考えもしなかったので固まった。
「とは言え、生徒カードがあれば剣の支払いに小金4 貨枚分まで支援があり、宿屋の安い部屋ならタダで泊まれます。さらに、冒険者が買う一般的な食事と物資の無料で購入ができます。もちろん量は最低限と思って下さいね。
そして、素晴らしい実績を残せば報奨も出るでしょうし、ヴァリストンでの加点も有るでしょう」
「「「おぉ〜!」」」
「ですが、逆の行動をすれば、当然相応の報いは受けてもらいますからね」
「「「おぉ……」」」
イフリスの言葉に一喜一憂する生徒達であったが、テンションは高かった。
ガチャ
教室の扉が開く音に生徒達が振り返ると、鍛錬術担当教師のカオス・バハムートが教室に入って来た。
バハムートは生徒達を見る事なく、イフリスが見える場所まで来ると足を止めた。
「ユダヤ。用意できたぞ」
「ありがとうございます。カオス」
銀髪に碧眼、常にクールで氷の様な印象のバハムートと、赤い髪と瞳で常に穏やかあり、柔らかな炎の様な印象のイフリス。
この対照的な印象の2人がファーストネームで呼び合っている事に生徒達は驚いた。
そして、言葉とは裏腹に物凄い訓練を課すバハムートが現れた事で、生徒達は戦々恐々としてレヴィンをはじめ多くの生徒は固唾を飲んでいた。
「それでは、バハムート先生が呼びに来て下さったので、皆さん1階に降りましょう」
イフリスの言葉を聞くとバハムートは踵を返し、生徒達はイフリスに促されてその後に続いた。
1階に着き、正門に続くに道を進むと大量の剣が置かれており、バハムートが腕組みをして待っていた。
「全員来たな。ヴァリストンの外へ出ての課題に際し、授業で使っていた鉄の剣を与える。
手前から順に4~5人づつ前に出て、しっくり来る剣を選べ」
バハムートの後ろには、片手で剣を振るいやすいサイズのショートソードから、刃渡りが長く両手持ちもできるバスタードソード等が様々なサイズの剣が用意されていた。
生徒達は嬉々として剣を選んでいき、ジュリアスとレヴィンの番となり、2人も他の生徒同様一通り振っていった。
「僕はこれかな」
「オレはこっち」
ジュリアスは刃渡り80cm程のバスタードソードを選び、レヴィンも刃渡り1mのバスタードソードを選んだ。
その後も、順番に朱雀寮の一年生達は自分好みの剣を順番に選んだ。
「ふむ。3分の2がバスタードソードを選んだか。例年通りだな」
「あの、どういう事でしょう?」
バハムートの呟きに目の前に座っていたイリーナがその意味を質問し、バハムートは視線向ける。
バハムートは睨んだりしておらず、たんに視線を向けただけだったが、イリーナは体を硬直させ、それに気付いたイフリスが柔らかい口調で答えた。
「寮ごとに生徒達の傾向があるのです。
私達の朱雀寮は、勇敢と正しさを重視し、戦いにおいては長剣の両手持ちを好み、攻撃力と機動力を重視する傾向があります。
ちなみに玄武寮は堅実さと秩序を重視し、戦いにおいては片手剣と盾の組み合わせで、守りを重視する傾向があります」
「そして、私の青龍寮は、知恵と工夫を重視し、戦いにおいては細身の剣と心理力を使った技を重視する傾向がある。
最後に白虎寮は機知を重視し、戦いにおいては双剣に体術を織り交ぜ、手数と積極性を重視する傾向があるとされている」
「これらの傾向は寮を割り振る選別の盾のせいか、寮監等が教える事なく毎年自然とその様な傾向が現れてまして、ヴァリストンの七不思議の1つですね」
「ふっ」
ニヤリとするバハムート達を横目に、生徒達の脳裏には霊晶石、選別の盾による試験、心理力、馬鹿デカく広大で隠し通路がある校舎、人間言葉を話し二足歩行をするネコの教師、黒服達、屈強なコック達等が浮かび、今日までで既に七不思議あり、まだまだ不思議な事がありそうでイフリス達にツッコミたくはあったが、教師コンビに相手にその言葉を出せずにいた。
ザッ。
バハムートが一歩前に出てると生徒達一瞬体を強張らせた。
「よし、全員鉄の剣を選んだな?」
「「「は、はい!」」」
「それでは、課題の剣を手に入れて、年度末試験の3日前までにヴァリストンに戻って来て下さい」
「言っておくが、課題の剣を手に入れられなかったら落第だからな」
「「「!?」」」
イフリスの出発の合図と共に一部の男子達が慌てて走り出し、それに釣られて駆け出す生徒達もいた。
「何だぁ、アイツら?」
「そうだね。始まったばかりで、日数があるんだから、今から慌てる事はないよねぇ」
「まぁ、いいや。ジュリ、オレらも行こうぜ」
「うん」
ジュリアスとレヴィンは正門の手前でどちらともなく振り返り、校舎をしばし見上げてから正門を潜った。
それは、2人が初めてヴァリストン聖剣学院の敷地に足を踏み入れてから、9か月ぶりの事であった。
だいぶ久しぶりの…今年初投稿となります。
読んで下さった方ありがとうございます。
仕事と難病を患う家族の介護が忙しく、今後も投稿が遅くなってしまうかもしれませんが、がんばって投稿していこうとおもってますので、今年もよろしくお願いします。




